選択権無しのマリネット   作:ルスト

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圧倒的な暴力

 ヤーコンから強盗を探せと強制されたチェレンとベル。

 2人は強盗を探そうとするが、全く成果は上がらない。

 それもそのはず。強盗達、もといプラズマ団の特殊部隊は全て一般トレーナーの姿をしているため、現地で遭遇してそのまま現地で討伐して捕縛するパターン以外で見つける事が極めて困難なのだ。

 故に、闇雲に探し回っても全く見つけられる様子はない。

 

 

 

「……見つからないな」

「見つからないねえ」

「そもそも、強盗達の特徴が毎回違うんじゃないのか?

 ベル、きみが見た強盗は……」

「OLとビジネスマン、だった……。チェレンは? あの時マリネットと追いかけて行ったよね」

「信じてくれるかは分からないが、全員ポケモンレンジャーだった」

「ポケモンレンジャーって、あの自然と共に生きるポケモンレンジャー?

 そんな人たちが強盗をしてるの?」

 

 ここで、チェレンは1つの可能性に思い当たった。

 

「……まさか、一般トレーナーに変装しているのか?

 そうだとすると、何処に隠れているか以前に見つけることすら……」

「ええ! そんなのどうやって捕まえたらいいの!?」

 

 捜索は暗礁に乗り上げる事になってしまった。

 強要された結果何回も戦わされていたマリネットならともかく、チェレンとベルには強盗達と戦う経験が少なすぎたのだ。

 

「ひとまず、情報を集めていくしかないだろう。

 強盗事件があった場所、怪しそうな人が集まりそうな場所、それらを回っていくしか無いな」

「手がかりなしで探してこいって……こんな時マリネットが居たら……」

「ベル。マリネットに任せるのは悪い癖だよ。

 ぼくもベルも、戦えるんだってことを示してやらないと」

「チェレンは強いトレーナーになりたいから良いんだろうけど……」

 

 どうしても消極的なベル。

 以前強盗にポケモンを奪われた事もあり、強盗を探せと言われる事に不安のほうが強いのは仕方ないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々を見つける以前の問題とは……。

 事件解決をマリネットという小娘に押し付けていたというのは本当のようだな」

「どうします? わざと襲撃しますか?」

「いや、今日のところは泳がせておく。

 明日に軽いヒントを渡しても駄目なら、明後日に誰かが強盗に襲われたと言って誘導する、という流れで行こう」

「ヤーコンも我々の姿のヒントくらい出してやれば良いものを……」

「着替えたら終わりだし言うだけ無駄だろう? ま、見つけられるようにしばらく姿は変えないんだろ?」

 

 そんな2人の様子を見ていた変装プラズマ団、もとい強盗達。

 潜入用の作業員も混ざっているが、OLとビジネスマン風の団員が主体だった。

 この日、チェレンとベルは何の手掛かりも得る事が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結局昨日は見つからなかったね」

「すぐに手掛かりが見つかるとは思ってないさ。聞き込みをしながら事件現場や隠れられそうな場所を探そう」

 

 翌日。

 チェレンとベルは再びホドモエシティの街中を捜索していた。

 ヤーコンにはあの後会う事も出来ず、探さなければいけない相手の情報などは何も把握できていないままだった。

 今日も手掛かりなしのまま人通りの少ない場所などを回っている。

 

 

 

「おたくら昨日も居なかったかい? 大変だねえ」

 

 そこに声をかけてきた1人の男性。

 作業員の姿をしているが、強盗……それもヒヒダルマ担当の最高戦力であった。

 チェレンとベルを叩き潰す前に顔を見に来たのだ。

 最も、今日は手を出すつもりはないのだが。

 

「……ヤーコンさんから強盗を探して来いって言われたんですけど、手掛かり1つなくて……」

「すみません、事件について何か知らないですか?」

 

 まさか目の前の相手が探している強盗だとは思ってもおらず、強盗本人に強盗事件の事を尋ねるチェレンとベル。

 

 

 

「うーん、そうだねえ……ああ、君らが来る前の事件で捕まった奴らの姿なら俺見ていたぜ。

 皆OLやビジネスマンだったな。

 ヤーコンさんは『ポケモンを奪い取る専門なんてとんでもねえ悪徳会社があったもんだな』って言ってたけどさ。

 あいつら名刺なんて持ってねえんだ。恰好はOLやビジネスマンなのにな。変な話だろ?」

「OLやビジネスマン……ベルの話していた特徴と一致するね」

「じゃあ、その姿の人達が集まってる所が当たりって事?」

 

 なんでこんな事教えてやらなきゃいけないんだか。

 内心そう思いつつも、強盗は平然と2人の様子を見ていた。

 

(ゲーチス様の見立て通り、弱いな。

 これなら、ヒヒダルマでボコボコに出来る。

 明日が楽しみだな)

「よし、OLやビジネスマンを探すぞ。貴重な情報、ありがとうございました」

「見つかるといいね、チェレン。あ、ありがとうございました!」

「おう、見つかると良いな」

 

 チェレンとベルは走り去っていった。

 その姿を見送りつつ、強盗は笑みを浮かべる。

 

「その時がお前らが絶望するときだってのによ……。

 ヤーコンもお前らも馬鹿だよねえ。

 明日が楽しみだぜ」

 

 

 

 

 

 

 その日の晩、強盗達は誘い込むための段取りを決め、実行に備える。

 チェレンとベルはこの日も強盗達を見つけられなかったため、自分達の方から誘い込むことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。再び街に出たチェレンとベルの所に、駆け寄ってくる女性が。

 チェレンとベルに助けを求めてきたその人間は、激しい攻撃でも受けたのか全身ボロボロだった。 

 

「た、助けて! 強盗が! 私のポケモンが!」

「! どこですか!?」

「えっ! 強盗が!?」

 

 駆け寄ってきた人の見た目と強盗が! という言葉は、2人を信じさせるには十分だった。

 ベルも子供の事を思い出したのか助けようという決意を固めたらしく、昨日までの消極的な態度は見せなかった。

 

 

 

「あっち! あっちの……冷凍コンテナがあるコンテナエリア……!

 そこで、強盗に襲われて私のポケモンが……奪われた……。

 私も……ううっ……」

「分かりました。強盗は必ずぼくたちが。行こう、ベル!」

「うん! 奪われたから分かる……。こんなの許せないよ!

 私も戦う!」

 

 

 

 駆けていく2人を見送る被害者。

 2人を見送った後、蹲ったように見えるが、実際は笑いをこらえていた。

 

「まさか本当にこんなやり方で引っかかるなんて……。

 しかもジムリーダーに報告すらしないなんて……ねえ。

 ヤーコンは信用できないだろうけど、それでも貴方達よりずっと強いのに。

 ま、これも計画通りね」

 

 新しい強盗事件なんてでっち上げだったのだ。

 この痛々しい女性含め、すべてチェレンとベルを呼び出すための策。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きみたちか。3日も潰してくれたんだ、全員倒してやるよ。

 お姉さんのポケモンも返してもらう」

「わ、私だって戦うんだから! 無理矢理ポケモンを奪うなんて許せない!」

「おいおい、せっかく逃げたのにまた来たぜ?」

「どうするの? 船はまだ来ないわよ!」

「参ったな……逃げ場がないし、戦うしかないよな」

 

 チェレンとベルは強盗をあっさりと追い詰める事が出来た。 

 左右はコンテナ、背後は海。強盗達に逃げ場はない。

 

「仕方ないから抵抗してやるぜ! ミルホッグ!」

「行きなさい、メグロコ!」

「ベル、倒すよ! 行け、レパルダス!」

「う、うん! お願いハーデリア!」

 

 強盗達と戦闘を始めるチェレン、ベル。

 今戦っている相手との比較なら、確かにヤーコンの見立ては間違っていない。

 チェレンもベルも負けるわけがない。

 

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な……我々が……」

「くっ、流石に強いな……」

「不味いわよ! どうするのこの状況!」

「悪いけど大人しく捕まってよ。この状況で逆転できると思ってる?」

 

 2対3だったが、その状況は変わらなかった。

 このままいけば無事に捕まえる事が出来、事件解決となるだろう。

 

 

 

 

 

 

「おいおい、随分楽しそうな事やってんなあ?

 俺も混ぜろよ」

「えっ、昨日の……」

「作業員さん……?」

 

 だが、ここで終わらない。

 プラズマ団の策略はむしろここからが本番だった。

 昨日チェレンとベルの前に現れた作業員が、何故かプラズマ団を庇うように立ち塞がる。

 

「た、頼む、助けてくれ!」

「この子供達かなり強いの! このままじゃ逃げられないわ!」

「なっ、まさかあなたも強盗の仲間だったのか……!?」

「そんな、私達強盗が目の前に居たのに気づかなかったの……?」

「そう言う事だぜ。残念だったなあ、こいつらをどうにかしたいなら、俺を倒していきな。

 ……出来るわけないだろうけどなあ!」

 

 何故か自信満々の作業員強盗。

 しかし、チェレンとベルはここで引かない。

 

「そっち側だって言うなら、倒すだけですよ」

「そ、そうだよ! ポケモンを無理やり奪う人なんて、私許せない!」

「おうおう勇ましいねえ……。じゃあ、分かりやすくバトルで決着付けようぜ!

 ヒヒダルマ! 存分にやっちまいな!」

「ぼくが相手だ! 頼むよレパルダス!」

 

 

 

 そして、ポケモン勝負とは名ばかりの蹂躙が始まった。

 

 

 

 

「ヒヒダルマ!『フレアドライブ』!」

「ヒヒダルマ! 相性なんかどうにでもなるだろ!?『フレアドライブ』だ!」

「ヒヒダルマ!『フレアドライブ』でその赤い猿消し炭にしちまいなあ!」

 

 圧倒的な暴力。

 ヤグルマの森でマリネットが晒されかけたそれよりもはるかに強烈な暴力がチェレンのポケモンを抵抗の余地なく倒していく。

 タイプ相性も学んだ知識も経験も何も機能しない、純粋かつ圧倒的な『暴力』だった。

 

「……な、嘘だ……ぼくは、悪い夢でも見ているのか……?」

「チェ、チェレンが手も足も出ないなんて……!」

「おいおい呆気ねえなあ! ヤーコン様は俺も含めて強盗を倒して来いって言ったんじゃねえのか?

 こんな雑魚連れて来たって俺は倒せねえぜ!

 凄腕のトレーナーだか何だか知らねえけど、こんな雑魚連れてこられても対策にもなんねえなあ!」

 

 蹂躙劇がチェレンとベルの冷静さと余裕を全て奪い去っていく。

 追い詰めたはずの強盗達はいつの間にか逃げ去り、作業員姿の強盗が圧倒的な暴力を振りかざしてチェレンとベルを追い詰めるだけの構図となっていた。

 

「……最後まで諦めない! ハトーボー!」

「泣かせるねえ! ギブアップは僕のプライドが許さないってか!?

 でも終わりなんだよ!『フレアドライブ』!」

「終わってない!『みきり』だ!」

 

 反射的にみきりでフレアドライブを防いだのはチェレンの才能と言えよう。

 しかし、シングルバトルの上に相手のフレアドライブのPPは潤沢。

 みきりで防いだところで何も変わらない。

 

「まだだ!『でんこうせっか』!」

「頑張るねえ! まあ無駄だけどな!『フレアドライブ』!」

 

 そして、ハトーボーはヒヒダルマに焼き尽くされ、チェレンは敗北した。

 

 

 

「嘘だ……ぼくの力が……学んだことが……通じない……」

「チェ、チェレン……!」

「次は嬢ちゃんだなあ。ヒヒダルマで丸焼きだ。

 ほーら、生贄出せよ」

 

 次はお前だ、とばかりにベルを指さす作業員強盗。

 チェレンはもう戦えない。

 マリネットも居ない。

 ……戦えるのは、ベルしかいない。

 

 

 

「……お願い、ハーデリア」

「主人を守るための捨て駒ってわけか。泣けるねえ。

 威嚇があろうが! 耐えられる可能性は0だけどな!『フレアドライブ』!」

 

 圧倒的な暴力がベルを襲う。

 ハーデリアは一撃で吹き飛ばされ、全く動かない。

 だが……。

 

 

 

「おいおい、ヒヒダルマ? 倒れるには速いぞ?」

 

 フレアドライブ。

 その凄まじい威力と引き換えに、倒した相手に与えたダメージに応じて自分の体も傷ついていく。

 この作業員強盗は先程からずっとその攻撃しか使っていない。

 つまり、ヒヒダルマの限界は近かった。

 

「……ベル! なんとか耐えるんだ!

 そうすれば、あのヒヒダルマは体力が尽きる!

 それがぼくたちの唯一の勝ち筋だ!」

「耐えるって、どうやって!?」

「全滅さえしなければいい!

 あのヒヒダルマが自滅した時に1匹でもポケモンが残ってれば、ぼくたちの勝ちだ!」

 

 ヒヒダルマの自滅。

 この段階で2人が取れる作戦はそれしか無かった。

 それが何を意味するか分からないベルではない。

 自分の残りのポケモンを、特に体力の高いジャノビーとムンナを、あのヒヒダルマへの生贄に捧げて自滅させる。

 それはつまり、自分のポケモンを勝つための犠牲にするという事。

 そして、それしか勝ち目がないという事。

 ベルは涙を堪えて、生贄を差し出す。

 

「っ! ごめんねジャノビー!」

「無駄無駄無駄!『フレアドライブ』!」

 

 ジャノビーの体力が、そのままヒヒダルマへのダメージを与えるカギとなる。

 ヒヒダルマの体力はさらに削れ、もう立っているのがやっとに近い状態となっていた。

 

「……ごめんね! ムンちゃん!」

「『フレアドライブ』だあっ!」

 

 そして……チェレンの狙いが決まった。

 

 

 

「ダルマァ……」

「おいおいマジかよ……ヒヒダルマがやられたんだけど」

「や、やった……!?」

「よし……!」

 

 ヒヒダルマはついに力尽きた。

 唖然とする作業員強盗。

 ベルとチェレンの粘り勝ち。そう見える光景だった。

 希望を取り戻したベルとチェレン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ま、ヒヒダルマはもう1匹いるんだけどなあ」

「なっ……」

「そんな……」

 

 しかし、その希望はあっけなく砕け散った。

 作業員強盗が次のヒヒダルマを出してきたのだから。

 ここまでに7匹のポケモンがヒヒダルマに吹き飛ばされた。

 残されたポケモンは、ベルのヒヤップのみ。

 初めから、勝ち目なんて用意されていなかった。




ここにもしアヤと出会わなかった世界線のマリネットが居たとしてもヒヒダルマBのHPがちょっと減る程度の差しか無かったりする。
その場合プルリル持ってないし、チェレンより少し強いくらいのレベルのすなかきムーランドとチャオブーとムンナなので。
結論:どう足掻いても絶望。
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