「おお! おまえさん! マリネットだろ!!
ちょいとおまえさんのポケモン図鑑を見せてもらうよ」
「ちょっ! なんだよいきなり!
って言うか、あんた誰なんだよ!!」
フキヨセシティに入って早々、妙なおっさんに絡まれた。
なんなんだ、いきなり!
「……どれどれ、見つけた数は76匹か!
おお! ギアルを見つけておるのか!
なかなかのトレーナーだねえ!」
「……見つけたというか、毒電波が勝手に出してきただけというか……」
少なくともあたしはずっとスプレー振ってて野生ポケモンとは全く遭遇してなかったし。
「おお、すまない! ちと興奮してな。
わたしの名前もアララギ」
「アララギ……?」
こいつ、博士の方のアララギの親か何かか……?
確かに、この一方的に話しかけてくるような雰囲気は似てるような気もする……。
「そう! おまえさんにポケモンと図鑑を託したのはわたしの娘なんだ!」
「あっそう……」
「おまえさんのことはアイツから色々教えてもらっていてね、ここで会えたのはなんとも嬉しい限りだよ!」
あたしは別に会いたくもなかったけどな……。
「では出会いを記念して、おまえさんのポケモン図鑑をパワーアップ! だね」
「……具体的には?」
正直期待なんかしてないけど。
図鑑の存在とかすっかり忘れてたし。
「同じポケモンでも姿が変わるポケモンがいる。
見たことがある姿ならこれでいつでも確認できるよ。
あわせて、検索機能も追加しておいたからね」
多分あたしが使うことはないだろうな。
…………忘れよう。
「アララギ博士、そちらのトレーナーさんは?」
派手なスーツ姿の女がやってきた。
……このおっさんの事も「アララギ博士」って言うのかよ。
2人並んだらどっちの事指すのか分からなくならない?
あたしには関係ないけどさ。
「おお! おう! すまんすまん。
フウロくん、こちらはマリネットくんと言ってわたしの娘の知り合いだよ!
ポケモン図鑑完成を目指しイッシュを旅しているのだ」
滅茶苦茶出鱈目な事吹き込んでんじゃねえか……。
やっぱアララギの家族だな。
ポケモン図鑑完成? 誰がやるかそんな事。
「そうなんだ! だったらジムに挑戦するでしょ?」
「……まあ、そのつもりで来たわけだしな」
あたしは自由になるためにも、自分のやりたい事を押し通すためにも、もっと力が欲しい。
それだけは多分変わらない。
「わあ! とっても楽しみ!!」
「そうだなマリネットくん、ぜひ挑戦するといいぞ!
なにしろここのジムはぶっとんでおるからな!」
「ぶっと……え?」
すごく嫌な予感がしてきた。
……ろくな仕掛けじゃないんだろうな。
「ではなフウロくん。また何かあったら頼むぞ」
「……博士、アタシの飛行機は貨物機です!
運ぶのは荷物で人は乗せないんですよ。
……しかも行き先はカントーとかシンオウとか軽く言っちゃって!」
うわあ……。
あのアララギにしてこの親ありって言うかなんて言うか……。
人の話は聞かないくせに自分の暴論だけは押し付けるところとかそっくりだな……。
「おいおい、かわいい顔してそんな固いことを言うな。
人間は助け合い、ポケモンとも助け合い、だ!
それでは諸君、また会おうぞ!」
親の方のアララギもろくな奴じゃ無いって事だけは、今のやり取りで確信できた。
被害者があたしかフウロかってぐらいだ、多分。
「……もッ! あんないい加減な感じなのに世界的なポケモン博士って未だに信じられない」
「ええ……あんなのが世界的なポケモン博士なのか?」
ポケモン博士ってろくな奴居ないんじゃねえの?
研究の能力と引き換えにまともな人間の感性とか常識とか色々投げ捨ててそうだな……。
「さてと、マリネットさん!
ジムに挑戦してくれたらジムリーダーとしてもすごく嬉しいんだけど、アタシその前にやるべき事があるの」
「…………は?」
おい待て、ジムリーダーがジムに戻らないから挑戦させませんよって流れじゃないのかこれ?
この旅とも言えない歩みの中で何回も見てきたぞ。
『また』なのか!?
「さっき貨物機を操縦していたとき、タワーオブヘブンの天辺に何か見えたのね。
きっと弱ったポケモンだと思うの! だとしたら放っておけないでしょ?
だから先に調べさせてね」
「…………」
最悪だ。
一瞬でもさっきのアララギの件で同情したあたしが馬鹿だったな。
どいつもこいつも、ジムリーダーのくせにジム放り出しすぎじゃないか!?
何人目だよ!
「と言うことで、7番道路のタワーオブヘブンに行くんだけど、よければアナタも来てね」
言うだけ言ってフウロは勝手に去っていった。
……面倒だな、待ってたらどうにかならないか?
試しに電気石の洞穴の方で時間潰しでもしようかな?
「おや、マリネット。こんな所でどうかしたかい?」
「……って、チェレンか? 悪いけど、ジムバッジ以前にジムに挑戦する権利すらあたし達無いぞ?」
帰ろうとしたら電気石の洞穴の出口からチェレンが出てきて声をかけてきた。
とは言っても、今のあたしはフキヨセジムのバッジとか持ってないし、チェレンだってまだ戦闘する気はないだろう。
「……何があったのか、聞かせてもらえるかい?」
「ああ。チェレンがやって来る少し前の話なんだけどさ……」
チェレンにさっきの話の内容を伝えた。
流石にアララギの父親についてまで詳しく話す必要はないから軽く話す程度にしたけど、フウロが勝手にジムを放り出してタワーオブヘブンに向かって行ったことは詳しく伝えておく。
「なるほど……イッシュのジムリーダーは全体的に無責任なんだね、だからジムの事を平気で投げ出せる」
「チェレン?」
「ぼくがチャンピオンになった時には、こんな適当な体制は整えなければいけないな」
…………チェレン、やっぱり何か変だよな?
強さを追い求めてこそいたけど、こんな事思ってもなかったような……。
「なあ、チェレン。チャンピオンになって強さを示して、生きている実感を得るのがお前の目的だったよな?
いつからそんな風に思うようになったんだ?」
気のせいだと思いたいけど、明らかに違和感が拭えなくなってきた。
チェレンの言葉であって、チェレンの言葉じゃないような……。
「……なんだ、そんな事か。
ぼくはね……この旅で突きつけられた事が沢山ある」
「突きつけられた事?」
「……まず突きつけられたのは、ぼくには特別な才能なんて無かったって現実だ。
通販の力に頼った方が圧倒的に強くなれる……。
逆を言うと、ぼくがポケモンを育てようとしても通販のポケモンにも敵わない……」
「そんな事は……」
無い、って言ってあげたい。
けど……チェレンが使ってた通販のポケモンの戦闘力は、アヤさんに鍛えられたあたしでも苦戦するほどだった……。
もしあの時真っ直ぐに進んでたら……一方的に倒されたのはあたしの方だろう。
「ぼくとベルが強盗に無様に負けたのは知っているだろう?
アレは……通販のポケモンを使わなかったからだ。
ポケモンとの絆があればなんとかなるとか考えてた愚かなぼくに突きつけられた……余計な要素よりも、力こそが全てで絶対だって言う現実だ」
「……」
正直、あんなの相手にしてどうすればいいんだよってあたしでも感じたと思うんだけどな……。
アヤさんに出会ってたから、対抗できただけなんだ。
「ジムリーダーは何をしてくれた? アデクは?
肝心な時に強い人には誰も頼れない。誰も頼りに出来ない。
それがこのイッシュだ。
ぼくはそれを痛いくらい実感したよ。そして決めたんだ。
チャンピオンになって生きている実感を得るだけじゃない、今のイッシュを変えるんだって」
「なるほどな……」
チェレンなりに思う所はあるのか……。
「それはともかく、安心してくれマリネット」
「へ?」
「タワーオブヘブンにはぼくが行ってくるよ。
マリネットは待っていてくれたらいい」
「いや、まあ……それでなんとかなるなら滅茶苦茶助かるんだけど……大丈夫なのか?」
フウロは「アナタも来て」って言い残してたんだけどな……。
「ああ。ぼくがなんとかしておくよ」
「…………まあ、何とか出来るって言うなら任せてみるけど、無理そうなら諦めてあたし行くからな?」
ぶっちゃけその気遣いだけで有難いくらいだし。
じゃあ、フウロをチェレンが連れ戻すまでは好きに過ごそうかな?