選択権無しのマリネット   作:ルスト

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私が強くしてあげるわ

 マリネットを庇ったよく分からないエリートトレーナー。

 完全に倒すことは出来たけれど、わざわざ私のラティオス相手に最後まで歯向かってきた勇気を称えて見逃してあげることにした。

 叩き潰してマリネットを強引に連れて行くことは簡単だけど、マリネットなんか使うよりももっと都合のいい存在がすぐ近くに転がり込んできたからそっちに行くことにしたわ。

 

 

 

「チェレン君……どうしたの?」

「マリネットのママ……ですか。あなたこそどうしてホドモエシティに……?」

 

 チェレン君は宿泊用の部屋に居たわね。

 見た感じかなり憔悴しているわ。

 あの強盗に徹底的にやられたのが余程堪えたのかしら。

 まあこれくらいボロボロの方が私の言いなりにはしやすいわね。

 心の中に立っている柱のような物がへし折れてしまった姿。

 美しいわね。絶望と嘆きと無力を表現しているアートみたい。

 

「アララギ博士に呼ばれたのよ。手が回らないからチェレン君の事は私に任せたいって」

「……そうですか。問題ないですよ、ぼくは」

 

 これ以上傷つきたくないのかしらね。

 ああ、可哀そうな子。

 すぐ横にベルなんて雑魚が居たから誰も貴方の事を心配してくれない。

 すぐ横にマリネットって言う上位互換が居たから誰も貴方の事を強いとは言ってくれない。

 

 

 

「隠しても駄目よ。分かるの、貴方の心は悲鳴を上げているわ。

 悔しい、力が欲しい、情けない、惨め、そんな感情が渦巻いているわ」

「……だったら、どうしろって言うんですか?」

 

 好きに感情を吐かせてあげてもいいけれど、誘導するならここよね。

 

「簡単よ。この世界の誰よりも強くなればいいの。

 誰も彼もを見下して笑えるような力があればいい。そうすれば、誰も貴方を馬鹿に出来なくなるわ。

 ……そう、このネットで貴方を笑いものにしている人達もね」

 

 チェレン君にネットのコメントを見せてあげる。

 同時に、オーベムをそっと配置につける。

 もしもの時は、記憶を弄り回せるその力でチェレン君を完全に落としてしまいましょう。

 私が作り上げる新たなるイッシュ地方の『力がある存在は何をしても許される。命すら思いのまま』という価値観に染め上げるために。

 正義も悪も無い。ただ強い人と弱い人が存在するだけの修羅の世界。

 将来的には子供の頃から徹底的に私の思想を刷り込んで、素晴らしい国へと変えてあげるわ。

 弱い奴が生きている資格はないのよ。

 

 

 

「……この人達は……」

「安全な場所で、貴方を馬鹿にして笑っている人達ね。

 貴方の勇気を、愚かな事と断じて笑っている。

 貴方がヤーコンさんに従ったのは、素晴らしい行いだったのに」

 

 チェレン君が悔しそうに手を握る。

 そうよね悔しいわよねでも貴方は弱いから逆らえないの可哀そうなチェレン君馬鹿にされるしかないのそれが現実弱い奴には価値がないわこの世の中は力が全てなの権力も力もない貴方にはただ馬鹿にされる事しか出来ないわそれがこの世界のルールなのだもの。

 

 

 

「自分は……見ているだけのくせに……」

「そうよ。安全な場所から貴方を馬鹿にしているの。

 マリネットじゃないから失敗したんじゃないのか? なんて言われてるわ」

「っ! ぼくをマリネットと比較するな!」

「私じゃないわ。こういうネットの言葉よ。でもアララギ博士だってマリネットを探してたわよねえ。

 貴方じゃ頼りにならないのかしら……貴方はこんなに頑張っているのに」

「そうだ! ぼくだって戦える! マリネットと同じように戦える……筈なんだ……」

 

 見た感じ通販のポケモンを買ったのね。

 あの強盗相手ならともかく、このやり方を繰り返すと出費が馬鹿にならないわね。

 チェレン君を駒にするとしても金の無駄遣いは止めましょうか。

 そんなことに金を回すくらいならもっと有意義な使い方をしないと。

 

 

 

「ねえチェレン君。そんなに強くなりたいのなら、強くしてあげましょうか?」

「……おばさんが?」

「ええ、私が。マリネットにだって負けないくらい強くしてあげるわよ?

 そうなれば、きっとアララギ博士もマリネットマリネットと言わなくなるかもしれないわね。

 他のジムリーダーだって、貴方を頼りにするようになるかも……」

 

 実際は知らないけれど。

 でもチェレン君が主人公みたいに強く、かつ積極的に人助けをするようになれば、文句だらけのマリネットは最初から頼られなくなるわよね。

 マリネットからしても面倒事を減らしてしまうから得するのは癪だけど……この子を英雄に仕立て上げるのが最適解かもしれない。

 

「ヤーコンさんの信頼を取り返したくないかしら?

 ネットの声に、言い返したくないかしら?

 マリネットに負け続けるだけの流れを断ち切りたくないかしら?

 ……誰よりも強いチャンピオンに、なりたくないかしら?」

「ぼくは……誰よりも強いトレーナーになりたい。

 こんな惨めな目に遭いたくない、皆を見返してやりたい。

 誰にも馬鹿にされたくない、ぼくの力を認めさせてやりたい」

 

 

 

 この真っ黒い感情、たまらないわね。

 こういう感情が一番素敵よ。

 

「私がそのお手伝いをしてあげる。

 チェレン君を最強のトレーナーに、ポケモンリーグのチャンピオンに。

 貴方はマリネットよりも優れているの。それを引き出してあげるわ」

「おばさん……」

「だから……私の物になりなさいチェレン君。オーベム」

「えっ……」

 

 振り返ったチェレンはオーベムの力によって人形みたいに固まってしまった。

 さて、オーベムの力で記憶をある程度書き換えていくことにしましょうか。

 私の教えを吸収しやすいように、トレーナーズスクールで学んだ事を改変するのがベストね。

 

 

 

「困っている人が居たら助けましょう……採用。英雄になってもらうのだからね。

 ポケモンを大切にしましょう……却下。弱いポケモンはさっさと処分して強いポケモンに乗り換えるべきね。

 ポケモントレーナーに一番大事な物は強さ……と書き加えておきましょう。

 他には……厳選を躊躇わない性格にしましょうか。強くなるためだからって事で」

 

 今の所こんな物でいいだろうか。

 まあ足りなければ後からどんどん改造していけばいいわ。

 最後に私の言う事をある程度素直に聞くように改造して、完成ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ、ぼく、何を……?」

「大丈夫チェレン君? 話しているときに急に固まっちゃったのよ。

 やっぱり相当疲れてるみたいだから、休んだらどうかしら?」

「……そう、なのかもしれません。休みますね……」

「大丈夫よ。もし休んでいる間に強盗が出ても私がどうにかしてあげるから。

 お休み、チェレン君」

「はい……」

 

 アララギのおかげで良い駒が手に入りそうだわ。

 チェレン君の元の手持ちが都合よく預けられてるから、通販産の機械みたいなポケモンばかりで抵抗されなかったのもついてたわね。

 もし普通にここまで過ごしてきたポケモンだったら、ご主人の危機だと暴れ出すかもしれなかったし。

 一匹残らず殺すなら楽だけど、それをすると処理が面倒だものね。

 

 

 

「イッシュは必ず手に入れるわ……。この私がね」

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