マリネットが1番道路、3番道路での修行に励んでいるちょうどその頃。
いつまでもマリネットが来ないことに疑問を抱きつつも、橋を下ろしてもらって先に進んだチェレン。
ベルも合流したため、2人でホドモエシティに足を踏み入れた。
そしてすぐにジムリーダーのヤーコンと出会う……のだが……。
「フン! お前らがカミツレの話していたトレーナーか。
ワシがこの街のジムリーダー、ヤーコンだ!
歓迎なんかしないぞ。なにしろ橋を下ろしたせいで、捕えていた強盗達が街中に逃げてしまったからな!!」
いきなり何だこの言いがかりは。
誰であってもそう言いたくなるような言いがかりをつけつつ、ヤーコンがチェレンとベルの前に現れた。
「……メンドーだな。橋を下ろしてくれて感謝してますけど、それとは無関係ですよね?」
「チェ、チェレン! ジムリーダー相手にそんな事言っちゃ駄目だよお!」
「事実だ、ベル。マリネットでも同じことを言うだろう。
橋を下ろしたから強盗が逃げた? でたらめもいい所では?
ぼくですら呆れてるんだ。マリネットならもっと怒ってると思うよ」
「でも……」
チェレンの言い分は正しい。
どう考えても滅茶苦茶な理由なのだ。
橋を下ろしたせいで強盗が逃げた。
どんな適当な管理をしていればそうなってしまうのか。
だがヤーコンは聞く耳を持たない。
「なんとでも言え。大事なのはお前達が来た……。
そして強盗が街中に逃げて行ったという事だ。
自分でも強引だと思うが、お前らも強盗を探せ。凄腕のトレーナーなんだろ?」
それだけ言うと去っていくヤーコン。
「……お前ら、ね。行くよ、ベル」
「……えっ、あたしも!? チェレンだけじゃないの!?」
「……ベル、マリネットが居ない以上、ぼくとベルで解決するしかないんだよ」
自分が巻き込まれている自覚が無いベルと呆れるチェレン。
ここにはこれまでベルの代わりに戦いを任せる事が出来たマリネットは居ないのだ。
ベル自身が戦うしかない。
去り際、ヤーコンが振り向いて続ける。
「そうだな……強盗を見つけ出したらジムで挑戦を受けてやるぞ!
人生はギブアンドテイク!」
ヤーコンの言葉はもはや暴論である。
勝手に言いがかりをつけた挙句これなのだ。
ギブアンドテイクも何も、一方的に言いがかりをつけて従わせ、働かせた報酬が己のジムへの挑戦の権利なのだから。
ここにマリネットが居なかったことがどれだけ幸いだっただろうか。
マリネットであれば、怒りを抑えることなく叩きつけていただろう。
それでも結局ヤーコンの方が強い以上力で従わせられるのだから、救えないが……。
「わかりました、言われなくても強盗は探しますよ。
メンドーな連中を倒しつつ強くなれるからね……。
ベル! ぼくは先に行く」
チェレンの行動は早かった。
さっさと強盗を倒し、ホドモエジムに挑戦する。
そのつもりだったのだ。
彼はすぐさま動き出す。
「ええっ、待ってよおチェレン!」
そしてその後を追いかけるベル。
2人はまだ知らない。
その『強盗』がゲーチスの仕組んだ、2人を確実に倒すための罠だということを。
「強盗を探すって……どうするのお?」
「とにかく手掛かりを探さなければ始まらないだろ?
ベル、きみも戦ってもらうかもしれない、覚悟はしておいて」
「うう……でもお……マリネットの方が頼りになるし強いのに……」
「この場にぼくときみ以外に誰がいるんだい? マリネットはいないんだよ?
ライブキャスターも繋がらない以上、マリネットを連れてくるのは諦めるべきだ」
ベルは偶然必然問わず、ここまでの事件の解決をマリネットに丸投げしてきた。
自分達を狙ってきた強盗を相手にしてもマリネットに助けを乞い、己は戦わなかった。
子供のポケモンを奪い返す役目はチェレンの言葉もあったがマリネットに任せ、結局戦わなかった。
ヒウンシティでは強盗に襲われ、自分もポケモンを奪われた。
何かある度に自分やジムリーダーが動かし、都合よく戦わせてきたマリネットはここに居ない。
それどころか……困ったときに味方になってくれたジムリーダーのアーティやアイリス。
2人と違い、ヤーコンは明らかに非協力的なのだ。
ヤーコンが助けてくれることは無いだろう。
今のベルにとって……頼れる仲間はチェレンだけ。
お気楽なベルに自覚は無かったが、ベルを取り巻くのはそんな状況であった。
「……標的を確認しました。いつ仕掛けますか?」
「しばらく泳がせておけ。どうせ俺達を捕まえなければあいつらはこの街を出られないんだ」
「馬鹿な奴らだよなあ。ヤーコンの奴は俺達が簡単に倒せる程度の強盗だと思ってやがる」
「ほとんどの奴はヤーコンの予想通り、弱いポケモンしか持ってねえよ。けどな……」
「クククク……通販で買ったって言うこのヒヒダルマ……その圧倒的なパワー……。
ああ、早くあのガキ共を叩き潰してえなあ……ポケモン奪いてえなあ……。
まあポケモン奪う寸前で制服着た奴に止められて倒される役目だから奪えはしないけどさ」
ゲーチスから非常に強力なヒヒダルマを渡され、コントロールするためのジムバッジを所持した強盗プラズマ団。
獲物を倒せる時を今か今かと待ち望んでいた。
そのボールの中では、明らかに場違いなポケモン……ヒヒダルマが獲物を求めて気合をためている。
「ヤーコンに仲間が何人か捕まったときはあいつは隠れたまま。
救出用の部隊共々表には出さなかった。
だから『ガキ共でも倒せる相手』なんてヤーコンは思ったんだろうな。
さーて、俺達も準備しようぜ。ガキ2人の歓迎パーティーだ」
そして、チェレンやベルが踏み込んだことでプラズマ団の強盗部隊が動き出す。
ヤーコンに捕まったのはわざと。
タイミングを合わせて監視者のふりをした仲間によって脱走させ、再び合流する。
こうすればヤーコンは確実にチェレンやベルを事件に巻き込ませる。
マリネットが居ないのは残念だったが、ゲーチスからはあの2人を狙うのが目的だと聞いている。
圧倒的な暴力で、2人を叩き潰して絶望させる。
そしてポケモンを奪う寸前でプラズマ団に助けに入らせるマッチポンプ作戦。
プラズマ団の計画のカウントダウンは、静かに進んでいた……。
マジでこの暴論なによ。
原作そのままなのよこのヤーコン……。