チェレンがあたしの代わりにタワーオブヘブンに行ってフウロを連れ戻してくれるって事で向かっていったから、あたしはしばらくフキヨセシティで待つことにした。
と言っても、特に今すぐやりたいことがあるわけじゃなかったし、なんとなく電気石の洞穴に戻って来た。
毒電波が出してきた野生ポケモン……なんとなく、見覚えがありそうなポケモンが居たんだよな。
「毒電波はなんて言ってたっけ……確か……バチュル?」
小さい黄色の虫みたいなやつだった。
スプレー使わなかったら出てくるだろうか。
「デンチュラ……あいつを育てたら進化するのかな?」
アヤさんが使ってたポケモン、ってのもあるけど、今のあたしの手持ちじゃみずタイプへの対抗策が少なすぎる気がしてる。
ブルンゲルはみず技を吸収出来るけど、それだけで別に有効な攻撃を使えるわけじゃないし。
「……ま、とりあえず捕まえて育てればいいか。
さて、探すかな」
そうと決まれば、とりあえずスプレーを使うのをやめて走り回らないといけないな。
「……出ないな」
あたしがバチュルを探し始めてから結構な時間が経った。
とっくにスプレーは切れてるし、もう野生ポケモンが襲ってきても不思議じゃないはずなのに、あたしの周囲には野生ポケモンの気配すらない。
……こんなに出ない事なんてあるのかな……?
「……ん? なんだあいつら?」
どれだけ探してもバチュルが全く見つからずに電気石の洞穴の中を彷徨っていた時、妙な集団が集まっているのを見かけた。
こんな洞窟の中で、何故か執事服やメイド服を着ている。
……なんなんだ、あいつら?
人形みたいに突っ立ってるけど……。
「……あの方のために、役割を……」
「カゴメタウン……」
「幸せな日常を演じなければ……」
「お嬢様……お嬢様……」
「……な、なんなんだ、あいつら……?」
人形みたいに……なんてものじゃない。
少し近づくと、違和感は確信に変わった。
目に光が無い。
目の焦点が合っていない。
うわ言のように同じ言葉を繰り返している。
……人間のはずなのに、本当に人形みたいだ……。
「あの方からの指示だ……ここはもう良い、カゴメタウンに向かえ。とのことだ……」
「了解しました……」
「我らの幸せは……あのお方の望む世界が出来上がる事……」
「お嬢様への……ご奉仕を……夢が、冷めぬように……」
電気石の洞穴にあまりにも不釣り合いなメイドと執事の集団はあなぬけのヒモを取り出し、使用して消えていった。
……イッシュって変な奴が多いよな。
まあ、考えるだけ無駄かもしれないけど……。
「さて、気を取り直して次の……っ!?」
変な集団が居なくなったのを見送って、歩き出そうとしたその時だった。
急に背筋が凍り付きそうなヤバい気配が北の方から伝わって来た。
今のあたしでも刃が立たないくらいの何かが、その力を解き放ったような……。
すぐに収まった……けど、なんなんだ、今の感覚……。
「……おいおい、マジかよ。
いきなり手が震えだして……止まらねえぞ……」
妙な気配を感じた後から、左手がいきなり激しく震え出した。
抑えようとしても、全く止まる気配がない。
「参ったな……これじゃ仮にバチュルを見つけても、ボール投げるどころじゃないだろ……」
あたしの意思と関係なくガタガタ震える左手は、物を持つ以前の状態だった。
幸い左手以外はそのままだけど、なんでいきなりこんなことになったんだよ……。
さっきの妙な気配のせいなのか?
……そうだとしても、別に襲ってくるわけじゃないなら気にしなくていいはずなんだけどな……。
「……はあ、一旦この辺で休憩するか。
ホドモエシティを出てからここまで休みなしで来てるもんな、あたし」
電気を纏った大岩に背中をくっつけて座る。
……ビリビリして背中がほぐれるような気がしてくるし、このまま少し休もう。
「…………それにしても、結構遠い所まで来たもんだな、あたし」
無理矢理ポケモンや図鑑渡されて、追い出されるように旅に出されて……。
あっちでもこっちでもトラブルに巻き込まれて、強盗相手には都合の良い戦力として駆り出されて。
ライモンシティまで来た所で旅から離れて。
アヤさんにお世話になって、鍛えてもらって。
ろくな目に遭ってない事の方が多いのがアレだけど、それでも少しは得るものもあったのかな……。
「結局……自由にはなれてないしまだ力が要るんだけどな……」
一本道、通行止め、拒否権の無いトラブル。
あたしの話なんか聞く耳持たないような奴ばっかりだし、あいつらにあたしの意思を押し通すには全然力が足りないんだろう。
それでも、いつかあたしは……。
「自由に生きたい……誰にも縛られずに、自由に……」
あたしが欲しいのは、それだけなんだ。
敷かれたレールの上を無理矢理通らされる生き方なんかじゃない。
例えそのレールに従った方が素晴らしい結果が約束されてるんだとしても、そんな生き方あたしは嫌だ。
押し付けられた生き方なんて、要らない。
強制されて歩かされる道なんか、欲しくない。
「……でも、イッシュに自由なんてあるのかな、これ」
なんとなく眺めたイッシュのタウンマップには、ライモンシティより南側に存在する見事な一本道マップと、妙な木を中心に囲むように作られたイッシュの町と道路が載っている。
一見分岐してそうなライモンシティの東側は通行止めになっているせいでホドモエシティ側にしか進めず、その先もずっと一本道が続いていた。
なんというか……この一本道の旅路はそのままあたしの人生の末路を示してるようにも見えてくるな……。
ホドモエシティ〜ソウリュウシティまでの道にジムは全て揃っていて、イッシュの東側はポケモンリーグに行く最短ルートからは外れている。
というか『イッシュの東側には入る必要は無い』と言わんばかりだ。
「寄り道してみたけど、別の道があってそこからアララギとか毒電波を無視して先に進める、みたいな事も無かったからな……」
この極端すぎる交通網を眺めるたびに思う。
……道路1つ封鎖するだけで致命的な影響が出るの、誰も疑問に思わないのかな?
「……あれ? さっきまで全く居なかった筈のポケモンが出てきてる?
それに、左手が勝手に震えてたのもいつの間にか止まってるな」
休憩してたらいつの間にか結構な時間が経ってたのか、辺りには野生ポケモンの気配が。
それに、いきなり震えだした左手もさっきの震えはなんだったのかってくらい普段通りだ。
じゃあ……当初の目的通りにバチュル探して捕まえにいくかな。
みずタイプに対抗できる戦力が居ないと、フキヨセジムを攻略した後で戦うであろうチェレンの相手が厳しすぎる。
クイックボールを準備し、あたしは歩き出した。