「敵トレーナー。戦闘開始、殲滅」
「次のトレーナー。戦闘開始、殲滅」
誰かの声が聞こえる。
流れ作業のように道中のトレーナーを倒していく。
「ローテーションバトルは……」
「殲滅完了、次の場所に移動」
あたしの体を誰かが勝手に動かしている。
ぼんやりとした意識の中で、あたしは体を動かそうとした。
けど……全く体が動かない。
(あたし……一体どうなったんだっけ……?
7番道路で考え事をしてたら……そこから……?)
意識が遠くなっていったのは覚えている。
それにしては妙だ……。
体が勝手に動いている感覚。
これは明らかにおかしい。
あたしはあの時倒れたんじゃないか?
「ライブキャスター……着信。
相手……ママ」
夢を見てるような妙な感覚だったけど、意識が少しずつはっきりしてきた。
それと同時に、あたしの体がどうなっているのかすぐに分かった。
(なんだよこれ!? 体が勝手に……動いてる!?
いや……違う、誰かがあたしの体を奪ってる!?)
誰かに体を奪い取られている。
あたしの体を勝手に動かしている奴が、そのまま7番道路の奥まで進んでいた。
『マリネット……どうしてチェレン君に任せずに7番道路の探索をしているの?
貴方は待っていて良いと言われたのだから大人しく待っていなさいそれが貴方の役目でしょどうして言われたことも守れないのかしら人の言う事は聞きなさいタワーオブヘブンに行く必要はないわフキヨセシティに戻ってきなさい今すぐ今すぐに』
ライブキャスターの相手はよりによってあたしの親だった。
けど、あたしは聞くことは出来ても声を出すことは出来ない。
声を出そうにも、あたしの体を動かしてる奴が邪魔してるのか全く喋れなかった。
「……主人公は返事の必要なし。ライブキャスター切断。
ママの台詞が原作と大きく異なっている。
ママはシナリオの台本に無い異物が成り代わっている可能性大。アルセウス様に報告……報告……」
あたしの体を奪っている奴は、よりによってあいつからの着信を勝手に切りやがった。
……マジかよ。これ、なんとかあたしに体を動かす権利が返ってきたとしても、あたしの親相手の身代わりにされないか……?
というかちょっと待て。シナリオの台本、ってなんだ……?
「予定変更。7番道路の全域を把握したのちタワーオブヘブンに向かってシナリオを進めます。
異常の把握を優先……アルセウス様……承認確認。行動再開」
アルセウス様って誰だよ!
あたしを置いてきぼりにして、勝手にあたしの体奪ってる奴は一体何を言ってるんだ!?
「お前マリネットだろ!
驚いたか? ヤーコンさまに聞いたんだよ。
おっと! このネジ山に入るならフキヨセのジムバッジくらい持ってないとな!
それくらい強い野生ポケモンが出るって事だ」
「……通行止めNPCに異常なし。
アルセウス様のシナリオの破綻の心配はなし」
またこんなのが居るのかよ!
……電気石の洞穴で思ってたこと、マジで現実になってきそうだよ……。
体は勝手に奪われてるし……。
「再度会話」
「お前マリネットだろ!
驚いたか? ヤーコンさまに聞いたんだよ。
おっと! このネジ山に入るならフキヨセのジムバッジくらい持ってないとな!
それくらい強い野生ポケモンが出るって事だ」
「再度話しかけても違和感なし。
7番道路が闇に覆われていたことを考え、シナリオに手を出そうとした異物がここの通行止めに手を出している可能性を考えて来てみましたが、その様子はなし。
対象の異物が近くに潜んでいる可能性に警戒しつつ、通常業務に戻ります」
あたしからするとお前の存在が異物とか異常とかそういう類の物だよ!
なんなんだよこれ……勝手にあたしの体奪って好き勝手してる奴は一体誰なんだ!
「脳内で思考する体の元の人格、識別名マリネット。
これ以上騒がれると業務に影響が出るため対処します。
……私はトウコ。この世界の主人公であり、英雄として君臨するべく生まれた存在です。
この世界はこの体が英雄として君臨するために作られたシナリオの舞台。
どういうわけか人格に不具合を起こして、酷く非協力的な性格となっているようですが、シナリオの邪魔はしないでください。
この体は英雄となるべき体なのです。私はシナリオが英雄になると決めている存在なのです」
(英雄になると……決めている存在……?
そもそも! この体って、お前が勝手に奪ってるそれはあたしの体じゃねえか!)
いきなり体奪って何言ってんだよこいつ!
しかもシナリオが英雄になると決めている存在ってなんだよ!
「体を奪っていることに関しては一応謝罪しますが、返すわけにはいきません。
貴方は一度ライモンシティで旅から逃げ出した前科を持っていますね。
放置していると原作シナリオから逃げ出す可能性が極めて高いと判断したため、私がこの体を管理し、シナリオを進めます。
これはアルセウス様も承認されています。
シナリオが英雄になると決めた存在……これは言葉通りの意味です。
原作である『ポケットモンスター ブラックホワイト』の主人公であるトウヤ・トウコはジムバッジをすべて集め、ゼクロムかレシラムの眠る石を携え、ポケモンリーグに向かい、プラズマ団との最終決戦に向かう。
そしてプラズマ団を撃破した主人公は伝説のポケモンを従えイッシュを救った英雄としてイッシュ地方に君臨するのです」
なんなんだよこいつ……。
話が通じるようで通じない。
それじゃまるで、この世界って作り物みたいじゃないか……。
「……そうですよ?
アルセウス様が私が英雄になるまでのシナリオを書き上げて作った私の英雄譚です。
最も、異物がかなり混ざりこんでしまったようですが……。
とはいえ問題ありません。最終的に私が勝利し英雄となればそれで全て解決します。
先程のライブキャスターでのやり取りを振り返ると、異物が主人公のママになっているように見受けられましたが、それも問題ありません。
私とアルセウス様が勝てばすべて解決するのです」
この世界は作り物だとあっさり認めてきた。
……じゃあ、あたしがどれだけ拒否しても無理矢理強盗相手の戦いに駆り出されたのって……。
「当然です。私は英雄になる存在なのですよ?
英雄は積極的に前線に立ち、悪い人達を倒すのが役目です。
必要な言葉は、はいとイエスと協力します。これだけですよ。
英雄に貴方のような自己主張の激しい後ろ向きな答えなど求められていません。
英雄とは……シナリオ通りに進んでいけば自然と全ての悪を滅ぼす事が出来る存在なのですから」
全部こいつが……英雄になるシナリオだからだったって言うのか!?
シナリオでそう決まっているからそうなるんだって……そう答えるつもりなのか!?
「その通りです。トウコは英雄になるのが決まっている存在。
私が英雄になるのは必然で、この先の事件も全てシナリオに書かれている通りなのですよ。
分かりましたら、マリネットさんは大人しく見ていてください。
これ以上貴方に行動を任せていると、その間に異物が何をしでかすか分かりませんので。
アルセウス様も承知しています」
それだけ言うと、話は終わりだとばかりにトウコはあたしの体を勝手に動かしてタワーオブヘブンに向かっていく。
体の主導権を奪われたあたしは、勝手に進む自分の体を見ていることしか出来なかった。