ホドモエジムを出て一度ポケモンセンターで回復させた後、あたしはさっさと先に進む事にした。
6番道路の洞穴の前で待ってろって言ってたけど、何があるんだか。
そんなことを考えながら街を出ようとした。
「ねえねえ! マリネット!!」
「……」
聞き覚えのありすぎる声。
ベルだ。
今まで一体どこで何してたのやら。
「あのね、もしかして……ひょっとして、ジムに行ってた?」
「だったら?」
まあどうでもいいか。今更何の用なんだか。
強盗騒ぎの時に完全に行方くらませてたわけだけど。
「……これがホドモエのジムバッジ?
いいなあ! すごいなあ!!」
「欲しいなら自分でホドモエジムに挑んで取ればいいだろ。行かないのか?」
強盗相手に戦ってた時の実力だと……きついかもしれないけどな。
まああたしの知った事じゃない。
「……そう、だよね。ダメダメ! 感心してばかりじゃ……。
あたしもトレーナーだもの。
こういう時は勝負よね!
……マリネット、この間のようには、いかないから」
「へえ……」
チェレンみたいに通販のポケモンで武装したのか?
それなら面白くなりそうだけど。
「ポーク!」
「ハーデリア!」
……ハーデリア?
ムーランドじゃなくて?
「ハーデリア『とっしん』!」
「……ポーク『かえんほうしゃ』」
ハーデリアは一撃で沈んだ。
あたしは旅を止めた後アヤさんに鍛えてもらっていた。
ヒヒダルマの強盗に負けた後、チェレンは通販でポケモンを買い替えて、無理矢理あたしに並んできた。
ベルは……修行も通販もしていないのかもしれない。
ポークとハーデリアの実力差は相当な物だ。
「……う、嘘……マリネット、ここまで……?」
「ヒヒダルマ強盗の時の再現になるぞ? 止めといたら?」
ベルはみるみる顔色が悪くなっていく。
正直、あたしもここまで力の差があるとは考えもしていなかった。
チェレンの手持ちだった奴があの程度の戦力で、全部通販のポケモンに差し替えられるくらいだった時点で察するべきだったのかもしれない。
それに、ヒヒダルマの奴は修行したあたしがなんとか倒せるラインだった。
このベルとチェレンが通販で入れ替える前のポケモンじゃ、何をやっても勝てないだろうな。
考えるまでもないくらい明らかだ。
「う、ううん! 逃げないって決めたの!
ヒヤップ!『ねっとう』!」
「ま、諦めないなら別にいいけどさ……『かえんほうしゃ』」
一撃。タイプ相性は機能すらしていない。
行動するより前に倒されるから、反撃する事も出来ない。
そして、フレアドライブじゃないから自滅もしない。
ベルはあたしに挑んだ時点で詰んでいる。
「……ムンちゃん!」
「ふーん、ムシャーナになったのか」
ベルが出してきたのはムシャーナだ。
あたしのムンナもサイコキネシスを覚えさせたり、技の忘れる順番をコントロールできるようになったり、色々あったな。
そして、アロエにお礼って事で渡された月の石を使ってムシャーナになった。
……でも、目の前のこいつはあたしのムシャーナとは比べ物にならないくらい弱そうだな。
「『かえんほうしゃ』」
「『サイケこうせん』!」
動く隙も与えない。
ポークの吐く炎がベルの手持ちを根こそぎ焼き払っていく。
「…………そんな」
「はっきり言っておこうか?
今のお前じゃ、あたしに勝てないぞ?
というか、通販に手を出したチェレンにも全く歯が立たないだろうな」
チェレンは金に物を言わせて手持ちを組み替えた分、あたし以上に容赦ないだろうな。
雨降らせてガマゲロゲやキングドラで制圧してくるだろうし。
「じゃ、ジャノビー!」
「そこまでです! もうやめなさい、ベルさん!
勝てないのは明らかですよ!
ただ貴方のポケモンが傷つくだけです!」
それでも止まらないベルはジャノビーを出した。
そんなベルを止めたのは……プラズマ団だった。
マジでベルはプラズマ団と一緒に居たんだな……。
「すまない。彼女の負けで構わないから、攻撃を止めてもらえるだろうか?
意味もなくポケモンが傷つくだけのバトルなど……見ていられない」
「ま、別にいいよ。あたしは一応忠告はしたんだけどな……」
別のプラズマ団がベルの負けで構わないからとバトルを止めるように言ってきた。
あたしは別に構わないけど、ベルは納得するのかね?
「まだ……勝負は……ついてないよ……」
「ここまでの力の差を、どうするつもりですか?
どう頑張っても、勝てない物は勝てません。
そのジャノビーが先程までのベルさんのポケモンのように、火炎放射で一方的に焼かれてただ傷つくだけでしかありませんよ?」
「……分かり、ました……」
渋々納得した、って感じだな。
まあトレーナーやってるなら手持ちが全滅するまで抵抗するのが当たり前だろうし。
……この実力差でも全滅するまで戦えってやろうとしたのは大したものだけど。
「マリネットとは久しぶりに会ったし、久々のポケモン勝負だったけど……こんなに強くなっていたなんて……。
マリネットがあの時居たら、あたしもチェレンも……」
「無理だ。あたしだって旅を止めなかったらヒヒダルマ強盗にやられてる。
ヤーコンの指示で強盗に挑んで返り討ちにされた被害者が2人から3人に変わるだけだよ」
あの時にカミツレが旅を中断することを勧めなかったら、あたしは確実にチェレンやベルと同じ目に遭ってただろうな。
そもそも、ブルンゲルは持ってすらいないんだし。
「……というか、あんたらはなんでベルと一緒に居るんだ?
何回か見かけてるけど、ポケモンを保護したり悪人の手から解放する団体だろ?
トレーナーはポケモンを戦わせる……さっきそっちのあんたが言ってたように傷つける事になる存在だぞ?」
「承知の上だ。しかし、全てのトレーナーが悪というわけでもない。
それに、危ういトレーナーが間違った道に進まないようにするのも我々の務めだ」
「ええ……今のベルさんはすごく危うい。
勝てない戦いに自ら突っ込み、ポケモンを無駄に傷つけてしまう可能性もありますから。今のように」
「なるほどねえ」
確かに……力の差が大きすぎて一方的に倒されるだけの戦いなのに、降参しなかったもんな。
その心だけは立派だけど、それで傷つくのはあたし達じゃなくて捨て駒にされたポケモンだ。
勝つための策ってわけでもなかったし。
「……そうだ、マリネット。
これ……あたしのパパが、マリネットに会ったら渡してあげてって。
夢の跡地で守ってくれたのと、ヒウンシティでムンちゃんを取り返すために戦ってくれたことへのお礼」
「わざマシン……じゃないな? 秘伝マシン?」
中身はなんなんだ?
「中身は『そらをとぶ』だって。
立ち寄った事がある場所に、ポケモンが運んでくれる技……みたい。
いつでもすぐに帰ってこれるように! って事だと思うんだけど……」
「カイリューの覚えてた技か」
まあ、通販で買ったカイリュー以外が使う事なさそうだけど。
あたしの手持ちに空を飛べるポケモン居ないし。
「そうだ、チェレンにもこれ渡してあげないと……。
じゃあねマリネット、バイバイ」
ベルはそのままホドモエシティの方に戻っていった。
「大変じゃないか? ベルに付き合うの?
ベルもなんか引きずってるっぽいし」
プラズマ団の2人になんとなく聞いてみた。
一応こいつら護衛なんだよな。
アララギよりは頼りに出来るのかね?
「お気になさらず、これも必要な事ですから」
「ああ、我々の目の届かぬ所でポケモンを酷い目に合わせてしまうよりはずっとマシだ」
「それでは、私達はこれで失礼します」
つかず離れずの距離でベルを見守るプラズマ団。
ベルがさっきみたいなポケモンの事考えてない無茶な事やらかしたら止めるだけに徹してるのかな?
……さて、あたしも先に進もうか。