選択権無しのマリネット   作:ルスト

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話の都合上母親だけ別物にしてます。予めご了承ください。


2話 なんであたしがそんな事!

 あたしは諦めて階段を降りる。

 ボロボロになったこの部屋を片付けたい気持ちはあるが、仮にそんな事やってたらあの親の事だ、上がってきて力ずくでもあたしを叩き出すだろう。

 

「騒がしくして本当にすみませんでした」

「あ、あのう……おかたづけ……」

 

 階段を降りるとチェレンとベルがあたしの親に謝っていた。

 それに対してあたしの親は満面の笑みだ。

 そりゃそうか。あたしをトレーナーにしたくてしたくてたまらないって昔からずっとずっと言い続けていたんだから。

 

「片付け? いいのいいの! 遅かれ早かれ整理しようとしていたところだもの!

 色々な意味でナイスタイミング!

 それより、アララギ博士に会わなくていいの?」

 

 あたしは正直死ぬほどどうでもいい。

 要らないプレゼント渡されて「嬉しいでしょ!? 嬉しいよね!? 嬉しいと言いなさい!?」とずっとずっと言われ続けていたんだから。

 まあこいつらはあたしと違うから、嬉しくて仕方ないんだろうな。

 あたしにはチェレンやベルの気持ちは一生理解できないだろう。

 

「はい! では失礼しますね。

 じゃあアララギ博士にお礼をいいにいかないと。

 マリネット、ポケモン研究所の前で待ってるよ」

「……ああ」

「あっ! あたし一度家にもどるね。

 おばさん、どうもおじゃましましたあ」

 

 チェレンとベルが出ていった。

 その瞬間、あたしの親の雰囲気が変わったのが分かった。

 自分の考えが絶対に正しい、自分の考えを絶対に曲げない、あたしの意思は完全に無視、そんないつもの姿に戻った。

 

「マリネット! ポケモン勝負ってものすごく賑やかでしょう! 素晴らしいでしょ!?

 下までポケモンの鳴き声とか聞こえてきたわ!

 思い出しちゃったわ! 私の初めてのポケモン勝負!

 マリネットにもずっと味あわせてあげたかったのよ!

 ポケモンを手足のように使って相手を圧倒的な力で捻じ伏せるあの快感!

 賞金稼ぎ生活の果てに豪華な暮らしと栄光を手にする感覚を!

 さっきのバトルはその第一歩なのよ!

 貴方が勝つのは分かってたわ! 私の子供が負けるわけがない! ポケモン勝負で勝てるように『私が』育てたのだもの!

 楽しかったでしょ!? 素晴らしかったでしょ!? ええそうだと貴方の顔が言ってるわ!

 もっともっと上を目指したいって思ったでしょ!? 思ったわよね!? 思いなさい!」

 

 一方的に凄まじい早口でまくし立てるように喋ってくる。

 そこにあたしの返事は必要ない。

 あたしの意思すらも勝手に「貴方はこれを望んでるのよ!」と決めてくる。

 何を言っても無駄なのだから、返事するだけ無駄だ。

 これがトレーナーになりたいと思う子供の親ならば「こんな素晴らしいお母さんなんて居ない!」と思ったのかもしれないが、生憎あたしはトレーナーに全く興味がない部類の人間だ。

 正真正銘最悪の親を引いたと思っている。

 娘が心配で旅に出したくない、って常日頃から言ってるベルの父親とあたしの母親……コレを変えてほしいくらいだ。

 

「ああそうそう、ポケモンを回復させてあげなきゃいけないわ! 出しなさい!

 なるほどポカブね! 貴方にしてはいい選択をしたわ!

 ツタージャなんか選んだらどうしようかと思ったわ!

 私が現役の頃のジム巡りでも大苦戦したし、あのツタージャはなんか反抗的だったし何回か逃げようとしたりもしてたわ!

 最終的にモンメンの方が使いやすいから変えたのよ!

 万が一貴方がツタージャ選んじゃったらなるべく早めにポカブかミジュマルを渡そうかと思っていたのよその心配はなくなったわね良かった良かった!

 ああそうそう回復よねはいポカブちゃん回復してあげるわいらっしゃい!」

 

 一方的に喋り続けている。

 一体どんな経験をすればここまで一方的に喋り続ける事が出来るのか、不思議でならない。

 あたしには少なくともコレの真似は出来ない。

 

「ああそうそう、当然だけど貴方の部屋はもう無いわよ!

 貴方はトレーナーになったのだから!

 私とアララギからのプレゼントよ本当に素敵で素晴らしいプレゼントをしたって私実感してるわ!

 これから貴方は自分の力で生きていくしかないの、素敵でしょ!? 素敵って言いなさい! 本当に本当に素晴らしい事なのよ!

 それがトレーナーの生き方よ! 弱肉強食の世界で生きていくのが貴方のこれからなの!

 奪う側になりなさい! ポケモントレーナーの世界はポケモンの力が全てよ!

 ポケモンさえ強ければどうにでもなるわ!

 ポケモンの力さえあったら金でも名声でも思うがままよ!」

 

 要するにポケモンって武器使って行う決闘だろうが。

 何が素晴らしい生き方だよ。

 しかもあたしには拒否権ねえんだぞ。

 そんな生き方したいってあたしが頼んだか?

 

「よし、元気になったわねポカブちゃん! 最悪貴方が引きずってでもマリネットを連れていきなさい!

 ああそうそう、後、ライブキャスターも持っていきなさい! マリネットから使う事は無いでしょうけど、皆からの連絡に使うと思うから絶対無くさないようにね!

 それと、貴方も博士にお礼を言うんでしょ!? じゃ行ってきなさい!」

 

 言うが早いか、背中を押されて強引に家を追い出された。

 ホント、最悪な人生……。

 あたしには生き方を選択する権利なんて無いのか?

 それすらも力が無いと駄目なのか?

 

 

 

 

 

 

 研究所に行くと何故かチェレンが門番みたいに立ちふさがっていた。

 中に入るんじゃねえのかよ何やってんだお前。

 

「申し訳ないけれどベルの家まで行ってくれる?

 きっとまたいつものようにのんびりしているんじゃないかな。

 本当マイペースだよね」

「いや、お前が行けよ。なんであたしが……」

「もし行き違いになってベルが来たら困るだろ? だからぼくはここで待っているよ」

「……体よく面倒事押し付けやがって」

 

 体よくあたしに押し付けて自分は動かないつもりらしい。

 ホントメンドーだな。

 ああ、メンドーだ。

 行くのも億劫だが体は勝手にベルの家目指して歩きだした。

 

 

 

 

 

 

「おいベル何してんだ! さっさと出てk「だめだめだめーっ!」」

 

 どうせのんびりしてるであろうベルに怒鳴りこんでやろうと思ったが、あたしの声はそれ以上の大声でかき消された。

 ベルの父親が猛反発していたらしい。

 ……こいつがあたしの父親で母親がアレじゃなかったら、のんびり暮らせたんだろうなああたし。

 

「あたしだって……ポケモンをもらった立派なトレーナーなんだもん!

 冒険だってできるんだから!」

 

 ベルが珍しく父親に食って掛かってた。

 ……なんであたしとベルは大外れの親引いたのかねえ。

 逆なら双方ハッピーだったろうに。

 あたしの親なら喜んでベルを送り出しただろ。

 

「あっ」

「……」

「……大丈夫だよ。大丈夫!

 それじゃあたし、研究所の前で待ってるからね」

 

 珍しい物を見た。

 それはそうと、親父さん大丈夫か?

 

「なんってこったい!? うちの娘がポケモンと旅にでるだなんて……

 あんなに世間知らずなのに!?」

 

 だよねえ……。

 常識ゴミ箱に捨ててあたしの部屋で突然バトル始めるような奴だぞ?

 思い付きと勢いだけで生きてるのかねえ。

 

「もう、パパったら娘のこと心配しすぎよね。

 子供はだれだってポケモンと一緒に旅をして大人になるんですから」

 

 ベルの家を出る間際にベルの母の呟きが聞こえた。

 少なくともあたしはそんな事望んでないんだけどな……。

 

「……人を呼びに行かせておいて自分だけ先に行きやがって」

 

 というか、あの流れならあたし行かなくても良かっただろ。

 研究所の前でずっと待ってりゃよかったじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 研究所の前に戻るとベルがチェレンに聞こえないように話しかけてきた。

 

「……さっきのは、秘密だよ」

「あたしはどうだっていい、人の生き方とか興味も無い」

 

 そもそもあたし自身の生き方すら勝手に決められてるんだぞ?

 あたしは自由が欲しい。

 

「さ! 博士に会おう」

 

 チェレンが研究所のドアを開け、あたしたち三人は研究所の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

「ハーイ! 待ってたわよヤングガールにヤングボーイ!

 あらためて自己紹介するね、わたしの名前は……」

「……アララギ博士? 名前は知っていますよ」

「もう! チェレンったらちょっとクールじゃない?」

 

 アララギが今更過ぎる自己紹介をしようとしたが、チェレンに壊された。

 

「……んんっ、きょうは記念となる日でしょ。かしこまったほうがいいじゃない。

 ではあらためて……わたしの名前はアララギ!

 ポケモンという種族がいつ誕生したのか……その起源を調べています」

 

 記念日ねえ。

 あたしにとっちゃ地獄の始まりのような気がするけどな。

 

「あっ、すごーい! もうポケモン勝負をしたのね。

 それでかな? ポケモンたちもきみたちを信頼しはじめた……そんな感じ!」

 

 ポケモンって戦うのが好きなのか? ……やっぱポケモンって戦うための道具なんかね?

 もちろん生き物だからメンテナンスは要るだろうけど。

 そんなことを考えていたら、アララギが唐突に切り出してきた。

 

「ところでポケモンにニックネームをつけてあげたらどうかしら?」

「ニックネーム……名前?」

「そうよ、その方が愛着もわくし、何より覚えやすくなるでしょ?」

 

 ……正直種族名を覚えるとかあたしは大の苦手だ。

 そう考えると、アリなのか?

 覚えやすい名前……こいつオレンジの豚だし……。

 豚……豚……。

 

「ポークで」

((さっきのバトルで散々叫んでた「豚」を違う言い方に変えただけのような……))

「なるほどなるほど、ニックネームはポークでオーケー?」

「ああ」

「ポークというんだ、すっごくいい名前よね!」

((……珍しくマリネットが自分から決めた名前だし、流石に黙っておいてあげようか))

 

 これならあたしでも覚えられる……だろう。

 どうせもっと強いポケモンをブラックシティのポケモン通販会社から買えるまではこいつに頼るしか無いんだ。

 

「さて、きみたちにポケモンをあげた理由だけど……」

「ポケモン図鑑ですよね」

「ポケモン図鑑……?」

「?」

 

 なんだよそれ……また面倒事の予感が……。

 

「すごいすごい! さすがチェレン!

 ポケモンのことをよく勉強しているわね。

 ということで! あらためて説明させてもらうわね!」

 さて……ポケモン図鑑とは……! きみたちが出会ったポケモンを自動的に記録していくハイテクな道具なの!

 だからね、マリネットたちはいろんなところにでかけ、このイッシュ地方すべてのポケモンに出会ってほしいのッ!」

 

 イッシュ地方すべてのポケモンと出会え!?

 誰がやるかそんなメンドーな事!

 あたしは自由に静かに暮らしたいだけなんだよ!

 押し付けられたポークは戦力になるし仕方ないから連れて行くけど、静かに暮らせそうな場所があったらあたしはそこで旅なんか辞めるぞ!?

 

「ではお聞きしまーす。

 マリネット! チェレン! ベル!

 ポケモン図鑑を完成させるべく冒険の旅にでかけるよね!」

「はあーい……じゃなくて、はい!」

「ありがとうございます。おかげで念願のポケモントレーナーになれました」

「ありがとッ二人とも! 最高の返事よね!

 それで、マリネットの返事は?」

 

 あたしの返事?

 答え聞くまでもねえだろうが!

 

「断るに決まってるだろ、誰がやるかそんなメンドーな事!

 あたしは静かにのんびり暮らしたいんだよ!

 家だって無理矢理追い出されたんだし、イッシュ地方のすべてのポケモンと出会うとか、あたしがやりたいと思ってるわけないだろうが!」

「まあマリネットだし……」

「こう言うよねえ……」

 

 うっさいわ、そこの二人!

 お前らと違ってあたしは嫌だってのに無理矢理押し付けられてるんだよ!

 

「もう! わたしが聞きたいのは世界を切り開く勇気ある言葉だけなの!!

 マリネット、貴方にもいろんなところにでかけ、このイッシュ地方すべてのポケモンに出会ってほしいのよッ!」

 

 強引に図鑑を押し付けられた、要らねえよ!

 売り飛ばせたりしないか、これ!?

 アララギもあたしの親と同じ、あたしの意思なんて関係無いし必要ない、都合の良い言葉しか求めないってタイプか!?

 ホント質が悪い!

 

「では次のステップね。ポケモンと出会う方法を教えるから、1番道路に来てね!」

 

 アララギは出ていった。

 ああ……メンドーな事が増えていきやがる……!

 

「あっ、あたしたち博士に頼まれたから冒険してもいいんだよね?

 自分のやりたいことを探してもいいんだよね?」

「ああ。図鑑を完成させながらなら、好きなように旅すればいい」

「好きなように……ねえ……」

 

 少なくともあたしにはそんな権利は一切無い気がする。

 あたしに「好きなように」なんて言ったら旅から逃げ出す事なんて想定されてるだろ。

 実際そうするし。

 

「なんだかドキドキしてきた。ねえ、マリネットはポークとなにするの?」

 

 そんな事を考えてたら、不意にベルが話かけてきた。

 

「あたしは……」

 

 ……そもそも無理矢理押し付けられ、追い出されるも同然に始められたあたしの旅に、目的なんてあるのか?

 強要されたから仕方なくやる、それだけじゃねえの?

 今まで親が命令してたのが、今度は他の奴等にすげ変わるだけで。

 ……考えたら考えるほど、今後の事が嫌になってくるな。

 

「……あたしの事なんか良いだろ、それよりチェレンは?」

「……ようやくポケモントレーナーになれたんだ。

 他のトレーナーとの実戦を重ねて強くなるよ、ぼくは」

「強く……ね……」

 

 ……もし強くなれば、今日みたいにあたしの意思は徹底的に無視され相手の都合を押し付けられ、相手にとって都合のいい行動を強要される、みたいな事は無くなるんだろうか?

 もしそうなら、あたしは……。




アララギはマジでこれなのよね。
主人公の返事は「はい」と「イエス」しか求められません。
ゲームでは無限ループにハマって話が進まないので無理矢理押し付けましたが。
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