(…………想像以上にマリネットは強いな)
トリカの所を離れた私は、マリネットの記憶を根こそぎ改変した後に『家族』として配置する予定の人間を適当に確保していた。
その辺の名前すら怪しいモブキャラ達を適当に捕まえただけのため人選は適当だ。
とはいえ、必要になった時にまとめて記憶を書き換えるだけなのだからその辺は気にしなくても構わないだろう。
仮に行方知れずになったと騒いだ所で、まさかポケモンが犯人とは思うまい。
マリネットの記憶を私の力で改変した後に、知り合いが見ても分からないようにマリネットの見た目を大きく変えるための散髪その他の作業をする美容師要員も準備したし、後はマリネットをどのタイミングで表舞台から引きずり下ろすかだけだった。
そのタイミングを決める意味も兼ねて、こっそり電気石の洞穴までやってきたのだが……。
(まさか、この時点でここまでレベルの高いポケモンを持っていたとはな……。
よりによってレベルが全然上がらない筈のBW世界でこのレベル……か)
正直驚きしかなかった。
通販のポケモンと言う原作破壊要素を使ったわけでもないのに、マリネットの戦闘力は時期に対して不釣り合いなくらいに高いのだ。
トリカは「チェレンは通販のポケモンで挑むつもりみたいね」とか言って大して警戒もしていないようだが、この時点でここまでやれるとなると、このままチェレンを好きにさせて、対抗しようとするマリネットの戦闘力を上げ続ける事態になると不味いことになる。
私がマリネットに負けるとは思えないが、万が一という事もある。
(『その時』が来るまでは、チェレンの実力をゲーム相当のラインまで下げさせるとしようか……。
本来の手持ちで戦わせて、マリネットの過剰な成長を抑制したい所だな。
自分のポケモンが圧倒的な実力差で相手を吹き飛ばし、ヌルゲー寄りの難易度のまま進ませればマリネットはそこまで成長しないだろう)
そうなると、チェレンを捕まえて頭の中を書き換えるしか無いだろうか。
そうでもしないと通販の味を覚えたチェレンが止まるとは思えない。
……全く、面倒事ばかりだな。
だが、これも全ては私の目的を果たすため。
邪神の書いた筋書きも英雄も何もかも壊してやる。
「オーベム様……我々は……どう動けばよいでしょうか……?」
「ご命令を……」
おっと。……まだ命令などは必要ないが、集めた人間たちに次の指示を出してなかったか?
20人くらいは居るだろうか。電気石の洞穴の中だから人通りはそんなに多くないとは言え、一ヶ所に集めすぎたな。
今回集めた人間はとりあえず私の命令に忠実に働くように弄っただけで、細かい調整はそこまでしていないが……そうだな。
『元ジェントルマンのお前は、そこの元マダムと協力してカゴメタウンに大きめの家を一軒手に入れておけ。
時が来たらマリネットをそこに住まわせる。
それと……そこの元ベテラントレーナー2人。お前達は私が記憶を書き換えたマリネットと仲良く暮らし、奴が妙な事をしないように楔の役割を果たす家族になるのだ。
マリネットに愛情をもって接し、この家族を壊さないようにしたいと思わせるためにな。
お前達4人はカゴメタウンで先に住居を整えておけ』
「「「「承知しました……オーベム様……」」」」
『よし、行ってこい。頼んだぞ』
マリネットの偽の家族要員達に指示を出し、送り出す。
次は……美容師担当数名。誰が見ても分からなくなるレベルのイメチェンをやってのける役割の連中か。
……さっきの奴らやマリネットの事を脳に直接仕込んだ最高レベルの整形技術で魔改造するのはまだ先の話だが。
それはそうと、役目が終わったら全員マリネット家の専属メイドやバトラーになっておいてもらい、マリネットに部外者を近づけないようにしておかなければな。
万が一にも原作キャラやあの邪神が手出ししてきても返り討ちに出来る戦力がマリネットの周囲には必要となる。
そうなると……バトルサブウェイから何人か引き抜いて回すとしようか?
定期的にバカンスに来るシロナ含め、危険な存在が多い。
……肝心のマリネットは、ポケモンと引き合う主人公の本能めいたものをもし壊せなかったなら、タマゴから適当に孵化させた愛らしい赤ちゃんポケモンでも与えておこうか。
屋敷から一歩も出させずに過ごさせるつもりだが……。
(そうなると、カゴメタウンそのものが必要になってくるか……?)
カゴメタウンそのものを私の完全な管理下に置き、誰もマリネットに近づけないようにしなければならない。
ハイリンク中心の手抜き円盤型ととことん一本道のマップのイッシュにおいて、カゴメタウンはイッシュ北側の交通の要所になっているのが気になるが……そもそも一本道のイッシュで交通の要所になっていない場所がどれくらいあるというのか。
適当に町なりダンジョンなりの出入り口を1つ封鎖しただけで交通網が簡単に麻痺する欠陥地方だ、イッシュは。
(カゴメタウンの住民全員を私の支配下に置き、自然とマリネットお嬢様を溶け込ませる必要があるのか……?
住んでいる世界から何から別物に仕立てるつもりだが、想像以上に仕事が増えそうだな)
その間足止めも狙いたいところだ。
今指示待ちで待機している残りの連中はカゴメタウンの掌握のために走らせてもいいが、それだと足止めの手が足りないかもしれないな。
マリネットが望まない限り物語は先に進まないだろうが……。
……そう言えば、この先は「タワーオブヘブンに来て!」とか言ってジムリーダーのフウロが職務放棄する場所だったな。
多分何もしなくてもマリネットは嫌がるだろうが……アララギが居る以上強引に向かわされるだろう。
その前に、1つ手を加えておこう。
『そこのお前。トリカに連絡して、チェレンを一度連れてこい。今後の計画に備えて色々調整が必要だ。
オーベムからの指示だと言えばトリカには伝わる、トリカ経由でチェレンは呼び出せる』
「了解しました……オーベム様」
今や完全にメイドと化した元エリートトレーナーだった女が私の指示に従い走っていく。
テスト目的も兼ねて捕まえた中の1人を整形させたが、髪の色も目の色も完全に別物だ。
元は青髪だったはずなのに、髪は根元まで完全に茶色に変更、少し髪が伸びている筈なのにその根元まで茶色のままで本来の地毛の青色はどこかに行ってしまった。
目の色も、そういう技術を使えるのだ、と仕込んだ私ですらどうやったのか理解できないが、コンタクトも何も使わずに茶色になっていた。
……あの女を見て誰が元々はエリートトレーナーだったと認識するだろうか。
マリネットにも……記憶とポケモンを奪った後はあの美容師の整形術で別人へと変わってもらおう。
二度と自分がマリネットだと認識できないように。
見た目も記憶も全て書き換えて、私の障害にならないように……な。
(私の計画は問題なく進んでいる……。
このまま行けば、必ず成功するだろう……。
不確定要素……主人公。今度こそ消えてもらおう、マリネット)