選択権無しのマリネット   作:ルスト

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40話 対峙

 チェレンとベルが強盗に敗れたニュースを知ってから2日後。

 あたしはアヤさんと変わらず特訓を続けていた。

 そして、プルリルがついに進化してブルンゲルになった。

 あたしは確実に強くなった。

 ……そう考えていた時、ぞっとするような気配を感じた。

 17番水道の方から急速に近づいてくる。

 間違いない……あたしの親だ……この感覚……!

 

 

 

「……マリネットさん、いつでも逃げられるように準備して。

 私が迎え撃つわ」

「アヤさん!? いくらアヤさんでも、相手が……」

 

 あたしの親は、話が通じるような相手じゃ……!

 

「大丈夫。もし逃げるしかなくなっても、なんとしても私が時間を稼ぐ。

 それに……簡単に負けるつもりはないわ」

「アヤさん……」

「大丈夫、先輩として、ちゃんと対処してあげるから」

 

 

 

 あたしを庇うように前に出たアヤさん。

 そして……ついにあたしの親がやって来た。

 

「……やっぱり。アララギがマリネットの事見つけられない見つけられないって言うけど、当然よね。

 ここは直接来れないのだから」

「……何か御用ですか?」

 

 アヤさんがもう一歩前に出る。

 あたしの親は……気にも留めていない。

 

「ああ……そこの小屋の家主さん?

 マリネット……そこの女の子がアララギ博士に探されてるのに戻ってこない物だから、ねえ?

 そこの女の子にはホドモエシティで強盗相手に戦うって大事な大事なお仕事があるのよ?

 お友達のチェレン君やベルちゃんが強盗に襲われて大変な目に遭ってるのにマリネットは連絡すら出来ないのよ~! って。

 そこの女の子をさっさとホドモエシティに連れて行って戦わせるのがアララギ博士やジムリーダー達の望みなのよ。大人しく渡してくれないかしら?

 私早くチェレン君に会いに行きたいし、面倒なことは嫌なのよね」

「……あたしを連れ戻しに来たのか?」

 

 あたしの声を聞いた瞬間、ぞっとするような空気がさらに強くなった。

 

 

 

「ええそうよ、本当に大迷惑極まりない。せっかくジムリーダーの方々やベルちゃんが頼りにしてるのにふざけんなあたしは嫌だやりたくない他の奴にやらせろよってそればっかりで強盗達との戦いも嫌がるしアイリスちゃんには嫌われちゃうし貴方本当になんなのこの役立たず、私の教育も全て拒絶するわ旅立つのも嫌々だわみんなの頼みごとに関してもふざけんな嫌だ押し付けるなって本当にどういうつもりなのあなたは皆の道具であればいいの正義を執行するための道具なのどうして逆らうのどうして余計な意思を持つのねえどうしてどうしてどうして?」

「結局あたしの話なんか聞く耳持たねえのかよ……」

「な……何なのこの人……?

 これが……マリネットのお母さん……?」

 

 アヤさんも困惑を隠せない。

 そりゃそうだろう。

 こんなのが人の親やってるって言われて信じられる方が少ないよ……。

 

 

 

「そうね私はマリネットを育てたわねでも全然言う事を聞かないのよ反抗的でどうしようもないいつもいつも嫌だ嫌だってそればっかりせっかくトレーナーとして教育をしてあげたのに受け付けないってホント無能よねどうしてこうなったのかしらやっぱり個体値が悪いのかしら個体値の優れた子供じゃないと強くならないのかしら性格が悪いのかしらそれとも……貴方が余計なことを教えたせいかしら?」

「……あんたのアレは……教育でもなんでもねえよ」

 

 少なくとも、あたしはあんなものを教育だとは思えない。

 勉強が嫌だと言えば椅子に縛り付けられたことだってある。

 問題間違えると今みたいな口調で延々と責められた。

 

 

 

「おかしいわねどうして私の従順なマリネットがいちいち私に文句を言うようになったの?

 私の教育は正しい覚えられないマリネットが悪いマリネットの頭が悪いからダメマリネットがマリネットがマリネットが全て悪いの私は正しい間違わない間違えるマリネットが悪いそれだけなのよなのに何故?」

「……このやり取りだけでも十分理解できたわ。

 マリネットさん、早く逃げて。あっちの階段の先、道が続いてるから逃げられるわ」

「けど……」

 

 アヤさん1人で……あたしの親に立ち向かう気かよ!?

 

 

 

「後輩を守るのは先輩の務めよ。

 それに、捕まったらマリネットさんがどんな目に遭うのか察しがついたもの。

 仮に勝てなくても、絶対に逃がすって決めたわ」

「あら、まさか邪魔をするつもりなの……?

 理解出来ないわね貴方マリネットの家族でもないでしょ口を挟まないで。

 しかも善良なトレーナーはゴミじゃないから普通のポケモン勝負になるじゃないめんどくさいわね。

 まあ良いわ。マリネットにも見せておかないと。

 私に逆らったらこうなるんだぞって教えておかないといけないわね。

 その辺のトレーナーが私に逆らうなんて思わなかったけれど」

 

 

 

 その瞬間、空間が歪んだような感覚がした。

 そして

 

「……」

「なっ、こいついつの間に……!」

「マリネットさん!?」

 

 いつの間にか、あたしの後ろに見た事のないポケモンが出現していた。

 逃げ道が塞がれて……。

 

「いい子ねオーベム。そのままマリネットを逃がさないで。

 ああ別にマリネットを痛めつけるつもりはないわそこのトレーナーを倒すところを見せつけるのよ私に逆らうとこうなるのだから大人しく従えって」

「……随分余裕ね。5匹でも私に勝てるって言いたいの?」

「問題ないわ、オーベムが居なくても私のポケモンは皆優秀。私が何百単位で産ませたタマゴから厳選して育て上げて私に絶対の忠誠を誓っている優れたポケモンなのだから。

 その辺のトレーナーに負けるとは思っていない、例え貴方がエリートトレーナーであっても」

 

 アヤさん……。

 

 

 

「まあ良いわ、マリネットを庇うくらい無謀なのだもの。

 貴方のお手並み拝見ね。シャンデラ」

「行くわよ! デンチュラ!」

 

 あたしの親はシャンデリアのようなポケモンを、アヤさんは黄色い蜘蛛のようなポケモンを繰り出す。

 

「相性有利……灰にしてあげるわ『だいもんじ』」

「させない!『ボルトチェンジ』!」

 

 アヤさんのポケモンが先に動いた。

 シャンデラを攻撃して、その勢いで戻って来た?

 

「交代! シャンデラ!」

「ふうん……もらいび。そう。

 流石にほのおのからだなんか使わないわね」

 

 アヤさんもシャンデラを繰り出した。

 どうも、炎攻撃を完全に無効化するらしい。

 だいもんじが無効化された。

 

「『シャドーボール』!」

「スカーフかしら? きそポイント?

 まあ無駄よ。『シャドーボール』」

 

 

 

 次はシャドーボールの撃ち合いになった。

 アヤさんのシャンデラが先に動いて撃ち込んだけど、敵のシャンデラは倒れない。

 そのままシャドーボールを撃ち返し、アヤさんのシャンデラを撃ち落とす。

 あたしの親が用意しただけあって、やっぱり異常に強いのかな……。

 

「戻って、シャンデラ……。

 ……想像以上に強い、これが、マリネットの母親のポケモンの実力……!」

「まあこんな物よね。並みのエリートトレーナーやベテラントレーナーよりは強いけれど。

 続けるつもり?」

「当たり前よ! もう一度デンチュラ!」

「ふうん……」

 

 一体どうするつもりなんだ、アヤさん……。

 

「何をしようと生き残る道はないわよ。『だいもんじ』」

「少なくともシャドーボールとボルトチェンジで相応のダメージはあるはずよ!

 デンチュラ! 『かみなり』!」

 

 アヤさんが指示を出した直後、巨大な稲妻がシャンデラをぶち抜いた。

 ここまでのダメージに耐えられなかったのか、シャンデラが崩れ落ちる。

 

 

 

「そう。……戻りなさい。次、エーフィ」

「……なつき進化? こんな人でも出来るの……!?」

 

 あたしの親が繰り出した紫色の猫のようなポケモン。

 それを見たアヤさんは驚きを隠せないといった様子だった。

 

「……そこの小娘にも分かるように教えてあげるわ。

 そのエリートトレーナーさんは、私みたいな人間に懐くポケモンが居るなんて!

 って言いたいみたいね。

 ……ふふ、急ぐ勝負でもないわ。時間をあげる。そこの小娘に説明してあげたら?」

「って言ってるけど…………」

「……事実よ。マリネットさんに対する態度、というか、もう言動全てが狂ってる。

 こんな人に懐くポケモンなんて、野生環境では、というか卵から育てたとしてもまず居ないはずなの……」

 

 なつき進化なんて言うくらいだから、条件はもちろん……。

 

 

 

「トレーナーへの信頼がトリガーになってる……はずなの。

 だから、強い信頼関係が無いと進化できないはず……」

「あいつが、ポケモンと強い信頼関係……?」

 

 あり得ない。

 そう断言したくなる。

 でも、実際に目の前にいるって事は……。

 

 

 

「とんでもなく簡単な話だったわ。

 この子以外の不良品を悪い子として虐げる権利をあげ、この子にだけ私との信頼関係を築き上げるように育成すればよかった。

 私が大量のタマゴの中から選び抜いた精鋭なのだから、私からは信頼を置けるもの」

「歪んだ教育の産物ってわけね……」

「ふふ……そこの不良品やこのエーフィのママみたいなことにならなくて良かったわ。

 駒は信頼してあげたいもの」

 

 あたしだけじゃない。

 ポケモンに対する扱いも、狂ってやがった。

 

 

 

「さて、小娘への教育の時間は終わり。

 次のラウンドね。エーフィ『サイコキネシス』」

「デンチュラ交代! ワルビアル!」

 

 アヤさんがポケモンを変えて攻撃を受け切る。

 

「……最近作ったばかりの子供達には荷が重いかしら?

 あの子を引っ張り出すことになるのかしらね」

「ワルビアル!『かみくだく』」

「交代。スワンナ、特攻しなさい」

 

 エーフィに対する態度と明らかに違う。

 この白鳥に関しては完全に『モノ』としてしか見てないんだろうと分かった。

 

「ワルビアル! 『いわなだれ』!」

「……スワンナ撃破、か。使えないわねえ。

 しょせん足にしか使えないポケモンか。

 じゃあ、ドレディア」

 

 今の所、アヤさんが優勢になってるのか……?

 

「『はなびらのまい』」

「交代! デンチュラ!」

 

 はなびらのまいで暴走するドレディアをデンチュラが倒した。

 気のせいじゃない。アヤさん優勢なんじゃ……?

 このまま戦えばもしかしたら……。

 

 

 

「エーフィ」

「交代! ワルビアル!」

「なるほど、無駄死にさせることになるわね。

 ……戦闘不能にしたことで良いわ、戻りなさいエーフィ」

 

 

 

 戦わせることなく戦闘不能扱いで良いって……。

 

「エーフィは残念ながらワルビアル相手に役に立たない。オーベムを戻せばマリネットが逃げ出す。

 ……やれやれ。結局貴方をお披露目することになるのね。

 こんな所で使うことになるなんて思わなかったけれど。

 ……………………殺りなさい、ラティオス」

「嘘……!? 伝説……!?」

「なんだ、あれ……?」

 

 出て来たのは青い体の竜のようなポケモン。

 首に水晶玉のようなものがかかっている。

 

 

 

「『れいとうビーム』」

「なっ、速っ……ワルビアル!」

 

 瞬殺だった。

 さっきまでの戦いは何だったのかと言いたくなるくらいに呆気なく、アヤさんのワルビアルは倒された。

 

「……」

「デンチュラを出しても駄目ね。……ナットレイ!」

「『りゅうせいぐん』」

 

 直後、轟音と共に何かが空から降り注ぎ、アヤさんの出した鉄の塊のようなポケモンを直撃した。

 

「なんて威力……っ!」

「マジかよ……」

 

 倒れ伏すアヤさんのポケモン。

 さっきまでの戦いはお遊びか何かだった。

 そう言いたくなるくらい、圧倒的。

 

 

 

「……なんで、伝説が、あんな人に……?

 それに、この力……」

「言ったでしょう? タマゴから育てたって。

 このラティオスだって例外じゃないわ。

 私がタマゴを作らせて、孵化させて育てたのだから」

 

 その発言を聞いたアヤさんは驚愕と困惑の入り混じった表情をしていた。

 

「嘘……ありえない、そんな事……」

「そんなに、ヤバい事なのか……?」

「そこの不良品には分からないのね。タマゴ未発見のはずのポケモンをタマゴから育て上げるという事がどれだけとんでもない事なのか。

 私の研究の成果なのよ、ラティオスを無理矢理捕えて精神を壊して年中発情期のメタモンと延々と交わらせたの凄いでしょ私の研究は育て屋を超えたのよ私にかかればこの程度容易い事だったわ倫理とか野生ポケモンへの配慮とか要らないの私の言う事を聞かないポケモンなんか全部実験のモルモットかメタモンのお相手で良いのよ」

「なんて人なの……」

 

 

 

 狂ってるとは思ってたけど、ポケモン相手でも全く変わってなかったのかよ……。

 

「……デンチュラ! せめて一撃」

「『サイコキネシス』」

 

 先程までと違い、行動する隙すらない。

 アヤさんのポケモンは一撃で沈められた。

 

「……りゅうせいぐんで火力は下がった筈! ミロカロス! 『ミラーコート』!」

「この状況でもまだ諦めないのね。でも無駄よ『10まんボルト』」

「……っ!」

 

 

 

 一撃で沈むアヤさんのポケモン。

 文字通りの蹂躙劇。

 先程までの戦闘は完全な茶番だったのではないかとすら思えてくる。

 

「ボーマンダ……!」

「デンチュラ、シャンデラ、ワルビアル、ナットレイ、ミロカロス、ボーマンダ。

 それがラストね。終わりよ『れいとうビーム』」

「……まだよ! ナットレイ!」

「あら……げんきのかたまり? 頑張るわね貴方」

 

 最後の一匹。

 アヤさんはそのポケモンを完全に時間稼ぎとして使った。

 ナットレイを回復させるために。

 

 

 

「どうしてそんなののためにそこまでするの?

 大人しく渡せば貴方のポケモンは痛めつけられることも無かったのに」

「言ったでしょ。先輩だから、後輩を守るのは当たり前!」

「分からないわねえ……。人間でもポケモンでも、使えない物は使えないの。

 無駄な努力を頑張ったところでどうしようもないわよ?

 貴方がいくら頑張ったところで私には勝てない。もし非常に頑張ってラティオスを倒せたとしても、貴方の後ろのオーベムを使うだけよ?

 そのオーベムは私の最高の相棒。ラティオスにだって劣らない。

 運命は変わらないの」

 

 

 

 詰んでる。そう分かりきった状況だ。

 それでも、アヤさんは諦めてない。

 

「まあ、現実を教えてやるのも優しさね。『れいとうビーム』」

「ナットレイ!『ジャイロボール』!」

 

 

 

 顔色一つ変えずに淡々と攻撃を指示してきた。

 アヤさんのナットレイは……落ちてない!

 もう1回は耐えられないかもしれないけど、耐えきってる!

 

「食らいなさい……っ!」

「ティオ……ッ!?」

「ふうん……まあ頑張ったわね」

 

 攻撃が直撃してラティオスは大きく怯んだ。

 けど……。

 

「残念、ここまでね」

「……っ」

 

 ラティオスは健在だった。

 最後の一撃は大ダメージこそ与えたけど、倒すには至ってない。

 アヤさんのポケモンは次の攻撃で確実に倒される。

 それに対して、あたしをずっと見張ってるこのポケモンとラティオス……。

 

 

 

「まあでもラティオスを使わざるを得ない状況にしてくれたのは驚いたわね、貴方。

 その頑張りに免じてそこの小娘は見逃してあげるわ私はアララギに旅をさっさと進めるよう伝えろと言われたけどマリネットなんかもう興味ないしさっさとあっちに行きたいもの素晴らしい逸材が待ってるのだから」

 

 一方的にそう言うとライブキャスターを取り出して連絡を始めた。

 

「アララギ博士? 私よ。マリネットには逃げられてしまったわ。

 ええ、抵抗の激しいトレーナーに邪魔されたの」

『貴方が邪魔されるってどういう事よ!? ねえちょっと!

 マリネットは結局どこに』

「あの子は私がケアするわね。じゃ」

 

 相手はアララギだった。

 どっちもどっちな会話が目の前で繰り広げられている。

 

 

 

「……マリネットさんの事見逃してくれるの?」

「ええ。どうして貴方がそんなのを庇うのかはともかく、ラティオスを使わされた上に一撃入れてくれたのだもの。

 その頑張りと才能に免じて貴方にご褒美をあげるわ。

 そんなので良ければあげる。

 とは言っても、アララギが『どうしてもマリネットが必要なの! 連れてきて!』なんて言い出したらその時は容赦しないわよ?

 私はもうどうでもいいけど、それをいつまでも遊ばせてあげるつもりはないみたいだからね、アララギは。

 来なさい、オーベム。チェレン君の所に行くわよ」

 

 それだけ言うと、スワンナを叩き起こして飛び去って行った。

 戦闘不能だろうとお構いなしだった。

 

 

 

「とんでもない人だったわね……」

「アヤさん、ありがとう……」




マリネットの母親
オーベム(今回未使用、普段のエース)
ラティオス(切り札枠。こころのしずく装備フルアタ)
エーフィ(ヒウンシティでメタモンに作らせたタマゴのポケモン)
シャンデラ
ドレディア
スワンナ(ただの足。なみのりとそらをとぶ)

オーベムとラティオスだけアホみたいな高レベルで他はアヤ+6くらい。
タイプ相性の壁で割とごまかせる。
マジカルシャインが無い時代なのでエーフィはワルビアルに無力。

アヤ
デンチュラ
シャンデラ
ワルビアル
ナットレイ
ミロカロス
ボーマンダ
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