アイリスに無理矢理引っ張られて建物の中に連れて行かれたあたしの目に飛び込んできたのは、強盗達がプラズマ団に取り押さえられている光景だった。
……え、何これ? どういう状況よ。
「ぐうっ、は、離せ貴様ら……俺達は解放のために……」
「そうよ! ポケモンを愚かな連中から解放してやるために戦っていたのに!
戦い損じゃない!」
「黙れ! お前達が持っていたこのボールの中のポケモンを見たら分かる!
お前達最近噂のポケモン強盗だろ! おかげでこっちまで迷惑してるんだ!」
強盗がプラズマ団に説教されている、という状況に頭が追い付かない。
「これはこれは、ジムリーダーのアーティさん」
「……プラズマ団と、ゲーチス? どういう状況よこれ?」
全く意味が分からない。
「うぐぐ……まさか私たちの逃げたビルがプラズマ団の拠点にしてた建物だったなんて……」
「完全に大外れだった……」
「ポケモンジムの前に活動拠点を用意するのも面白いと思いましたが、まさかこのようなことが起きるとは。
意外な結果でしたな」
ポケモンジムの前にプラズマ団の拠点のビルがあったのかよ。
だから街中や4番道路で見かけたのか。
「事情は大体把握していますよ。
ワタクシ達の演説を聞いて感激した結果、ポケモンを解放する事こそが絶対最優先だと思い込んでしまって暴徒のようになったこの方々に襲われたとか。
本当に災難でしたね、お嬢さん」
ゲーチスの目は何故かあたしに向いている。
……ベルじゃないのかよ?
「……この責任は取ってほしいんだけどね? ヒウンシティでも強盗事件が起きてしまった。
全てきみ達が演説を終えた辺りからだと思うけど?」
「ええ……本意ではないとはいえ、ワタクシ達の演説で過剰なくらいにポケモン解放を叫ぶようになる暴徒が生まれていることも事実……。
当然、処罰はしかるべきところで受けさせましょう……」
アーティとゲーチスの会話は、どことなく剣呑な空気だ。
……過激派が生まれたのはそいつらが勝手にやっただけじゃねえのかよ?
「ところで……この不届き者たちがポケモンを隠し持っていたのですが、貴方方のポケモンですか?」
「あっ! ムンちゃん!」
ゲーチスが投げたボールからはムンナが出て来た。
ベルのやつか。
「畜生……いざとなったら盾にも使えたってのに……。
そのガキは俺まで平気で攻撃しようとしてきやがるし、ジムリーダーは2人も居やがるし」
「逃げ込んだ先がよりによって保護団体のプラズマ団の拠点だったなんて……。
エレベーターで降りてきたプラズマ団に鉢合わせてやられるなんてオチ考えもしなかったわ……」
強盗達は文字通り捨て台詞を吐くしか出来ない。
「さて、ゲーチス様」
「ええ。怖かったですよね……さあ、トレーナーの所にお行きなさい」
ゲーチスが促すとムンナはベルの方に急いで向かっていった。
「あっ、ありがとう! ムンちゃん! お帰り!!」
「よかったねおねーちゃん!!」
ムンナは無事に帰って来た。
一件落着、と言って良いんだろうな。
「これは麗しいポケモンと人の友情!
ワタクシが見てきた愚かなトレーナーにも見せてあげたいくらいです」
「ゲーチス様! こいつらは……」
「ええ。警察に引き渡しなさい。すぐに来るはずです」
「はっ!」
ゲーチス、こうして見ると言ってることは独特だけど悪人には見えないよな。
なんであの演説からあんな強盗が生まれるんだ?
「なあ、あんたゲーチスって言ったよな?」
「ええ。ワタクシはゲーチスです。貴方は?」
「あたしはマリネットだ。……なあ、なんであの演説からあんな過激な連中が生まれるんだ?
あたしはカラクサタウン、シッポウシティであんたの演説を聞いてたんだよ。けど……。
確かにシッポウシティで見せられたタブンネは痛々しかった。
酷い事する奴居るんだなとは思ったけど、それでもあそこまでポケモンを奪おうとする理由には……ならない気がして……」
なんでこんな事急に聞いたのかは分からない。
ただ、なんとなく聞いてみたくなった。
「フム……マリネットさんでしたね。アナタは、行き過ぎた善意の脅威を知っていますか?」
「行き過ぎた善意?」
善意っていい事じゃねえのか?
善意の脅威ってなんだよ?
「善意っていい事じゃねえのか?
狙って○○を傷つけてやる、みたいなこと考えてるのに比べたらいいと思うけど」
「基本的にはそうですね。我々プラズマ団も、保護するのは原則野生の傷ついたポケモンや酷い虐待などを良しとするトレーナーのポケモン等です。
ですが、その基準は何だと思いますか?」
基準?
「……酷い虐待をしているトレーナー、傷ついた野生ポケモンって言ったよな」
「ええ。ですがそれは『我々の目から見た』基準でしかありません」
「……だから、さっき連れて行かれた強盗達の基準からしたらぼく達、というかトレーナーという存在全てが許されざる悪である、と言いたいのかな?」
アーティが話に入ってきた。
……そういう事なのか?
「ええ。アーティさんの仰る通りですよ。
彼らには彼らの理由があります。
……それが許されざるものであろうとも」
「ポケモンとトレーナーは一緒だから良いのに!
どうしてそれが分からないのあの人達!」
アイリスが叫んだ。
アイリスの意見はトレーナーの総意に近いんだろうな。
ベルとアーティも頷いてる。
「それもまた『1つの価値観でしかない』と言う事ですよ。
私の考えこそが絶対に正しい、お互いがそう主張するからこそ争いが起こります。
…………イッシュの建国時の昔話のように」
イッシュ建国時の昔話?
「それって?」
「このイッシュはある兄弟と、凄まじい力を持ったドラゴンポケモンによって建国されたと言われています。
ですが、建国後にその兄弟が争うことになってしまい、国は乱れドラゴンも姿を消してしまった。
どちらがどのような主張をしたのか、ドラゴンポケモンとはなんだったのか等は分かりません。その時代の記録はほとんど伝承でしかありませんからね」
「ドラゴンポケモンはゼクロムともレシラムとも言われてるけど、どっちにしてもお話の辻褄が合わないんだって」
「へえ……」
……それで、結局善意の脅威ってのはなんなんだ?
「……話がずれましたね。話を戻しましょう。
さっきの強盗達は『トレーナーから力ずくでポケモンを奪って野生に返す』という行動原理を『正しい行い』『善い行いをしている』と思っています」
「はあ!? どう考えても悪じゃねえか!
やってること強盗だぞ!」
「そうだよ! そんなの間違ってる!」
強盗する事が正しい行いのわけないだろ!
「それはあくまで『一般論』でしか無いと言う事も出来ます。
イッシュ建国時の話からして『意見や思想の対立の果てに国が一度崩壊した』のですから。
異なる考えや価値観を持つ以上、どうしてもこのような対立は起きてしまうでしょうね」
……最初から分かり合えないって事か?
じゃあ、どうすればいいんだよ?
「対立を解消する方法はいくつかあります。
それらを分かりやすくまとめるなら『相手に従う』『相手を従えさせる』『お互い干渉しない』でしょうか」
なるほど……。
「おっと……少し話しすぎてしまいましたね。
ワタクシの話はこの辺で終わりにしましょう。
アナタがどのような結論に至るか、それはアナタの選ぶ道ですよ」
プラズマ団に見送られ、あたし達は建物を後にした。