「あら……チェレン君、マリネットと戦うつもりなの?」
「はい。バッジを手に入れるたびにどちらが上か確かめるための戦いをしています」
ライブキャスターを持って戻って来たと思ったら出ていく準備をしているチェレン君。
チェレン君はどうやら5番道路に戻るみたいね。
そんなにあの出来損ないと戦うのが楽しみなのかしら?
あんなの、ちょっと強いトレーナーに師事しただけじゃない。
「通販でポケモン買ったのよね?
全て投入するの?」
「いえ……今回は確かめたいことがあるので、2匹だけ使います。
残りの枠は……ぼくがここまで共に戦ってきた相棒……だったポケモンです」
おまけにこんな事言い出してるわね。
馬鹿馬鹿しい、貴方の手持ちだったその4匹なんか全く役に立たないのだからさっさと捨ててしまいなさいな。
まああまり人格に影響が出る事をやりすぎると怪しまれるかもしれないし、旅の中での意識の変化に留める程度に調整していかないといけないのだけれど。
アララギだってチェレンがいつまでも元の人格に戻らないのを怪しんでいるもの。
今はまだ凹んでいるだけでごまかせるかもしれないけど、そのうち何か手を考えないといけないわね。
「確かめたいことって?」
「……マリネットとぼくの力の差、あのポケモン達を鍛える事で何とかなるのか、通販で購入したポケモンとどれだけ性能に違いがあるのか。その辺を調べたいと思ってます。
なので、今回は貴方が渡してくれたポケモンは使わない方向で行きたいと思います」
「そう……」
おまけに戦う理由が馬鹿馬鹿しいわどうしてそんな無駄な確認をしたがるのかしらね時間の無駄でしかないじゃないああでもライバルの対決は必要なのよね困ったわ。
まあ1日2日ずれる程度じゃ何も変わらないと思うけれど。
「安心してください、ぼくだって分かってます。
この4匹では何をやってもマリネットには勝てないことくらい。
…………それでも、心のどこかで、勝てると信じたいと言っているぼくがいるんです。
そのぼくの甘さを、消し去るために必要な儀式なんです」
「あら、反対はしないわよ。それより、行ってくるならなるべく早く行ってきなさい。
今はちょうどいいタイミングよ」
ベルが! ベルが! ってアララギが煩い今なら貴方が勝手なことをしてもそれどころじゃないもの。
ヤーコンという無能ジムリーダー、アララギと言う強引博士、どっちもめんどくさい相手ではあるけれど、このタイミングならチェレン君に絡んでいる暇はないわ。
ベルがプラズマ団を頼ってしまったのがそんなにショックだったのかしら滑稽よねえ。
それにしてもあんな無能の何がそんなに大事なのか分からないわ。まだマリネットの方が評価に値するのって相当よ?
せっかくの才能を棒に振る守ってちゃんなお荷物のくせに正義感だけは立派なのよね滑稽すぎるわ。
「ねえ……チェレン君。君は今回の事件の事どう感じた?」
「どう感じた……とは?」
「ジムリーダー、役に立たないって思わなかった?
こんなのが街を守ってるなんて大丈夫なのか?
って感じたりしなかった?」
「……多少は。とは言っても、ぼくは強くなりたい。
必要なのであれば力を貸しますよ」
そんなに憎んでないのかしらね。
マリネットみたいに元から嫌だってタイプじゃないものねえ。
オーベムで意識改革をするべきか、それとも……。
「ねえチェレン君。チャンピオンにはイッシュ地方を管理する権限も与えられるの。
チェレン君はそれを使う? そんな物は必要無い?」
「イッシュ地方を管理する権限……ですか?」
首をかしげるチェレン君。
もしかして、知らないのかしら?
アデクとかいう無能は遊び歩いてるだけだし、仕方ないのかもねえ。
アララギからそんな話はしないでしょうし。
万が一にでも子供達がイッシュ地方を管理したいとか言い出したら困るもの。
「……初めて聞きました。チャンピオンは、望めばイッシュ地方を手に入れる事も出来るという事ですか?」
「ええ、一番強いトレーナーがその地方を統べる。
と言っても、イッシュに限らずこの権利が子供達に行使された事例は無いわね。
だって誰もこんな権限をもらえることは教えないのだから。大人達の自由に動かしたいじゃない?
貴方達のような強い子供達は武力装置として都合良く働いてもらう、自分達は安全な環境で平然と管理を行う……。
これが汚い大人達のやり方よ」
実際には子供達の方からチャンピオン就任を辞退してたりするケースもあるけれど。
チャンピオンとしてその地方を管理する=自由な冒険の終わりなのだから。
「……イッシュ地方をぼくが管理……突然すぎて話についていけませんね……。
とは言え、仮にあったとしてもぼくはそんな権限必要ありません」
「……オーベム? 『教育』してあげて」
ああ、もったいない子ね。
仕方ないわ、チャンピオンになる理由を新しく作ってあげないと。
ヤーコンのせいでこんな目に遭った事に対する怒りと、私の話を聞いたことでイッシュを変えられるって認識をした事。
更にマリネットがジムリーダーに雑用係させられてた出来事から、自分がチャンピオンになってこのふざけたシステムを変えないといけないって使命感のような物を持たせる方向に調整しようかしら。
これならアデクの姿を見た時にも良い反応が見られそうだわ。
「……はっ、すみません。また、ぼーっとしてしまって」
「良いのよ。色々ありすぎたものね。
それよりチェレン君、さっきの話聞いてどう思った?」
オーベムで意識改革してあげたけど、どうかしら?
私の望む答えを返してちょうだい。
「おばさん……チャンピオンがイッシュを管理できるというのは……本当ですか?」
「何かやりたい事があるの?」
「……マリネットの事もですが、ジムリーダーはぼくたちの事を都合のいい駒としか見ていないんでしょうか?
自分達に力があるのに新人トレーナーに事件解決を丸投げする、こういう事が起きても謝罪にも来ない、無責任にも程があります」
うんうん、良い顔になったわね。
その怒りと決意の混ざった目、私好みよ。
「そうよね……本当に無責任。
もしマリネットが襲われてポケモンを奪われていたらと思うと……。
チェレン君は会わなかったけど、ベルのお父さんもベルが心配でわざわざ駆けつけたのよ?」
……正直どうでもいいわね。
あんな反抗的な出来損ないがポケモン奪われた所で。
まあチェレン君の前では心配している素振りをしておかないと不自然よね。
しかし、教育のためとはいえオーベムばかり頼るのもねえ。
あの出来損ないにこちらから会うつもりなんてないけれど、万が一遭遇したら面倒なことになりそうだし。
「チャンピオンを目指す理由が1つ増えました。
ぼくの生きている実感だけじゃない、このイッシュ地方の腐敗を正さないといけない。
新人トレーナーに、それも子供に事件解決を丸投げしたり危険な相手と戦わせているジムリーダー。
それを良しとするイッシュ地方。変えないといけない」
「素晴らしい事だわ、チェレン君。
今後チェレン君のような目に遭うトレーナーを減らすためにも、イッシュ地方の政治を改革しないといけないわね」
そしてそのタイミングこそが、私がイッシュを支配する記念日になるわ。
チェレン君にオーベムを渡し、根こそぎリーグ関係者やイッシュ上層部の記憶を書き換えて洗脳していく。
頃合いを見計らって私が役員の大多数やチェレン君による推薦によってイッシュ新政権に入って、事実上のトップに立つ。
その頃にはオーベムによってイッシュの上層部やリーグ関係者は全員私のイエスマンに作り替えられている筈。
そうしてイッシュ地方の政治面を全て私が支配する。
その上で、若く未来のあるチェレン君がリーグの『顔』になれば雰囲気も問題無いでしょう。
武力担当のチェレン君、政治面担当の私と言う形に持っていく。
そしてチェレン君も最終的に私のマリオネットにしてしまえば……。
ふふふ……誰にも、邪魔はさせないわ。