選択権無しのマリネット   作:ルスト

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41話 これから

 襲撃してきたあたしの親は追い払えた。

 ……というより、見逃してもらった。

 アヤさんが全力で抵抗していたのが何故か気に入ったらしい。

 全く理由は分からないけど、ひとまずあたしの自由はまだ保証された。

 

「……アヤさん」

「結果がどうであれ、マリネットさんが無事なのは事実よ。

 ……ここまで一方的にやられるとは思ってなかったけれど」

 

 

 

 アヤさんの全力を気にも留めない強さだった。

 まさか、あそこまで強かったなんて……。

 

「……私、修行に行くわ。

 あんなの相手でも、対抗できるようにならないと。

 ……だから、マリネットさん。貴方の修行は一旦終わりにしていい?」

「……ああ。あたしも思い知った。

 あたしが自由を得るために倒さないといけない相手の強さ。

 全力のアヤさんでも勝てないような相手だったなんて……な」

「あんなの反則よ。チャンピオンより強いんじゃないかしら……?」

 

 さっきの光景が目に焼き付いている。

 ラティオスによる一方的な暴力。

 アヤさんの抵抗が最初から無意味だったと思い知らされた瞬間。

 ホドモエシティでチェレン達が味わったものと比べたら当事者じゃないあたしの絶望感は軽いのかもしれないけど、それでもあの瞬間の絶望は凄かった。

 アヤさんはそんな状況でも最後まで打てる手を探して……。

 

 

 

「……あたし、行けるところ巡ったら先に進むよ。

 いつか、自由になるためにも……今は耐える」

「ええ……。気を付けてね、マリネットさん」

「ああ。アヤさん、今日までありがとう。教えてもらったこと、活かして戦っていくよ」

「こちらこそ。マリネットさん、ありがとう。私に足りない事、必要な事、色々学べたわ、頑張ってね」

 

 アヤさんに別れを告げ、あたしは進むことにした。

 足取りが重くなる、正直離れたくはなかった。

 けど……次にあんなことがあったらどうする事も出来ない。

 それに、あたし自身の強さが足りないのも事実だった。

 アヤさんの全力でも通用しない相手に、あたしが何をやったところで勝てる未来が見えない。

 

 

 

「……くそっ! これほど自分が弱いことが許せなくなる日が来るなんて思わなかった!

 アーティに散々こき使われた時でもこんな思いはしなかったのに!」

 

 あの時はただふざけんなって怒りだけだった。

 今回は違う。

 親切にしてくれたアヤさんにずっと守られるだけで、何も出来なかった……!

 

 

 

「強くなりたい……。ただあたしが自由になるためだけじゃない。

 もし守りたい相手が出来た時に、アヤさんみたいに守るためにも……」

 

 あたしは自分さえ守れればそれで良いって思ってた。

 あたしの力はそのためのものだって。

 ベルやジムリーダーが一方的に使うための物じゃないんだって。

 ……今まで誰も助けてくれなかった。

 ベルは一方的に縋り付いてくるだけで、ジムリーダーは強盗との戦いを押し付けるだけ。

 アロエとアーティのアレも、自分が無理矢理現場に放り込んだあたしを見に来ただけだった。

 今回は違った。

 アヤさんはずっと親切で、色々教えてくれて……。

 あたしの親が連れ戻しに来た時も、立ち向かってくれた。

 

 

 

「……このまま、終われない。

 絶対に、強くなってやる……!」

 

 嘆いてる時間も悲しんでる時間も惜しい。

 あたし1人でも、とにかく強くならないと……!

 

 

 

----

 

 

 

 マリネットさんを見送った後、私はさっきの戦いの事を思い出しながらマリネットさんの母親の特徴、戦いの中の反省点等をノートに書き殴っていた。

 そうでもしないと、心が折れてしまいそうだった。

 

「……なんなのよ、あの化け物……。

 マリネットさん、どんな目に遭わされてたの……」

 

 完敗だった。ここまで徹底的なボロ負けは何年ぶりだろうか。

 先輩としてマリネットさんの事を守るつもりだったけど、実際はあいつの気紛れで見逃されただけだった。

 ノートに書き殴った内容を見れば見るほど実感する。

 相手は、私のこれまでの常識なんか全く通用しない、正真正銘の化け物だった。

 

 

 

「ラティオスって、絶対タマゴなんて作れないって言われてたポケモンなのに……」

 

 あの戦いで最も驚いたのはそこだった。

 世間で珍しいポケモンとされている一部の種族は育て屋に預けたところでタマゴが作れない。

 メタモンですらどうにも出来ない。

 それは当たり前の常識だったし、そもそもそういったポケモンを従えられるのはポケモンと本当の意味で心を通わせられるトレーナーだけだって言われてた。

 少なくとも、マリネットさんの事もポケモンの事も何とも思ってないあの人が使えるような存在じゃない筈だった。

 

 

 

「捕らえて、精神を壊して、そのまま強引にメタモンと交わらせたって……。

 書いてるだけでも気がおかしくなってきそうだわ」

 

 物語の中にしか登場しない『悪魔』って存在が現実に現れたとしたら、ああいう雰囲気なのかしら。

 そんな事をふと考える。

 近づいてくるだけでも異様な気配を感じたし、あの時、野生ポケモンの気配は全くしなくなった。

 あらゆる野生ポケモンがマリネットさんの母親に怯えて息を潜めていた、そんな感じすらしてくる。

 何もかもがおかしい災害のような存在、それがマリネットさんの母親だった。

 

 

 

「……でも、あのラティオスだって無敵の生物ってわけじゃなかった。

 りゅうせいぐんを使うと火力は下がるし、ナットレイの最後のジャイロボールは大ダメージを与えられた。

 つまり、規格外の不死身の化け物とかそういうわけじゃない」

 

 その点だけは救いだった。

 もしこれで火力耐久速さ何もかも異次元級の化け物だったら対策も何もあったものじゃない。

 最悪、きあいのタスキを通販で購入して、強引に道連れにするような作戦を取るしかなくなるから。

 

 

 

「私の力が足りなかった、恐らくこれが一番大きい。

 あっさり一蹴されるくらいに、相手とのレベル差が凄まじかった」

 

 私の8年間があっさり吹き飛ばされる圧倒的な暴力。

 一体どんな育て方をしたのか、全く手も足も出ないくらいの力の差。

 対抗するために取れる手段は1つしかなかった。

 

 

 

「鍛えなきゃ……とにかく、徹底的に!

 仮にスクールの先生になってたとしても、このザマじゃ生徒の事守れないわ!

 なにより……マリネットさんの事、守りきれなかった……」

 

 あの人が気紛れを起こしたから結果的に無事だった、それだけだった。

 もし連れ戻すつもりだったら、マリネットさんは今頃ホドモエシティまで連行されて、強盗相手に戦わされてしまったのだろうか。

 

 

 

「自分の子供を率先して危険な場所に放り込むって、一体何考えてるのよ……あの人の場合それ以前の問題なんだろうけど」

 

 マリネットさんの母親については、分からない事があまりにも多すぎる。

 マリネットさん本人に聞ければいいんだろうけど、あの様子じゃそもそも『何も知らなかった』可能性すらある。

 それでも、対抗出来るようにならないといけない。

 先輩として、今度こそ守ってあげられるように。

 

 

 

「そのためにも、強くならなきゃ……」

 

 マリネットさんに修行をつけていたけど、私自身も修行をしなおさないといけないわ。

 次は、負けないためにも……。

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