「7番道路及びネジ山入り口の通行止めに異常なし。予定通りタワーオブヘブンに突入します」
あたしの体を乗っ取ったトウコはそのままタワーオブヘブンへと足を進める。
体を奪われたあたしはその光景を眺めるしか出来ない。
「ココハタワーオブヘブン……タマシイガネムルバショ……」
「最上階のフウロと合流し、鐘を鳴らす必要があります。
攻略開始」
螺旋階段を足元すら見ずに駆け上がるトウコ。
瞬く間に二階へと辿り着く。
「野生ポケモン……ヒトモシ。不要、逃走」
二階に着いて早々に青い炎の灯るロウソクのようなポケモンが出迎えたが、トウコはスルーして進んでいく。
あのポケモン、あたしの事見てるような気がするけど、気のせいか……?
「何とも言いようのないエネルギーが流れ込んでくる!」
「敵トレーナー。殲滅開始」
そんなあたしの疑問はトウコがスタスタとタワーオブヘブンを登っていくせいで考える時間もない。
その間にトレーナーが絡んできても、トウコは顔色一つ変えず、手当たり次第にトレーナーを倒していく。
こんな兵器みたいな奴が……イッシュの英雄?
言動も態度も何もかも人間とは思えないこいつが……イッシュ地方の英雄になる存在?
まだあの毒電波の方が人間らしい気がしている。
人間らしさの欠片も無い……戦闘兵器をあたしの体に入れましたよって言われた方が納得できる存在だ。
「今からアナタの正体をぴたりと当てて見せるわ。
アナタは……な、なにこの異様なオーラ!?」
「敵トレーナー、殲滅開始」
三階に到着しても変わらない。
淡々とトレーナーを倒していき、トウコは進んでいく。
「……信じられない。まるで人間じゃないような雰囲気だったわ……。
ムシャーナ、大丈夫?」
「むしゃ……」
道中のトレーナーをまるで道端のゴミを蹴り飛ばすように排除していき、トウコはタワーオブヘブンを踏破する。
途中、オーベムの仲間のようなポケモンを見かけたけど、それも完全スルーだった。
完全にタワーオブヘブンを攻略する事しか考えていない、と言った様子で、他の事は全く目にも入っていない。
そのくせ、落ちているアイテムだけはしっかり回収していっている。
……英雄って、戦闘能力がずば抜けているだけの廃品回収業者か何かなんだろうか?
「来てくれたんだ、ありがとう。
さっきみえたのってやっぱり傷ついたポケモンだったよ。
だけどもう大丈夫よ!
げんきのかたまりを使ってあげたら元気になって飛んでいったの!」
(……はあ、こんな事のために行く必要なかったじゃねえか……。
これのどこが英雄になるために必要なイベントなんだか……)
タワーオブヘブンの頂上にはフウロが居た。
一方的に話すフウロに対し、トウコは一切の反応を返さない。
あたしが内心で思っていることは7番道路での事を考えると筒抜けになっているんだろうけど、それもスルーだ。
当然、喋ろうとしても口にも出ない。
「ウフフ! すごく視力がいいでしょ!
パイロットの目はどんなに遠くでもみえちゃうのよ!」
いや、その理屈はおかしいだろ……。
あたしはそう思うけど、体を操ってるトウコはフウロの言葉を聞いても一切何も感じないのか無表情のままだ。
やっぱりこいつ……機械か何かなんじゃないのか?
「そうだ! せっかく来たんだしあの鐘を鳴らしたらどう?
タワーオブヘブンの鐘はポケモンの魂を鎮めるの。
しかも鳴らす人の心根が音色に反映される……」
(鳴らす人の心根が音色に反映される、ねえ……)
あたしの体を奪ってるこの無表情戦闘マシンが鳴らしたら、機械の音色のような物が響き渡るのかね?
(マリネット……一々耳障りですよ。私は英雄です。
調べるまでも無く、素晴らしい音色が鳴るように決まっています。
貴方のような英雄になる義務を拒もうとする無責任な人が鳴らした場合は……それに対応した音色が鳴るのかもしれませんが)
これのどこが英雄なんだか。
「遠慮しないでいいのよ」
「これはイベントです。鳴らすのは必須事項です」
そう言ってトウコが鐘を鳴らす。
3回……鐘の音色が辺りに鳴り響く。
「いい音色……マリネットさんは優しくて強い人……そんな音色……。
ではあらためてあいさつするわね!
アタシはフキヨセポケモンジムジムリーダーのフウロです。
使うのはひこうタイプのポケモン。
準備が整ったらジムに来てくださいね! 大歓迎しますから!」
そう言うとフウロは帰っていった。
(……こんなことするためだけにわざわざタワーオブヘブン登る必要あったのかよ?
フウロの台詞もなんか適当に言ってる感が強いし。
どうせ台本通りに話合わせてるだけなんだろ?)
作り物の世界とか言ってるくらいだし。
「一々煩いですね貴方は……。では耳を塞がずよく聞いておきなさい。
イベント関係なく私は英雄なのです。英雄の素晴らしい音色は何度でも鳴り響きますよ」
あたしの言葉が癪に障ったのか、トウコは再び鐘を鳴らす。
すると……
ウォーンウォーン……ガシャン、カタカタカタカタカタ
ウォーンウォーン……ガシャン、カタカタカタカタカタ
ウォーンウォーン……ガシャン、カタカタカタカタカタ
聞こえてきたのは到底鐘から鳴り響いたとは思えない機械の駆動音と歯車が回るような音だった。
……何今の? 本当に鐘からこんな音したのか?
マジで鐘の音なのか、これ……?
「あ、あり得ません……こんな筈は……。
権能発動、私は英雄なのです。正しい音色を鳴らしなさい」
心外だ、と言わんばかりに左手から金色の光を放ったトウコが再び鐘を鳴らす。
すると、フウロが居た時と同様の音色が鳴り響いた。
……いや、どう考えてもイカサマして鳴らしたよなそれ?
「どうです? 私が英雄だと分かりましたか?」
(ドヤ顔で言っても説得力ねえよ。
どう考えてもイカサマじゃねえか。その前の妙な音色は無視か?)
「……だったら、貴方はどうだと言うんですか、マリネット!
体を返してあげますから、鳴らしてみせなさい。さあ!」
奪われた体が帰って来たのが分かる。手足の感覚がしっかりある。
……まあそれはともかく、この鐘があたしにどんな音を返すのかは気になるな。
ゴーン……バサバサバサバサ……
ゴーン……バサバサバサバサ……
ゴーン……バサバサバサバサ……
「……この鐘、マジでどうなってんだか」
前半の鐘の音は透明感の強い英雄の音色と違って、重くしっかり響くような音色だった。
その後に、鳥か何かが翼を動かして遠くへと飛び立つような音が響いていく。
……いや、マジでどうなってるんだよこの鐘。
本当に鐘なのか?
(……フン、やはり貴方は英雄ではないようですね。
人格に致命的な不具合が起きているせいです)
「……少なくとも機械の駆動音がする奴よりはマシな音だと思うけど?」
そもそもどうなってんだよこの鐘。
まああたしの体返って来たし余計なことされる前に帰るか。
(あっ、待ちなさい。貴方に任せてはおけません。
今後も私が体を操作して……。
さっきマリネットに煽られて鐘を鳴らすために権能を使ってしまったせいですか……!?
力が足りない……私の体を奪い返せない……!
アルセウス様、急いで私に力を! 力を補充してください!)
左手が不自然に震えているけど、それ以外に違和感はなさそうだな。
あたしがあたしで居られるうちにさっさと移動するか。
音のイメージ
マリネット
神社とかで鳴らす重い音の響くサイズの巨大鐘の音+鳥の飛び去る音
トウコ
未来パラドックスの鳴き声に混ざる機械音+ゲームの機械を動かそうとするとよく聞こえる「ガチャッ」という効果音+歯車が回るカタカタ音