ゲーチスとのイベントを終わらせたあたしは、9番道路を通り抜けてソウリュウシティまでやって来た。
……未来都市みたいなソウリュウシティ。
もし何も知らなければ少しはわくわくしたのかもしれない。
けど、今のあたしはその光景を見ても何も感じられなかった。
「……ポケモンセンターに飛べないか?」
目の前にアデク。
正直、無視して良いとすら思ってる。
ラジコン、イベント、そればかりだ。
(出来るわけないでしょう? イベントをこなすまでそらをとぶも出来ないように対策してあります。
アルセウス様が万全の対策を施してあるんですよ?)
「はっ……そんな所までガッチガチの対策かよ。
ラジコン1匹、生贄にするために運ぶだけの仕事なんかにご苦労な事で……」
カイリューを出そうとしたが、ボールが使えない。
……そうか。あたしもこうなる前からラジコンだったのかもな。
この世界の人間……人間みたいな奴は皆ラジコンだ。
シナリオに逆らう事は絶対に出来ない。イベントを無視することは許されない。
……このシナリオ書いたアルセウスとか言うゴミも死ねばいいのに。
(なっ……! 事もあろうにアルセウス様にまでなんて暴言を!
最近の貴方の言動は、目に余ります!
英雄にふさわしい行動と言動と思考を心掛けてください!)
「……おお、マリネットか。こちらだ」
寄生虫が騒ぐが、アデクが声をかけてきた。
どうやら、ゲーチスがまた演説してるらしい。
……好きだよな、演説。
「ウソつきゲーチスめ、みなをたぶらかそうと必死に弁舌を振るっておる」
「……嘘つきゲーチス、ねえ。ラジコンのくせに人間ぶりやがって……」
どいつもこいつも、人間の姿こそしてるが人間じゃない。
皆ラジコンなんだ。
「そうなのです! 我らが王Nさまは、伝説のポケモンと力を合わせ!
新しい理想の国を作ろうとなさっています!
これこそイッシュに伝わる英雄の建国伝説の再現!」
「英雄?」
「ドラゴン!?」
「伝説!」
毒電波が掲げる理想の国。
……ポケモンを誰も使えない国か。
そうなったとして、あたしは自由に暮らせるのかねえ。
この寄生虫が居なくなっても、シナリオの台本が逃がしてくれないんじゃないか?
……ああ、もう何もかもどうでも良いな。
さっさと、この演説も終わらないかねえ。
「ポケモンは人間とは異なり未知の可能性を秘めた生き物なのです。
われわれが学ぶべきところを数多く持つ存在なのです。
そのすばらしさを認め、われわれの支配から解放すべき存在なのです!」
「解放だと?」
「ポケモンを?」
……あたしがトウコのラジコンになっているように、ポケモンはトレーナーのラジコンになってる。
ははっ、解放するならしたらいいんじゃねえのか?
「われわれプラズマ団とともに新しい国を!
ポケモンも人もみんなが自由になれる新しい国をつくるため、みなさん、ポケモンを解き放ってください。
というところで、ワタクシゲーチスの話を終わらせていただきます。
ご清聴、感謝いたします」
演説を終えたゲーチスは去って行った。カラクサタウンだっけ?
あそこで見た時も思ったけど、あの無駄に統率の取れた陣形みたいな動きは何なんだろうな。
「そうか、わしらは……ポケモンを苦しめていたのか……」
「うぐぐ……プラズマ団のいうとおり、ポケモンを解き放とうか……」
「……そんなぁ。ポケモンがいないと、あたしさみしくてダメになっちゃう!」
聴衆役のラジコン達はそれぞれ感想を言って消えていく。
案の定、ある程度進んだら消えてしまった。
ラジコンなんかそんなもんだな。
「なんなのよう! いまのおはなしおかしーじゃん!」
「……このイッシュはポケモンと人とが力を合わせつくりあげた。
ポケモンが人との関係を望まぬというのであればみずから我々の元から去る……。
たとえモンスターボールといえど、気持ちまでしばることなどできぬ」
見覚えのあるガキ……ああ、アイリスか。
それと……誰だ? ……始めて見るな、このラジコン。
変なこと言ってるな。モンスターボールがあっても気持ちまでは縛れない?
ポケモンが人との関係を望まないなら、自分から去って行く?
……馬鹿じゃないの?
モンスターボールに入れられた時点でポケモンはトレーナーのラジコンなんだよ。
気持ちまでは縛れない?
……あのさあ、気持ちまでは縛れないって言っても、体を縛れば同じなんだよ。
あたしがトウコのラジコンになっているように。
モンスターボールで体を縛り付ければ。バッジで強引に命令を聞かせれば。
ポケモンの気持ちなんか……何の意味も無いんだ。
「いこうか、マリネット。
久しいな、アイリスにシャガよ」
「あっ! アデクのおじーちゃんに……あのときのおねーちゃん」
ふん……自分が強引に命令して戦わせたくせに感謝の心も無いガキなんかどうだっていい。
アーティも含め同類だ。見ているだけで虫唾が走る。
イッシュのジムリーダーなんか、ほとんどまともな奴が居ない。
「……どうした。ポケモンリーグを離れ各地をさまようチャンピオンがいったいなんの用だ?」
「ずばり! 伝説のドラゴンポケモンのこと教えてくれい!」
「ゼクロムのこと? それともレシラム? どーしたの? いきなり」
「さきほどの演説でゲーチスなるうさんくさい男がいっていたな。
Nという人物がゼクロムを復活させたと……」
あたしは当然蚊帳の外。
イベントの会話に、あたしの入る隙間なんかない。
黙って終わるのを待つしか無いんだよな。
ああ、めんどくさい。
「おうよ! そのNというトレーナーが、ここにいるマリネットにもう1匹のドラゴンポケモンを探せ!
といったらしいのでな」
「……解せぬな、自分の信念のため2匹のドラゴンポケモンをあえて戦わせるつもりか、そのNとやらは……?」
うん、マジで馬鹿だよな毒電波。
毒電波の考えを理解できる奴とか居ないんじゃないかね。
「えーっ!! ドラゴンポケモンたちはもうなかよしなんだよー!」
「そうだよな、アイリス。ポケモンを戦わせるのはトレーナー同士……。
そして、トレーナーとポケモンが理解し合うため、だよ」
それこそ、モンスターボールとバッジで言いなりにされてるポケモンの悲しい所じゃないか。
たとえ相手が大切な家族であっても、モンスターボールに入れられてバッジの力で服従させられたら攻撃するしか無いんだからな。
「さてと……わしはポケモンリーグに向かう!
いや、この場合は戻るというべきかな……?
もちろんNに勝つ! トレーナーとポケモンが仲良く暮らしている今の世界のすばらしさ、きゃつに教えてやるのだ!
そしてマリネット! チャンピオンとしておまえさんを待つとしよう!
だからソウリュウのジムバッジを手に入れてリーグに来い。
もっとも、ソウリュウのジムリーダーは手強いぞ!
じゃあな、頼んだぞシャガ、アイリス!」
アデクは言うだけ言って去って行った。
ラジコンのくせに、貫禄だけはあるよな。
まあどうせ負けるんだろうけど。
「……あーあ、おじいちゃんいっちゃった。
だいじょーぶかなあ? なんだかこわいかおしてたけど」
「……アイリス、心配ないよ。彼はイッシュで一番強いポケモントレーナーだからね。
さて、マリネットといったか。私の家に来なさい。
アデクのいうとおり、伝説のドラゴンポケモンについて教えられることをお教えしよう。
アイリスや、案内してあげるんだ」
えっ、よりによってこいつと2人きり……?
うわ、向こうも微妙な顔してるじゃねえか。
あっちはラジコンなのに……。
(ちょっと、ヒウンシティでちゃんと解決したんですよね?
なんでこんなに微妙な空気なんですか?)
(嫌々命令されて仕方なくやったんだぞ? あたしは。それなのにこのガキ、感謝の心も無いらしいな。
まあラジコンに何を求めたって無駄だけどさ。決まった台詞しか返せないんだし)
(……ヤチェのみ、無いですね……。というかしあわせタマゴも……。
貴方、どうでも良い所で自分の身勝手の天罰を食らってますよ。
大人しく忠実な英雄で居ればよかったのに)
寄生虫に何を言われても響かねえよ。
「……ゼクロムとレシラム、2ひきのおはなし!
あたしたちがおしえたげる! ソウリュウならあんないできるし!
こっちだよ!」
渋々……って感じが凄いな。
強制イベントのくせに無駄に演出力高いんだな、アルセウスのシナリオって。
まあとりあえずついていく。従わないと終わらないんだろうし。
「あっちだよ!」
「曲がるんだな……って、お前だけ先に行くのかよ……」
案内するなら最後まであたしの事連れて行けばいいのに。
変な所で気が利かないな。
「もーすぐだよ!!」
「…………」
目の前の家がそうなんだろうな。
うん。分かった。
……で、なんでお前家の前に立ってるんだよ。
「ここだよ!」
「……ここまで無駄に細かく言わせる必要あるのか?」
家の中に入るアイリス。
シナリオ作ったアルセウスとかいう奴のセンスが理解できない。
まあ理解できるわけが無いんだが……。
モンスターボールでは気持ちまで縛ることは出来ない、離れる時は自分から離れるってシャガの台詞。
今ならSVのテラパゴス(即マスボでスグリに生け捕りにされた後、即バトルでひんし→そこからテラスタルさせられたら暴走した上にマスボ破壊+スグリに攻撃して反逆)とかありますけど、BW出た当時だと完全に詭弁でしかなかったって言う。