「トレーナー撃破。障害消滅。
目的地に向かって移動開始」
マリネットだった存在が機械的にタワーオブヘブンに向けて歩いていく。
私とチェレンはその後ろを気づかれないようについていく。
「それでオーベム……どういう事なんだ?
この世界がどういうものなのかを教えてやろうと言っていたけれど……」
『そうだな。……ではチェレン。
お前は両親の事は知っているか?』
そのついでではあるが、傀儡にする予定のチェレンに色々と教えてやるとしよう。
この世界が作り物であることを認めざるを得ない様々な事実を突きつけながら。
「? ……当たり前じゃないか。
カノコタウンで一緒に暮らしていたんだから」
何を当たり前のことを?
という反応をするチェレン。
まあここだけなら当然だな。
実際にカノコタウンのチェレンの家に、両親が居る。
『ではチェレン。お前は、祖父や祖母の事を知っているか?
もしくは、親戚などでも構わんぞ』
「祖父や祖母……親戚……?」
『そうだ。親が居なければ子供は生まれない。
お前の両親にも親は居るだろう?』
ここが現実に近い世界観ならば、自然な補完で祖父母の話も出来る。
命は大事な物だし、かけがえのないものだろう。
もし既に他界しているというならば……どこかに墓があってもおかしくない。
だが……ここはゲームがベースの世界だ。
ゲーム内に無い情報はほとんど補完されない。
「……あれ? 出てこない……。
いや、そもそもそんな人居るのか……?
ぼくのパパやママからは、そんな話は一度も……。
そもそも、オーベムに聞かれるまで考えたことも無かった……」
『では、お前の両親はどこから来たんだろうな?
子供は親が居ないと生まれないはずだ。
ポケモンだけでなく、人間もな』
「ぼくのパパやママは、何もない所から突然出て来たとでも言うつもりか!?」
『お前の両親に親が居ないというのであれば……の話だがな』
そう……補完されることはないのだ。
祖父母の話など『普通の人間』ならあって当然の情報なのに。
老人のトレーナーも存在する世界だから、孫まで3代続けてトレーナーの一家などが居ても不思議ではない。
にもかかわらず、チェレンは祖父母の事が分からない。
余程険悪な関係で子供に祖父母の事を教えない両親……などという可能性もあり得るが、そんなケースの場合は逆にゲーム中で描写されるだろう。
『それだけではないぞ。
ベルの祖父母も、マリネットの父親や祖父母も。
この世界には存在すらしていない。
痕跡も何も存在しないのだ。
何故なら……そんな情報は主人公が英雄になる物語のために存在する世界には不要なのだからな』
「そんな馬鹿なことが……でも、確かに……。
幼馴染として育っていたのに、ぼく達はお互いの祖父母の話なんて一度も聞いたことが……」
本来なら存在して当たり前のはずの関係性すら、ゲームの世界では無くしておける。
関係ないのだからな。
「……待ってくれ。
もしゲームだと言うなら、ぼくがマリネットに負け続けていたことも全部『決まっている運命だからだ』とでも言うつもりなのか!?
ぼくは……絶対にマリネットに勝てないと!?」
『お前はやり方次第でマリネットには勝てるだろうな。
現に通販で買った強いポケモンはマリネットにも通用していた。
もっと強力なポケモンを金を積んで手に入れれば恐らく勝てるだろう。
だが、その勝利は即座に否定されて巻き戻される。
丁度私達の目の前にいるあいつが、マリネットの中に存在する限り。
ちなみに、正式な名前はトウコだ。邪神がそう呼んでいただろう?』
「……トウコ。初めて聞くはずの名前なのに、妙にしっくりくる名前だ。
むしろマリネットの方がおかしく聞こえてきてしまう……」
それはそうだろう。
マリネットはあくまでトリカが勝手に名付けただけなのだから。
奴はここまで捻じ曲げられてもトウコなのだ。
核になる『トウコ』がああして存在する以上は。
『この世界はマリネット……もといトウコが英雄になるまでの道のりを描いている。
一本道の世界で、トウコが最終的に伝説のポケモンを従えて悪の組織を滅ぼす英雄譚だ。
マリネットがどれだけ抵抗しようとトウコが英雄になるための道のりは必ず実行される。
強盗達がシッポウシティの博物館を襲ったのも、ベルのポケモンを奪うのも、ホドモエシティで強盗を捕まえるのも、全て決まったイベントなのだ』
最も、ヒヒダルマを繰り出す負けイベントのプラズマ団は想定していなかったがな。
チェレンとベルが解決してしまわないようにするための修正力か?
「……信じられない。信じられないけど……実際にそのトラブルが起きている……。
もしそうだとしたら、この後は何が起こるんだ?
オーベムは知っているんだろう?」
『タワーオブヘブンか? ……フウロを呼び戻しに行ってついでに鐘を鳴らすだけだ。
たったそれだけのために、わざわざマリネットにタワーオブヘブンへ行くことを強要させている。
ついでに言うと、ネジ山の入り口はヤーコンの手下が通行止めをしているぞ。
ジェットバッジを持ってない奴はネジ山へは通さん、とな。イッシュはこの手の奴等ばかりだ』
「メンドーだな……。オーベムの力で何とかできないか?」
『私の力でか? やっても構わないが、アレに見つかる可能性があるぞ?
それに……先程邪神も降臨して違和感に気づいている。
今後は邪神も異分子を排斥するためにと監視の目を光らせてくる可能性が高い。
トウコ以外にも先程のアレを付与されていることも考慮するべきだな』
「先程のアレ……あのイカサマそのもののような力か……?」
イカサマそのもののような、ではない。
アレは間違いなくイカサマそのものだ。
自分だけが一方的に攻撃を避け、全ての攻撃が急所に当たり、倒されそうになってもかならず攻撃を耐える。
毒や火傷で倒そうとしても即座に治る。
ほとんど無敵だ。ヌケニンより質が悪い。
『そう、あの力だ。
あの力自体は邪神の手下であれば誰でも持てる。
つまり、邪神に魂を売った重要キャラが手に入れてもおかしくない。
反対に邪神の目に留まらないモブキャラが与えられることはないがな』
「重要キャラ……言い方が完全にゲームの登場人物で人間扱いしてもないのは気に入らないけど、ぼくがチャンピオンになるのを阻む立場の人が持ってる可能性があるって事だろう?」
『ほう。チェレンは察しがいいな、その通りだ』
ジムリーダー、四天王、アデク、N、ゲーチス。
私がトウコ以外で邪神の加護が与えられそうな連中として考えているのはこの辺りの人間だ。
だが……恐らくNだろうな。
Nが英雄としてゼクロムなりレシラムなりをペットにしなければ、それを打ち倒すトウコの格が上がりきらない。
ゲーチスはNが負けるまでは表に出てこない。
アデクはNの噛ませ犬にする必要がある。
四天王はただの門番で何もしない無能枠(アデクが一切関わるなと厳命した)。
ジムリーダーは最後に出てくるが救援に来ただけで対決するわけでもない。
消去法でもシナリオの展開でもNが邪神の加護を受けている枠として相応しいな。
「……勝てるのか? あんな力を持っている奴相手に。
オーベムの力は見せてもらっているけど……」
『勝算があるからこそ、こうしてお前に情報を与えているのだ。
ひとまず、奴に目を付けられるわけにはいかない。
お前はしばらく原作通りの手持ちでマリネットと戦え。
原作通りの手持ちで戦えば当然一方的に負ける事になるだろうが、その時が来たら私が出て一気に決着を付けてやろう』
最終的に私が勝てばいいのだ。
何も今戦いを挑んで不毛な削り合いに持ち込む必要もない。
今更邪神が舞台に上がったところで、私が勝つのは変わらないのだから。
トウコが何をしようと、確実に終わらせてやろう。
そのための仕込みもほとんど終わっているのだ。
それで貴様の描く英雄譚は永久に成立することが無くなる。