選択権無しのマリネット   作:ルスト

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それぞれの動き

(あの程度の強盗相手になら、負けることは無いと思ったんだが……まさかこんな隠し球があったとはな……)

 

 ホドモエジムの中で、ヤーコンは次の手を考えていた。

 事の発端はチェレンとベルに強盗を見つけろと依頼した事だった。

 ヤーコンが捕らえていた強盗達は大した事ない相手だった。

 それこそ、バッジ4個持ちのチェレンであれば問題なく倒せる相手の筈だったのだ。

 ならば、捕縛させるついでに鍛える事にも繋がるだろう。

 ヤーコンからすれば手が空き、チェレンやベルからすれば悪人を捕まえて各報道で讃えられ、名声も得られる上ポケモンを鍛える事にも繋がる。

 その筈だった。

 

(よりによって、オレさま以前に新人トレーナーを事件解決に使ったアロエとアーティまで突き上げを食らってしまうとはな。

 オレさまに関してはあいつらに丸投げした上で保険もかけなかった以上、弁解の余地もないとはいえ……)

 

 実際の結果はどうだ。

 チェレンとベルは大敗し、プラズマ団に救助された。

 その上、同じようにマリネットというトレーナーを使い走りにしたアロエ、アーティの行動に関しても批判が集まっている。

 

(特に批判が集まってるのはマリネット関連だ。

 今回オレさまが協力させたチェレンは、少なくとも自発的に協力する意思があった。

 だからか、自業自得みたいに言われてる側面もある。

 けど、このマリネットってやつは違う。

 アーティの奴、事情が事情だけに仕方ないが、文字通り強引に従わせて戦わせやがった。

 アイリスに関しちゃ年齢や被害者が友達だったって事で擁護の余地はあるが……)

 

 美談のように扱われていたヒウンシティの強盗事件の解決。

 しかし、その実態がアーティ、アイリス両名による一般トレーナーへの強制的な命令だとなると話は変わる。

 見方によっては、ジムリーダーが力と権力で従わせていたように見えるからだ。

 そして、実際マリネットはそうして従わされていた。

 その上戦いの後にはお礼もなく、精神面のケアもされずに放置。

 この事実が広く知れ渡ると、ジムリーダーに対する信頼すら揺らぎかねない。

 

(いずれにしろ不味い事になったな……なんとしても、強盗を全員捕らえなくては……)

 

 緊急事態だったとは言え一般トレーナーを己の立場と力で強制的に従わせたジムリーダー達。

 その行動は、ジムリーダー及びイッシュリーグの信頼を大きく揺らがせる結果となってしまったのだった。

 

ーーーー

 

 

 

「チェレン! ベル! 大丈夫だった!?」

 

 アララギはすぐさまホドモエシティに飛んだ。

 己が図鑑を与え、推薦したトレーナーがまさかこんな事になるとは思ってもいなかった。

 マリネットの話は聞いていた。

 非協力的ではあるが、ジムリーダー達やベルが強引に押し切って戦わせて来たと。

 マリネットの母が話していた通り、強引に押し切ればマリネットは正義のために戦ってくれた。

 ホドモエシティで事件が起きていると聞いたとき、真っ先に考えたのがライモンジムを突破したであろうマリネットを送り出すことだった。

 3人の中で一番強いのは明らかだったからだ。

 しかし、そのマリネットはしばらく連絡すらつかない。

 とは言え、チェレンとベルだって素敵なトレーナーなのだ。

 負けるなんて何かの冗談だと思いたかった。

 ……ネットに上がった動画を見るまでは。

 

「アララギ博士……アララギ博士ぇ……!」

「……申し訳ありません」

 

 アララギの姿を見るなり涙が止まらなくなるベル。

 一方チェレンは、もう立ち直ったのか一見普段通りだった。

 ベルもチェレンも無事だった事だけは救いだった。

 聞けばプラズマ団が助けたとのこと。

 犯人には結局逃げられてしまったみたいだけど、2人のポケモンが奪われることがなかったのは救いだった。

 

 

 

「無事ならそれでいいわ。ところでマリネットは?」

「いえ……ここには居ません……。

 ライモンシティ入り口のゲート、博士と最後に会ったところから、見ていません……」

「ライブキャスターも繋がらないから、マリネットとは連絡も取れなくて……」

「もう! こんな時にマリネットは何処にいるの!?」

 

 お友達が大変な事になっているのに!

 貴方はどうしてここにいないのよ!

 そう叫びたくなるのを堪えてアララギは2人のケアに努めようと考えた。

 

 

 

「……マリネットなら、弱いぼくたちと違って『あいつ』に勝てると?」

 

 アララギは単に友達が大変な事になってるのにマリネットがここに居ないことを怒っただけだった。

 しかし、今のチェレンにとってその言葉は最大の地雷。

 マリネットならなんとかなる、と言ったと捉えられてしまった。

 実際には、素直にここまで連れてこられたマリネットではチェレン、ベルと同じ末路を辿っていた。

 ……が、マリネット本人以外がその事実を知ることはない。

 皆、マリネットを見ているようで見ていない。

 強引に頼めば悪態はつくもののなんだかんだでトラブルの解決を引き受けてくれる、チェレン以上の強さを持つ凄腕のトレーナーとして見ている。

 実際にはその場の空気や権力によって強制して従わせているだけなのだが。

 

 

「チェレン……?」

「マリネットの力は必要ありません。

 少し準備をしたら、ぼくは強盗捜索に出ます」

 

 淡々と立ち上がったチェレンは、そのまま去っていこうとする。

 

「何言ってるの!? あなたは手酷くやられたのよ!?」

「ええ……ポケモンが弱いからぼくたちはやられました。

 事実です。だから……強いポケモンを手に入れて、改めて、強盗討伐に出ます。

 幸い、人から貰ったポケモンを従わせるためのリーグバッジは取られてない。

 ぼくは大丈夫です、アララギ博士はベルの心配してあげてください。

 ……それでは準備があるので失礼します」

「チェレン! ちょっと、チェレン!?」

 

 チェレンはアララギの制止を気にもとめず立ち去った。

 だが、アララギに縋り付いて泣きじゃくるベルを放置するわけにもいかず、アララギはやむなくチェレンを見送った。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「…………まさか、こんなに惨めな気分になるとはね」

 

 アララギのもとを離れたチェレン。

 彼が手を出したのは当然ブラックシティのポケモン通販。

 ありとあらゆる制限が厳しいイッシュにおいて、それでも自由なポケモン入手や道具の入手を助けてくれるこの通販は、使い方によってはとてつもない力を得ることだって出来るのだ。

 

 

 

『こちら、ブラックシティポケモン通販です。お客様のご要件をお話ください』

「ぼくはチェレン。ジムバッジ4つで自由に扱えるヒヒダルマに有利なポケモンを、なるべく高いレベルで用意してほしいんだ。

 代金の事は知ってる、ポケモンに持たせて送ります。

 ……今送りました。これで構わないですか?」

『承知しました。代金とポケモンの送付も確認出来ました。

 それでは、ポケモンをお送りします』

「これが……奴を倒せるポケモン……ガマゲロゲか」

『お客様はヤーコンに挑む可能性も高いと思いましたので、対ヤーコンも想定したポケモンをお送りしました』

「ありがとう。これでぼくは……格段に強く……!」

 

 

 

 その後もチェレンは、有り金叩いてポケモンを買い集めていく。

 大切な仲間だったフタチマル達よりはるかに強い即戦力のポケモン。

 それが、いとも簡単に買えてしまう。ジムバッジを持つチェレンであれば問題なく扱える。

 

 

 

「お金が続く限り……強いポケモンを買い続けられる……。

 これなら、ぼくは強盗だけじゃない。マリネットにも勝てるんじゃないのか?」

 

 通販で購入した強力なポケモン。

 バッジで従わせ、戦わせればきっと勝てる。

 チェレンはそう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----

 

「はい。……あら、アララギ博士?

 私のところに連絡なんて珍しいわね。どうしたのかしら?

 それに、貴方にくっついてるのは……ベルちゃん?

 ああ……貴方ホドモエシティに居るのね。

 大変な事になったわね……大丈夫?」

 

 マリネットの母にアララギから連絡が入った。

 アララギの傍には泣き疲れて眠るベル。

 そう言えば事件に巻き込まれていたな。

 心底どうでもいい話ではあるけど、心配してあげないと不自然ね。

 マリネットの母はそう判断した。

 

「マリネットのお母さん、お願いがあるの!

 力を貸してちょうだい!」

「大変な事になったわね。それで? チェレン君は?」

「準備をしたら強盗を倒しに行くって行っちゃったの!

 わたしはベルの傍を離れられないし……!

 マリネットも見つからないし! ああもう!」

「マリネットが? 見つからない?」

 

 マリネットも強盗に負けてあのチャオブー奪われたものだと思ってたけど。

 内心そんな事を思いつつも、アララギ博士の話を聞くマリネットの母。

 

 

 

「それで、私はマリネットとチェレンどっちの対応をすれば良いのかしら?」

「多分マリネットは旅から逃げてると思うの!

 もし見つけたら、いつまでも休んでないでライモンシティのポケモンジムに挑めって伝えるだけで構わないわ!

 面倒見てほしいのはチェレンの方!

 放っておくと不味い気はするのに、ベルから手が離せないのよ!」

 

 マリネットが旅から逃げた?

 私のためにチャンピオンの権限をくれないといけないのに、とことん使えないわね。

 内心ではそう吐き捨てるが、顔の表情は一切崩れない。

 

「分かったわ。なるべく早くホドモエシティに向かうわね」

「お願い! 本当はわたしやヤーコンさんでフォローしないと駄目なのに……!」

 

 アララギ博士からの連絡が切れた。

 瞬間、仮面が外れる。

 

「役立たずのマリネットには少しお仕置きしないといけないかしら。

 まあ少しで良いわ。チェレン君をくれるって言ったようなものだもの。

 マリネットが逃げたおかげね素晴らしいわ。

 チェレン君なら私の駒として相応しい働きをしてくれそうよね、どんな風に育ててあげようかしら。

 今更感はあるけど私の駒として相応しい考え方をしてるのよねチェレン君アデクなんてゴミ役に立たないからチェレン君にチャンピオンなってもらおうかしらその場合でも私が実権を握ることは出来そうよねそうすれば予定とは変わるけどイッシュは私の物だわ素晴らしい」

 

 そのためにもとりあえずマリネットを見つけ出してお仕置きね。

 そう結論づけて、マリネットの母は家を出た。

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