選択権無しのマリネット   作:ルスト

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10話 この連中何考えてんだよ!?

 マコモとかいう奴に頼まれた依頼を片付けるため、あたしは夢の跡地に戻ってきた。

 もらったヤナップにいあいぎりを覚えさせたし、準備万端だ。

 目の前にはあたしの道を塞いでくれた細い木。

 覚悟しやがれ! 切り倒してやる!

 

「ヤナップ!『いあいぎり』!

 この燃えるゴミを八つ裂きにしちまえ!」

「ウキッ!!」

 

 ヤナップが攻撃を仕掛けた。

 すると、細い木は見事にバラバラになって地面に散らばり、消えていった。

 

「よっし! よくやったヤナップ!

 さーて、目的の物は」

「あっ、マリネット」

「あ?」

 

 なんでこんな所にベルが来るんだよ。

 というか何しに来たんだ?

 

「マリネットも不思議なポケモンを探すの?」

「不思議なポケモンってのがあたしの目的の奴ならそうなるな」

 

 ベルの目当てが何なのかは知らねえけど。

 

「あたしの目的はムンナってやつだ。

 マコモってのにゆめのけむりを探してこいって言われてな」

「マリネットが素直に言う事を聞くなんて珍しいねえ」

 

 うるさい。あたしだって感謝の心くらいあるっつーの。

 どいつもこいつもあたしの意思を無視して自分の都合だけ押し付けて来やがるから苛つくだけで。

 

「うるせえよ、技の事色々教えてもらったからその礼代わりだ。

 ついでにテメエが何も考えずに通っていった入り口塞いでた細い木を切り倒す手段をくれたのもな」

「そうだったんだねえ」

 

 そんな話をしながら奥に進む。

 すると、何かの音が聞こえた……気がした。

 

「ねえねえ! なんだか壁の向こうから物音聞こえなかった!?」

「ああ、あたしにも何か聞こえた気がする」

「ねえねえ行ってみようよ!」

 

 ベルに言われるまでもねえ。

 さっさとゆめのけむりを回収するぞ。

 そう考えながら、奥へと足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

「……むううん」

 

 奥に居たのは花柄模様のポケモンだった。

 

「ムンナってのはこいつか!?」

「あっ、待ってえ!」

 

 奥に逃げようとしてやがる!

 待て!

 

「ムンナみっけ!」

「!? 誰だ!?」

 

 奥に逃げたムンナを待ち伏せするように、ビジネスマンの男とOLの女が現れた。

 ……こいつら、こんなとこで何やってんだ?

 

「ほらほら! ゆめのけむりをだせ!」

「……むう!」

 

 驚いたのはその後のそいつらの行動だった。

 男がいきなりムンナを蹴り上げた!

 はあ!? お前いきなり何やって……!

 

「ちょっと!! あなたたちだあれ?

 なにしてるの!?」

 

 いくら相手が野生ポケモンでも、襲ってきたわけでもない奴をなんでいきなり……!

 ベルじゃないけど、何やってんだよお前!?

 

「私達か? 我々は、プラズマ団の『ポケモンを解放せよ』という思想にとても感動したんだ。感動したんだよ。

 なので、愚かな人々からポケモンを解放するため戦うことを決めたのだ」

「何をしてるのか? ムンナやムシャーナというポケモン、ゆめのけむりとかいう不思議なガスを出して、いろんな夢を見せるそうじゃない?

 だからそれを使うのよ。人々がポケモンを手放したくなる、そんな夢を見せてあげて、皆の心を操るのよ」

「人の心を操るって……完全に洗脳じゃねえか!」

 

 わけがわからねえよ!

 解放を訴えるとかならともかく力ずくかよ!

 

「テメエらが勝手にポケモン解放するならともかく!

 周りの連中を巻き込むなよ!」

「そうはいかないわ。このイッシュ地方は、人間のせいで苦しんでいるポケモンが多すぎるもの。

 皆からポケモンを解放して、ポケモンを自由にしてあげないと」

 

 OLの女は完全に自分が正しいって信じきってやがる。

 横のビジネスマンがその話してる間もムンナに暴力を振るってるのは何も思わねえのかよ!

 

「ああ、このムンナ? 確かに可哀想よ。痛めつけるのは私達も嫌なの。

 でも仕方ないのよ、大きな正義の実行のためには犠牲はつきもの。

 このムンナの尊い犠牲のおかげで数百、数千のポケモンが悪いトレーナーの魔の手から解き放たれるのよ」

「ええい、強情だなあ!

 我慢せずにゆめのけむり出せって!

 出したら解放して楽にしてやるからさあ!

 おらぁっ! さっさと! けむりだせ!」

 

 ビジネスマンは今度は助走をつけ、飛び蹴りをムンナに叩き込んでいた。

 更に追撃とばかりに何発も殴りつけている。

 襲ってきたわけでもないポケモン相手に平気で暴力振るってるし、こいつら完全に言ってることとやってる事が滅茶苦茶だぞ!?

 

「む……にゅ……」

「おら! ゆめのけむりをだせ!」

 

 目の前のビジネスマンは、その後も暴力を止める様子は一切無い。

 殴り、蹴り飛ばし、地面に投げつけてそのまま足で踏みつける。

 ムンナは文字通りされるがままだ。

 

「ゆめのけむりをださせるためにポケモンをいじめてるの?

 ひどい! どうして? あなたたちもトレーナーなんでしょ?」

「ええそうよ! 私達もポケモントレーナー!

 ……だけど、戦う理由はあなたたちと違うわ。

 ポケモンを悪いトレーナーの魔の手から解放して、自由の身にさせてあげるため!」

「そして私達がポケモンを自由にするとは!

 勝負に勝ち力ずくでポケモンを奪うこと!

 悪い奴等はプラズマ団の演説を鼻で笑い飛ばしたり否定する!

 心を持たない悲しい奴等ばかりだ!

 そんな悪人には……私達が正義の鉄槌を下して裁きを与える!」

 

 ……って、完全に強盗じゃねえか!

 なんなんだよこいつら!

 プラズマ団の演説に感動したとか言ってるけど、頭完全にいかれてるだろ!

 

「……というわけでだ。お前達に囚われた可哀想なポケモン、私達が救い出してやる!

 全てはポケモン解放のために! 正義を執行する!」

 

 有無を言わさず襲ってきた!

 くそっ、やるしかねえ!

 

「おい! ベル手つd「えええ! たすけてマリネット!」

 ……ふざけんなテメエ! その手持ちポケモンはなんのために居るんだ戦えよ!」

 

 余計な事ばっかりするくせに、肝心な時に全く役にも頼りにもならねえ!

 

「正義のために! 行けミネズミ!」

「ポーク! 応戦しろ!」

 

 ポークとミネズミの攻撃の応酬がしばらく続いた後、ミネズミはなんとか倒せた。

 ……けど、ポークはボロボロだ。

 

「ば、馬鹿な! 我らの夢が! 正義が!」

「何が正義だ! 強盗が寝言言ってんじゃねえ!」

 

 強盗を正義って名目で正当化してんじゃねえよ!

 

「……子供だと思って見くびったか?

 まあいい、次は私だ。正義のために!

 チョロネコ、行きなさい!」

 

 しかも回復の隙もないまま続けて仕掛けてきやがった!

 ヤバい、ポークが!

 

「正義執行! そのポケモンを倒しなさい!」

「フシャーッッ!」

「ブゥ……」

「しまった! ポーク!」

「ああ! マリネットのポケモンがあ!」

 

 ミネズミ相手の戦いで既に満身創痍だったポークは、即座にやられてしまった。

 

「これが正義の力よ! 決して私達は負けないわ!」

「まだ終わってねえよ! ヨーテリー!」

 

 たいあたりで押し切れ!

 

「って、あっという間にチョロネコが!

 さっきのポケモンは前座だったの!?

 なんてこと……! これは悪夢ね!」

 

 2回目のたいあたりでチョロネコは倒れた。

 ヨーテリーが居たからどうにかなったか……。

 

 

 

 

 

 

「まさか2人して負けるとはな!

 だが、我らの正義のためにゆめのけむりは入手せねばならない!

 おら! ゆめのけむりだせ!」

「バトルで負けてもお構いなしかよ!」

 

 バトルで負けたっていうのに、まだムンナに暴力を振るい続けるビジネスマン。

 いっそこいつらをヨーテリーで直接攻撃してやめさせるか!?

 強盗相手なんだから構わねえだろ!?

 

「やめたげてよお!」

「口で言っても多分こいつら止まんねえよ!

 仕方ねえ! ヨーテリー! やr」

 

 あたしが覚悟を決めてヨーテリーにこいつらを攻撃させようとした直後、ビジネスマンの背後に男が現れた。

 こいつ、確かカラクサタウンで演説してた……。

 

「……お前達、何をしているのだ?」

 

 カラクサタウンで演説してたゲーチスと同じ奴か……これ?

 威圧感が凄い……完全に別物だ……!

 

「我々は愚かな人間からポケモンを切り離すのだ!

 貴様らは役目を忘れたのか? それとも……」

 

 分身したように見え……一体何が起きてるんだ?

 

「役目を果たすことが出来ないとでも言うのか?

 その役目果たせないと言うのなら……!」

 

 あたしに向けられてるわけじゃねえ。

 けど……なんだよこの威圧感!

 

「こ、これは……」

「ま、不味い……」

「街で演説して賛同者を増やす時……言葉で人を動かそうとする時のあの方じゃないわ!」

「ああ……敵対者を本気で叩き潰そうとしている時のあのお方だ……。

 不味い、このままでは我々の命が危ない」

「とにかく今すぐ逃げましょう!

 ゆめのけむりは残念だけど、命にはかえられないわ!

 あの方に取り次いでもらって許しを請うしか……」

 

 そのままビジネスマンとOLは逃げ去っていった。

 直後、威圧感を放っていたゲーチスは忽然と消えてしまった。

 

「えっ、消えた!?」

「むにゃあ!」

 

 気づいたら、ムンナを大きくしたようなポケモンが出てきていた。

 い、一体何が起きたんだ!?

 

「……いまのって、なあに?」

「あたしが聞きてえよ。なんだったんだ今の……」

「あのゲーチスって人あちこちにいたし、本物じゃあないよね」

 

 幻だったのか?

 ……でも、感じたあの威圧感は……?

 

「……もしかして、夢?」

「夢……? 今のアレが?」

「それにあのポケモン……」

 

 あいつが見せた幻か夢……だとすると、あの威圧感はあいつが……?

 

 

 

 

 

 

「わっ!」

「っ!? ……って、あんたかよ……」

 

 確かマコモだ。

 あたしに依頼出して、待ってるんじゃなかったのかよ。

 

「待ちきれなくて来ちゃった……ってムシャーナ!?」

「むしゃ?」

「むにぃ」

「あっ……」

 

 マコモに気を取られた隙に逃げられてしまった。

 そうだよゆめのけむり! 逃げられちまった!

 ……つっても、あれだけ痛めつけられてたムンナを追っていって、ゆめのけむり寄越せって頼むのもな……。

 

「何があったの?」

「あっ、マコモさん」

「あんたの依頼通りムンナを探しに来て、見つけたまでは良かったんだけど……」

「でも、悪い人達がムンナの事を……。

 で、ムシャーナが来て……。なんだか夢? を見せたのかな?

 そうしたら、あの人達……」

「大慌てで逃げていったんだ」

 

 正直あたし達ですら「何言ってんだこいつ」って思いたくなるような内容だよ。

 けど、そうとしか言えねえ。

 

「……なるほどね。

 ムシャーナはね、ムンナが進化したポケモンなの。

 で、仲間のムンナのピンチを知り、夢を現実にする能力でムンナを助けたのね。

 ……って、ちょっと待って!」

 

 マコモが、ムンナが去っていった場所に何か落ちているのを見つけたらしい。

 

「これってゆめのけむり!?」

「……ふーん、それがそうなのか?」

 

 じゃあ、あたしはもう良いよな?

 教えてもらった礼はちゃんとしたぞ。

 

「これがあればアタシの研究が完成するわ!

 アナタたち、後でアタシの家に来てねー!!」

「いや、もうあたしに用はねえだろ!?

 行かねえぞあたしは!」

 

 直接じゃないにしろゆめのけむりは見つけたんだし、もう関係ねえだろ!

 さっさと先に進みてえんだよ!

 

「ふええ、なんだかすっごくドタバタしちゃったねえ」

「その前にテメエはなんかあたしに言う事無いか!?」

 

 あたし1人に戦闘押し付けてのほほんとしやがって!

 テメエはホントボケベルだよな!

 頭の中花畑でも作ってるのかよ!

 もしあたしがさっきの強盗共に負けたらどうするつもりだったんだよ!

仮に『私達のポケモン奪わないでよお!』とか叫んだところで誰も助けてくれねえんだぞ!?

 

「だって、いきなりだったしポケモンを無理矢理奪うって言われて怖くて……」

「あたしの居ない所で襲われてもあたしは知らねえぞ。

 敵は全部ぶっ潰すしかねえんだ。

 お話しても分かってくれるような奴じゃねえだろ、あいつら」

 

 そんな奴等ならそもそもあんな活動してねえだろうし。

 

「それより、マリネットはマコモさんの家に行ってみたら?」

「あたしは研究とかどうだっていいっつーの!」

 

 あたしが必要なのは、身勝手な連中相手にあたしの意思と考えを押し通せるための力だけだ!

 それ以外何も要らねえ!

 自由になるために力が要るんだよ!

 

「というか、マコモは『アナタたち』って言ってたぞ。

 ベルはどうするんだよ?」

「あたし? あたしはね、さっきのポケモン探すんだから!」

 

 こいつ人には行けと言っておきながら、しれっとボイコットしたりしねえよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----

 

「申し訳ありません、ゆめのけむりを確保する計画に失敗してしまって……」

「ボロは出していないな? それだけが重要だ。

 我々がプラズマ団の一部だと見抜かれるとプラズマ団を潰す名目を与えてしまう。

 それだけは避けなければならない」

 

 そう、それだけは絶対に避けなければならないのだ。

 『プラズマ団の制服を着てプラズマ団だと名乗りながらムンナ虐待をする場面を目撃される』等、間違いなくプラズマ団を悪の組織だと断定させる切っ掛けになってしまう。

 ゲーチス様が受けたあの「未来予知」にはプラズマ団を崩壊させるためのシナリオが予定調和のように組み込まれていた上に、避けようのない未来であるように示されていた。

 我々はその未来を変えなければならない。

 ポケモン解放を成し遂げ、我々だけがポケモンを使えるようになる世界を手にするために!

 

「そ、その点だけは問題ありません!

 私達ちゃんとビジネスマンやOLの格好でしたし、プラズマ団だとは全く思われていないはずです!」

「それならば良い。極悪なトレーナーによる所業をあちこちで行い、プラズマ団の正当性を強めるのだ。

 次の目標としては、シッポウシティでゲーチス様が演説する時に使うポケモンを用意するため、その辺のタブンネを何匹か手酷く痛めつけるぞ」

「そこをプラズマ団に発見させて、発見された我々はさっさと逃げることで痛々しいタブンネをプラズマ団経由でゲーチス様に渡すと」

「うむ。その通りだ」

 

 我々はあくまで『プラズマ団の演説に感激した過激な連中』を演じるのだ。

 プラズマ団の思想を否定する愚か者を叩き潰し、ポケモンを奪い、解放する。

 プラズマ団にはあくまで「ポケモンを虐待するような悪いトレーナーからポケモンを救い出す」組織であってもらわねばならない。

 

「ゲーチス様には私からとりなしておく。しっかり頼むぞ」

「はっ! 次こそは成し遂げてみせます!」

「これ以上ないくらいにタブンネを痛めつけて、経験値ほしさにタブンネを痛めつける極悪トレーナーをしっかり演じきってみせます!」

「うむ! では行け!」

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