あの後コンテナの中に居た人間は全員ヤーコンの連れてきた作業員や警察に運び出された。
あたしとチェレンはポケモンセンターに運ばれて、腕や足を温かいタオルで包まれながらベッドに寝ていた。
別に休めば問題ないって言ったけど、念のためにと1日検査入院することになってしまった。
吹雪を真正面から受けて壁になったポークやメタングも治療中だ。
極寒の冷凍コンテナ、更に小部屋みたいな大きさしかない貨物搬送用コンテナの中で吹雪をまともに食らった以上、屋外で戦った時より格段にダメージが大きくなってしまったらしい。
「……これでホドモエの事件は終わったのかな」
「だろうね、強盗のリーダーも捕まった。
ぼくたちは念のためにと検査入院させられているけど、余程の事がなければ明日には退院できるだろう」
とりあえずあたし達は目的を達成したんだ。
ホドモエシティを騒がせていた強盗達は全員捕まった。
今度こそ事件解決だろう。
「……マリネット、強盗達が共感しているっていうプラズマ団の理想、どう思う?」
「どうしたんだいきなり?
そんな筈がないって断言してたじゃないか」
チェレンがいきなりそんなこと聞くなんて珍しいな。
「……いや、こうしてベッドから出られない以上、暇になってしまったからね。
きみはどう思っているのか気になったんだ」
「あたしか?」
「ああ。ぼくは今も考えを変えてはいないよ。
ただ、きみがどう思っているのかを知りたい」
「ポケモンを解放して、付き合い方を見直せって奴だよな」
正直、あたしからすれば「解放したいなら勝手にポケモン解放すればいいじゃないか」でしかない。
あたしが巻き込まれなかったら誰がポケモンを手放そうとどうだっていいんだよ。
「解放したいって思うなら勝手に解放したらいいんじゃないか?
そいつが勝手に決めた事だし、あたしは関係ねえよ」
「マリネットらしいね。……もし、それがイッシュ全体のルールになったとしたらマリネットはどうする?」
「……大迷惑すぎるな、それ。なんとか力であたしの自由を押し通すしかないよな。
強盗連中が正義の立場になってポケモン奪いに来るような世界はこりごりだけど……。
仮に戦うとしても、あたしはあたしの自由のために戦うだけだな」
アヤさんの事が少し頭によぎったけど、そもそもアヤさんの方が強いしあたしが守られる側なんだよな。
あたしより弱くて、あたしが守ってやりたいって思えるような奴なんて居ないし。
……やっぱり、自分のために戦うことになるんだろうな。
「そんな世界になったら……。ベルは……ぼくやきみに縋り付いてくると思うかい?」
「絶対に縋り付いてくるだろうな。断言するよ。
あたしは『もうお前の便利屋にはならない』って言ってやったけど、果たして聞くかどうか」
「……ベルがマリネットの名前を出さなくて不思議だったけど、そんなことを言ったのか」
「言っとくけど、あたしは発言撤回するつもりはねえからな?」
好き放題人の事を便利屋みたいに使いやがって。
あたしの意思なんてお構いなしだ。
もう二度とベルの言いなりにはならねえよ、あたしは。
「その後ベルには会ってないのかい?」
「会ってねえよ。ホドモエシティを歩いてた時も出会わなかった。
プラズマ団に守ってもらうとか言ってたんだろ?
カミツレと戦った後の連絡の時にアララギが喚いてたけどさ、ヒヒダルマの奴と戦った後結局どうなったんだ?」
まあベルなんかどうでもいいけど、ここから動けない以上暇だし。
「ぼくとベルが強盗に負けてプラズマ団に助け出された後、ベルはアララギ博士にべったりだったよ。
最初は泣きじゃくっていたよ。その後はアララギ博士がずっとついてた筈だけど……」
「それが、何をどうやればプラズマ団に守ってもらうって話になるんだ?」
ヤーコンが信用できないのは確かだろうけど。
命の恩人だったのは確かでも、プラズマ団に守ってもらうは話が飛躍しすぎじゃないか?
「ぼくも詳しいことは知らないけど、どうもベルのパパがここまで来ていたみたいだね。
理由は聞くまでも無いだろう?」
「連れ戻しに来たんだろうな、特に娘が強盗に負けてポケモンを奪われそうになっていた場面が映像として放送されていたわけだし」
ベルの事が心配なんだろうな。
連れ戻してやればよかっただろうに……。
「……マリネット、図鑑を渡してイッシュ巡りの旅を始めるように仕向けたのはアララギ博士とぼくたち3人のママだよ?
仮にベルのパパだけが反対して連れ戻しても、恐らくこっそり脱出させたと思うよ」
「やりかねないよな……心配してるのベルの父親だけだし」
あたしからすると、こんな危険な状態のイッシュを旅してるのに心配してくれないって結構酷くないかって思うんだけど。
あたしの親はともかく、ベルの母親は普通の親なんだからさ……。
「少なくとも、今のイッシュの状態を軽く考えているところはあると思うよ。
まあそれはともかく、話の続きだね。
ベルのパパと一緒にプラズマ団の……ゲーチスが来たらしいんだ。
それで、ベルが旅を続ける条件としてプラズマ団に同行すればいいのではって言ったらしい」
「まあ……プラズマ団はベルからすれば命の恩人だしヤーコンはあてにならないし納得ではあるけど」
とはいえ、アララギはそんなの認めないだろうな。
プラズマ団にベルが付いていくことはデメリットしか存在しないだろうし。
だからあんなに喚いていたのか。
「ヤーコンさんの汚名返上は出来ない。
プラズマ団自体が最近突然現れた集団なので信用できない。
プラズマ団の考え方がポケモン解放や保護である以上、ベルはもうポケモンを捕まえなくなるかもしれない。
最悪、プラズマ団に共感して自分のポケモンを解放してしまうかもしれない。
というか、トレーナーのベルとプラズマ団は価値観が正反対だから、ベル自身が裏で危害を加えられて強引にポケモンを解放してしまうかもしれない。
こんな所だろうね」
「なるほど。確かに反対する要素しか無いな」
ま、どんな選択をするかなんてベルとベルの父親の勝手だよ。
あたしはそんな所まで面倒見られないし見るつもりもない。
困ってる人を無条件に助ける正義の味方とか、皆のために悪を打ち倒す勇者とかじゃないんだ、あたしは。
「お前達、体調は大丈夫か?」
ヤーコンが入ってきた。
ナースも一緒だ。
「問題ありません。……早くコレを外してくれませんか?」
「腕も足も感覚戻ってるし、もう大丈夫だと思うんだけど?」
正直こんな事する必要あるか?
って思ってる。
まあ確かに足は氷に埋まってた、手は感覚無かったけどさ……。
「次の検査で問題無ければひとまず外しますね。
とは言え……ただでさえ寒い冷凍コンテナの中でふぶきを受けるなんて、非常に危険なんですよ?
もし腕や足に障害が残ってしまうといけないので、回復しきったと判断出来ないと駄目です。
仮に外したとしても、今日1日は確実にここに居てもらいますからね?」
ナースははっきりとそう言ってきた。
「……今回の件、悪かったな。オレの想定が甘かった。
最初に捕まえた奴等の実力を考えれば、簡単に確保できるだろうと考えたんだが……」
ヤーコンの謝罪はチェレンに向いていた。
まあ、あたしの代わりにヒヒダルマ強盗と戦わされたわけだしな……。
「……もう終わった事ですよ。
ただ、反省しているなら新人トレーナーに事件解決を丸投げするジムリーダー達の体質くらいは改善してほしいですね」
「返す言葉もねえな……」
あたしもチェレンに同意見だ。
まあアロエとアーティはここに居ないけど。
「それはそうと……約束だ!
退院できたらジムに挑戦しに来い!
マリネット、お前の事も待ってるぞ!」
ヤーコンはそう言って去っていった。
ナースもヤーコンと話している間に検査が終わったのか、すぐ後に出て行った。
「……で、結局あたし達は今日はこのままか」
「仕方ないよ、ぼくたちが戦っていた状況はそれだけ危険だったって事だからね」
「やれやれ……何も出来ないまま安静にしてろってのは難儀だよな」
結局その後もチェレンと適当に話しながら時間を潰す事になった。