ホドモエシティのとある建物。
プラズマ団の拠点として使われている施設の中で、ゲーチスと配下のプラズマ団が話し合っていた。
「……ターゲットへの接近が阻まれている?」
「はい、ベルの方もチェレンの方も、正義側の人間が常に張り付いている状況でして……。
ベルにはアララギ、チェレンにはマリネットの母を名乗る人間が……」
ゲーチスの計画は途中までは上手く行った。
ベルとチェレンを強盗の手によって叩き潰し、プラズマ団に助け出させる。
ここまでは完璧な流れだった。
ヤーコンが新人トレーナー2人に強盗の調査や捕縛を任せるなどと言う暴挙をしたおかげで、かつてマリネットを使ってプラズマ団を退治させたアロエとアーティの行いにまで世間の非難が飛び火していたのは想像以上の成果だった。
団員を使って多少煽らせはしたが、批判している大部分は何も知らずに熱狂していた愚か者である。
新人トレーナーによる華々しい活躍みたいに取り上げられていたが、実際は危険と隣り合わせの暴挙でしかない。
ジムリーダーや警察が行うべき案件を一般トレーナーに丸投げして戦わせるなど普通であれば論外である。
アロエは博物館を襲われ、展示品が盗まれた緊急事態だったから仕方なかった、と釈明していたがアーティに関しては黙ったままだ。
ヤグルマの森でわざわざマリネットに森を抜けさせるルートを強制した挙句にヒウンシティで強盗を捕まえるためにと無理矢理戦わせたのだから。
アイリスが黙っているのは、恐らく祖父のシャガに止められているのだろう。
流石にそこまで甘くはない。
(……後はあの2人に取り入るだけでしたが…………勘が良いのか、それとも……)
しかし、計画はそう簡単に完遂出来なかった。
ベルとチェレンは計画通り強盗に倒された。
その翌日にはアララギがホドモエシティまで飛んできてベルに付きっきりになったのだ。
その上、人数が足りないからとマリネットの母親を呼んだという。
そのためチェレンにも簡単に近づくことが出来なくなってしまった。
(このままでは次のプランに進めませんね……。
少々強引にでも接近させましょうか……?)
2人を助け出したことで恩人になっているプラズマ団を敢えて接近させるという作戦が浮かんだ。
助け出してくれた相手と会うのを拒むのは流石に出来ないだろう。
その上でアララギやその母親を引き離せる何かがあればいいのだが。
リスクは大きいが、取り込めれば間違いなく大きなリターンになる。
それにNという操り人形だけでは出来る事が限られている。
イッシュの人間社会の常識すら投げ捨てているような特異な生き物なのだから、人間社会で動くには分が悪い。
(しかし……アスラを襲った女だと言うではないですか。
マリネットの母親……近づくのも危険では?)
一方で、ゲーチスの計画の最大の不安要素になっているのがマリネットの母親だ。
ヒウンシティでアスラや強盗役のプラズマ団を襲撃。
アスラやヤナッキーに重傷を負わせ、おびき寄せるために使ったプラズマ団は首をへし折って殺害。
アスラの証言によると、仲間の死体はマリネットの母親がどこかに運び去ったらしい。
殺人すら厭わない危険人物相手に下手に近づけば、アスラの時と同じ目に遭わされる危険性がある。
そう考えていた時、部屋に男が瞬間移動したかのように入って来た。
「……ゲーチス様、戻りました」
「ダークトリニティ……マリネットの母親の詳細はつかめましたか?」
「……ほとんど情報はありませんが、ブラックシティ出身と言う事と『トリカ』という名前だけは」
「なるほど……」
ダークトリニティ……ゲーチス直属の親衛隊。彼らが情報を持ち帰って来た。
トリカと言う名前とブラックシティ出身という情報。
ブラックシティとは、金と権力と力が全ての街。
イッシュにおいて最も治安の悪い危険地帯である。
そこの出身であれば、人の命を奪う事にも躊躇いは持たないだろう。
ブラックシティの倫理は破綻している。
ポケモンでも人でも、弱者は路地裏の闇市で平然と金で売買されるような世界だ。
表向きはそんなことはしていないと言っているが、ブラックシティの市長はマスコミやネットすら操ってしまえる。
都合のいい情報しか流さないように情報操作しているのはバレバレだった。
「残り2名は?」
「……住民に金を握らせて吐かせた情報でも、トリカは幼少期ブラックシティの下層民だったという程度の情報しかなく…………」
「……そもそもマリネットが実の娘かどうかも怪しい、と話していました…………」
「手掛かりなしに等しい、ですか。よろしい、ダークトリニティは次の任務に向かってください」
「「「御意……」」」
ダークトリニティがその場から消え、報告していたプラズマ団とゲーチスだけになる。
「……アララギをベルから引き離せないか試すことにしましょうか」
「チェレンは放置で構わないのでしょうか?」
「今はトリカに近づいて、団員を失うわけにはいきません。
安全に、ベルだけでも切り崩せないか試すことにしましょう」
その時、扉がノックされる音が。
誰かがやって来たらしい。
「入りなさい」
「失礼します、ゲーチス様。この男が娘を助けてくださったプラズマ団とゲーチス様に感謝の言葉を言いたいとのことで……」
「失礼ですが、アナタは?」
「ベルの父親です! 娘を助けていただき、なんとお礼を言えばよいのか……!!」
プラズマ団と共に入って来たのはベルの父親だった。
娘が大変な目に遭ってしまったと聞き、旅をやめさせるためにわざわざここまでやって来たのだ。
目の前の男が実はその事件を引き起こしている計画者であることなど知る由もなく、感謝の気持ちを伝えに来た。
(……ベルの父親、ですか。
この男、使えるかもしれませんね)
ベルの父親の感謝の言葉を聞きながら、ゲーチスは次の一手を考えるのだった。