翌日。あたしとアヤさんは小屋の外でポケモン勝負をしていた。
アヤさんが使うのはあたしのポケモンのレベルに合わせたタブンネ。
あたしの希望で、アヤ達が当時回していた時のような一方的に倒されるサンドバッグにはならないようにしてある。
「マリネットさん、やっぱり筋が良いわね……。
普通に戦っても押し切られちゃったわ。
タブンネ達には『かいりき』『めざめるパワー』を覚えさせて希望通り普通に戦えるようにしたけど、正面から押し切られちゃうなんてね」
「特訓の成果、出てるのかな?」
「かもしれないわね、それに……」
「ハーデリアとチャオブーが……!」
進化の光だ。
ついに、2匹が……。
「ムーランドとエンブオーね。おめでとう、マリネットさん。
ここに来た直後よりかなり強くなったんじゃないかしら」
「ああ、アヤさんが色々教えてくれたから……」
これなら……いや、まだ足りない。
アスラの出してきた猿は、今のムーランドやエンブオーよりまだ強いはずだ。
「次の勝負、始める?」
「ああ。何回でも戦って、経験を積みたい」
「オッケー、準備するわね」
てきぱきとタブンネを回復させるアヤさん。
相当手馴れてるんだなってのが分かる。
「仲間同士で何年もお互いにタブンネ使い回して経験値稼ぎやってきたからね。
この訓練に必要な物は今でも割と残ってたわ」
「……でも、滅茶苦茶金かかるんじゃないか、これ?」
色々な回復アイテムが湯水のように使われている。
ポケモンセンターも無いから、相当な出費になるはずだ。
「ポケモンセンターが近くに無いから、それがネックよね。
まあこればかりは仕方ないわ。
けど、ポケモンセンターの傍でやるとそれもそれでね……」
「何かあるのか?」
無料で回復してくれるし、良いんじゃないのか?
「1日に何回も瀕死のタブンネを大量に抱えてポケモンセンターに運び込むことになるのよ。
怪しまれると思うし、流石に心配されるわ。
このトレーナー、もしかして何か酷い事されてるんじゃないか? って感じで。
……実際何度か、貴方達一体何してるの? って聞かれたことがあるし」
「聞かれるんだ……」
まあ、アヤさんの言っていたような状況から考えると、傍から見れば4人のトレーナーが一方的にタブンネを使ってるトレーナーを攻撃して倒しまくってるだけだもんな……。
あたしは流石に気が引けて勝負できるようにしてくれって頼んだけど。
「そういう時に限って警察も仕事するのよ。
仲間内で決めたトレーニングなんですって説明しても虐めてるんじゃないかって聞いてくれなかったし。
途中からは毎回タブンネ担当を一巡するように回して誤魔化したわ。
ここでやる場合はその辺の心配は必要ないけど、ポケモンセンターが無いから休ませるか薬ですぐに動けるようにするしかないのよね」
「……この訓練やるのも色々大変なんだな」
薬代がバカにならないのはあたしでも察する事が出来る。
かと言って回復するまで休ませると戦える回数が減る。
……にも関わらず、薬ガンガン使ってくれてるんだよな。
「まあ、わざわざここまで挑みに来るような凄腕の人も居なかったし薬は余ってたの。
けどどこかに遠出するときに持って行くには多すぎる量だし、使えるなら使わないとね」
「それなら良いんだけど……」
でも一方的に貰ってばっかりなんだよな。
あたし何も返せないぞ?
「気にしなくていいわ、この環境自体が私にとって報酬みたいなものよ。
いつか、どこか遠くの地方で新人トレーナーを育てるスクールの先生やろうかなって考えてるんだけど……。
ああいうスクールって先生1人、生徒多数だから慣れるまでは細かいことに手が回らなくなりそうなのよね。
だから、こういう形で予習できるのは助かる事なのよ」
「アヤさん、スクールの先生目指してるのか?」
「ええ。今各地でやってるようなトレーナーズスクールよりも、もっと高度で実戦的な内容を含めて教えていければなって思うの。
まあ現実はそう甘くないかもしれないけど」
……アヤさん向いてると思うけどな。
少なくともあたしの親やアララギみたいに「これはこうなの!」って雰囲気出してないし。
「どうもスクールって、ポケモンリーグとの繋がりとか研究者グループとの繋がりとか色々面倒な繋がりがあるみたいなのよね。
だから、あまり踏み込んだ内容は教えちゃいけないって決まりみたいなものもあるのよ。
見せてもらった指導マニュアルの中に禁止事項があったけど、マリネットさんに教えた内容も一部入ってたわ。
……マリネットさんに教えたような『能力の鍛え方』なんかはその代表。
もしスクールの子供達に教えた結果、手当たり次第に特定の野生ポケモンだけを狩りまくられたら困るから話しちゃいけない、みたいに書かれていたもの。
教えるとしても、鍛え方の詳細……特定の野生ポケモンだけを大量に倒しまくる事だけは絶対に教えちゃいけないみたいね」
「……まあ、何十人も大挙してバスラオ狩りや1番道路での狩りをされたら向こうとしては困るよな……」
考えるまでもなく察せた。
20人くらいで3番道路の池を占領して手当たり次第にバスラオを倒しまくる集団とか、それこそ昨日の事件みたいに問題になるだろうし。
1番道路の草むらにしても大変なことになりそうだ。
「他にも、生まれ持った強さの差についてあまり詳しく教えてはいけない、みたいなのもあるわね。
個体差……なんていうけれど、実際は極端に優れたポケモンや劣ったポケモンも存在するわ。
人によっては大切なパートナーと言ってた筈のポケモンですら個体として弱いなら捨ててしまいかねないから、みたいだけど」
「なんていうか、大変なんだな……」
スクールの事とか全く考えたことも無かった。
そっちもそっちでややこしいんだな……。
「どうも、良い子として育ってほしいというのを優先してるみたいで、強いかどうかは二の次みたいなのよね。
素直に人の話を聞ける子になるように教育しましょう、積極的に人助けする子になるように育てましょう、みたいなのもあったわ」
「……誰が作ってるんだ、そう言うのって?」
「詳しくは分からないけど……。
やっぱり、ポケモンリーグと研究者グループとトレーナーズスクールのトップの合同で作ってるのかしらね」
「チャンピオンになれば、既存のルール全部ぶっ壊せないかな」
……あたしがトップに立って既存の政治を力でぶっ壊したら、変えられたりしないかな?
向上心があるならどんどん伸びるべきだし、都合よく人に使われるあたしみたいな立場の人間を今後出さないようにも出来るんじゃないか……?
それにアヤさんだってちゃんと教えられるように……。
「マリネットさん、流石にそれは1人じゃ無理よ。
現チャンピオンのアデクだって、何でもかんでも自分の思い通りにやれてるわけじゃないもの」
「そっか……良い案だと思ったんだけどな」
「マリネットさん……チャンピオンになったらクーデターでも起こすつもり?
力で強引に政治を奪うなんて、言いなりになって動いてくれるような人が沢山居ないと不可能よ」
そこまで甘くないのか……。
「……さて、タブンネの回復は終わったわ。
マリネットさん、今はとにかく自分の力をつける事を考えましょう」
「ああ。続き、頼むよ」
「ええ、こっちも少しずつ強いタブンネに変えていくわ。
頑張ってね」
今は変なことは考えない方が良いな。
とにかく経験を積まないと。