選択権無しのマリネット   作:ルスト

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不安要素

「どうしてチャンピオンがこんな所で遊んでいるのです? か……。

 ううむ、手厳しい若者だったな」

 

 マリネットやチェレンが去った後、残されたアデクは先程のやり取りを思い返していた。

 アララギ博士が図鑑を託したトレーナーのうち2人。

 マリネットとチェレン。

 どちらも、自分がホドモエシティの件について動いていないことに呆れを隠さずにいた。

 

 

 

「各街の自治はジムリーダーに任せているし警察も居る。

 ポケモンリーグは今回の件に対する対処はヤーコンに任せれば問題ないと判断した。

 故にわしは出なかった。

 ……そう伝えたところで、当事者としては納得はしないだろうな。

 チェレンは強盗にポケモンを奪われかけていた被害者なのだから」

 

 世間の話題はもちろん知っていた。

 ヤーコンの大失態。

 ホドモエシティを騒がせていた強盗を一度捕えたものの、逃走させてしまった。

 その捜索に、偶然ホドモエシティにやって来たチェレン・ベルを採用。

 ジムへの挑戦権を報酬として従わせ、捜索に協力させる。

 ここで無事に確保出来れば問題はなかった。

 実際には強盗達の罠により、チェレンとベルは大敗北。

 プラズマ団に救出される結果となってしまった。

 

 

 

「プラズマ団……妙に胸騒ぎが消えんのだ。

 確かに傷ついたポケモンを保護したり、悪人を懲らしめてポケモンを助け出したりしており善人の集まりに見える。

 だが……チャンピオンの勘が告げておる。奴等は本性を隠しておると……」

 

 プラズマ団が本格的に活動を始めたのと時を同じくして、イッシュ各地で治安の悪化が始まった。

 プラズマ団の思想に感銘を受けた、等と主張する強盗にポケモンを奪われた、という被害報告があちこちで挙がっている。

 確かにポケモンを物のように扱っているトレーナーも少なからず存在する。

 しかし、トレーナーである以上多くの人はポケモンを大切なパートナーとして見ているのだ。

 プラズマ団が主張するまでもなく、人とポケモンは助け合ってやっていける。

 アデクはそう信じていた。

 

 

 

「それに……捕えた犯罪者を逃がしている警察が居るのではないか?

 という報告もある。実際護送中に警察もろとも行方不明になった事件がいくつもあるのだ。

 警察に確認したらそもそも情報自体が無かった事もある。

 内通者が入り込んでいるのでは? と警察を調べる事態にまで発展しておる」

 

 実際にはそんな証拠は出てこなかったので警察が犯罪者を逃がしているという心配は杞憂であった。

 とはいえ、リーグ側としては疑心暗鬼に陥りかねない状況になっていたのだ。

 なお、実際にはプラズマ団のなりすました警察が強盗達を護送しており、誰の目にも映らない場所で解放して着替えさせ、改めて別の場所に任務で送り出していた。

 マリネット達の前でヒウンシティでプラズマ団が強盗を取り押さえ、警察に引き渡していたが、完全なマッチポンプでしかないのだ。

 本物の警察ではないため、警察をいくら調べても証拠はでてこない。

 

 

 

「アデクさん、2人を見送りました」

「うむ。カミツレよ、お前の目から見て2人はどうだ?」

 

 そこに戻って来たカミツレ。

 マリネットとチェレンはホドモエの跳ね橋を渡っており、ホドモエシティには間もなく到着するだろう。

 

 

 

「チェレンさんと話したことは実は無いの。挑戦に来た時の会話だけ。

 マリネットさんとは少し話をしたわ。

 その時に感じた物は……かなり精神をすり減らしていた感じだった」

「……ふむ」

「マリネットさんは私と話した後、一度旅を中断して先に進むのを止めているわ。

 恐らく、ここまでの旅路がかなり精神的に辛いものだったのでしょうね」

「アロエやアーティ、アイリスから聞いてはいるが……」

 

 

 

 マリネットが偶然そこに居た為、博物館の骨が盗まれた事件の際にアロエとアーティに駆り出されたこと。

 ジムに挑戦しようとした瞬間にアーティが飛び出してきて、有無を言わさずベルのポケモン奪還のための戦力にされたこと。

 アララギ博士からの報告ではあるが、ベルによって強盗相手に戦わされたこともあるらしい。

 ジムリーダーが関係ないベル絡みでも強盗に2回遭遇しており、片方……夢の跡地の件はマコモも後にベルから聞いており報告していた。

 

 

 

「本人の言葉から考えると『自由に旅がしたい』『縛り付けられたくない』『強制されたくない』『巻き込まれたくない』意識が強いわ。

 それでも、実力が高いから居合わせる度に引っ張り出されているようだったけれど……」

「……そう考えると、彼女にホドモエシティの強盗事件のタイミングが重ならなかったのは幸運だったか……」

 

 ヤーコンの態度は明らかにマリネットの逆鱗に触れる物だった。

 ただでさえここまで精神をすり減らして旅をしていたマリネットにそんな態度で協力を迫れば、マリネットはますます反発を強めただろう。

 それでもこれまで通り力と権力で従えることは出来ただろうが、後々どんなことになるか分からなかった。

 その結末が強盗に返り討ちにされるものだったのでなおさらである。

 

 

 

「アララギ博士からは必要なら積極的に協力させてあげて!

 あの子は頼りになるから! と言われているが……」

「マリネットさんに頼るのは、本人が望まない限り最後の手段にした方が賢明ね」

 

 ジムリーダー達がマリネットを即座に頼ったのはアララギ博士の推薦も大きい。

 図鑑を託すほどのトレーナー、しかもジムバッジを順調に集めていっている将来性抜群の逸材だった。

 その上状況が急を要する物ばかり。

 逃げられる前に急いで捕まえないといけない案件だったのだ。

 博物館の骨の窃盗事件とベルのムンナ強奪事件、どちらも警察の到着を待っている時間は無かった。

 その結果、マリネットの精神をすり減らす結果になってしまい、ジムリーダーは面倒事を押し付けてくる相手だと認識されてしまったのだが……。

 

 

 

「アララギ博士は強引な所があるが……。

 マリネットは人に無理矢理従わされる事を嫌う性格となると……まるで水と油だな。

 極力彼女には頼らずに済ませたいものだ」

「アララギ博士からマリネットの母親に依頼を出して連れ戻そうとしたみたいね。

 マリネットさん本人が話していたわ」

「マリネットの母親……か……」

 

 マリネットの母親とアデクは直接の面識がない。

 しかし、アララギ博士とのやり取りの中で、ライブキャスター越しに一度写真を見たことがある。

 アララギ博士はあの女性を強く信頼しているように見えた。

 しかし、アデクは明らかに異様な雰囲気を感じていた。

 長年トレーナーをやっている身ゆえの歴戦の勘、とでも言うのだろうか。

 マリネットの母親はとてつもない怪物なのではないか?

 自分の経験と勘が激しく警鐘を鳴らしている。

 一見優しい笑みを浮かべているのに、あの笑みが邪悪なものに見えてならないのだ。

 

 

 

「恐らく……アデクさんの警戒は正しい。

 マリネットさんは『身を寄せてた場所にあたしの親が襲撃してきて』『しばらく見逃してあげる』みたいな事言われたと話していたの。

 その場では特に深く尋ねなかったけど、普通の母娘関係なら『襲撃』なんて言葉使うかしら?

 よくて『連れ戻しに来た』『探しに来た』って言わない?」

「確かにな……」

 

 カミツレとの話の中で、マリネットは『あたしの親が襲撃してきて』と言っていたのだ。

 母娘の関係が良くないにしても襲撃などという言葉使うだろうか?

 

 

 

「仮に、マリネットの母親が悪人であるというわしの勘が当たっているとすれば……チェレンの置かれている状況は非常に不味いのではないか?

 アララギ博士は彼女にチェレンのケアを任せたのだろう?」

「……そう聞いているわ」

 

 もしマリネットの母親が悪人であるなら、ケアという名目でチェレンに近づけるこの機会を逃がす筈がないのではないか。

 そう考えられた。

 

 

 

「……そういえば、さっきの事なのだけど」

「カミツレ、気づいたことがあるなら全て話してくれんか?」

「マリネットさんは時々、チェレンさんの言葉や反応に首を傾げるような仕草をしていたわね。

 話したことが無いわたしにはチェレンさんの普段の特徴などは全く分からないけれど……どう考えます?」

「なにか、普段と違うような所があったのかのう……」

 

 カミツレの疑問は正しい。

 マリネットとチェレンはなんだかんだで10年以上の付き合いがあるのだ。

 マリネットの母親はオーベムにチェレンの記憶を書き換えさせ、チャンピオンになってイッシュの政治を改革させる方向に誘導させた。

 ……が、当然ながら記憶が変われば言動や性格にも多少の影響が出る。

 普段の言動や性格は、積み重なった記憶と経験から出来上がる。

 そのため、証拠を残さず、違和感を全く生じさせずに記憶の書き換えを行うのは不可能に近いのだ。

 その事で生じた『こんな性格だったっけ?』『こんな事言う奴だっけ?』という違和感。

 マリネットは5番道路でのやり取りの中でそれを感じていた。

 最も、思っていただけで言及はしていなかったが。

 

 

 

「何とかしてやりたいところだが……ジムリーダーの信頼が地に落ちた今、誰を当てればよいものか。

 それに、わしの姿を見て随分辛辣な反応じゃったからな……」

「そもそも、マリネットのお母さんが自分以外にチェレンのケアをさせる事を許すかも分からないわ。

 この話はあくまで最悪の想定でしか無いけれど……」

 

 チェレンとマリネットの母親。

 こちらもこちらで厄介な問題となっていた。

 最悪の想定がもし当たっていた場合、図鑑を託された少年を手遅れになる前に助け出さなければならない。

 

 

 

「そうじゃカミツレ、バトルサブウェイの住民たちは暴れたりはしておらんか?」

「今のところは不気味なくらいに静かね……。

 いつもトラブルが起きていたのだけど、マリネットさんが旅を中断した辺りからぱったりと止んだわ。

 ライモンシティは不気味なくらいに平穏そのもの」

 

 プラズマ団とバトルサブウェイの住民の激突はマリネットが育て屋の老人に盾にされた日を境に起きていない。

 大事にしたくなかったプラズマ団が手を引いたのだ。

 そして、プラズマ団が犯罪担当含めて手を引いたためにライモンシティは現在イッシュで唯一の安全地帯となっている。

 唯一残っている脅威……バトルサブウェイの住民。

 彼らは厳選の邪魔さえしなければイッシュの地元民には見向きもしないからである。

 

 

 

「アデクさん、大量投棄されているポケモンの件は……」

「無論把握しておる。しかし、犯罪の対処に追われて保護の手が回らないのが現実よ……。

 現状プラズマ団が完全に主導権を握っておるな」

「……プラズマ団が絡んでいる?」

「その可能性が高い、とわしは見ておる。

 奴らの保護活動先で大量の捨てられたポケモンが見つかる、というケースが多いのだからな。

 あまり考えたくはないが、自分達でポケモンを捨てて保護しているのではないか? と疑ってしまう。

 無論、バトルサブウェイの住民が原因のケースもかなり多いだろうが……」

 

 この点もプラズマ団があまり信用できない理由の1つだった。

 何故か彼らの向かう先で大量の捨てられたポケモンが見つかるのだ。

 ポケモンを捨てている人々と裏で繋がっているのでは? と疑いを抱いているが、決定的な証拠はない。

 

 

 

「問題が山積み……だのう。

 イッシュ地方はいつの間にここまで不味い状態になったのか……」

「プラズマ団、各地の犯罪者、バトルサブウェイの住民、大量に捨てられるポケモン……。

 それに、マリネットの母親……」

「今は、少しでも出来ることをしなければならんな……」

 

 

 

 アデクとカミツレの会話は、イッシュの現状がいかに不味い状態になっているのかを改めて実感させるものだった。




そもそも原作時点で「BW3年前からプラズマ団にポケモン奪われた」事件が発生してたりしてる(ヒュウはプラズマ団と明言しているので制服着ながら強奪やってるの明らか)のにプラズマ団が逮捕されてる形跡無いという。
というか、ゲーチスも七賢人も逮捕→逃げられた!の時点でイッシュ警察やリーグの能力はお察し。

そんなところに廃人、ママ、変装する知能をつけたプラズマ団、非協力的なマリネット、大量投棄される孵化余りを混ぜたこの話。
……詰んでる?
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