いよいよソウリュウジムに挑むことになる。
これが、あたしの最後のジム戦か。
ただ、少しだけ準備をしておきたい。
どうせ金も拾った物も無駄になるんだ。
トウコも何故か余計な事を言ってこないし、今なら寄り道が出来るかもしれない。
仮になんか言ってきても「万全を尽くすための準備だ」とか言えば良いのかもしれないけどさ。
「イシ! イシシシ! いやー鉱物はええの、たまらんの」
「……換金用のガラクタをわざわざ定価の二倍で買うんだな、このラジコン」
最初に訪れたのはセッカシティ。
わざマシンを買うつもりで来たけど、かなりの値段がする以上簡単には買えない。
1つ70000円って馬鹿じゃないのか?
一応買えたけど資金繰りが怪しくなる。
そんな時にポケモンセンターの中に居た妙なおっさんを思い出した。
鉱物を買うとか言ってたから試しに出してみたら、全部定価の二倍で買い上げていった。
ラジコンとは思えない太っ腹……いや、ラジコンだからか。
「大成功じゃ、おまえのムーランドかいりきを忘れたぞ!」
「……で、このわざマシンで強化すれば多分……」
次に飛んだのはフキヨセシティ。
『かいりき』は簡単に消せないから、こうするしかないらしい。
忘れ爺さん? に忘れさせてもらった。
代わりに覚えさせたのはライモンシティで売っていた『おんがえし』。
……無理矢理捕まえて戦わせてるあたしに何を恩返しするんだよって感じだけど、多分かいりきより威力が出るはずだ。
そして、最後の寄り道をする。
「高いな……まあ、あたしにはもう関係ないか」
最後に訪れたのは9番道路にあるデパート。
有り金全部使ってポケモンを強化するっていう薬を買いまくった。
投入先は全部デンチュラ。
他と比べて弱いから、少しでも戦力を補いたい。
……金もほぼ全部使い果たしたか。
後は……生贄になるため歩き続けるだけだ。
あたしにはもう……明日はない。
「ようこそ! イッシュ地方最強にして最大の試練!
といわれるソウリュウジムへ!」
「……最後のジムだから間違ってないのか」
「……一応、ここからスタートする場合は手加減してくれるんすけど。
まあ基本最後に来ることになるジムっすからね、最難関っす。
それはそうと、まずはこのおいしいみずを受け取ってくださいっすよ」
「……このやり取りも8回目だな」
そして、これがこいつとの最後の会話だろう。
「ソウリュウジムの仕掛けについて簡単に説明するっす!
このジムはドラゴンの背中、首、そして頭が通り道になってるっす」
「……安全の配慮の欠片も無いよな、後半のイッシュのジム」
こんな所まで来る奴がうっかり足踏み外して死んだりしないよなって事なのかねえ……。
それともトウコが言っていた通り、落ちる事が絶対にありえないのか……。
「この通り道ですけど、ドラゴンの腕にあるスイッチに乗ることで行き先が変わるっす。
ドラゴンの首がどう動くか注意してくださいっす!」
「……多分、ここも一本道なんだろうけどな」
豪華な見た目、実態は一本道。
それがイッシュの特徴みたいなものだろうし。
さて……行くか。
「ソウリュウのドラゴンジムは自分で道を切り開くタフなトレーナーを待つ!」
「……ラジコンにタフさも何もない、よな」
操られて進むだけだし……。
今も喋らないだけで見てるんだろう。
「私を上回るトレーナーにジムの進み方を教えるわ!」
「……倒せ、ムーランド」
案の定一本道。避けられない。
「ドラゴンの首がどう動くか、理解できたか?」
「……全員倒して一本道を進めば、クリアできるんだろ?」
見た目だけ立派で中身は一本道。
まるで……あたしの旅路をそのまま再現したようなジム。
「ポケモンといるだけでうれしい?それとも強くないとイヤ?
どっちのタイプか試すわね!」
「…………」
あたしがトウコのラジコンであるように、あたしの手持ちはあたしのラジコン。
あたしの道具でしかない……。
「よく来たな! 大歓迎だぜ!
ただし……少々手荒いけどな!」
「キミが! どれだけ! ポケモンを知っているか試す!」
道中のトレーナーを淡々と処理する。
無双していたはずの強さは、いつの間にか無くなっていた。
アヤさんに鍛えられたことで大幅に強くなっていたはずのあたしのポケモン。
邪魔な敵全てを一撃で倒せていたはずの強さはいつの間にか無くなってて、勝てはするけど手傷を負う。
そんな戦いが増えている。
傷を負ったムーランドを淡々とおいしいみずで治療し、あたしは進む。
「あなたはどんなことをしてくるトレーナーなのかしら!?」
「もう10年以上戦ってきたあたしたち! ベテランの味をアンタたちに教えてあげるよ!」
どんな相手も楽勝だった。負ける事なんか考えてもいなかった。
その力が……限界を迎えている。
圧倒的な力の差でなぎ倒していたはずなのに。
この作業を終わらせれば終わる……そのはずなのに。
「……」
兆候はあったのかもしれない。
ここまでの道中デンチュラにばかり戦わせていた。
その間は当然あたしの他の4匹はまともに戦っていない。
全くと言って良いほどに、育ってなかった。
だけど、もう足を止めるわけにはいかない。
あたしはトウコの操り人形。
もしここで離れれば、当然止められるだろう。
……あたしに出来る事はもうない。
シャガを、無理やり倒すだけだ。
「よくぞ参られた。私がソウリュウポケモンジム、ジムリーダーのシャガである。
……市長として街の発展に尽力し、トレーナーとしてただ強さを追い求めた……。
そんな今求めるのは明るい未来を見せてくれる若いトレーナーの存在。
君がアイリスのように私に未来を見せてくれる事、望んでも良いのだろうか」
最後のジムリーダー。
あたしのやることは変わらない。
力が足りないなら……上げるだけだ。
「オノンド!『りゅうのまい』」
「『ふるいたてる』」
使う事なんか無いだろうと思ってた技。
こんな時のためにある。
「『おんがえし』」
火力を上げれば倒せる。
それだけだ。
「クリムガン!『つじぎり』」
「『おんがえし』」
倒せない……。なら、もっと火力を上げるだけだ。
「下がれクリムガン、回復だ」
「『ふるいたてる』。次は仕留めろ」
ラジコン相手に何も思う事はない。
淡々と……処理する。
「『おんがえし』」
何故かダメージを受けている。
まあどうでもいい。次で終わりだ。
「オノノクス!
なんの! ここが正念場! 全身の血がたぎるわッ!」
「……『おんがえし』」
火力を上げる事が必要になっても、結局作業には変わりないんだから。
ほら、終わった。
あたしは負ける事なんて無いんだ。
そう設定されてるから……。
「……実力は認めよう。ソウリュウジムを制覇した証とわざマシン、君に渡す。
だが……君は、なんなのだ……?」
「……?」
何言ってるんだこのラジコン?
あたしは……英雄になる事が約束されてる存在で、絶対にそうなるようにシナリオに仕組まれてて……。
「ポケモンへの信頼も何も……君の戦いからは感じられない。
だが、おんがえしの一撃は確かな威力だ。
にもかかわらず、自分への自信も何も無い。いったいどういう事なのだ?
……本当にジムバッジを全て集めたトレーナーなのか……?」
「疑ってるのかよ? ほら……ジムバッジ、あるだろ?」
集めさせられたジムバッジ。
こいつから受け取ったバッジで、8つだ。
「あり得ぬ……本当に君が英雄になると?
……その何もかもを諦めたような姿で、心で、レシラムを……目覚めさせると?
君の中には……真実も理想も未来への希望も。
……今の、人とポケモンが共に生きる世界を守りたいという想いも、何も感じられないというのにか?
君から感じられるのは……全てを諦めた心と、その内で燻る激しい怒りと嘆き、憎しみのみ……」
「……そう決まってるんだよ、この世界は。だって作り物だから。
じゃあな、あたしもう行くよ……」
英雄が持ってるであろう想いねえ……。そんなものあたしにあるわけないだろ。
あたしはトウコやアルセウスのシナリオのラジコンで、強要されてるからやってきただけ。
何も無くなったあたしに唯一残ってる物が、ポケモンの力だけなんだよ。
それも……この先通用するか怪しくなってきてるけど、な……。
回復したら……いよいよポケモンリーグへの最後の道か……。