選択権無しのマリネット   作:ルスト

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悪魔

「……残念じゃのう。あのトレーナーならば、もしかしたらと思ったのじゃが……」

 

 マリネットが立ち去ってしばらくした後、老人は気落ちした様子でそう呟いた。

 マリネットが偶然ここにやって来たことは、コバルオンの考えを改めさせるまたとないチャンスだったのだ。

 だが、当のマリネットはコバルオンに会う事を拒否。そのまま帰ってしまった。

 結果として、老人の願いは果たされることはなかった。

 ……筈だった。

 

 

 

「……ま、待ってくれ。本当にここがそうなのか?

 お前さんがワシを導こうとしてくれているのは分かったが、何故ここまでしてくれる?」

 

 老人の所に、1人の山男と大きな頭が特徴の茶色いポケモン……オーベムが現れた。

 その後ろから更に女がやってくる。

 マリネットを育てた女、トリカであった。

 

『……お前の夢、叶えてやる。私達が力を授けてやろう。

 コバルオンをその手に捕えてみせろ……』

「なっ!? あ、頭の中に声が!?

 テレパシーか!? ……まさか、お前なのか? 謎のポケモン!」

『そうだ。私にはこれくらい造作もない』

「あまり私以外に喋らない方が良いわよオーベム。どこから面倒な事になるか分からないもの。

 それはそうと山男の貴方……本当にコバルオンと戦うつもりなの?」

「うむ、ワシはそのためにここに来たのだからな!」

 

 

 

 新しい来訪者。しかもコバルオンと戦うつもりでやって来たらしい。

 老人からすれば待ち望んだ来訪者となる。

 そう思っていた。

 

 

 

「な、なんじゃこの気配は!?

 コバルオンが……!?」

 

 直後、異変が起こる。

 フキヨセの洞穴の奥地でひっそりと過ごしている筈のコバルオン。

 この空間内に踏み込む者を見張りはすれど、近寄らなければ襲ってくることもない。

 冷たい気配を纏ってはいれど、必要以上に踏み込まなければ襲いはしない。

 そんなコバルオンの気配が一変した。

 伝説の聖剣士が今回の来訪者を明確に『敵』と判断したのだ。

 鈍い老人にもはっきりと分かるくらいの強い殺気と敵意が、洞穴の奥から空間全体に伝わってくる。

 

 

 

「……っ。ワシは今から、この殺気の持ち主を倒して捕らえるのだな……」

「ええ。恐ろしいのなら私が変わってあげるわよ?」

「いや、ワシがやろう。……ところで、力を授けるというのは一体……」

「ああそうね。ポケモンを皆出して。その上で、皆でオーベムの目を見なさい」

「そのオーベムの目を見ればよいのだな? よし、お前たちも見るのだ」

 

 一方、来訪者たちは山男を除き全く気にも留めていない。

 山男が手持ちのポケモンを出し、ポケモン達と共にオーベムと目を合わせる。

 直後、オーベムの目が怪しく輝き、山男とポケモン達の様子がおかしくなった。

 山男は目つきが修羅場をいくつも潜り抜けた猛者のようになり、彼のポケモン達は何もしていないのに勝手に進化を始める。

 オーベムに書き換えられた記憶の中で山男は『大昔のイッシュの戦争を生き抜いた軍人が未来に飛ばされてポケモントレーナーとなった』設定を、ポケモン達は『そんな彼に鍛え上げられた屈指の強さを持つ猛者』という設定を付与され、その過去に合わせるようにポケモンの体は変異を始めたのだ。

 

 

 

「ふふ……ポケモンを進化させるのなんてとっても簡単。

 適当な記憶を植え付けて頭を弄ればすぐだもの」

『……トリカ。この元山男はコバルオンに勝てると思うか?』

「まあ、勝てなきゃ勝てないで私達がやるだけよ。

 マリネットが先に来たのは誤算だったけど、馬鹿だからなにもせずに出て行ったんでしょ?

 おかげでコバルオンは私達の物ね。

 さ、行きなさい元山男。コバルオンはこの先よ」

「うむ。あの恐るべき悪魔を……ワシがこの手で封じてくれよう。

 お前達はそこで見ておるがいい。

 行くぞ、我が相棒達よ」

 

 もはや「ロマンを求めてコバルオンを探しに来た」山男はどこにも居なかった。

 そこに居たのはオーベムに全ての記憶を書き換えられ、元の人格も経験も完全に無くして架空の設定を付けられてしまったトレーナーとポケモンである。

 

 

 

「な、なんじゃお前達……一体その男に何を……」

「あら、先客が居たのね。今のを見た以上、生かして返せないわね」

『お前にはバトルサブウェイの狂人の仲間になってもらおう。悪く思うな』

「なっ……何をする!? 誰か……」

 

 その一部始終を見ていた老人。

 当然、見つかった以上ただでは済まない。

 即座にオーベムに拘束され、記憶を書き換えられる。

 人生を捧げてコバルオン達を追いかけ、人とポケモンが協力して歩める世界になったとコバルオン達に伝えようとしていた老人は、その記憶の全てを書き換えられて全くの別人に作り替えられてしまった。

 

 

 

「……そうじゃ、タマゴ、タマゴを割らねば……わしはこんな所で何をしていたのじゃ?

 さっさと強いポケモンを作り出さねば……」

 

 うわ言のようにそう呟き、老人は去ってしまった。

 コバルオンの事などすっかり忘れてしまったように。

 

 

 

「こんな辺鄙な場所で守護者気取りなんて、哀れな老人よねえ。

 迷惑な障害物でしかないじゃない」

 

 去っていった老人を嘲笑うトリカ。

 

『コバルオンはどうする? ラティオスの親みたいに壊してタマゴを産ませるか?』

「それも良いけれど……いっそ記憶を滅茶苦茶にして私の忠実なペットにしてやろうかしら」

『伝説の聖剣士の末路が、誇りも何もかも失った哀れなペットか』

 

 オーベムはテレパシーでトリカと話しているため、言葉は発さない。

 が、腕を口元に持っていき、笑うような動きをしていた。

 

「ええ。貧弱なポケモンを守るために戦った正義のヒーローみたいなポケモンなんでしょ?

 そんなポケモンが守る私は正義の象徴にならないかしら?

 うーん……でもチェレン君にあげるのも良いわねえ。

 マリネットをリーグ前のタイミングで倒してほしいのよ」

 

 まだ捕まえてもいないコバルオンの使い道を考えるトリカ。

 コバルオンを手にするのは確定事項と言わんばかりであるが、その手に「Mの刻印の入った紫のボール」がある事を考えれば当然であろうか。

 先程送り出された元山男がコバルオンと戦ってどうなろうと、結果は変わらないのである。

 

『なんとしてもチェレンをチャンピオンにする……だったか?』

「そうよ。あの子を傀儡に裏からイッシュを支配してやるわ。

 それに、もし正義に目覚めた異常者に攻め込まれてもチェレン君を身代わりに使うことだって出来る。

 若い新人トレーナーだから将来もある、世間的にもウケるはずよ。

 それに……私はゲーチスじゃない。チェレン君がやられた時にわざわざ表に出しゃばってついでに討ち取られるようなヘマはしないわ」

 

 直後、洞穴の奥から激しい戦闘の音が響き渡る。

 山男だったトレーナーとコバルオンが戦闘を始めたのだが、トリカもオーベムも気にする様子もない。

 

 

 

『……若いトレーナーの体を手に入れられれば良いのだがな。

 そうすれば私かトリカが支配者になり、手っ取り早くチャンピオンになれたものを。

 裏にもう片方が入れば万全だ』

「チェレン君を下手に改造すると怪しまれるし、極論それが理想ではあるけれど、ねえ。

 私としては貴方は可能な限りオーベムとして使いたいんだけど?

 バッジで無理矢理動かすラジコンよりも話の通じる相棒の方が頼もしいわ」

 

 貴方は可能な限り相棒のオーベムとして使いたい。

 そのトリカの言葉を聞いた途端、オーベムは額に腕を当てるような動きで嫌悪感をあらわにする。

 

『勘弁してくれ……。私はあの邪神のせいで孵化余りのゴミ個体リグレーにされたんだぞ?

 転生した直後にゴミ個体として雑に捨てられ、死に物狂いで生き延びて……思い出すのも忌々しい……。

 仮に一生オーベムのままで過ごすのなら、あの邪神の作ったこの世界を滅茶苦茶に破壊してやる。

 人間ならまだしも、よりによってポケモンに、それもゴミ個体として廃棄される存在に転生させた事を、お前の箱庭と作り上げた原作を徹底的に破壊することで後悔させてやる……!』

 

 目が何度も点滅し、激しい身振り手振りも行ってトリカに怒りを訴えるオーベム。

 

「無神経だったわね、悪かったわ。

 それにしても……貴方が私の頭に書き込んでくれた『原作のポケモン』とかいう物語……随分とふざけてるわね。

 マリネットが勝つのが確定してる世界なんて……。

 あんなのが主人公で英雄でイッシュを守るのが決定されているなんて」

 

 オーベムに書き込まれた事で把握した『原作』の事を思い出し、不快感を隠せないトリカ。

 一方、オーベムは「私に考えがある」というようなジェスチャーをしていた。

 

『奴の願いを叶えるついでに遠くに追いやる方法はある程度考えてはいる。

 後でトリカの頭にも書き込んでおこう。

 問題はアデクその他の役立たず共が余計な事をしてマリネットを舞台に上げようとすることだろうな』

「確実にアデクとアララギは余計な事をするわよね。

 さっきの老人みたいにしてしまえれば楽なんだけど」

『奴等は立場もある。さっきの老人と違い、下手に手を出せばすぐに発覚してしまうだろう。

 もちろん、ヒウンシティのプラズマ団のように雑に始末するのも得策とは言えないな』

「なかなか派手に動けないわね」

 

 直後、洞穴の奥から男の叫び声が。

 先ほど送り出された元山男はどうやらコバルオンに敗北したらしかった。

 何かを切り裂くような音が何度も洞穴内に響き渡る。

 

『ああ、負けたのかあの山男。

 所詮付け焼き刃の雑魚トレーナーだし仕方ないか』

「哀れねえ、せっかく力をあげたのに。

 ま、コバルオンなら暇つぶしにはなるでしょう」

 

 トリカとオーベムはそのまま洞穴の奥へ、コバルオンの所へと歩いていった。




記憶を書き換える能力があるって図鑑で言われるオーベム。
今回の山男や老人みたいに根こそぎ記憶を書き換えられれば完全に別の人間になってしまう。
記憶を書き足されれば完全にこの世界の住民であっても原作知識持ち転生者みたいに出来る、ってイメージ。

カラマネロがろくでもない図鑑説明あるけどオーベムも大概な気がする。
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