「……こうして実際に体験しているけど、それでも信じられない。
テレパシーとはいえ、人間と喋ることが出来るポケモンが居るなんて……」
『まあ、私達ポケモンは基本鳴き声と態度で意思を示すだけだからな。
テレパシーで直接お前たちの言語を喋る私は、ある意味イレギュラーかもしれない』
トリカ経由でチェレンを電気石の洞穴に呼び出した私は、そのままチェレンの手持ちへと入り込んだ。
システムに照らし合わせればチェレンの所持バッジ数で私を従えるなど不可能だが、私はその辺のポケモンとは違う。
必要とあれば雑魚の手持ちになるのも問題ない。
そもそも、そうでもしなければトリカ以外は私を運ぶことすら満足にできないだろうしな。
「……きみが言った通りにマリネットの代わりにこうしてタワーオブヘブンの方に向かっているわけだけど……。
マリネットの言葉通りならフウロはマリネットが来ないと帰らないんじゃないか?
ぼくが行っても無駄にならないか?」
チェレンは懐疑的だな。まあ無理もない。
深い所まで記憶を書き換えたりして人格を変えているわけでもない以上、素の性格で返事されるだけだ。
『問題ない。仮に帰るつもりが無いとしても、私が何とかしてやろう』
「オーベムが……? まさかとは思うけど、変なことしないよね?」
『そんなことはしないさ。まあ、安心しておけ』
もちろん、動く気が無いなら無理やりにでも帰らせるだけだがな。
とはいえ、このまま意味もなくフウロに手出しすれば流石に怪しまれる可能性は高いだろう。
その前に、チェレンを私の傀儡に近づけなければな。
私のやることに違和感を一切抱かないようにしなければいけない。
「また野生ポケモンか……本当にメンドーだな……。
倒しても倒しても出てくる。これじゃ進むのにどれだけ時間がかかるか……」
『この草むらでこれだと、タワーオブヘブンの中は相当な数の野生ポケモンが邪魔をしてくるか……』
試しに、という事で細い橋ではなく草むらを渡らせてみたが、これ以上先に進ませないとばかりに野生ポケモンが次々に襲い掛かってくる。
1歩歩けば次の敵。1歩歩けばまた次の敵。その繰り返しだ。
私の考えていることはお見通しという事か。
なんとしてもマリネット以外を近づけたくないのが透けて見える。
『チェレン、状況は大体把握した。恐らくお前の力でそのまま進むのは不可能だ。
現に通販で買った対ヒヒダルマ用のポケモン達で挑んでいるが、PPももう残り少ないのではないか?』
「確かに……いつもと違って全く逃げられないし、かといって戻ろうにも戻れないし……」
『チェレンが居る場所は濃い草むらでもないのに、毎回のようにポケモンが2匹同時に出てくるとはな……。
世界のルールすら捻じ曲げてくるか』
あの邪神の作ったシナリオの筋書きに逆らおうとすれば、修正力が全力で邪魔をしてくるということのようだな。
恐らく、この野生共はチェレンが「主人公のマリネットに代わって勝手にタワーオブヘブンのイベントを進めようとしている」事を勘づいた邪神の防衛システムによって出て来たんだろう。
だが……少々詰めが甘いな。
『チェレン、私を出せ』
「オーベムを? ……わ、分かった」
あまり『コレ』は使いたくないのだが、こんな露骨な足止めをするのであればやむを得ないか。
『…………』
私の足元からエネルギーを溢れさせ、7番道路全域を飲み込むように広げていく。
この辺り一帯に満ちている『イレギュラーの行動を阻止するための力』を塗り潰す。
「な……なんだ? 空が急に暗く……。
太陽は隠れていないのに……?」
世界のシステムを踏み潰すために私が作り出した奥の手だ。
元はマリネットを殺すために作り出した技だったが、肝心のマリネットには全く通用せず、代わりにこのような異常な現象や異常な存在……修正力の手先にだけは強力な効果を発揮する。
……修正力の手先共が纏っている「アルセウスの加護」もしくは「シナリオ補正」とでも言うべき奇跡の力。
私が力を使った一帯だけは、その力を無理矢理封じ込めて本来の状態へと書き換えられる。
運命を捻じ曲げるための力だ。
『散れ、ゴミ共』
邪神の加護が消えてしまえば異常な回復力も何もなくなる。
そうなれば残されたのはただ数だけが多い有限の雑魚だ。
草むらごとまとめて破壊光線で薙ぎ払えば終わる。
「これが……きみの力……」
チェレンは目の前の光景に言葉を無くしたらしいな。
無理もない。1歩も進ませまいとばかりに出て来たポケモンの群れが、草むらごと消え去ったのだから。
だが、茫然としているところ悪いが、そんな事では困る。
この場でもう少し調整してやろうか。
『お前は私を使いこなすトレーナー。
チャンピオンになる資質を持つトレーナー。
誰にも負けない、イッシュ最強のトレーナーになる運命を背負った存在……』
私の力をチェレンに馴染ませながら、調整を施す。
お前には最終的に私の手先として働いてもらうのだからな……。
イッシュチャンピオンの座を守り、私のイッシュを脅かすものを葬る存在に。
「そうだ……ぼくはチャンピオンになるんだ。
オーベムの力に驚いている場合じゃないな。
これを使いこなせるようにならなければ……」
『その意気だ。私を使いこなすことが出来れば、お前は誰にも負けないだろう。
トリカとの兼ね合いもある以上、常に居られるわけではないが、力を貸してやれる間は存分に私を使え』
「そうだね……ポケモンに言われるのは不思議な気分だけど、その通りだ。
……さて、行こうオーベム。タワーオブヘブンはまだ先だから」
『ああ、まだ道は長い。私の力を確かめる意味でも、ゆっくり着実に進むと良い』
順調にチェレンの傀儡化は進んでいる。
この調子なら、今からでもマリネットを倒して強引に処置を施すこと自体は可能だろう。
最も、それはまだ先の話だがな。
今この場で手を下したとしても、しばらくすれば復活される可能性が高い。
マリネットを狙うべきタイミングは……。
「トレーナーか……。よし、オーベム、今度はぼくの指示で動いてくれ」
『良いだろう。私の力、使いこなして見せるがいい』
こんなバッジ6つ目辺りの中盤戦ではない。
全ての準備が整い、かつ、マリネットさえどうにかすればイッシュをすんなりと私の物に出来るタイミング。
それは……。