「アララギ博士、ベルに会わせてください」
「ベルのお父さん? どうしてここに?」
ゲーチスの所に感謝を伝えるために訪問した後、ベルの父親はゲーチスや護衛の団員を伴いベルの元を訪ねていた。
現在アララギが付きっきりで面倒を見ているベル。
本来であれば誰も入らせるつもりはなかったが……。
「娘が心配だから来たのです。あんなことになったというのに、どうして放っておけましょうか」
「心配はいらないわ! ベルの事は、わたしが責任をもってちゃんとケアを……!」
「アララギ博士……でしたね? 父親が娘に会いたいと言うのに、遮るのはいかがな物かと」
「……そうね。お父様、どうぞ」
父親の目的はベルを連れ戻す事だ。
それが分かっているアララギは引き下がらせようとするが、ゲーチスが正論で却下する。
図鑑を渡しているアララギからすれば気の毒だが、そもそも大人の監督不行き届きで今回の事件が起きているのだ。
それが分かっているアララギはベルの父親を通すしかなかった。
部屋で療養しているベル。
そこに今最も会いたくない存在がやって来た。
ベルの父親だ。
アララギは誰も会わせないようにしていたものの、ゲーチスの言葉とベル父が相手と言う状況には流石に勝てなかった。
「パパ!? どうしたの……? どうしてホドモエシティまで……」
「どうもこうも、お前を連れ戻しに来たんだよ。
カノコタウンを出て、ここまで旅をしたんだ。もう充分じゃないか」
連れ戻しに来た父親。
しかし、ベルは拒絶する。
「……っ! やだあ!!」
「ベル!!」
「チェレンやポケモンと一緒に旅するんだもん!」
「ダメだ! 他所は他所、うちはうちだよ!」
「だったら、アタシはアタシ! パパはパパだもん!」
ベルも父親も譲らない。
旅を続けたいベル。
こんなことになった以上、すぐにでも連れ戻したいベルの父親。
父娘の会話は平行線になる。
「何を言うんだ! その旅を続けた結果、ベルはどれだけ危険な目に遭った!?
ベルだけじゃない! チェレン君も危ない所だったというじゃないか!
プラズマ団の人達が間に合わなかったら、ベルもチェレン君も強盗にポケモンを奪われていたんだよ!?」
父親の言い分はもっともである。
ベルとチェレンはホドモエシティに到着後、ヤーコンに強盗達の捜索を押し付けられた。
最終的に強盗と遭遇し、応戦したもののベルとチェレンは敗北。
そう、敗北してしまったのだ。
実際にはこの強盗事件は最初から最後まで全てゲーチスが仕組んだ自作自演なのだが、プラズマ団以外がそのことを分かるはずがない。
真実を何も知らない父親は、ベルやチェレンが治安の悪化したイッシュ地方を危険を顧みず旅をして事件に巻き込まれた、と認識してしまっている。
「だけど……! だからってここでやめるなんて嫌!!」
「そうやって旅を続けてポケモンを奪われたらどうするんだい!?
それに、ベル自身だって危ないかもしれないんだよ!?
今回は勇敢なプラズマ団の人達が守ってくれたかもしれないけど!
次に襲われたらどうするんだい!?」
父親の言葉に反論する手段をベルは持たない。
マリネットに守ってもらう?
ここにマリネットは居ないのに?
仮に居たとしても、また嫌々従わせて言う事を聞かせるのか?
4番道路へのゲートの中でマリネットはベルの事を守りたくないとはっきり言った。
ベルがマリネットの意思を無視して何度も何度も守らせたから。
「……」
「誰かに守ってもらう事だって、難しいんだよ!?
マリネットはここに居ない、チェレン君はそれどころじゃない、ジムリーダーだってずっとついていることは出来ないんだから!」
反論の言葉が出てこない。
ただ、嫌だと言う事しか出来ない。
対処法を言う事すらできない。
ベルには力が無かった。
「ベルのお父さん! ベルは今、強盗に徹底的に甚振られて弱ってるのよ!
そんな話ベルが元気になってからで……」
「こんな状況になったというのに、ジムリーダーだって守ってくれなかったじゃないですか!
テレビのニュース見ていましたよ? ヤーコンさんはベルとチェレン君に全て丸投げして何もしなかったと。
事実プラズマ団が守ってくれなければベルは大事なポケモンを奪われていた!
それどころか、下手をすれば命までも……!」
ベルの父親の言い分に対する反論が出来ない。
子供は成長する物だから親は離れろ。
みたいな言い分も通用しない。
強盗の存在によって、下手をすれば命すら奪われかねないのだから。
ベルの父親の言い分が通ってベルは連れ帰られるかもしれない。
そんな時、救いの手を差し伸べる存在が居た。
「……では、プラズマ団と共に来ることで守るというのはどうでしょう?」
「え!?」
「何を言っているの! ポケモンを解放するとか言って演説して回っている集団とトレーナーのベルよ!?
考え方が真っ向から対立してるわ!
それなら、まだ私やジムリーダーの側に居る方が安全よ!」
「うむむ……」
ゲーチスの提案に驚きを隠せないベル。
アララギは当然猛反発。思想がまずトレーナーと相いれないプラズマ団。
今は善行を行っているが、どうにも信用できない存在だった。
というのも、プラズマ団が現れるのと時を同じくして強盗をはじめとした重大な事件が多発している。
この点がどうにも引っかかるのだ。
アララギだけでなく、ジムリーダー全員がそう感じていたのだが、実際にはそれ以外でも育て屋とバトルサブウェイの住民など、無関係そうな治安悪化事案も多い。
「確かに我々はポケモンの解放を訴えています。ですが……あくまで悪いトレーナーからの解放が主目的。
このお嬢さんのように正しい心の持ち主であればポケモンを解放せよと言い出す団員は居ないでしょう」
少なくともワタクシの派閥には仲間に引き込むために行動せよと厳命するので。
内心そう付け加えているゲーチス。
しかしNやその親衛隊と遭遇しないように配置するつもりなので実際問題ないと考えていた。
「パパ! プラズマ団の人達と一緒なら旅を続けても大丈夫!?
あたし旅を続けたいの! お願い!」
「ベル!? 駄目よ信用できないわ!」
ここのジムリーダーがアーティやアイリスならベルはこんなことは言わなかった。
そもそも想像以上に手強い強盗相手に、確実にジムリーダーが助けに入っていただろう。
しかし、ヤーコンは強盗に襲われた2人を助ける事が無かったため、信用できないと判断されてしまった。
アララギと異なり、ベルはアイリス以外のジムリーダーと個人的な交流を持っていない。
アーティは確かに助けてくれたが交流したとは言い難い。
アロエは話す機会もほぼなく、カミツレもジム戦以外で会話しなかった。
そして、プラズマ団の人達は自分やチェレンを助け出してくれた。
ヤーコンの件で若干信用できないジムリーダーと実際に最大の危機から助け出してくれたプラズマ団。
どちらを信用できるかは一目瞭然だった。
「うむ、そうだね。プラズマ団なら信頼できる。
アララギ博士、申し訳ないがわたしはここのジムリーダーを信用できない。
娘が危機に陥ったときに何をしていたのか、今も強盗が潜伏しているのに見つけられない。
すまないが……安心して預けられないよ」
「…………そうですか」
父親の言葉をはっきり否定することが出来ないアララギはその言葉を受け入れるしか無かった。
ジムリーダー全員が「プラズマ団は怪しい」と言ってると言ったところで、肝心のジムリーダーの信頼が破綻している以上説得は困難だった。
「ゲーチスさん、娘を預けても大丈夫でしょうか?」
「ええ。ワタクシが責任をもって預からせていただきます」
「ベル。この人たちと一緒なら止めないよ。気を付けてな」
「パパ……ありがとう! ゲーチスさん、よろしくお願いします!」
そして、ベルはゲーチスの用意したプラズマ団と足並みを合わせる形で旅を続けることになる。
マリネットとは関係破綻、ヤーコンは見殺しにしてきた、プラズマ団は助けてくれた。
誰を信じるか聞くまでも無いですよね、な話。