2番道路に入ってすぐのところで、突然ライブキャスターが鳴りだした。
ちっ、煩いな……。誰だよ……。
『マリネット! 私よそっちはどう!?
そろそろポケモンと仲良くなってきて、旅の楽しさを噛み締めている頃かしら?
喜びなさいマリネット! 感謝しなさい私とアララギに!
私達のおかげで貴方は素晴らしい経験が出来るのよ!
ああそうそう! ちょっと用があって連絡したのよ!
すぐそこに行くから一度ライブキャスターを切るわね!
2番道路の入り口でしょ! そこでちゃんと待ってなさい!』
……あたしは結局コレから離れられないのかな。
そう考えると、嫌な気分になってきやがる。
アララギ、毒電波、ときて次はコレか……。
タウンマップ渡された時以来だが、相変わらず人の目をしていない。
ポケモンセンターの受付や店員の目とは全然違う。
「マリネット、やっと追いついたわ!
2番道路まで無事に進んだのね素晴らしいわ!
もしも貴方がさっきの町に居座って旅を投げ出そうとか思ってたらその時はどうしようかと思ったのよ!
『おそらく今ごろはサンヨウシティにむかってます』ってアララギ博士に聞いたけど、実際にこの目で確認しないと信用出来ないじゃない?
だからこうしてここまで来たのよ!
まあそれはそうと、喜びなさいマリネット!
私からまたプレゼントよ!
マリネット! その靴の代わりにこれを履いていきなさい!
その靴はあまりにも重いでしょ!?
私がトレーナーに必要なのは体力と足の筋肉の強さだからって事で、かなり重い靴を選んであげた上で中に重りまで詰めたのだから!
そんな靴じゃとても走れないでしょ!
トレーニング用としては本当に素晴らしかったけど、走れないのはトレーナーとしては致命的よ!
というわけで、トレーニング用の靴の出番はもうおしまい!
思う存分走りなさい! このランニングシューズで!」
強引に靴を履き替えさせられた。
……って、軽っ!?
何だよこれ!? この靴中に何入れてんだ!?
裸足と対して変わんねえぞ!?
「生まれ変わったような気分でしょ!?
素晴らしいでしょ!? ランニングシューズを履いていればどこに行くのもあっという間よ!
貴方の部屋を整理している時に思い出したわ!
コレが無いと話にならないって事に!
この私特製のトレーニング靴のまま冒険させても良かったけど、それだと何時までたっても歩くことしか出来ないから先に進めないもの!
うーん! それにしても!
たまには片付けもするものよね!
ランニングシューズ買わなくて良かったわ!
しまってあったのが出てきたもの!」
……くれたのがよりによってコレなのが滅茶苦茶複雑なんだよな。
あたしが何年、その特製トレーニング靴とやらを履かされてたと思ってんだよ。
記憶にある限りでも、9年くらいは履かされてた気がする。
「マリネット貴方は一人じゃないのよ分かっているでしょ? 分かっているわよね?
いつもポケモンと一緒だし友達も居るじゃない。アララギ博士だって力になってくれるわ!」
アララギに頼るとか嫌すぎるんだが。どうしようもなくなったら仕方ないだろうが。
友達と言うが、ベルなんかあたしにとっては完全にトラブル召喚アイテムだよ。
「それに私だっていつも貴方の事を想っているから!
まあ一々説明するまでも無いわね私の愛情はちゃんと伝えてきたつもりだし!
トレーナーとして必要な教育は徹底的に施したのだもの!
どこに出したって恥ずかしくない自慢のマリネットよ! じゃあ旅を続けなさいね!」
あたしはあんたとは絶縁したいくらいだよ。
あの超重い鉄板入りの靴履かされて、何時間もずっと歩かされてたんだぞあたしは。
足が痛くても休ませてもらえなかったじゃねえか。何が愛情だ。
できれば二度とその顔見たくねえ。
「トレーナーとのポケモン勝負は、逃げることは許されない真剣勝負よ!」
「なあ、やっぱり拒否権とか無いのか?」
「無いわね! トレーナーやってる人の目に入れば有無を言わさず一方的に仕掛けてくるし、拒否権は無いわ!」
ホント最悪だな。あたしの家で突然バトルを始めやがったボケベルみたいに向こうから勝手に拒否権無しの決闘しかけてくるのかよ。
アレが一般常識とか最悪だろトレーナー。
「アレってマジなのかよ……質悪いな。回避する方法とか無いの?」
「そうね……最初から見つからなければ大丈夫よ! 向こうもカモを探して目を光らせてるから、頑張ったところで避けられない事の方が多いかもしれないけど!」
「なるほど……気を付けるよ」
「ええ! 武運を祈るわ!」
金の為なら手段を選ばないってわけか……。
とはいえ、見つからないように動けば避けられるってのは覚えておいて損はなさそうだな。
二度と戻ってこないような場所を通る場合、特に。
こんな所で忠告してくれるって事は、つまりこの先には敵が居るんだろう。
となると……。
「捕まえたばっかりのヨーテリー、少し鍛えるか」
流石にそのまま突っ走るのはリスクがあるだろう。
あたし自身、敵との闘いに慣れておきたい。
ポケモンの強さも欲しいが、あたし自身の判断力とかも足りてない気がする。
それに、もし今の状態で旅を辞めてカラクサタウンに勝手に住み着いたところであたしの自由は守れない。
あたしの親……アレを倒せるくらいの強さが無いととても落ち着いた生活は出来ないだろう。
そのためにも、力が要る。
そう決意し、あたしは草むらに足を踏み入れた。
一応図鑑を見たが、とりあえず『たいあたり』を命令すれば攻撃できるんだろう。
ついでに、ポークの技も後で一応見ておくか。
「ヨーテリー!『たいあたり』!」
「ワン!」
「ギュギュッ!?」
ミネズミを跳ね飛ばし、KOする。
が、少し歩くと次の敵が飛び出してきた。
ミネズミだ。
「よし、次だ! 『たいあたり』!」
「ワン!」
「ギュギュッ!?」
飛び出してきた別のミネズミをたいあたりでKOする。
そんな調子で何回か野生ポケモンを倒してみたが、ヨーテリーの力もある程度ついてきた気がする。
「……っと、一度ポケモンセンターに戻るか」
ヨーテリーが弱ってきたらポケモンセンターにダッシュで戻る。
そして回復が終わり次第、また戦わせる。
靴をまともな物に変えたからか、足が軽い。
いくら走っても疲れないな。
「……そろそろ進むか」
ヨーテリーもこの辺の敵よりは強くなっただろう、といったところで切り上げた。
気のせいか、育ちにくくなってきている気がするし、次の狩場を探しに行きたい。
そう考えながら先に進もうとした。が。
「トレーナーとトレーナーの目があうってことは……ポケモン勝負の始まりさ!」
「ちっ、さっきの奴が言ってたのはこういう事かよ!」
あたしからも目を合わせたわけじゃない。
木の陰に潜んでいたあいつに見つかっただけだ。
それだけで、向こうは有無を言わさず仕掛けてきた!
マジでさっきの奴が言ってたとおりだな!
ポケモントレーナーって本当に修羅の世界じゃねえか!
だけど……ヨーテリーもこの辺の敵よりは強いはずだ!
「行けミネズミ!」
「ヨーテリー! ひたすら『たいあたり』で攻撃してぶちのめせ!」
ヨーテリーの方が速い以上、やることは単純だった。
野生ポケモンを相手にした時と同じく、ひたすらたいあたりで攻撃して力でねじ伏せる。
「なんだ!? 君強すぎるぞ!?」
「……」
勝負はあっさりとついた。
鍛えたヨーテリーがいとも簡単に相手を倒したのだ。
ヨーテリーの強さがポークと並んできた気がするし、次はポークを出すか。
そう思いながら2番道路を出ようとしたとき……。
「マリネットったらマリネット!」
「今度はお前かよ……」
いきなりベルがやって来た。
「ねえねえ! ポケモン勝負しようよ!
新しく捕まえたポケモンもちょっと強くなったし!
じゃ始めるよ!」
分かっていたが、バトルを仕掛けられたあたしに拒否権の類は一切無いらしい。
さっきの奴もそうだが、修羅やバーサーカーしかいないのか? トレーナーの世界は?
挑んできたやつを全員ぶちのめして、誰一人としてあたしに襲ってこないようにしないと安全にならないのか?
……それでも野生ポケモンが襲ってくるよな。
「行ってきて、ヨーテリー!」
「ポーク、やれ!」
敵はここまで何回か遭遇したヨーテリーか。
だったら……。
「ポーク!『ひのこ』!」
「マ、マリネットが技名を覚えてる!?
……じゃなくて、ヨーテリー!『たいあたり』!」
ポークのひのこはあたしの手持ちのヨーテリーを捕まえた時のような威力を出さなかった。
……当たりどころとか、そういうものでもあるのか?
「気、気合入っちゃうよ! あたしもポケモンも!」
「仕掛けてくるなら全員敵だ! ぶっ潰すぞポーク!
ひのこで攻撃を続けろ!」
ベルのヨーテリーよりあたしのポークの方が強い。
このまま行けば後一撃で倒せる。
そんな時、ベルが動いた。
「さ、さがってヨーテリー! キズぐすり使うからあ!」
「は!? そんなのありかよ!」
ポークが追撃するよりもヨーテリーがベルの側まで逃げる方が早い。
ベルが噴射したキズぐすりのスプレーが、ヨーテリーのダメージを一瞬で無かった事にしやがった!
マジかよ!? 戦闘中に回復しやがった!
当然倒しきれない!
「クソったれ! こうなったらベルの薬が切れるかヨーテリーが潰れるまでひのこで攻撃だ!」
「あわわ! ヨーテリーがんばって!」
その後、ひのこでゴリ押した結果ヨーテリーは倒せた。
質悪すぎるだろ! 対トレーナーの時は体力を減らしたポケモンを敵に瞬時に回復される事まで考えないと駄目なのか!?
「よーしっ! 次はこのコで!
ツタージャ、お願い!」
「まだ行けるなポーク! 『ひのこ』連打だ!」
ベルの2匹目はツタージャだった。
ひのこが……やけに効いてる!?
ヨーテリー捕まえた時みたいな威力だ!
「うわわわ……もしかしてピンチ!?
ツタージャじゃマリネットとの相性が悪すぎるよお!
で、でも負けない! ツタージャ!『つるのムチ』!」
「ツタージャには有効……なのか? ヨーテリーには偶然?
とりあえず、このままひのこで焼いちまえ!」
ポークがそのままひのこでツタージャを倒し、あたしは勝利した。
「うわあ……勝てなかったあ……」
「あたしの勝ち、か」
ベルには圧勝した。
ベルが叫んでたように、ツタージャはポークに不利なんだろう。
ひのこがヨーテリーを捕まえた時並みに有効だった。
……じゃあ、チェレン相手だと不味い事になるんじゃねえのか?
『たいあたり』ゴリ押し勝負のあの時はポークで勝ったけど……もしミジュマルが「ポークを倒せる技」を覚えていたら?
……不味いかもしれないな。
「ふわあ、やっぱり強いんだね!マリネット
あたしも負けないようにポケモンを育てるね!
じゃあバイバーイ!!」
ベルはそのまま去っていったが、あたしは嫌な予感が拭えなかった。
……もっと駒のポケモンを増やすか、もっと強くしないと…………。