選択権無しのマリネット   作:ルスト

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58話 先を急ぎたいけど……

「……で、毒電波が去ってからすぐ先にコレか」

 

 あたしの前には、道を塞ぐように配置された謎の岩。

 完全に道塞がってるんだが、あの毒電波何処に行ったんだか。

 まさか、そこの段差を飛び越えた?

 地下水脈の穴の奥に居た奴等だって『なみのり無しに池を越えた』わけだしな……。

 軟弱なのってあたしだけか?

 

「久しぶりに来たけど、相変わらずここはポケモン好みの電気をたっぷり帯びているわねー!」

「げっ……」

 

 アララギの声が入り口の方から聞こえてきた。

 捕まると面倒だな……。

 ただでさえ毒電波に会ってしまって、意味不明な妄言を一方的に語られて気が滅入ってるのにアララギまで見たくない。

 

 

 

「どうにか押せないか? この岩……」

 

 試しにそっと触れてみる。

 すると

 

「うわっ!! 吹っ飛んで……奥にある岩にくっついた?」

 

 岩は想像以上に軽い。

 というか、ドアを開ける程度の力で十分だった。

 軽く押してみると、岩はスッと移動して道を開けてくれた。

 本当に岩なのか疑いたくなるけど……まああたしの力でも動かせるならいいや。

 よく見ると浮いてるし、だから軽かったって事にしておこうか。

 アララギに鉢合わせる前に、あたしはさっさと奥へ進んでいった。

 

 

 

 

 

「……ってあれ? この岩押せないぞ?」

 

 アララギを避けるように急いで奥に進んだあたしだったが、さっきは簡単に押せた筈の岩が今回は何故か押せない現象に見舞われていた。

 

「変だな……動かすのに力要らなかった筈なのに……」

 

 道を塞いでいる岩をどれだけ押そうとしても、ゆらゆら揺れるだけでさっきみたいにスッと移動する感じはしなかった。

 仕方ないから裏に回って回り道か隙間探すしかないか……。

 

 

 

 「っとと。狭いな、気をつけ……えっ?」

 

 反対側に回った時、あたしの手が偶然岩に当たる。

 その瞬間、さっきまで押してもびくともしなかった岩はスッと移動して道を開けた。

 

 

 

「まさか……方向が決まってるのか?」

 

 岩が移動した先には大きな岩が。

 そういえば、さっきの岩もあんな感じで大きな岩にくっついてたような……。

 もしかして、あの大岩は磁石みたいなものなのか?

 

 

 

「なるほど、この辺りのデータはこんな感じね!

 次はこっちの方を調べないと……」

「って、ヤバっ!

 この岩動かすために時間かけすぎたみたいだな……」

 

 もたもたしてる間にアララギにかなり距離を詰められてたらしい。

 アララギの声が聞こえてきた。

 さっさと進もう……。

 ……なんであたしが先に進もうとしたタイミングでどいつもこいつも狙ったように現れるんだか……。

 こっそり1週間くらい行方くらませてやろうかな?

 ……ホドモエシティで結局大変な事になってたし、ダメかな。

 

 

 

 

 

 そのまま洞穴の奥に進み、橋を渡ろうとした瞬間

 

「「「……………………」」」

「うわ!? またかよ!

 帰ったんじゃないのかよ!」

 

 あたしは再びダークトリニティとかいう不審者トリオに包囲された。

 

「…………来い」

「いや、橋くらい自分で渡れ……話聞け!」

 

 勝手に体を動かしてくるダークトリニティに橋を渡らされた。

 マジで何なんだよこいつら……。

 

「…………………………この先に下りの階段がある。

 そこでプラズマ団がお前を待ち構えている」

「それだけのためにわざわざこんな事しなくていいだろ……」

 

 たったそれだけのためにわざわざあたしの体を無理矢理動かして橋渡らせる必要がどこにあるんだよ。

 ただ自由を奪いたいだけとかそんなしょうもない理由だったりするんだろうか。

 ここまでの道も一本道だったし、迷いようがない作りだったから何のために出てきたのか理解出来ないな……。

 

 

 

 

 

「やあやあ、私はきんのたまおじさん兄!」

「そして私はきんのたまおじさん弟!」

 

 階段を下りると妙な二人組に話しかけられた。

 ホントどうなってんだよイッシュの教育。

 変な奴か無責任な奴か身勝手な奴しか居ないのか?

 

「やってきたね、よく来たね!

君にこれをあげちゃうよ!」

「私もこれをあげちゃうよ!」

「「このきんのたまを君にあげよう!!」」

「…………売れば、金にはなるけどさあ……」

 

 男女関係なく、ここを通りがかった人間相手にこんな事言ってるんだろうかこいつら……。

 

 

 

 

 

 

 

「……で、プラズマ団が待ち受けてるのはここから、と」

「オマエ……誰かに操られてここに来ただろう。

 オレに勝てたらその秘密教えてやるよ」

 

 毒電波の言葉通り、プラズマ団が待ち受けていた。

 全員倒さないと通れないらしい。

 って言っても、手当たり次第倒せばいいんだろ?

 あたし達の敵じゃない筈だ。

 

 

「くっ、まさか負けてしまうとは……」

「で、戦闘前に言ってたのってどういう事なんだ?」

 

 相手にもならない。強いトレーナーはプラズマ団には居ないのかな?

 それはそうと、こいつの話は何なんだろ?

 まあ、大方ダークトリニティとかいうあの不審者トリオの話なんだろうけどさ。

 

「我らの王様をサポートするゲーチスさま、ゲーチスさまには3人の部下がいるのだ……その名もダークトリニティ!」

「操られてっていうか無理矢理体動かされたっていうか……まあ操られたようなものか」

 

 案の定あの不審者トリオだった。

 あたしの意識がある分、意識の無い洗脳とかより余計質が悪いけど……。

 

 

 

「ポケモンを無理矢理戦わせて苦しめてるトレーナーよ!

 オレが勝ったら、お前のポケモンを解放しろ!」

「苦しめてるつもりはないけどさ……あたしが本当にそんな奴だったとして、ズルッグ一匹でどうするつもりなんだよ」

 

 だからってヒヒダルマ強盗みたいなかなり強い奴が出てきてこんな主張されても困るけどさ……。

 

「何故だ? お前のポケモンはお前の隣で嬉しそうだな……」

「普通にしてるだけ……なんだけどな」

 

 特別な事とか何もやってないし、あたし。

 

 

 

 

 

「この電気石の洞穴で暮らすポケモンは美しいわ。

 だって人から自由だもの」

「自然の美しさ、とか天然の物特有の美しさ、みたいなのがあるのは分かるけどさ……」

 

 野生ポケモン至上主義か何かかよ。

 まああたしには関係ないけど。

 当然、敵なら倒すだけだ。

 

「普通のトレーナーがポケモンを使う……バトルで傷つけ、強くするために野生ポケモンを傷つける……。

 悪い事だと思わない?」

「トレーナーってそういう奴じゃないのかよ?

 というか、お前だってポケモン繰り出してあたしに挑んできたし、あたしもお前も同類だと思うけどな」

 

 戦わせるのが良くないって言うなら、最初から安全な場所でペットにしておくのが一番なんじゃないのか?

 

 

 

「貴方ね……N様が気にしているトレーナーって!」

「目をつけられて、あたしはむしろ迷惑なんだけどな……」

 

 なんであたしなんかの事気にするのか?

 あたしが聞きたいよ。

 強いから? それを言うなら、あたしのこと鍛えてくれたアヤさんの方がもっと強いはずだし……。

 認めたくないけど、あたしの親だって……。

 

 

「負けた……けど、貴方だってその辺のトレーナーと同じじゃないの?」

「あたしだってそう思ってるよ……。

 ポケモンだってたまたま良い人に鍛えてもらっただけなんだし」

 

 なんだってあたしの事なんか気にするんだか。

 さっぱりだ。

 

 

 

「N様はポケモンと共に育ちになったお方……。

 誰よりもポケモンの事をお考えになっているの!」

「感性は明らかに妙だけどな……」

 

 まああいつのことは別にどうでもいいけど。

 

 

 

「誇り高きプラズマ団の一員である私が相手だ」

「誇りも何もあたしには無いけど……道を塞ぐなら倒す、それだけだよ」

 

 誇りとかはどうでもいいけど、あたしの道を塞ぐならどいてもらうだけだ。

 

 

 

「誇り高きプラズマ団の一員である私が……」

「はあ、一体何人居るんだか」

 

 多すぎるだろ、マジで。

 あたし1人相手にどれだけプラズマ団配置してるんだ……。

 

「お前は……」

「なんだよ」

「お前は何のために戦う?

 いや、何のために生きる?」

「哲学かよ……。あたしは……」

 

 何のために戦うって……?

 思い出してみても……あたしの意思は無視して「事件解決に手を貸せ!」「強盗を倒して!」「守って!」みたいな展開ばっかり浮かんでくるな……。

 自由に生きたい。あたしの願いってそれだけの筈なのに……。

 

 

 

「プラズマ団の願いは!

 ……って、貴方には関係ないわね」

「ああ、あたしには関係ないな」

 

 あの毒電波がボスの時点でなあ……。

 

 

 

「プラズマ団の願いは!

 王様が全ての上に立ち、悪いトレーナーの手からポケモンを解き放つこと!」

「……悪いトレーナーの手から、ねえ……」

 

 勝手にやるならどうぞって感じだ。

 あたしが巻き込まれないなら、なんだけどな……。

 

 

 

「ポケモンを使うトレーナー、お前の強さ見せてみろ!」

「何人居ようと、あたしの敵じゃない」

 

 結構な数居たけど、近くに階段がある以上打ち止めも近いかな?

 当然、バトルの方は圧勝だ。

 

「なるほど……よくポケモンを使いやがる」

「ま、こんなもんだろうな。数だけは多いけど……」

 

 息切れするような敵でもない。

 

 

 

「人がポケモンを使う事で、強い弱いの競争が生まれてしまう……それでいいのか?

 ポケモンはトレーナーの道具か?」

「…………強い弱いの競争、トレーナーの道具……」

 

 チェレン……あたしの方がたまたま勝ってるけど、ずっと「〇〇バッジを持つ者どうし、どっちが強いか確かめる!」って言ってるな。

 トレーナーの道具……か。

 カイリューはお金で買ったも同然の、移動に特化したポケモンだ。

 秘伝技……トレーナーの道具……どうなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

「来たね」

「わざわざ出口前で待ち伏せかよ……。

 さっさとどっかに行ってくれて良かったんだけど?」

 

 出口らしい光が見えるけど、その手前に毒電波が立っている。

 大量にプラズマ団と戦わせて、疲弊して弱ったあたしを倒そうってか?

 

「多くの価値観が交じり合い世界は灰色になっていく……ボクにはそれが許せない」

「……」

「ポケモンと人間を区分し白黒はっきり分ける。

 そうしてこそ、ポケモンは完全な存在になれるんだ。

 そう! これこそがボクの夢!

 かなえるべき夢なんだ!」

 

 相変わらず早口でベラベラと自分の言葉を一方的に言うだけだよなこいつ。

 

「マリネット! キミにも夢はあるのか?」

「……夢、ねえ…………」

 

 自由に生きたい、自由になりたい。

 それがあたしの夢……なんだろうな。

 

「…………ある、と言えば、あるのかな、多分」

「夢がある……それはすばらしい。

 ……キミの夢がどれほどか、勝負で確かめるよ」

 

 ……有無を言わさずに襲ってくるのか。

 少なくとも、お前の思ってるような壮大な夢じゃないだろうな、あたしの夢は。

 

「ガントル!」

「…………」

 

 ずっとスプレーで野生ポケモンを遠ざけてるけど、なんとなく分かる。

 この辺の野生ポケモンなんじゃないのかこれ?

 

「ポーク『いわくだき』」

「ガントル、『てっぺき』!」

 

 力の差は歴然だ。

 スプレーの効果でこの辺の野生ポケモンは全く出てこれない。

 道中のトレーナーよりもあたしはずっと強い筈だから。

 

「ポケモン勝負は互いが理解し合うためだって信じているかい?」

「……戦えばなんとなくそいつの事は分かるだろうけど……別に信じて無いけど?」

 

 どれだけ夢見てるんだか。

 圧倒的な力の差がありそうだし、さっさと片付けよう。

 

「バチュル!」

「『かえんほうしゃ』」

「ギアル!」

「『かえんほうしゃ』」

「テッシード!

 ボクの全身から溢れるトモダチへのラブ!

 見せてあげるよ!」

「『かえんほうしゃ』」

 

 もはや流れ作業だ。

 圧倒的な力の差はトモダチへのラブとかいう妙なものを駆使してもどうにもならない。

 

「トモダチが傷つく……。

 これがポケモン勝負だよね」

「まあ、こうなるよな」

 

 その辺の野生ポケモンであたしに挑んだところでこうなるのは当然だ。

 

 

 

「……どうしてだ?

 トレーナーであることを苦しく思うまま戦っていても勝てないのか……」

「その辺の寄せ集めの野生ポケモンであたしに挑む時点でやり方間違ってんだよ」

 

 同じ寄せ集めでも、通販のポケモン買い集められた方が恐ろしいと思う。

 チェレンと次に戦う時とかどうなるか。

 

「クッ! こんなことで理想を追求できるか!

 伝説のポケモンと……トモダチになれるものか……!」

「まともに育ててなんとかしようって気は全くないんだな、お前……」

 

 まあトレーナーを嫌悪してるなら野生の寄せ集めしか使えないか。

 

 

 

「マリネット!」

「……って、ベルかよ」

 

 まあここで出くわしても不思議じゃないか。

 ……一本道ばっかりだし。

 

「もうすぐフキヨセシティだね」

「……ベルは耳がいいのね」

「げ……」

「…………」

 

 毒電波にまで絡まれて、ついにアララギに追いつかれてしまった。

 ……あれだけプラズマ団居た割にここまで追いつかれなかっただけでもラッキーだったか?

 

「あんな遠くからでもマリネットの声が聞こえるなんて。

 ……で、マリネット。そちらのトレーナーはどなた……?」

「毒で……Nとか言う妙な奴だよ」

 

 反射的にこいつの事毒電波って言いかけた。

 危ない危ない……。

 

「……アララギか。トレーナーとポケモンの関係に疑問ももたず人間の勝手なルールでポケモンを分類しポケモンと言う存在を理解したつもりになる……。

 そんなポケモン図鑑が許せないのだがアナタはなにを考えているんだ?」

 

 なんか、滅茶苦茶キレてる感じがするな。

 ある意味当たり前か?

 図鑑とポケモン渡してトレーナーに仕立て上げる元凶みたいな存在だろうし。

 

 

 

「あら……随分と嫌われているようね。

 だけど、あなたの意見もひとつの考え方なら、わたしの願うところも同じくひとつの考え方よ。

 ポケモンとどう付き合うべきか、それは一人一人が考え決めればいいんじゃない?」

 

 こんな事言ってるけど、あたしには拒否権すらなかったんだけどな。

 どの口でそれを言ってるんだかって感じだ。

 強いポケモン持ってないと生活するのも危険すぎるとはいえ……。

 

「……それでは間違った考えの人間がポケモンを苦しめる……。

 そんな愚かな世界をボクは見過ごすわけにはいかない!」

 

 平行線のまま毒電波は去っていった。

 まあ当たり前だよな。

 

「……まあ、いきなりわかってもらえるとは思わないけど、少しずつでいいからみんなの気持ちを知ってほしいな」

 

 アララギは毒電波の方を見てそんな事を言っていた。

 

「さてと……もう少しデータを集めるかなー。

 わたしたちとポケモンがもっと仲良くなるためにも相手のことを知らないとね!」

「えっと、マリネット。

 あたし今アララギ博士のボディーガードだから博士と一緒に行くね!」

 

 アララギとベルはあたしの反応も待たずに去っていった。

 ……やれやれ、ようやく面倒事から解放されたのか?

 はあ、疲れた……。

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