選択権無しのマリネット   作:ルスト

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78話 シナリオ

 ベルの形をしたラジコンを殴り飛ばし、やっぱり人間じゃないことを確信した後……あたしはシリンダーブリッジに突入した。

 単なる通り道……。

 そのはずなんだけど、遠くに人影が見える。

 

 

 

「ゲーチス……? ああ、そうか。

 またイベントか……」

 

 その瞬間、背後に気配を感じた。

 ダークトリニティとかいう不審者だ。

 

 

 

「…………………………来い」

「……逃げたりしないよ、どうせこれも全部イベントなんだ」

 

 それもこれも、全部イベント。

 話している相手は全部ラジコン。

 あたしの言葉なんかどこにも届かない……。

 それっぽく話が成立している素振りだけみせてるだけなんだろうな。

 そんなことを考えながら、あたしは大人しくダークトリニティに運ばれる。

 

 

 

「………………ゲーチス様、連れてきました」

 

 ダークトリニティはゲーチスの傍まであたしを運ぶとゲーチスの後ろに控える。

 ……マジで何のために居るんだよお前ら。

 心配しなくてもあたしゲーチスを殴り飛ばすような理由ないぞ?

 

「見事ライトストーンを手にしたようですね。

 まさか博物館の展示品が伝説のポケモンを蘇らせる石だったとは……」

「あの時ドラゴンの骨じゃなくてそっちを持っていけてたら、お前ら今頃ゼクロムもレシラムも持っていけたんだろうけどな。

 運が悪いのかシナリオに仕組まれてるのか……」

 

 まあ、あのタイミングだとどのみちあたしがアロエやアーティに強要されて奪い返す羽目になったんだろうな。

 

「……まずは、お疲れさまと申し上げておきましょうか。

 最も、アナタからすれば非常に不本意なのかもしれませんが……」

「見てたのかよ? ああ……お察しの通り不本意だよ。

 それもこれも全部……アルセウスのシナリオでそう決まってるからなんだけど……」

 

 こんな呪物、捨てられるなら捨ててしまいたい。

 けど、押し付けられた他の貴重品同様、捨てようとすると手やバッグに吸い付いて離れない。

 マジで呪われた装備品だよ。

 

 

 

「Nさまのお考え……アナタにお話ししておきましょう。

 伝説のポケモンを従えた者同士が信念を懸けて戦い、自分が本物の英雄なのか確かめたい……とのことです」

「……マジで、伝説のポケモンぶつけ合わせて最強決定戦して勝ちたいだけかよ……ガキかあいつ?」

 

 そんなことして、仮に負けたら大人しく諦めるのか?

 

「じゃあさ、仮にその伝説のポケモンぶつけ合いでもし負けたら……あいつ大人しく諦めるのか?」

「……Nさまはそのつもりです。

 このような愚かな事なさらずとも、英雄になるための教育を幼い頃より施され……結果伝説のポケモンに認められたというのに……。

 本当に純粋なお方ですよ」

 

 馬鹿じゃね? あの毒電波……。

 

 

 

「……で、そんな話をするためだけにわざわざ待ち伏せしてたのか?」

「……本題に入りましょうか。マリネット、アナタが口にしている『ラジコン』『シナリオ』とは何ですか?」

 

 いきなり何言ってんだこいつ?

 ラジコンなのに自分の事も知らないのかよ?

 いや、知ってるわけ無いよなラジコンだし。

 

 

 

「は? そのまんまの意味だけど? ……って、あたしも、トウコって言う頭の寄生虫が口にしてるのを聞いただけだけど。

 この世界の人間はアルセウスって奴が作ったシナリオに沿って配役を与えられて生きてるんだろ。

 セッカシティの人間みたいに、話しかけても同じ言葉だけを延々と返す様に生きている奴……アレがあたし以外の人間の正体だよ。

 あたしが英雄になるってシナリオで決められてて、そうなるようにこの世界は動いてる。

 あたしは自由に生きられないし、毒電波がどれだけ頑張ったところで毒電波の理想は潰されるんだ。

 分かりやすく言うと……プラズマ団のポケモン解放の物語は絶対に成功しない。

 あたしの体が絶対にそれを阻むようにこの世界は作られてる。

 台本にそう書かれてるから誰が何をしても無駄。そういう感じなんだってさ」

「……」

(……待ってください。ゲーチスの会話はこんな感じじゃなかった筈です。

 ワタクシ達だけがポケモンを使えればいい、そんな野望を語る場面のはずですよ?

 そもそも、どうしてゲーチスがアルセウス様のシナリオやラジコンの事を気にしているんですか?)

 

 寄生虫が煩い。

 どうせこいつらもラジコンなんだから、何言ったって一緒だよ。

 さっきのベル見ただろ……全力で顔ぶん殴ったのに、何事も無かったように立ち上がったし傷1つついてない。

 こいつらだって同類なんだから。

 

 

 

「それは…………例えば、そうですね……。

 アナタが夢の跡地でムンナを助ける事になったのは、そのシナリオとやらでそう書かれていたからだ、と?」

「そうだよ。サンヨウシティのボケジジイ、マコモのイベントを全部終わらせるまで道を塞いで嫌がらせしてくれやがった!

 あのボケジジイさえ居なければ! あたしはマコモとか無視して先に進めたのに!」

 

 思い出したら改めて腹が立ってきたな……。

 生贄になった後で自由があるとも思えないけど、機会があったらあのボケジジイをぶっ潰してやりたい。

 

 

 

「地下水脈の穴で強盗と戦い、子供のポケモンを取り返したのも?」

「きっとそうなんだろうよ。あの時はベルに止められた。

 ベルのボケ、さっきぶん殴ったけど反応が人間じゃなかったんだ。

 分かるか? 全力でぶん殴ったのに殴られたことすらなかったことになってたんだぞ?

 人間のふりして……あたしの事を監視してやがった」

(お、落ち着いてください! この人に余計な事を言うのは危険です!

 早く会話を切り上げてください!)

 

 寄生虫が煩い。

 けど……どうせあたしには未来は無いんだ。

 どうだっていい。何だって構わない。

 お前が寄生してる限りあたしに未来は無いし、この地方で自由が無いのはもう分かりきってる。

 今のあたしは……油の引かれたフライパンの上に置かれた肉みたいな状態だ。

 しかも……もう蓋も置かれてる。後は火をつけて焼くだけの状態。

 もう救われることも無いんだよ。

 

 

 

「シッポウ博物館の一件では大活躍だったようですが……それもアナタは無理やり戦わされたと?

 そう仕向けられたというのですか?」

「そうだよ。アロエの奴、無理矢理あたしを引っ張って連行して、アーティに押し付けて。

 そのアーティの命令であたしは、ヤグルマの森で戦わされることになったんだ。

 あの時は力が無いから命令に従うしかなかったって思ってたけど……今なら分かる。

 アレもシナリオのせいなんだろうな。

 多分シナリオの中では……強盗の企みを潰すのがノルマみたいにされてたんだ。

 アーティの奴、楽してるのもそうだけど、わざわざヒウンシティに行くための道を塞いでやがったし。

 逆ならあたしが逃げ出せるから、そうさせないように……」

 

 思い出したら腹が立ってきた。

 アーティ……あいつには滅茶苦茶世話になったよな……。

 

 

 

「……ではまさか、ヒウンシティでも?」

「そうだよ。あたしがジムを無視して進もうとすれば4番道路で通行止め。

 ジムに挑もうとすればアーティが勝手に飛び出した挙句あたしに手伝えと強要したんだ。

 その後強盗と戦って捕まえる事になったのはゲーチスだって知ってるよな?

 アレはアーティやアイリスに強要されたんだ。

 ……でも、これも多分シナリオに書いてあるんだろうな。

 さっきベル型のラジコンが「ヒウンシティでプラズマ団にポケモンを奪われた時も」なんて言ってたし」

 

 そうか。あたしずっとそうと知らずにラジコンにされてたんだな。

 ……最初から今までずっと、ずっと。

 選択の自由も何もあたしにはなかったんだ。

 

 

 

(もう余計な事を言わないでください! 貴方自分が何言ってるのか分かってるんですか!?

 何でもかんでもシナリオのせいにしてますけど……実際そうだとしても!

 それは主人公が! この体が最終的に英雄になるために必要な事だから!)

「……一応言っとくけど、あたしはシナリオの中身は知らないぞ?

 ただ……あたしが英雄になるのが決められてるって寄生虫が言ってたから。

 だから拒否権の無かったイベント全部シナリオのせいなんじゃないかって思っただけだ」

「……なるほど、参考になりましたよ。では、ワタクシはこれで失礼します」

 

 満足したのか、ダークトリニティを引き連れてゲーチスは去って行った。

 ……次のイベントはソウリュウシティかね。

 はあ……早く終わらないかな……。

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