「あれ? ここは普通に明るいのか?」
フキヨセの洞穴の最上階、と言って良いのか分からないけど、恐らく最深部だと思われる場所。
そこにあたしはたどり着いた。
敵がいたのは最初の階層だけで、その先には誰も居なかった。
「…………空気が、違う」
さっきまでの場所とこの空間。
同じ洞穴の中のはずなのに、最深部だけまるで別世界みたいだった。
強い威圧感を感じる、どこからだ……?
「止まれ」
「!? 誰だ……?」
斜面の上から響く声、あたしは反射的に身構えた。
……って、またジジイか……。
川の方でも見たけど、まあ別人だよな。
……さっき見かけた山男2人はともかく、このジジイはなんなんだよ。
この奥にいる『コバルオン』とかいう奴を守るための門番か?
あり得るかもな……。ここだけ下の階層と空気が違うし。
「おぬし、その若さでなかなかの腕前とみた……。
おぬしならもしかしたら……ううむ……ありえるかもしれんのう……」
「いきなり足止めしてなんだよ? さっさと要件話せ」
あたしの経験上、ジジイが出てくるとロクな目に遭わないんだよ。
サンヨウの通行止め、ライモンの育て屋……。
ろくでもない。
「どうじゃ? じじいの昔話に耳を傾けてみんか?」
「はあ?」
どうせくだらない話なんじゃないのかって思った。
だけど……この空気……。
あたしの反応全てを何かに『見られて』いるような気がする……。
正直ジジイの話なんかどうでもいいんだけど、素直に聞いた方が良い気がする。
「……聞くだけ聞いてやるよ」
「よかろう。……人とポケモンが別々の世界で暮らしていた大昔の話じゃ……」
そんな時代の話今されてもな。
だからなんだよ、って……思えない。
あたしが感じている『あたしを見張ってる』奴の気配が微妙に変わったのを感じた。
恐らくこの気配の正体がコバルオン。
多分コバルオンに関係あるんだろうな。
「ある時、人が始めた戦で、ポケモン達の暮らす森が激しい炎に包まれたのじゃ。
ポケモン達は炎と煙にまかれて逃げ場を失った……」
「要するに、その森で暮らしていたポケモンは人間の戦争の巻き添えになったのか?
ポケモン達が自発的に協力してたり、モンスターボールで捕まえられて人間に使われてたってわけじゃなく」
「そういうことじゃな。当時は人とポケモンは完全に別々に暮らしていた。
モンスターボールも無かった時代じゃ。
故に本来ならポケモン達は関係なかった。
……が、愚かな人間の行いによって、無関係のポケモン達が戦火に巻き込まれることになったのじゃ」
全員が全員善人なわけないしな。
巻き込まれたポケモンにとっては災難以外の何でもないけど。
「そこに現れたのが、伝説のコバルオン、テラキオン、ビリジオンじゃった!
テラキオンは持ち前の怪力で逃げ道を塞ぐ岩を壊した。
ビリジオンは素早い身のこなしで火の粉からポケモンを守った。
そしてコバルオンは、怯えるポケモン達を導き焼ける森から逃がしたのじゃ」
「ふーん……ポケモンにとっては、英雄かヒーローみたいな奴等だな、そいつら」
戦火に巻き込まれ死ぬ運命だったポケモン達を颯爽と助け出した救世主。
話を聞く限りだとそんな感じだ。
「英雄かヒーロー……。そうじゃな……まさにその言葉がぴったりじゃろう。
大勢のポケモンの命を救い出したのじゃから」
「……まあ、話はそこで終わらないんだよな?」
そんな力を持ってるんだ。
ただ被害者になったポケモンを逃がして終わりなんてするわけがない。
「そうじゃ、話はそれで終わらぬ。
コバルオン、テラキオン、ビリジオンは戦を始めた連中を圧倒的な力で蹴散らした。
連中は3匹の力に恐れをなして、ようやく戦をやめたのじゃ……」
「恐れをなして……なのか」
圧倒的な力で襲われて、自分達が皆殺しにされるかもしれない! って思ったのかな。
3匹の圧倒的な力を見せつけられた結果、人間どうしの戦争どころじゃなくなったって事か。
「人が戦いをやめなければポケモン達の平和も無い。
人の行いによって多くの命が失われると彼らは分かっていたのじゃな……」
「まあ、実際に勝手に戦争やってた連中のとばっちりで関係無いポケモン達が巻き込まれたわけだしな」
叩き潰して止める以外なかったんだろうな。
仮に安全な所に逃げても、放っておいたらまた無関係のポケモン達が戦火に巻き込まれたかもしれないし。
「戦を止めた後……彼らは人との関わりを避けていずこかへ去っていった……。
それから彼ら3匹の姿はほとんど見られなくなり、やがて彼らは伝説になったのじゃ……」
「人間を皆殺しにしたかったんじゃなくて、戦火に巻き込まれたポケモン達を守りたかっただけなんだろうな。
『ポケモン達の英雄』であって『人間の脅威』になるつもりはなかったんだろ」
もし愚かな人間に怒りを覚えて、人間殲滅を目的に暴れ回るようになってたら『関わりを避ける』どころか『人間最大の脅威』として残っててもおかしくない。
「わしは何十年も彼らを探し続けてきた……。
そしてようやく、この洞穴の奥にいることを突き止めたのじゃ」
「なあ、なんであんたはわざわざそいつら……。
……ここに居るのはコバルオンだよな?
コバルオン達を探し続けようなんて思ったんだ?
人間に関わろうなんて考えてない向こうの気持ちは気にせずわざわざ踏み込もうとしたんだ?
放っておいたら良かったじゃないか。
それとも、愚かな人間が近づかないように聖地を守る門番みたいな事でもしようとしたのか?」
このジジイはなんでわざわざこんな場所で門番みたいな事をやってるのか、気になった。
最初に「このじじいの話に耳を傾けんか?」とか言ってきたけど、もし断ったらどうするつもりだったんだか。
「わしはの……彼らに『世界は変わったのだ』と教えてやりたいのじゃ。
今のイッシュは昔とは違う。人とポケモンがお互いに分かり合い助け合う世界になっておる。
そんな世界になった事を……彼らは知らないままなのじゃ」
「それこそ余計なお世話だろ。
向こうはポケモンの世界で、自分達のルールで生きてるんだ。
今の時代は変わってるんだ、だからお前達も変わろうぜ! みたいに無理強いするような事じゃない。
第一、下手に近づいたら敵として襲われるんじゃないのか?
人間はかつてポケモン達の住処を燃やして大勢のポケモンを火の海に沈めようとした奴らだ、って覚えてるんだろ?」
さっきのジジイの話は事実なんだろうな、あたしを見ているやつの気配から、強い敵意が伝わってくる。
……それでも、自発的に人間を襲おうとしないだけでもかなりまともだと思うけどな、あたしは。
あたしがコバルオンの立場なら、変に踏み込んできた奴には即座に襲いかかる選択をするだろうし。
「うむ……伝説の3匹は人を信用しておらん。
故に、おぬしの懸念通り……人が近づけばキバをむき、襲い掛かってくるじゃろう。
彼らは大昔の世界しか知らんのじゃから……」
「なおさらそっとしておいた方が良いだろ、それ……」
下手に関わったせいでコバルオンの怒りに触れて襲われた、なんて展開最悪じゃないか。
このジジイは全く気づいてもいないのかもしれないけど、その辺の野生ポケモンや強盗とは比べ物にならない威圧感があたし達に向けられてる。
恐らく、戦えはするけど簡単には倒せない相手だ。
今はまだ襲ってくるような気配も無い。
大人しく立ち去った方が良い、間違いなく。
「おぬしの言わんとしていることは理解できる。
じゃがの……今のイッシュは昔とは違うのじゃ。
人とポケモンが助け合って生きられる世界になっておる。
それを……伝説の3匹に分からせてやりたいのじゃ……」
「あたしは……無理矢理自分の世界に踏み込んできて。
土足で踏み荒らすだけ踏み荒らしておきながら、それを『素晴らしい事』だって主張されるのが……どれだけ身勝手で迷惑な事なのかよく知ってる。
そういうのは自分からやりたいと思って行わないと意味が無いんだ。
仮にあたしがあんたの望み通りにコバルオンと戦ったとしても、恐らくあんたの望むような結果にはならない」
アララギとあたし達の親が共謀してポケモンを送りつけ、ベルが部屋を滅茶苦茶に破壊し、結果的に叩き出されたあたし。
素晴らしいものだと何度も何度も言われてきたけど、とてもそうは思えなかった。
本人の望まない事を強要してる時点で、それがどんなに素晴らしい事だと訴えても人間にもポケモンにも通用しないんじゃないのか?
「……悪いな、あたしはその話に乗れない。
無理矢理関わっていって『コバルオン、時代は変わってるんだ、お前も人間と関わっていけ!』なんてやれそうにない」
「そうか……。
人とポケモンが信頼し合い共に生きている姿、それを彼らに分からせる。
おぬしならば恐らくできそうじゃと思ったのじゃがな……」
ずかずかと踏み込んでいってコバルオン相手に戦う、なんて考えはチェレンとかベルなら平気でやるんだろうけどな。
少なくとも、無理矢理自分の環境を変えさせられたあたしは……相手がポケモンでも本当に必要でなければやりたくない。