苦手な人は気をつけてください。
「マリネット、本当にありがとうね!
2人でポケモンを取り返してくれたんだよね。
ほんとマリネット達と友達でよかった!!」
「今のところ、あたしはベルに体よく使われた記憶しか無いんだけど?」
友達というか、完全に都合よく武力装置として使われてるたけじゃねえか。
夢の跡地の強盗、今回のガキのポケモン奪還……。
「おねえちゃん、ありがとう!!」
「……奪われたくなかったら、強くなれよ。
こんな事は何回も起きるものじゃないからな」
正義のヒーローがやってきて、悪い奴等から守ってくれました!
……そんな展開を当たり前にされたくない。
もしそんな展開が当たり前なら、あたしだって親から守られた筈だ。
「じゃあ、あたしこの子を送っていくから。
じゃあねマリネット。バイバーイ!」
ベルはガキ連れて去っていった。
やれやれ、やっと進めるな。
「マリネット、ストップ!」
「今度は何だよ!? まさかまた戦う気か?」
少し進むとチェレンと遭遇した。
……マジで冒険してる感覚なんて無いよな。
「いや、今回は戦うわけじゃないよ。
あっちの色の濃い草むら……見えるかい?」
「ああ、お前が今出てきた所か?」
確かに色がちょっと違う気はするけど、それが?
「稀にだけど、ポケモンが2匹同時に飛び出してくる。
それに、周りの草むらより強いポケモンが飛び出してきた」
「へえ……戦力にするならそっちの方が良いのか?」
元から強い奴育てた方が楽だしな。
「つまり、色の濃い草むらに入るなら注意しなよってこと。
じゃ、ぼくはシッポウシティに行くよ」
「……で、シッポウシティに着いた途端にまたお前が出迎えるのな」
「ついてきなよ。ポケモンセンターの位置を教えるから」
「自分で探せるっつーの……」
さっき会った後先に行ったチェレンがまた出てきた。
やっぱり冒険とか旅って感じじゃねえよなあ……これ。
ついて行く中そんな事を考えていた。
「このまま真っすぐ進めばポケモンセンター。
後……よければこれを使いなよ。カゴのみだ」
「この前お前が使ってたやつとは違うのか?」
使い方は?
やっぱり持たせるのか?
「カゴのみをポケモンに持たせておけば、眠らされてもポケモンは回復して目覚める」
「つまりムンナに眠らされたミジュマルがあの時カゴのみを持ってたら……」
「ああ、すぐに目を覚ましていたよ。
オレンのみを持っていたから起きなかったけど」
なるほど。
使い道はありそうだけど、イッシュのきのみって確か超貴重品なんだよな……。
どこで持たせるか。
「ついでにアドバイス、シッポウシティのジムリーダーはノーマルタイプの使い手。
かくとうタイプのポケモンがいるとかなり有利かもね」
チェレンはそれだけ言うと去っていった。
……とりあえずポケモンセンターに行くか。
「回復終わって出てきたら……なんだよこの人集り?」
ポケモンセンターから出てきたら、いつの間にかかなりの人が集まっていた。
なんで急にこんな人集りが出来たんだ?
「聴衆の皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
「あいつ…………!」
声のした方に目を向けると、見覚えのある男が演説をしていた。
確か、プラズマ団のゲーチスだっけか……?
周りに、あの変な格好の集団を侍らせている。
「今日は、皆さんに『何故我々プラズマ団がポケモンを解放しないといけない!』と決意するに至ったか。
その理由の1つをお教えしましょう」
「なんだ?」
「あの電波野郎か?」
「へえ、どんな理由があるって?」
どうやらカラクサタウンの演説の続きみたいな内容らしい。
確かに、どんな理由でポケモン解放をしようと思ったのかは気になるな。
さっきの洞窟で倒したポケモン強盗の最後の言葉も気になるし。
「何年も前の話になります。
ワタクシは以前、このイッシュをはじめ、様々な地方を巡って旅をしておりました。
いわゆる『見聞を広める』旅ですね。
その旅の中でワタクシは、とある事件に遭遇したのです」
至って普通の旅のように思えるけど……?
「ある地方に赴きました。その地方では、ポケモン勝負が非常に盛んでした。
それも、トレーナーの交流目的などというようなレベルではない。
地位や名誉、場合によってはトレーナーの人生全てをかけて戦うような、苛烈なものでした」
周りからは「本当か?」「嘘なんじゃねえの?」とかの声も聞こえてくる。
ゲーチスは構わず続ける。
「その地方でのポケモン勝負は、もはや皆さんが想像出来るようなポケモン勝負ではありませんでした。
能力を鍛え上げるために何百匹ものポケモンを痛めつけ、進化を促すために数百体ものポケモンを惨殺し、というような世界です。
貴方方の中に、そのような経験をした方は居ますか?」
いや、居るわけねえだろそんな奴!
惨殺しって言ってるけど、そんな理由でポケモン惨殺するやつなんか居ねえだろ!
「ですが、悲劇はそれだけでは終わりませんでした。
彼らの戦いは、ポケモンそのものの質を底上げするための『選別』にまで至りました。
何が行われたのか、分かりますか?」
周りも沈黙している。
出鱈目だ、と切り捨てたいけど嘘を言ってるとは思えない。そんな雰囲気だからだ。
強盗の発言ならともかく、ゲーチスは別に何もしてないわけだからな……。
「産まれたばかりのポケモンを、篩にかけるのです。
彼らの科学力と執念は、ポケモンの能力を素質単位で紐解いてしまいました。
その結果……タマゴから産まれたその段階で、このポケモンは伸びしろが存在しない、鍛えても強くならない、と言うことまで明らかにしてしまったのです」
嘘だろ……嘘だよな?
もしそんな事がマジなら、伸びしろがないポケモンは?
「ワタクシがその地方で見たのは、産まれながらに欠陥品の烙印を押され、処分されていくポケモンの姿でした。
トレーナーは皆、機械の数字をチェックするような感覚でポケモンの命を選別していました。
信じられますか? 産まれた直後に処分される事が決まっているのですよ?
ポケモンの赤ちゃんが、顔色1つ変えないトレーナーの手によって次々と処分されていく。
それが、ワタクシが見た『最もトレーナーの実力が高い』とされた地方の話です」
そんな酷い地方が……。
嘘じゃ、そんな地方があるなど……。
そんな感じで、皆が受け入れ難いといった反応をしている。
あたしだって、すぐに信じられない。
「今の話を聞いてどう感じましたか?
可哀想だ、と思いましたか?
嘘を言うな、と思いましたか?
信じる信じないは貴方方にお任せします。
ですが……このようなむごい話の証拠の1つが、ここにあるのです。
我々プラズマ団が保護した、生ける証人。
……いえ、ポケモンが」
ゲーチスがプラズマ団に指示を出す。
すると、プラズマ団の1人があるポケモンを連れてきた。
それを見た時、演説の空気が一変した。
「ミッ……ミッ……」
「あ、あれは……」
「タブンネ……!? じゃが、なんと惨い……!!」
「おいおい……マジでアレをトレーナーがやったって言うのか……?」
ゲーチスが連れてきたのはタブンネだった。
……だが、その見た目は普通ではなかった。
耳の下の管のような部位は根元から引き千切られたようになっており、更に耳自体もギザギザの刃物で力ずくで切断されたような切られ方をしている。
顔の右半分は痛々しく腫れ上がり、右目は腫れ上がったまぶたによって完全に隠れてしまっている。
胴体も悲惨だった。細かい切り傷があちこちについている上、刃物か何かで「けーけんち」と刻みつけられたような大きな傷がつけられている。
当然足の傷も酷い。
いくつも青痣が出来ている。
正直、血が出てないだけマシってだけで、見た目だけでもヤバすぎるってことが良くわかる。
「このタブンネは……我々がとあるトレーナーから保護した後、応急処置したポケモンになります。
そのトレーナーは、我々が力ずくで制止するまでこのタブンネを執拗に甚振り、傷つけていました。
場所はここから程近い……ヤグルマの森です」
自分達の住んでいる場所のすぐ近くでこんな事が起きていた、その衝撃は大きいだろう。
そんなすぐ近くで! 犯人は!?
それよりポケモンセンターに連れて行って!
様々な声が周りから聞こえる。
「……ええ。このタブンネは我々が責任を持ってポケモンセンターに連れていきます。
貴方達、責任を持ってそこのポケモンセンターにお連れしなさい。
……皆さん、お分かりいただけたでしょうか。
このイッシュにおいても、ワタクシが話したような恐ろしいポケモントレーナーの卵が、静かに育っているのです。
ワタクシは、このイッシュ地方が、ワタクシがかつて見たような地獄の世界に変わるのを避けたいのです。
ですので! ポケモン解放を訴える事を決めたわけです。
……ご清聴、感謝します」
ゲーチスは、ポケモンセンターから戻ってきたプラズマ団と共にそのまま去っていった。
カラクサタウンの時とは明らかに違う。
実物の、こんな惨い事が出来るのかよって言いたくなるような惨状のタブンネを見せつけられて、皆愕然としていた様子だった。