「ねえねえ! マリネット待ってよお!」
研究所を出た所でベルに呼び止められた。
チェレンも続いて出てきた。
そこに待ってたのはあたしの親だ。
とはいえ、流石にチェレンやベルの前でさっきの顔にはなってない。
人当たりの良さそうな「素晴らしい親の仮面」を被ってやがる。
気持ち悪いが、有害じゃないだけあたし的にはマシだ。
「いたいた! それで、博士の話はどうだったの?」
「……ポケモン図鑑の完成のために、旅に出ろって」
どうせ知ってるんだろうが。
というか、ポケモン押し付けたのもアララギとあんたの仕込みだろ。
はあ、白々しい……。
「ポケモン図鑑の完成をお願いされたんだ!?
すごーい!! とても光栄な事よそれは!
……なんてね。実は私その話は既に知ってるわ」
だろうな。
「私とアララギからのプレゼントよ素晴らしい事をしたわ」とか言ってたくらいだ。
あたしからしたら有難迷惑。
全く素晴らしくはないんだけど。
「というわけで、貴方達。このタウンマップ持っていきなさい。
トレーナーになって旅に出る貴方達に私からのプレゼントよ。
ほら、チェレンとベルもタウンマップどうぞ」
「大切に使います」
「あ、ありがとうございます!」
タウンマップを渡してきた。
……イッシュの全体地図はあたしの頭に入ってるし、使う事があるとは思わないけどな。
図鑑共々多分邪魔なだけだ。
「あ、そうそう。さっきも言ったけど、マリネットの部屋は私が綺麗に片付けておくわ。
だから、ベル達は気にしなくていいわ。
……ね? マリネット?」
「…………」
綺麗に片付ける、って言ってるが、文字通り家具全部処分するつもりなんだろう。
「マリネット、お前はもう帰ってくるな」とでも言わんばかりの言い方だ。
……分かるのはコレの本性知ってるあたしだけか。
それに、言った所で誰も信じないだろう。
「それにしてもポケモンって本当にすごいわよね!
こんなに可愛いのに、部屋を吹き飛ばすほどのとんでもないパワーを秘めてるんだもの!
そんなポケモンと一緒なのだから、どこに行くのだって安心よね!
貴方達が旅立った事、貴方達のお父さんとお母さんには私から伝えておくわ!
ポケモンだけじゃなく、イッシュ地方の素敵な所を沢山見つけて素敵な大人になりなさい!
じゃ、いってらっしゃい!!」
言うだけ言って親は去っていった。
宿無しだけは御免だ、なるべく早く寝床の確保をしたい。
最低でもカラクサタウンに行かないと……。
「タウンマップを使えば自分がどこにいるかわかる……これはうれしいね。
じゃ、1番道路に行こうか。博士が待ってる」
「あっ、待ってよお。マリネットもはやく来てね」
「いや、あたしも一緒に行くから」
別にここに未練はない。
追い出された以上、あたしもさっさと出ていくさ。
そんな事を考えてるうち、1番道路との境目についた。
「ねえチェレン、マリネット!
みんなで一緒に1番道路にふみだそうよ!」
「……必要か?」
あたし達、お手々繋いで皆で仲良く進もうなんて年じゃねえだろ。
園児じゃあるまいし……。
「必要だよお! せっかくみんな一緒にスタートするんだから!」
「マリネット、付き合ってあげよう。
ぼくも、やってみたいと少し考えていた」
「……はあ、ガキじゃねえんだけどな」
チェレンまでやりたいと思うのかよ。
仕方ねえな。
「じゃ、行くよ!」
「「「せーの!!」」」
1番道路まで歩いてきたら、少し先でアララギが待っていた。
はあ……一体次は何押し付けられるのやら。
メンドーだな、マジで。
「ああ……なんだろう、どきどきワクワクしちゃうね」
「そうだね。さ、博士が待ってる」
二人にとっては念願の冒険の第一歩だからな。
あたしにとっては面倒事祭りの第一歩のような気がするが。
「アララギ博士、お待たせしました」
「それでは、説明を始めますね!
ポケモンと出会うことでポケモン図鑑のページが自動的にうまっていきます!
そして! ポケモンを捕まえることでさらに詳しい情報が得られるようになっているの!
……ということで、わたしが実際にポケモンを捕まえてみせまーす!」
ああ……確か、潰さない程度に痛めつけてボール投げて生け捕りにしなきゃいけないんだっけか?
アララギが今から見せるのはそのデモンストレーションか。
アララギが茂みに入って……何かアララギの前に立ち塞がった。
若干遠いけど……右手を常に目の上に構えた獣……か?
「マリネット、図鑑使ってみないの?」
「ポケモンの種族とかを覚えるのが苦手だと言っていたけど、ポケモン図鑑を開けば名前を教えてくれるよ」
ベルやチェレンの言葉に従うのは癪だが……本当にそんな事出来るのかこれ?
嘘だったらこんなガラクタ押し付けやがって!
って、そこの海にでも投げ捨ててやる。
『アララギ博士が繰り出しているポケモン……チラーミィ。
対峙している野生ポケモン……ミネズミ』
「ふーん……」
チラーミィ、ミネズミ、ねえ。
……ああそうだ、ポークに向けたらどうなるんだこれ?
『ポカブ……ニックネーム「ポーク」。貴方の手持ちポケモンです』
「…………」
……ガラクタ扱いは撤回してもいいか?
どうせなら敵の特徴とかまで分かると良いんだけど。
「体力を減らしてからモンスターボールを使うの!」
そう言えばアララギが何か言ってたわ。
全く見てなかったな、まあいいや。
親に嫌になるほど教育番組を見せられ、何回も何回も講義されたからな。
『まずはクイックボールが無い場合!
野生ポケモンは痛めつけてからボールを投げなさい!
しつこく抵抗するなら麻痺させるなり眠らせるなりしてから投げるのよ!
ボールにも質の違いがあるから使い分けなさい!
その辺の小物なら大抵クイックボール一発でいけるけど、クイックボールに抵抗してくるような悪い子は徹底的に痛めつけてから夜にダークボール使えばOKよ!
朝から夜まで徹底的に甚振れば大体の野生ポケモンは抵抗する力も無いでしょうけどね!』
……どう考えてもろくでもない講義だったが、必然的に活用する事になりそうだな。腹立たしい。
「今の見てくれた?
ポイントを解説すると、まずポケモンの体力を減らすこと!
元気なポケモンは捕まえにくいのよね。
できれば、自分のポケモンの技で捕まえたいポケモンをねむらせたりまひさせるといいわ!
それでは、きみたちにモンスターボールもプレゼント!」
ポークが入ってるのと同じような赤いボールを5個渡された。
中に何も入ってないのか?
「そのモンスターボールは、ポケモンを捕まえたり捕まえたポケモンを連れて運ぶための道具なの!
では、わたしはこの先カラクサタウンで待ってまーす!」
言うだけ言ってアララギはスタスタ先に進んでしまった。
モンスターボール、ねえ……。
ポークだけじゃ足りない、数の暴力こそ力だ!
って考えもあるから、駒を増やすのは悪くないのか?
「ちなみに、ポケモンが飛び出してくるのは草むらさ。
じゃ、ぼくもカラクサタウンに向かうよ」
「うん賛成! それに隣町まで行かないとモンスターボールも買えないし」
「宿の確保しておきたいな……あたしもさっさと行くか」
とっととカラクサタウンまで向かうとするかね。
「……ちょっと待って! ねえねえマリネット、チェレン。
あたしいいこと思いついたんだけど」
「どうせろくでもない思い付きだろ? あたしはパス」
「さあ行こうか、博士も待っているだろうし」
ベルの思い付きがまともだった例がない。
あたしは面倒事は大嫌いなんだよ。
「ちゃんときいてよ! なんなのよお、もう!
どれだけポケモンを捕まえたか、みんなで競争しようよ?
アララギ博士からもらったポケモンもふくめて、たくさんポケモンを連れている人が勝ち、ね!」
「なるほどね、そういうことならおもしろいな」
「……ベルの思い付きにしてはまともだな」
どうせやらされるなら、手持ちの駒は増やしておきたい。
数の暴力は正義……のはず。
けど、ポケモン勝負って「最強のエース」は数の暴力すら捻じ伏せるって言ってたような……。
あまりに嫌すぎて記憶が曖昧だ。
「図鑑のページも埋まるから博士も喜ぶだろうし。
そうだね、それではカラクサタウンに着くまで勝負してみようか」
「あたしとツタージャのコンビが一番に決まってるもん!」
チェレンとベルは1番道路の草むらに向かっていった。
……あたしは……どうする?
ポークを戦わせて育てるか、それとも駒を増やすか。
両方やろうとして欲張ると、多分ポークがやられるよな?
とりあえずは……。
「抜ける事優先で行くか……」
少なくともあの親がのうのうと帰ってきたあたしを家に入れるとは思えない。
……が、チェレンが使ってたような薬は手元に無い。
下手に戦い続けるとポークが敵の数の暴力に押し負けてやられる可能性があるよな?
二人に負けるのは癪だが、安全な拠点を手に入れるまで無茶は出来ない。
そのカラクサタウンにだって、いつまで居られるか分からねえし。
あまり滞在してたらチェレンやベルに引っ張っていかれるか、誰かがやって来てあたしにさっさと次の町に行けと命令してくるか……。
「ギュッ、ギュギュッ!」
「しまった、考え事してたら敵が……!」
考え事しながら歩いてたら、いつの間にか草むらに突っ込んでいたらしい。
仕方ない!
「ポーク、やれ!」
「ブゥ!」
繰り出したポークがすぐにミネズミにタックルを仕掛けた。
……が、ミネズミは倒れない。
攻撃を終えて隙が出来たポークに反撃のタックルを仕掛けてきた。
ふっ飛ばされたポークは敵が倒せてなかった事に気付き、すぐに戦闘態勢に戻る。
「仕留めろ!」
「ブゥ!」
二発目のタックルを叩き込むと、ミネズミはダウンしてそのまま小さくなり、慌てて逃げ去っていった。
……ポークの勝ち、か。
のんびり考え事しながら歩くのも危険って事かよ……。
覚えておかないと……。
「あなたのポケモンさん、体力はばっちりかしら?」
警戒しながら歩いてたら、突然女性に声をかけられた。
……ポークはまだ問題ない、筈だ。多分。
「道路の真ん中でポケモンさんの体力が減ると大変だから、これをあげる。
あなたのバッグに入れておいてね!」
「は、はあ……どうも」
なんか分からないけど、チェレンが使ってたような薬を渡された。
……支援物資って事で良いのか?
「ポケモンさんの体力が減ると戦う元気がなくなっちゃうから、ムリせずこまめにポケモンさんを休ませてね」
「……気をつけるよ、忠告どうも」
戦えなくなった状態なんてトレーナー、野生ポケモン問わず完全にカモにされるだろうし、気をつけないといけないな……。
……っと、不味い。
考え事しながら歩くのは危険だな。
「ワンワン!」
「っ! 敵!」
案の定か!
今度はさっきの奴とは違う……犬か!?
「ポーク、やれ!」
「ブゥッ!!」
「ワンッ……!?」
攻撃を指示した時にポークが使ったのはタックルじゃなかった。
ポークは突然大量の火の粉を犬目掛けて吹きつけた!
……なんだその攻撃!?
そんなのあったならベルとの戦いの時から使えよ!
「ワンッ……ワンッ……」
「しかも……滅茶苦茶効いてる!? タックルよりずっと強いのか今の!?」
なんにしろ、これはチャンスだ!
駒の数が多いに越したことはない!
これだけ弱ってるなら!
「生け捕りにしてやる!」
モンスターボールを叩きつけ、捕獲を試みる。
これだけ弱ってるなら行ける筈!
「当たって……後は……」
地面に落ちたモンスターボールが揺れる。
抵抗が激しいと破壊されるらしいが、どうなるか。
破壊された時に備えてポークにはいつでも攻撃出来るように待機させておく。
『カチッ』
ボールの動きが完全に止まった。
犬が中から出てくる気配はない。
「……捕まえられた、のか?」
「ブゥ!」
ポークが「そうだぞ!」とでも言うように鳴き声を上げる。
……これが、捕獲する感覚…………。