10番道路。
あたしが処刑台に上がるための最後の道。
ここを抜けると……後はポケモンリーグへの道があるだけ。
あたしは……それでも進むしかない。
あたしが断れば……寄生虫が体を動かす。
「……ストップ、マリネット!」
「……」
チェレン……こいつもラジコンなんだろう。
ラジコンには……もう何を言っても無駄だ。
隣にはベル型のラジコンも一緒か。
と言う事は……またイベント。
「シャガさんやアララギ博士から教えてもらったけれど、ポケモンリーグに向かうんだね?」
「あたしには……選択肢なんか無いんだよ。
嫌でも、進むしかない……」
止めてくれるわけがない。
こいつもラジコンなんだから。
(……? 何か変です、一体……?)
寄生虫が煩い。
どうせラジコンなんだ。何を気にする必要があるんだか。
「アデクさんなら……チャンピオンなら大丈夫だと信じているけど。
最悪の場合、きみがプラズマ団のボスNと戦うんだね……」
「最悪の場合って言うか、確定してるんだろうよ……。
何もかも全部、この話も、シナリオの通りに……」
シナリオでそう決まってる。
それが答えなんだ。
「……だから確かめたい!
きみがどれだけ強いかを!」
チェレンも……ラジコンなんだ。
あたし以外は全員……。
「ケンホロウ!」
「『10万ボルト』」
作業だ。
こんなポケモン倒すなんて、苦労する要素はない。
「バオッキー!」
「交代『おんがえし』」
「まだだ! 『はじけるほのお』!
……この旅で培ってきた全てをきみにぶつける!」
「もう一度『おんがえし』」
しぶとい。
ムーランド……もう戦力にならないのかな?
「ダイケンキ!」
「交代『10万ボルト』」
「『アクアテール』! からの『アクアジェット』だ!」
「……使えないな。あたしが負けるはずないのに」
デンチュラが敵を倒しきれずに返り討ちに遭った。
……金を突っ込んで強化したはずなのに、やっぱり強さが足りてないのか?
それとも……。
「『アンコール』……なっ、こちらが速い!?」
「『たたりめ』」
でも、あたしが負けるはずがない。
通販のポケモンじゃない奴に、負けるわけがない。
「レパルダス!『きりさく』!」
「『かわらわり』」
どういうわけか弱くなったチェレンの手持ちなんか、多少事故があったとしてもあたしの敵じゃない。
最後のポケモンを倒してあたしの勝ちだ。
ほら、続きのイベントは?
「……オーベム」
「え?」
チェレンがおもむろに繰り出した『5匹目』のポケモン。
そのオーベムが出て来た瞬間、辺りの空気が変わった。
『ぜつぼうのやみ』
『オーベムから溢れだした闇が10番道路を飲み込む!
あらゆる奇跡が起こらなくなった!』
「『かえんほ』」
『遅い』
あたしが指示を出すよりも早く、そのオーベムが動いている。
あたしのエンブオーを一瞬にして吹き飛ばし、橋の下に叩き落してしまった。
そのまま黒い針のような物を生み出し……あたし目掛けて投げて……?
「あ……?」
気づいた時には、あたしの右手がオーベムの投げた物で串刺しにされていた。
痛みはない……けど、あたしの中から力が抜けていくような……。
(このオーベム……アルセウス様の最大の敵のイレギュラー!
どうしてこんな所で!! それに、どうしてチェレンを手下に!?
不味いです……! 今の攻撃……この異物の体ではもうアルセウス様の権能が使えなく……!)
「……」
何が起きたのか分からない。
けど、戦わないと。
あたしは……シナリオで勝つのが決まってるんだから。
負けるわけないんだよな?
動かせる左手で残りのボールを出す。
「『シャドーボール』」
『……ほう、わざわざ邪神のシナリオのために私に抵抗するのか? 哀れだな』
ムシャーナがシャドーボールを放つが、オーベムは気にした様子もない。
『まあここで見た所で貴様には一生意味のない事だが、冥土の土産にでもするがいい。
マリネット、シャドーボールとはこう使うのだよ』
「むしゃ……!?」
オーベムが繰り出したシャドーボールは『3発』連続で放たれていた。
ムシャーナはシャドーボールの連弾によって弾き飛ばされて崖の下へと消えていく。
「……ムシャーナが、やられた?」
(ま、不味い……不味いですよアルセウス様!
このままじゃ! 主人公の核を抜き取って離脱します!)
(許可します! 私もすぐにはその結界の中には入れません……。
何としても結界から離脱し、私の所まで主人公の核を持ち帰るのです!)
(はい!)
夢でも見てるのか? あたしは。
あたしのポケモンが、シナリオで勝つのが約束されてる筈のあたしが、一方的に倒されてる。
これが……アルセウスの書いたシナリオ?
……いや、まだポケモンが残ってる。出さないと……。
「……ムーランド」
(今の攻撃が左手に飛ばなくて……私まで貫かれなくて本当に良かった……。
今のうちに、この異物から主人公の核を引っこ抜いて逃げさせてもらいます!
アルセウス様の計画の為に!)
胸の奥の方で、何かが引っ張られたような感覚がした。
それに合わせて視界がぶれたり口が震えたりしている。
……なんだ? 何が起きてるんだ?
「『おんがえ』」
『哀れだな……その犬ともここでお別れだ。
最も、生かして返すつもりなどないがな』
(主人公の核、回収しました! アルセウス様! 直ちにこれを届けますっ!!
時間稼ぎご苦労でした、異物! 最高の働きでしたよ!
来世があったら、どうか役割に忠実なNPCになってくださいね!)
オーベムから緑色の弾が放たれ、ムーランドが叩き潰される。
その直後……あたしの背中が裂けるような感覚に襲われ、視界が揺らぐ。
声が出ない。
体が全く動かなくなって、崩れ落ちる。
視界が急激にモノクロになっていく。
体が……地面と混ざっていくような気分がする。
いったい……なに、おき……。
『ほう? まさかマリネットを捨てるとはな?
だが……お前もここで消えてもらおう。
チェレン、お前は奴を追え。
今逃げ出したアレが、マリネットをずっと苦しめていた寄生虫……邪神の手先だ。
シナリオ通りに進んでいたと思わせるための演技はここまでだ。
通販のポケモンも解禁しろ。さあ、行け。
トリカと挟み撃ちになるように誘導できるはずだ。合流して始末しろ』
「分かった。オーベム……マリネットを、頼んだよ」
『ああ。任せておくがいい』
チェレンの足音が……かなり、遠くで……聞こえる…………。
あたしの体、持ち上げ……られてる……? 誰、に…………?
『さて……ようやくこの時が来たな。実に長かったぞ。
邪神の手先がまさか貴様を見捨てて逃げ出すとは思わなかったが、ようやく貴様を封印できる。
ここまでラジコンとしてお勤めご苦労だったなマリネット。
もう疲れただろう? 何もかも忘れて眠るがいい。幸せな世界に送ってやろう』
「ひあ……わ……へ……?」
ポケモン……顔……見て……る……?
しあ、わせ……幸せ……?
なん……だっけ……それ……?
『お前はこれから優しい家族に囲まれ、幸せに暮らすお嬢様へと生まれ変わる。
両親や祖父母の愛情に包まれ、穏やかに暮らす少女へと……。
邪魔な物は全て私が捨ててやろう。
お前を縛るそのトウコを模した姿も、お前が押し付けられた呪物も、何もかもな』
家族……あたし、そん……いない……。
『そう、マリネットには家族などいなかった。
だが、生まれ変わったお前には家族が出来るのだよ。
さあ……私の目を見ろ。全てを受け入れ、呪われた姿も宿命も全て投げ捨ててしまうがいい……。
お前達、出てこい。作業開始だ』
あたま……ぼーっとする……。
いやな……こと、ぜんぶ、おもいだせなくなって……?
くるしい……こと、なん、だっけ……?
……あた、し、なんで……こんな、ばしょに、きたんだっけ……?
どう、して………………?
「わた……し……やさしい……か、ぞく……おと……う、さま……?」
あたまのなか……なにか……やさ、しい。
あたた、かい……おも、いで。
きお、く……おとうさま……おか、あ、さま……?
おじ……おばあ……?
わたしの……かぞく……?
『お前はこれから、カゴメタウンのお嬢様、クラリス。
カノコタウンから生贄となるため送り出されたマリネットとか言うラジコンではない。
優しい家族に囲まれ……穏やかに過ごすがいい。屋敷の中で、永久に……。
お前達、クラリスをカゴメタウンに運び込め。私は邪神の手先を確認する。
万が一チェレンとトリカが撃ち漏らしていたら、私がこの手で始末しておく』
「「「「了解しました、オーベム様……」」」」
『主人公は消えた。後は邪神と、邪神の手先を殺すだけだ』