「……そうですか。警察の偽物だと発覚した上、ヤーコンや警察との衝突の最中にマリネットとチェレンが冷凍コンテナに突入。
ヴィオは応戦したものの、Nのポケモンが被害に遭う事を考慮して最後まで戦わずに降伏した、と……」
ゲーチスに入ったのは限りなく最悪に近い報告だった。
偽警察を見破られたのも驚いたが、まさかマリネットまで自発的に攻めてくるとは。
それに、心をへし折った筈のチェレンが通販で購入した強力なポケモンを従え、更なる脅威へと覚醒して攻めてきた。
図鑑所有者を圧倒的な暴力で叩き潰し、心をへし折る策が、チェレンに関しては完全に裏目に出てしまった。
(それにしても……この短期間で戦力の増大が著しい。
通販に加えてトリカの手も加わっているでしょうね、チェレンには)
ダークトリニティの調査ではブラックシティの下層民だという事しか分からなかったトリカ……マリネットの母親。
その戦闘から逃げ出して冷凍コンテナに駆け込んだ団員曰く、極めて高い力を持つトレーナーで、今日ホドモエシティを襲った地震を引き起こしたポケモンを当然のように使役していたとか。
(……果たして、何者なのか。本当にただの下層民なのか?
対処を間違えると、団員を消されかねないのも厄介ですね……)
今回の戦闘では団員の使ったポケモンの一部がトリカの繰り出したポケモンの攻撃で海に叩き落されている。
ゲーチスからすれば団員に渡したポケモンなど別にいくらでも補充の効く捨て駒でしかないが、平気で人やポケモンを殺しかねない相手であるという事実は警戒レベルを引き上げる理由になった。
「……ですが、今はヴィオや強盗役の団員の回収を優先するべきですね。
偽警察だと露見した以上、警察だと偽る策は使えない。
となると……護送中の襲撃か、より強い権力による横取りか……」
プラズマ団には……というよりゲーチスには一応裏社会のコネはある。
ブラックシティの権力者ともある程度面識はあるのだ。
警察上層部やマスコミを動かして無理矢理もみ消す手段も無くはない。
ブラックシティの人間なら金だけ積めばそれくらい平気でやってくれる。
しかし、それは極力使わずに済ませておきたい策だった。
プラズマ団でイッシュを支配した際に彼らの影響を受けるのはなるべく避けたいのである。
金と権力だけの生き物を身内に入れると、Nを顔にしたプラズマ団の「綺麗な」印象が崩れてしまう。
自分がリーダーとなってイッシュを直接武力で支配するような展開の場合はフル活用しただろうが、Nが表向きリーダーであるうちは絶対に使えない。
プラズマ団の建前は悪い人間からポケモンを解放する事、保護する事。
ポケモンの命など、その辺の石ころ並みにしか思っていない存在と表立って手を組むことは出来なかった。
「……やはり護送中の襲撃になりますかね。
どの道を通るにしろ、総力を挙げて攻撃してヴィオ達を奪還しなければ……」
「失礼します。ゲーチス様、警察所長を名乗る者から連絡が……こちらのパソコンで……」
「……受けましょう」
策を考えていたら何故か向こうから連絡をしてきた。
ゲーチスは警戒心を強める。
彼らの手を借りるのはプラズマ団にとってはかなりの諸刃の剣なのだ。
しかし、相手をしないわけにはいかない。
『ひゃひゃひゃ……面白いことになったなあ旦那ぁ……助けは必要かい?
ホドモエシティに派遣した連中えらい目に遭ってるじゃねえか……』
「……知っていましたか。金を積むのは容易い。ですが……」
『ひゃひゃひゃ……俺達がお前と繋がってることがバレるとよくないってか?
まあ確かに……お前の飼ってるお坊ちゃまは俺達と繋がる事なんか絶対に出来ないだろうなあ……』
連絡をしてきた相手はブラックシティの警察署長だった。
どの警察も逆らえない権力と武力を持ったブラックシティの最上位の人間の1人。
金さえ積めば、犯罪者の味方すら平気でやってのける最悪の象徴。
そこに正義なんてものはない。この男には金と権力と女と薬が全て。
プラズマ団が警察の制服を手に入れ、偽警官として化けていられたのは、全て彼が横流ししたからである。
『まあ話聞けよゲーチスさん。あんたは『寄付』だけしてくれたら良いぜ?
そうすれば、後は俺達が『偶然』『ホドモエシティで暴れてた連中を指名手配していて』『あいつらから引き継げる』んだからな。
俺達はイッシュ警察の最上位。誰も俺達を止められない』
「……ワタクシは無関係、プラズマ団も何も知らなかった。通りますか?」
『当然通るだろうなあ。マスコミ? あんなもの黙らせてやるよ……。
ヤーコン? ブラックシティの奴らが街で暴れるかもしれないなあって脅せばどうするかねえ……』
この瞬間、ゲーチスの答えは決まった。
金なら別に困らない。
はした金で面倒な救出を任せられるなら安いものだ。
「ワタクシこうみえて神を信じておりましてね……ついこの教会に救いを求めて寄付を入れてしまうんですよね」
『ああ……良い心がけだねえゲーチスさん。神様は必ずお救いになられるでしょうよ。
なんせここはイッシュ地方。ポケモンですら聖剣士とかいう奴らに神頼みして守ってもらうような地方だぜ』
ゲーチスは迷うことなくパソコンを動かし、ブラックシティ管轄の教会へと寄付を行った。
もちろん、この教会は実態などどこにも無い。神様が……という以前に架空の教会なのだ。
警察署長への賄賂送金用教会である。
しかし、金を積めば都合通りに動いてくれるのだからある意味では神より都合のいい存在かもしれない。
このまま行くとヴィオ含めて団員が牢屋送りになるのは避けられないのだから。
『さて、お仕事の時間だなあ……。吉報を待ってな』
「お願いしますよ。イッシュを支配するうえで、手足はいくらあっても足りないのです」
『ひゃひゃひゃ……まあ俺はお前が勝とうが誰が勝とうがどうでもいいがな。
だが…………俺は金をくれる奴の味方さ』
通信が切られた。
極力使うのは避けたかった手段だが、使わなければヴィオや他の団員達を救出するのは自分が直接プラズマ団を率いて警察を襲撃して行うことになっていただろう。
負ける事は無いだろうが、強盗の正体がプラズマ団だと露見するのを避けたいゲーチスからすれば、警察を直接攻撃するのはリスクが大きすぎた。
仮に実行した場合、目撃者全てを消さなければいけなくなっていただろう。
警察のみならず、ポケモンも目撃した一般トレーナーも全て。
わざわざ向こうから連絡してきてくれた上に「偶然指名手配していた」というシナリオまでつけて引き受けようというのだから、使わない手はない。
ブラックシティの警察の実情を知っている者からすればともかく、大衆は疑う事はない。
本物の警察ではあるのだから。
「金の切れ目が縁の切れ目……ですが、必要となればまだまだ働いてもらいますよ。
……さて、そうなると計画の練り直しが必要ですね……」
ゲーチスは今回の事件の後始末はブラックシティの警察に任せ、次の計画を改めて考えることにした。