選択権無しのマリネット   作:ルスト

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31話 歩みを止めて

 街に入って早々、トラブルがやって来た。

 

「じいさん! あんたが育て屋だってのは知っているんだ!」

「育て屋といったら、イッシュ最大のポケモン虐待施設だ!

 これでもかとばかりにポケモンにタマゴを作らせ!

 産まれた直後に捨てられるポケモンを生み出す悪魔の施設!

 あの方のご命令だ! 捨てられて苦しむポケモンを増やし続ける育て屋を、我等の手で排除する!」

「なんというムチャを!」

 

 ふーん、あのジジイが育て屋なのか。

 ……って、強盗じゃなくてプラズマ団?

 育て屋を排除するって……。

 

 

 

「おお! 強そうなトレーナーさん!

 助けておくれ!」

「はあ!? あたしは関係ねえよ盾にするな!」

 

 突然走ってきたジジイがあたしを盾にしてプラズマ団の方に無理矢理押し出しやがった。

 ふざけんなこのボケジジイ!

 

 

 

「……すまない。極悪人の育て屋に都合よく盾にされてしまったのは同情する。

 が、任務は果たす! あの方のご命令なのだ!」

「産まれた直後に捨てられる可哀想なポケモンを減らすためにも!

 我らは戦う!」

「トレーナーさん! わしを守っておくれ!

 わしの顧客にはバトルサブウェイの修羅達もおるのじゃぞ!

 もしわしに何かあったら! トレーナーさん!

 お主がどうなっても知らぬぞ!

 死にたくなければこ奴らと戦うのじゃ!」

「完全に脅しじゃねえかふざけんな!」

 

 なんだよこのジジイ!?

 極悪人って表現間違ってねえだろ!

 

「くそっ、なんでこうなるんだよ!!」

「プラズマ団とかいう夢しか見ない愚か者!

 天罰を下してやるわ! この娘がの!」

「あの方のご命令を果たすために!」

 

 

 

 バトル自体はあたしが勝った。

 けど……最悪じゃねえかこれ!

 

「くっ、撤退するぞ!」

「任務は失敗だ!」

 

 遊園地の方にプラズマ団は走っていった。

 

 

 

「おいボケジジイ! よくも盾にしてくれたな!

 ふざけんな……って、居ねえ!?」

 

 マジかよ!

 あたしの事盾にして逃げやがった!

 

 

 

「なんなんだよさっきのジジイ!

 ここまで滅茶苦茶な奴初めてだぞ!」

 

 お礼以前の問題だろ!

 文字通り使い捨ての盾じゃねえか!

 ベルより更に質悪いぞ!?

 

 

 

「到着早々、災難だったわね」

「……誰だよ? あんた」

 

 振り返ると女性が立ってた。

 結構な美人だけど、OLとかじゃなさそうだな。

 モデル?

 

「わたしはカミツレ。ライモンシティのジムリーダーよ。

 まさか育て屋のお爺さんとプラズマ団が出くわして問題起こしてたとは思わなかったわ」

「あんたがこの街のジムリーダー……。

 ところでさっきのジジイ明らかにロクなやつじゃなさそうだったけど……。確か……」

 

 わしの顧客にはバトルサブウェイの修羅達もおる、だったっけか。

 

 

 

「そう、あのお爺さんそこまで言ってたのね。あなた運が良かったわ。

 あのお爺さんに何かあったらってのは本当。

 そこの建物……バトルサブウェイに入り浸ってるトレーナー達が、お爺さんに危害を加えたトレーナーや守れなかったトレーナーを痛めつけてるのよ」

「嘘だろ……」

 

 マジでプラズマ団の方が正義だったってパターンなんじゃ……。

 

「昔は穏やかなお爺さんだったのだけど……バトルサブウェイが賑わってから変わってしまったわ。

 サブウェイ参加者が落とす大金と参加者達の圧倒的な力。

 お爺さんは完全に人が変わってしまったわ。

 サブウェイ参加者達のためにタマゴを作りまくり、代わりに大金を得つつ守ってもらう。

 そしてサブウェイ参加者達はポケモン勝負を極める事しか考えてないから、手当たり次第に自分の求めた水準に届かないポケモンを捨てていく。

 今じゃすっかり危険人物よ、あのお爺さん」

「どうにもなんねえのかよ?」

 

 それこそ育て屋を廃業させるなりタマゴを作れないようにするなりさ。

 

 

 

「そうしようとした結果、リーグ側の勢力とバトルサブウェイの参加者が激突してライモンシティが火の海になりかけたのよ。

 辛うじてそれだけは避けたけれど……以来育て屋とバトルサブウェイには関わるな、って皆厳命されちゃって」

「マジかよ……」

 

 あのジジイそんなにヤバい奴だったのか……。

 しかもそんなヤバい奴が野放しって。

 

「だから、あなたもあのお爺さんの事は忘れなさい。

 不幸な事故みたいなものだから」

「…………」

 

 とんでもない奴って実際に居たんだな……。

 

「……っと、少し場所を変えましょうか。

 ここであのお爺さんの話を続けてたら、バトルサブウェイの人達に睨まれてしまうわ。

 私達にとっては大迷惑なお爺さんでも、あそこの人達からしたら誰よりも重要な存在なのだから」

「場所を? あたし、ポケモンセンターに行くつもりだったんだけど」

「じゃあ、そこで話の続きをしましょうか」

 

 ……今さらなんだけど、あんたジムリーダーなのになんでジムに居ないんだよ?

 まあ、あたしが挑む時に居なかったり行動を強制してこなければどうでもいいけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね、場所を変えさせて」

「まあ、あたしはここに用があったからいいけどさ」

 

 あんたとの話が終わったら、通販からポケモン仕入れるつもりだったし。

 

「……それで、さっきの話の続きなんだけど、なんでプラズマ団があのジジイを?」

「バトルサブウェイの人達が原因よ。

 さっき、手当たり次第に捨てていくって話をしたでしょ?

 傷ついたポケモンを保護したりするプラズマ団の人達が、そんな存在を許すと思う?」

「……無理だよな」

 

 現にさっきもプラズマ団が育て屋のジジイを狙ってた。

 まああたしが倒せる程度の存在だったけど。

 

「4番道路が封鎖されてたって話は知ってる?」

「ああ。あたしは足止め食らったんだよ」

「そう。それは災難だったわね……」

 

 えっ、まさか……。

 

「フカマルとタツベイに関しては、証拠があったわ。

 バトルサブウェイの人達が犯人よ。

 とても強いガブリアスやボーマンダを求めて、大量にタマゴを孵して要らないフカマル、タツベイは全て4番道路に捨てたの」

「……プラズマ団が保護して運んでるの見たよ」

「……犯人は分かってるけど、チャンピオンや四天王、ジムリーダーが集結して総力を挙げないと1人捕まえることすらままならない。

 そんなトレーナーが大量に集結している無法地帯がすぐそこのバトルサブウェイ。イッシュの地獄よ」

「地獄……」

 

 想像以上にとんでもない場所だった。

 力こそ正義、その頂点なのか?

 

 

 

「……やっぱり、力がある奴はなんでも自分の思い通りに出来るのかな。

 バトルサブウェイの連中って野放しになってるんだろ?」

「……そうね。本当なら絶対に許されない事を強行してても、簡単には捕まえられない」

「どこまで行っても弱肉強食だな。

 やっぱ力が要るのか……」

 

 やっぱり力が無いと自由は得られないのか。

 

「あなたは、力を得て自分勝手に生きたいの?」

「自分勝手に……というより、その逆だよ。

 静かに生きたい、自由に旅をしたい。

 どっちも今のあたしじゃ許されない」

 

 だからあたしは……。

 

 

 

「……あなた、マリネットさんよね」

「誰から……ってアララギがあんたの名前出してたな。

 カミツレって言ってたし」

「わたしは初めてあなたと話すし詳しくは知らないのだけど、ここまでの旅路はそんなに不自由だったの?」

「……不自由どころか、あたしの意思なんて無かったよ」

 

 状況を利用したり立場を利用して無理矢理あたしを従わせてたんじゃないか。

 

「……シッポウシティの博物館の盗難も、ヒウンシティの強盗事件も、あなたは状況のせいで協力せざるを得なかっただけだったの?」

「誰からなんて聞いてんだよ……。

 シッポウシティの博物館はアロエが無理矢理あたしの事引っ張って行って、アーティがあたしにヤグルマの森抜けて強盗追いかけろって勝手に決めたんだよ。

 ヒウンシティの件は、ジムに挑もうとしたらアーティが勝手に飛び出していった挙句あたしにも手伝えってさ。

 あたしの意思なんて関係無かった」

「そう……」

 

 思い出したら苛ついてきた。

 

 

 

「もし関わらずに済むなら、関わりたくなかった?」

「当たり前だよ。あたしは無理矢理やらされただけなんだ」

 

 というか、このイッシュ巡りのほとんどの状況であたしに選択肢なんて無かった。

 

 

 

「でも、そうなると今の状況はあなたにとってあまりに運が悪いのかもしれないわね」

「なんでだ? まさか通行止めがこの先もあるのか?」

 

 どこまで行ってもイッシュに自由って無いのか?

 

「そのまさかよ。今はホドモエシティと繋がる橋がホドモエジムリーダーの都合で上げられてて、ホドモエシティには行けないわ。

 それに、ワンダーブリッジも点検中で封鎖中。

 点検が終わるには何ヶ月もかかるわ」

「なんだよそれ……結局通行止め通行止めって」

 

 結局あたしに自由はないのか?

 

 

 

「……で、ホドモエシティに行くとしたら、その資格は」

「あのおっさんも、私のジムバッジを持ってる人が通りたいって言うなら認めて橋を下ろしてくれるでしょうね。

 でも、わざわざ橋を上げて通れなくしてるくらいよ。

 それでも行くとしたら、あなたは恐らく……」

「巻き込まれる……か」

 

 ろくなことにならねえな……。

 

 

 

「なんのためかは知らされてないけれど、間違いなく面倒事に巻き込まれると思うわ。

 少し、休んでもいいんじゃないかしら」

「休む?」

 

 いや、休むってどういう事だよ。

 ライモンシティで何もせず休むって事か?

 

「行けるところは少なくても、寄り道やポケモン探しは出来るわ。

 ここまで流されるままにまっすぐ来たのなら、一度戻って4番道路やリゾートデザートを探索してみてもいいし、ヤグルマの森辺りでポケモン捕獲をしても構わないんじゃないかしら」

「良いのかよ……」

 

 ヤグルマの森は流石にかなり遠い。

 少なくともすぐに戻れる距離じゃないんだけど。

 

 

 

「だからこそ、よ。きっと気分転換にはなると思うわ。

 それに、そんな所に居るのなら誰もあなたを簡単に呼びつけられない。

 もちろん、このまま前に進み続けたいのならわたしは止めないわ」

「あたしに強制しないのかよ?」

 

 どいつもこいつも選択する権利はくれなかったのに。

 なんでまた?

 

 

 

「今のあなたは明らかに休んだ方がいい。

 話していてそう感じたのよ。

 余計なおせっかいかもしれないけど」

「……」

「それと……自転車あげるわ。

 ここまで歩きで大変だったでしょ?

 あなたがどうするにしろ、走るより更に快適だからあると役に立つはずよ。

 それじゃ、わたしはこれで」

「あ、ああ……」

 

 カミツレはそのまま立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ていられなかったからおせっかいしたけど、一時凌ぎにしかならないのが悲しいわね……」




ベルとベル父の言い争いに割って入ってきたカミツレだし、流石にマリネットの様子を考えるとおせっかい入れるんじゃないかとは思った。
なお本人も言ってるけど根本的な解決(マリネットの完全フリー化)にはならない一時凌ぎ。

育て屋が潰れると廃人はタマゴが作れない。
廃人が去ると育て屋は経営が成り立たなくなる。
そしてバトルサブウェイの後半敵は6V努力値ガチ振りアイテム持ちのイッシュ最強の暴力装置。
BDSPやSVみたいな猛者多数の世界線でもなければ数の暴力以外で倒せないでしょ、なお話。
クリア前アデクってN程度に負けるし、それがイッシュ最強という悲劇。
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