あの後バチュルを無事に捕獲したあたしは、とりあえずフキヨセシティに戻ることにした。
いくら時間潰しで待つとしても、電気石の洞穴の中で待ち続けるわけにはいかないしな。
そう思ってフキヨセシティに帰って来たんだけど……。
「おい、手の空いてる人はこっちに来てくれ! ポケモン達を助けないと!」
「7番道路で野生ポケモンが沢山傷だらけで倒れてる!」
「草むらが半分くらい吹き飛んでて、辺り一帯大変なことになってる!」
「7番道路だけ真っ暗になっています! 一体何があったって言うのでしょうか!?」
「フウロさんは!? えっ、まだ帰ってない!?」
「道開けて! まだまだ来るから!」
「な、なんだこれ……あたしが電気石の洞穴に行ってる間になんか大変なことになってないか……?」
あたしが少し離れていた間に、フキヨセシティは大混乱に陥っていた。
まず目に入ったのが、次々とポケモンセンターに運び込まれるポケモン達。
遠目に見ただけでも分かるくらい、痛々しい姿になっていた。
ほとんどのポケモンは生きているのが不思議なくらいのダメージを受けており、形で辛うじてそれがポケモンだと分かるくらい真っ黒に焼け焦げていたからだ。
元の体の色なんて全く分からない。
その上、尋常じゃない数だ。道路に生息しているポケモンを片っ端からポケモンセンターに運び込んでいる……そんな勢いで運び込まれている。
あれじゃフキヨセシティのポケモンセンターは完全に機能停止していて、普段の仕事なんかできないだろう。
そもそも、7番道路が真っ暗になってるってどういう事なんだ?
丁度昼なのもあるけど、フキヨセシティはこんなに明るいのに。
「チェレン……タワーオブヘブンに向かったよな?
大丈夫なのか……?」
ライブキャスターをチェレンに繋いでみる。
何事も無いと良いけど……。
『……マリネット? まさかきみがライブキャスターで連絡してくるとは思わなかったよ』
「なあチェレン。電気石の洞穴から出てきたらフキヨセシティが大騒ぎになっててさ……。
なんか7番道路が大変なことになってるって言ってる奴もいるんだけど、大丈夫なのか?
チェレンそっちに向かったよな?」
『ああ、そのことか。急に空が暗くなったけど、ぼくと手持ちには影響はないよ。
それよりも、もうすぐタワーオブヘブンに着く。フウロさんは連れ戻してみせるから待っていてくれ』
何事もないような対応のチェレンの返事。
……いや、いくらなんでもおかしくないか?
チェレンだからって、ここまでクールな反応するのかな……?
7番道路『だけ』真っ暗って言うのも気になるし。
「少し様子だけ見て……すぐに引き上げるか」
救助活動の邪魔にならないようにしながら、あたしは7番道路に踏み込んだ。
「……なんだよこれ」
7番道路に踏み込んだ瞬間、真夜中にでもなったかのように辺りは闇に覆われた。
上を見上げると、雲や太陽はちゃんと見えている。
……つまり、この辺一帯がこの闇に覆われてるってことなのか?
良く見ると、空は黒い半透明のドームの中から見上げてるような状態になってるし。
「それにしても……何だこの感じ?
この闇の中に居ると、力が抜けるような気が……」
もちろん体調に変化はないし、動くことは問題ない。
けど、何か精神的な力のようなものがこの闇の中だと少しずつ削られていくような気がしてくる。
なんなんだ……この感覚?
「それはそうと……あれが草むらなのか?
……酷いな、一体どんな攻撃をしたらあんなことになるんだ?」
右側に目を向けると背の高い草むらが見えている。
あれが多分本来あるべきこの道路の草むらだったんだろう。
自転車ではとても通れないような高さの草むらだ。
けど、人がたくさん集まってポケモン救助活動をしている場所は全く様子が違った。
「ほとんど草が無い……無理矢理焼き切られたように一本橋の足場の左側一帯は草が刈られているな……。
それに、奥にある木も真っ黒焦げだ……」
無事な木と比較すれば一目瞭然だった。
攻撃を受けたと思われる木だけが、焼け落ちたようになっていたのだから。
そして、焼き切られた草むらの中にはおびただしい数の野生ポケモンと思われる炭の塊のような物体が確認できた。
どのポケモンも、助けに来た人が何をやってもピクリとも動かない。
恐らく、あのポケモン達はもう……。
「誰がやったんだろ……これ。
あたしの親ならやりそうではあるけど……アヤさんと真っ向勝負してたあの手持ちでそれが出来るかな?」
ラティオス……アレならやれるんだろうか?
いや、仮に出来たとしても、理由が無さすぎる。
「それとも……あたしを監視してたあのオーベムってやつ?
ラティオスに匹敵するくらいのポケモンらしいし、アレを使えばこんな事が出来るのか?
……だとしてもな、人の前では基本善人の仮面をつけるあいつがこんなことやるとは思えないんだよな……。
ばれたら確実にアウトだし」
あの時のアレは……あたしとアヤさんしか居なかったからだろうな……。
アヤさんの事は、邪魔するなら殺せばいい程度にしか考えてなかったって不思議じゃない。
「……とは言っても、やっぱり動機が弱いんだよな。
この広がってる闇もそうだけど……あたしの親が仮にそういう手段を使えたとしても、考えなしに使わせるとは思えない」
現にフキヨセシティまで大騒ぎになってるし。
こんなことになって、この事件の犯人だってばれたら間違いなくあいつは困る。
チェレンに何をさせたいのかは分からないけど。
「考えるだけ無駄かな……。
いつまでもこんなとこにいても仕方ないし、あたしもフキヨセシティに戻ろうかな」
救助活動の邪魔になるわけにもいかない。
そう思ってフキヨセシティに帰ろうとした。
「……なんだ? 胸の奥がざわざわするような……」
フキヨセシティに帰ろうとした瞬間、急に誰かに引き止められるような感覚を感じた。
このままフキヨセシティに戻ってはいけない、タワーオブヘブンに行かないといけない。
今すぐタワーオブヘブンに行かないと、と誰かに強く訴えられるような妙な感覚。
これまでの「拒否権が無いせいで嫌々やらされていた事件」とは明確に違う。
下手するとあたし自身の意識すら浸食して、タワーオブヘブンに向かわせようとしてくる何か。
「な……なんなんだよ……これ……」
頭がくらくらしてくる。
立っていられない。
力が抜ける。
意識が遠のいていく。
声を出そうにも、喋れているのかすら分からない。
意識を保とうとしても保てず、何かの中に吸い込まれていくようにあたしの意識は消えていく。
闇に吸い込まれるように……あたしは意識を失った。