「帰って来たか……。
あまり時間経ってないはずなのに、随分久しぶりな気がするよ」
地下水脈の穴を後にしたあたしは、ライモンシティに帰って来た。
あたしの親は時間をくれるとは言っていたけど、いつまでくれるかは分からない。
アララギ次第ではあるんだろうけど、なるべく早く戻った方が良いはずだ。
ヤグルマの森は軽く調べたけど、4番道路とリゾートデザートはまた今度にする。
今はとりあえず、ライモンシティのジムに向かう。
カミツレを倒して、ジムバッジを手に入れる。
そのつもりで、あたしはジムに向かって歩き出した。
「うわっ、なんだこれ……!?」
ライモンシティポケモンジム。
挑むために訪れたあたしの目の前に広がっていたのは、広大な空間とその中を走るカプセルのような物体だった。
「どうっすか? 驚いたでしょう!?
このジムは見ての通り、ジェットコースターなんすよね!!」
「ジェットコースター!? それにしたって多すぎだろ!」
なんだよこれ!
カミツレのジムどうなってんだ!
「まあとりあえずはこれをさしあげるっす!」
「いつもの水か。で、このジムの進み方は?」
「このジェットコースタージムは、まずコースターに乗る!
次のプラットフォーム……足場ですね! そこでポイントを切り替える。
時として、倒した相手のコースターにも乗り、進む!
そうやって、ジムリーダーのいる場所を目指してくださいっす!」
またとんでもないジムだな……。
アーティの蜜の壁もそうだけど、見た目のインパクトに拘りでもあるのか?
「ちなみに、でんきタイプのポケモンはじめんタイプのわざが苦手なんすよ……」
「……それ、エモンガに効かねえじゃねえかふざけんな!
って苦情が殺到してたりしないか?」
確か通販サイトのゴローニャのコメントにそんなことが書いてあった。
「うっ……そうなんすよね……。自分そろそろ締められるんじゃないかって覚悟してるっす。
その通りで、エモンガには効かないんすよ……」
「……それを一緒に言わないと駄目じゃないか?」
あたしは予め通販で情報知ってたから分かってるけど。
……それを言わないから滅茶苦茶言われるんじゃねえのかよ。
さて、とりあえず乗るか……。
「……結構速いなこれ」
ジェットコースターなんだから当然なんだろうけど。
まあそれはともかく目の前の敵か。
「ごきげんよう! 私のエモンガ2匹が相手をします!」
「……そして、じめんタイプが有効って言いながらいきなりこれかよ」
開幕エモンガ持ちトレーナー。
これはもう完全にアウトじゃねえか。
どこがじめんタイプが有効なジムだよって言われるのも無理はない。
とりあえず敵は倒すけど。
ムーランド、やってこい。
「……あなた強すぎません?
この段階でその高レベル……」
「まあ、かなり鍛えたからな、あたし」
アヤさんのおかげで今のあたしはかなり強くなった。
少なくとも、カミツレに苦戦することはないはずだ。
皆まとめて倒してやる。
どのみちこいつらは誰も避けて進めないんだろうし、全員倒して進むだけだ。
ーーーー
ジェットコースターを乗り継ぎ、最深部まで来た。
そこに、カミツレは居た。
あの時、あたしの旅を中断した方が良いと言ってくれたジムリーダーが。
「あなた……マリネットさん。
ついに来たのね」
「よ、挑みに来たぜ」
思えば、こいつが旅を休んだらって言ってきたのが切っ掛けだよな。
「……あまりのスピードにクラクラしてない?
……って聞こうとしたけど、あなた、本当にマリネットさん?
雰囲気がまるで別物よ」
「まあ……おかげさまで」
休ませてもらって、通販でポケモン買って。
そのまま17番水道や18番道路まで行って。
そこでアヤさんに出会って、鍛えてもらって。
ここまでの人にひたすら使われ、ジムバッジを求めて先を急ぐ窮屈な旅と無縁の時間だった。
結局あたしの親が襲撃してきたけど、それまでの時間はあたしにとって救いになったよ。
「あなたを見たら教えて! ってアララギ博士に頼まれてるの。
でもそれは後ね。今はジムのリーダーと挑戦者。
愛しのポケモン達であなたをクラクラさせちゃうけど、覚悟は良い?」
「全力で、倒させてもらうよ。
それが、休めばどうかって言ってくれたあんたへの礼だって思ってるから」
もし先に進めって急かされてたらあたしはこうはなってなかった。
チェレンやベルと同じように、あのヒヒダルマに蹂躙されて、プラズマ団に助けられていたんだろうな。
「いい顔……でもバトルはどうかしら? エモンガ!」
「ポーク! 全力で行くぞ!」
手下もエモンガ。ジムリーダーもまたエモンガ。
多分エモンガの方がシママより多いんじゃないだろうかこのジム?
下手に触れるとまひさせられて不味いことになるから、先発はポークにした。
「……まさか、ここまで化けるなんてね。
エモンガ!『ボルトチェンジ』!」
「ポーク!『かえんほうしゃ』!」
鍛えに鍛えたポークはエモンガよりもさらに速い!
「……これは、流石に想定外ね、次! エモンガ!」
「もう一度『かえんほうしゃ』!」
あたしの実力は既に4つ目のジムの物じゃなかった。
カミツレのポケモンも手下のポケモンも、何もできずに倒されていく。
「ゼブライカ!
ドラマチックに勝つにはピンチが必要……でもこれは……」
「終わりだ!」
そして、ポークがゼブライカよりも早く動いた。
文字通りのノーダメージ。
一方的な、あまりにも一方的なバトルだった。
「クラクラさせるつもりが、あなたにしびれさせられたわね。
あなた、初めて会った時とはまるで別人。いい顔になったわ。
なんだか感激……これを……」
「4つ目のバッジ……」
これで折り返し、か。
あたしの実力は、結局どのくらいまで上がったんだろうな?
「それとこれは、わたしの好きな技……よければあなたも使って」
「このわざマシンは?」
「その『ボルトチェンジ』はね……相手に攻撃した後他のポケモンと入れ替わるの。
最も、他のポケモンが居ない時はそのままだけどね。
……と、ジムリーダーと挑戦者として話すのはここまで」
アヤさんが使ってたな……。デンチュラをシャンデラと入れ替えてたあの技か。
それはそうと、何かあったっけ?
「あなたを見かけたら連絡してくれ、ってアララギ博士から頼まれていたの。
ベルさんとチェレンさんがホドモエシティで強盗に負けて大変なことになりかけた。
チェレンよりも強いマリネットに対処してもらうから、マリネットを探してほしい。ってね」
「……あたしが身を寄せてた場所にあたしの親が襲撃してきて、そこで『しばらく見逃してあげる』みたいなこと言ってたんだけど、アララギはその後何も言ってきてないのか?」
「……そうなの?
相当忙しかったみたいで、連絡なんて何も……」
一応あたしの知ってる情報を話した方が良いんだろうか……。
「なあ、カミツレ。あたしも一応ホドモエシティの事件はある程度知ってるんだよ。
ある人の所に身を寄せてた時に、チェレンとベルが負けた、ヤーコンがほったらかしにしてた責任は大きい。って内容のニュースを見てたんだ。
だから簡単な事情は知ってる」
「……そう。あのヒヒダルマは、倒せそうな相手?」
「……今なら倒せると思う。けど、ここに来た直後のままこのジムを抜けたとしても、勝ち目はなかった。
あたしも、チェレンやベルと同じ目に遭ってただけだと思う。
信じてくれるかは別だけどさ」
アヤさんじゃないし、あたしの話を信じるなんてあまり期待してない。
それでも、この人は少し信用できそうな気がしてる。
「……マリネットさんでも勝てない、となると……3人を狙った意図的な物?
丁度来ているようだし、チャンピオンに報告した方が良いわね……」
「あたしは、今すぐホドモエシティに向かった方が良いのか?」
「アララギ博士はそう言うかもしれないけど……個人的には少し待った方がいい、と答えるわ。
ヤーコン……ホドモエシティのジムリーダーが汚名返上のためにかなりくまなく調べて回ってるもの」
「見殺しにしたって……マジなのか?」
「結果だけを見ればマジよ。……自分が捕まえた強盗が強くなかったから、新人トレーナーでも戦えると判断したの。
その結果はご覧の通り。最低でも見守らないと駄目だった。すぐ近くに待機しないといけなかったわ」
……もし強盗討伐に駆り出されても、助けてもらえるとは考えない方が良いな。
「一度アララギ博士に連絡だけしておくわ。ライブキャスターを借りても?」
「ああ、良いけど」
ライブキャスターを取り出したところで思い出した。
電源落としたんだったなあたし。
「……電源落としてたのね。連絡が付かないってアララギ博士が騒いでた理由が分かったわ。
じゃあ、借りるわね」
カミツレがライブキャスターでアララギに連絡を入れる。
『カミツレ!? マリネットじゃなくて?』
「カミツレよ。マリネットさんが挑戦しに来てバッジも勝ち取ったわ。
ホドモエシティが落ち着いたら送ろうと思うんだけど……そっちの状況は?」
『それどころじゃないのよ! ベルが! プラズマ団に守ってもらうって行っちゃったの!
それにチェレンもマリネットのお母さんが付き添ってくれてるけど様子が変だし……』
は? ベルがプラズマ団と一緒に行くって?
……まあどうでもいいけど。
守ってもらえるなら良かったじゃねえか。
『カミツレさん、マリネットそこに居ますか? 代わってください』
アララギとカミツレの会話にチェレンが割り込んできた。
カミツレからライブキャスターを受け取り、チェレンの顔を見る。
「チェレン……ちょっとやつれたか?
あんな事あったし無理ないんだろうけど……大丈夫か?」
『問題ないよ、マリネット。
それより、バッジを取ったのなら戦ってほしい』
「良いけど……どこでやるんだ?」
『5番道路で戦おう。着いたら連絡入れるから、ライブキャスターの電源は落とさないでくれ。
……待っていて結構待ちぼうけを食らったんだよ?』
「旅に無理矢理連れ戻されるのが嫌だったから落としただけで、流石にこの後すぐに落としたりはしねえよ」
久しぶりに見たチェレンは少しやつれた感じだった。
とは言っても、本人が問題無いと言うなら問題無いんだろうな。
話している感じはいつも通りだ。
言うだけ言ったらチェレンはライブキャスターを切って会話から抜けた。
『ちょっとチェレン!? この非常時に……』
「じゃあ、適当なタイミングでマリネットさんとチェレンさんを改めてホドモエシティに送るわ。
こちらは検問で警戒してるから2人の事は心配しないでね。
アララギ博士も気をつけてちょうだい」
カミツレは勝手に話を切り上げてライブキャスターを切ってしまった。
「ホドモエシティにすぐに行くわけじゃないわ。
少し休んでおいてね」
「ああ……準備しておくよ」
時間あるなら、少しライモンシティの中巡ろうかな?
確かエモンガの方がシママ系より1匹多かったはず。
お嬢様は全員エモンガ。お坊ちゃまはシママ。
カミツレはエモンガ2匹とゼブライカ。
これのどこがじめんタイプが有効なジムなのか……。
ゴローニャ、というか岩地面タイプが居たら超簡単なのに、こんな時に限ってクリア前は存在を抹消されたゴローニャ一族。