選択権無しのマリネット   作:ルスト

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44話 久々のチェレン

 ジム戦の後、カミツレは「5番道路の様子を見に行くわ」と先に行ってしまった。

 そしてあたしはチェレンから連絡が来るまでライモンシティを巡ってみた。

 『かいりき』の秘伝マシンや『たいようのいし』を貰った。

 

「……かいりきは使いどころありそうだな。

 ムーランドのとっしんって外れること多いし、入れ替えるか」

 

 当たると強いんだけど当たらないと意味がない。

 ここまで頼りになったけど流石に交換の時期だな。

 そんなことを考えてると、ライブキャスターが鳴り出した。チェレン着いたのかな。

 

 

 

『すまないマリネット、待たせたね。

 5番道路で戦おう』

「分かった、今行くよ」

 

 チェレンとのポケモン勝負は久しぶりだ。

 ……と言っても、悪いけどあの時のチェレンのポケモンじゃあたしとは勝負にならないと思うぞ?

 今のあたしは、アヤさんに鍛えてもらってかなり強くなったんだから。

 そう考えながら、ゲートを抜けた。

 

 

 

「チェレン、久しぶり」

「ああ、久しぶりだね。マリネット、きみは一体どこに行っていたんだ?」

 

 実物のチェレンが出迎えてくれた。

 随分久しぶり、そんな気がしてくる。

 

「あたしは旅を中断してカラクサタウンの方に行ってたんだよ。

 17番水道を抜けて、その先に進んだ。

 連絡されたくなかったから、誰にも言わずに向かったんだよ」

「……ずいぶん遠い所に寄り道したんだね。

 連絡されたくなかった、と言うのはアララギ博士かい?」

「聞くまでもないだろ?

 案の定、あたしをホドモエシティの強盗相手に投入しようとしてたんじゃないか。

 カミツレから聞いたよ」

「……ぼくたちはなるべくジムリーダーに協力して正義の味方として戦うべきだ、がアララギ博士の考え方らしいね」

「迷惑すぎるっての。あたしの生き方を勝手に決めようとすんな、あたしの親と同じじゃねえか。

 ……でもホント、大変だったなチェレン」

 

 あたしの代わりにあたしが押し付けられるはずだった役割背負ったんだし。

 その結果がアレなのがなあ……。

 

 

 

「マリネットが嫌だと言っていた理由が少し分かったよ。

 あんなのがジムリーダーとはね……。

 ぼくがジムリーダーと関わりを持ったのは、アロエさんに言われて博物館を守ったことだけだったから知らなかった」

「あたしはヤーコンの事は知らないけど、ニュースで聞いた感じアーティ以上のろくでもない奴なんだって事は察しがついてるよ。

 責任を放棄したアーティだな」

「随分嫌ってるね。まあ無理も無いか」

「あんな扱いされて嫌うなって方が無理だよ。

 チェレンが今回やらされたように、拒否権も何もなく『強盗を捕まえる手伝いをしろ』なんだから」

「……おかげさまで、ぼくがチャンピオンにならないといけない理由がもう1つ増えたよ。

 イッシュをあんな連中に任せておけない。

 権力を振りかざしてぼくたち新人を危険に放り込むジムリーダー、あまりにも無責任すぎる」

 

 

 

 なんか、チェレンの目時々ヤバくないか?

 気のせいか……?

 ヤーコンに怒ってるからそう見えるだけなのかな?

 

「まあ、それはそうと。ぼくと戦ってくれ。

 ボルトバッジを持つ者同士、どちらが強いか確かめる!

 というか、そろそろ勝たせてもらうよ」

「……悪いけど、あの手持ちのままだとかなり一方的になるんじゃねえか?

 ま、勝負は勝負、やってやるけど」

 

 さ、戦おうぜ。

 

 

 

「レパルダス!」

「ムーランド!」

 

 上から全部ねじ伏せる。

 全滅するまで『かいりき』で攻める。

 フタチマルも、バオップも、ハトーボーも。

 全員一撃で沈めていった。

 アヤさんに鍛えてもらったあたしと、何もしていないであろうチェレン。

 力の差は歴然だった。

 

 

 

「……やっぱりか。このポケモン達では勝てない……。

 マリネットとの力の差も、ここまで広がってるなんてね……」

 

 チェレンの表情は現実を認めたくないような、納得と諦めが混ざったような、不思議な物だった。

 

「これがあたしの修行の成果だよ。

 チェレンとベルが事件に巻き込まれていた間、ずっとある人に鍛えてもらってたんだ」

「……やはりこのポケモンが必要になるか?

 マリネット、ぼくの手持ちはまだ尽きていないよ」

 

 

 

 5匹目……って、なんだこのポケモン?

 大きな青いカエル……?

 それにこの強さ……。

 まさかチェレン、お前……。

 

「その反応、きみも通販でポケモンを買ったんだろう?

 ぼくたちは『なみのり』を使えない。

 つまり、17番水道の方に行くには通販でポケモンを買うしかない。

 まあ、マリネットが買ったのは恐らく移動用のポケモン。

 ぼくが買ったのは……戦闘用のポケモンだ!」

「マジか……」

 

 

 

 チェレンが通販でポケモン買うようになるなんてな……。

 

「ガマゲロゲ! あの強盗にぶつける前の初陣だ! きみの力を見せてみろ!」

「ムーランド! 気を引き締めろ!

 さっきまでの奴とこのカエル! レベルが違う!」

 

 

 

 チェレンはガマゲロゲに見せつけるようにバッジを掲げる。

 戦闘用のポケモンってそうやって従えるのか……?

 

「『あまごい』!」

「『かいりき』!」

 

 ガマゲロゲが雄たけびを上げると、すぐさま大雨が降り始めた。

 ……この雨じゃ、炎はまともに使えないんじゃないか……?

 

「そう、あのヒヒダルマのフレアドライブ……。

 あまごいで弱めてやる。それに……」

「なっ、速い!?」

「このガマゲロゲの特性は『すいすい』だ!

 雨を降らせ、上がったすばやさを活かして一方的に蹂躙してやる!

 何匹出そうと関係ない!

 ……今のきみはその作戦の実験台だマリネット!

 ガマゲロゲ!『だくりゅう』!」

「しかも威力が高い……!

 ムーランド行けるか!? 『かいりき』で反撃だ!」

 

 

 

 超高速。更に2発耐えられるか怪しい威力の攻撃。

 まさかこんなポケモン買ってくるなんて……。

 ポークなんか出した瞬間に倒される!

 

「……ウォンッッ!!!」

「ゲロゲェ!?」

「……運がいいね、マリネット。急所勝ちを拾ったか」

「完全に偶然だけど……大変なことになる前に救われたのか」

 

 もし倒せなくてムーランドを倒されたら……ブルンゲルをぶつけるしか無かっただろうか。

 同じみずタイプなら多少は有利になるはずだ。

 

「マリネット、悪いけど6匹目がいるんだ。

 ……キングドラ!」

 

 

 

 2匹も買ったのかよ!?

 しかも、なんだこいつ……?

 タツノオトシゴ……のような、そうじゃないような……。

 見たことねえ……。

 

 

 

「このポケモンはキングドラ。イッシュの海の底に潜んでいるらしいよ。

 ……お金を払えばこんな強力なポケモンでも手に入る。

 通販は実に素晴らしいね」

「ムーランド、まだやれるか!?『かいりき』だ!」

「残念だが行動はさせない。キングドラ『ハイドロポンプ』」

 

 消防車の放水かと言いたくなるような激流が一瞬でムーランドを飲み込んで戦闘不能に追いやった。

 ……まさか、そいつも『すいすい』なのか!?

 

 

 

「ふふ……よく分かったよ。これならぼくはあの強盗を仕留める事が出来る!

 通販の力を借りればぼくはマリネットだって超えられる! 確信できた!

 マリネット、きみは終わるまでホドモエシティのポケモンセンターで待っていてくれて構わないよ」

「……その気持ちはありがたいし任せられるなら任せたいけどさ、あたしだってまだ手持ち居るからな?

 バトルは終わってないぞ? ブルンゲル、任せた」

 

 『どくどく』からの『たたりめ』で攻めよう。

 

「無駄だよ。雨といのちのたまキングドラの『ハイドロポンプ』を受けきれるポケモンなんて居ない!

 半減だろうと関係ないよ。キングドラ『ハイドロポンプ』で吹き飛ばせ!」

「ブルンゲル!まずは『どくどく』!」

 

 キングドラの放つ激流がブルンゲルを直撃し……すべて吸収された。

 

「……マリネット。きみはどれだけ運が良いんだ?

 砂嵐が吹き荒れる4番道路で待ち構えてみたら『すなかき』ハーデリア……。

 今回強盗対策用の水ポケモンをマリネットで試したら『ちょすい』ブルンゲル……。

 ポケモンくじを引いたら大当たりが引けるんじゃないかい?」

「偶然って怖いよな……」

 

 狙ったわけじゃない。それだけは断言できる。

 その後、ロクな攻撃が出来ないキングドラをたたりめで沈めてブルンゲルが勝利した。

 

 

 

「あたしの勝ちだな」

「……そうだね。どうしてここまできみに勝てなかったのか、現実を理解できた。

 割り切れそうだよ、ありがとうマリネット」

 

 正直、通販の力を甘く見てた。

 チェレンが元から使っていた最初の4匹と通販で仕入れたっていう2匹、強さが別次元だ。

 しかも強盗対策の為って言ってたけど「雨」でフレアドライブの威力を下げ、更に「すいすい」で行動すら許さず、上から制圧するつもりだったみたいだ。

 たった2匹でこれかよ……。ヤバいな……。

 アヤさんの特訓があっても苦戦しかけてたぞ……?

 ブルンゲルがみずタイプを受け付けなかったから良かったけど……。

 

 

 

「……こうして見ると、本当に圧倒的、ね。チェレンさんもマリネットさんも。

 バッジ4個の戦いじゃないわ」

「カミツレ? 見てたのか?」

 

 先に見に行くとか言ってたけど。

 

「少しね。2人ともバッジ4個とは思えない強さだったわ。

 さあ、行きましょう」

 

 

 

 カミツレについていくあたし達。

 その先では……。

 

 

 

「おお! カミツレではないか!

 フェスティバルはよいな! 人生は楽しまねばな!」

 

 こんな時だってのに祭りでもやってるのか、様々な恰好の奴がたむろしていた。

 その一団から赤い髪の変なおっさんが出てきてカミツレに話しかけてきた。

 ……誰だよコイツ?

 

「……この人は?」

「カミツレの知り合いか?」

「アデクさん、イッシュ地方のチャンピオンよ」

「こいつが?」

「チャンピオン!?」

 

 

 

 おいおい、チャンピオンがなんでこんなとこに居るんだよ?

 

「どうしてチャンピオンが、こんなところで遊んでいるのです?

 それも、ホドモエシティがあんな状況だというのに」

「ホドモエシティで強盗が暴れてるのをどうにかするために来た、って雰囲気でもなさそうだよな。

 フェスティバルがどうとか言ってたし。チェレンの言葉通りか?」

 

 チェレンの言う通り遊んでるのか?

 そんな奴がチャンピオンで大丈夫なのかよ?

 しかもホドモエシティの強盗捕まってないのに。

 

 

 

「……聞こえたが、なんとも手厳しい若者達だな。

 はじめまして、わしの名前はアデク。イッシュポケモンリーグのチャンピオンだよ。

 ちなみに、遊んでいるのではなく旅をしているのだ! イッシュの隅々まで知ってるぞ」

「ふーん……」

 

 あたしなんか自由もほとんどない、旅とは名ばかりの雑用マラソンをさせられてきたってのに。

 チャンピオンは自由に旅ができるのか?

 

「……自分はカノコタウン出身のチェレンといいます。

 トレーナーとしての目的はチャンピオンですけど」

「うむ! 目的を持って旅することは素晴らしい事だ。

 それで、チェレンとやら。チャンピオンになってどうするつもりかね?」

「……強さを求める、それ以外になにかあるのですか?」

「あたしとチェレンの最終目標は違うけど、強さを求める以外に何があるんだよ?

 チャンピオンなんか間違いなく一番強いし一番強くなくちゃいけないだろ?」

 

 弱いチャンピオンの話になんか誰が従うんだよ。

 結局力が全てじゃないのか?

 ホドモエシティの件だって。

 

 

 

「マリネットの言う通りです。一番強いトレーナー、それがチャンピオンですよね」

「ふむう、強くなる……強くなる、か……それだけが目的でいいのかね?」

「何言ってんだよ? 強さが、というか力が無いからいいように使われるし従わされるんだよ。

 何を目的にするにしろ、力が無いと駄目じゃないか」

 

 あたしはかなり強くなった。

 けど、まだ足りない。

 

「いや、もちろん君達の考えを否定しているわけではない。

 わしはいろんな人たちにポケモンを好きになってもらう、そのことも大事だと考えるようになってな。

 彼女たちと遊んでみれば少しは分かってもらえるかもな」

 

 ……なんなんだよこいつ。

 マジで遊び歩いてるだけの間抜けなんじゃねえのか?

 

 

 

「…………くだらない。これがチャンピオン?

 無責任に遊び歩いて、事件が起きていても我関せずで。

 いろんな人たちにポケモンを好きになってもらう事が大事、だって……?

 そういうことか、あの人の言う通り、ぼくが……」

「チェレン?」

「……なんでもないよ」

 

 時々妙な雰囲気になるんだよな……やっぱり相当堪えたのかな。

 

 

 

「君たち2人で彼女たちとポケモン勝負をしてみないか?」

「はあ?」

「……正気ですか?」

 

 チェレンは通販で買った高レベルポケモン。あたしはそれと同ランクのポケモン。

 それでこのガキ2人を倒せって? 自信潰すだけだろ。

 

「おーい、お前達。ちょっとおいで」

「そしてあたし達の意思は当然のように無視、と。流石このイッシュのリーダーだけあるな……」

「……なるほど、上がこれだからジムリーダーも腐り果てているわけだ。

 よく分かったよ……」

 

 上がこんなのじゃ、ジムリーダーも格下のあたし達は体よくこき使うわけだ。

 なんせチャンピオンのやり方を真似しているだけだから。

 アデクがこんな風に振舞ってるんだから、アロエやアーティだって同じように振舞うよな。

 

 

 

「この2人がお前達と遊んでくれるぞ。全力で遊んでもらえ」

「……わかりました。じゃ、その前に……マリネット」

「回復してくれるのか?」

「ああ。ムーランドを倒したからね。

 ……では、いきますよ」

 

 

 

 園児2人がハーデリアを出した。

 しかし、レベル差がありすぎる。

 威嚇1回であたしのムーランドの攻撃に耐えられるわけがない。

 チェレンのキングドラのハイドロポンプに耐えられるわけがない。

 1回の行動も許さず、瞬殺した。

 

「あたしのポケモンすごくかわいかった!」

「ぼくのポケモン、いうこと聞いて戦ってくれたよ!」

 

 ……まあこんなガキならトラウマにはならないか。

 なんで負けたのかも理解できないだろうし。

 

 

 

「おまえたち! 勝てなかったがいい勝負だったな!

 ポケモンも嬉しそうだったし」

 

 ……ノーダメージ完封勝利を決められてるのに「いい勝負だった」は嫌味にしか聞こえねえ。

 でもポケモンが嬉しそうだったって言ってるのは事実っぽいな。

 あの園児やハーデリアのメンタルは鋼で出来てるのかね?

 これだけの力の差を叩きつけられたら、あたしだったらあんな風には感じられない。

 嘘だろ……って呆然とするしかないと思う。

 

 

 

「さて若者よ。君たちのように強さを求める者がいれば彼らのようにポケモンと一緒にいるだけで満足する者もいる。

 いろんな人がいるのだ、答えもいろいろある。

 君たちとわしの考えるチャンピオン像が違っていてもそういうものだと思ってくれい!」

 

 少なくとも、相容れない考えだなとあたしは思った。

 チェレンは何も反論していないが……何かを耐えるような表情だ。

 目がやっぱり怖いな……。

 

「ホドモエの跳ね橋はあっちよ。見送りをしてあげるわ」

「あ、ああ……」

 

 あたしはそのままカミツレに案内されてホドモエの跳ね橋の方に歩いていく。

 チェレンは道を知っているからかスタスタ歩いていく。

 去り際、ぶつぶつ何か言っているのが聞こえた。

 

 

 

「失望したな……あんなのが『チャンピオン』か……。

 だからジムリーダーも……あんな風に……。

 ぼくがチャンピオンにならないといけない、ぼくが……」

 

 ……やっぱりあたしの気のせいじゃない、よなあ?

 チェレン、なんか変じゃないか……?

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