タワーオブヘブンの最上階で偶然とはいえトウコから体を奪い返せたあたしはなんとか体の自由を手に入れた。
左手だけは未だにトウコの影響が出て震えてるしトウコは頭の中で「私が操作する」だの「これは私の体ですよ」だのとうるさいけど、無視だ無視。
というか、勝手にあたしの体奪った寄生虫のくせに何がこれは私の体ですよ、だ。
逆だよ逆。これはあたしの体だよ。
それにしても、まさか体そのものまで奪われるなんてな……。
「やっとフキヨセシティに戻ってこれたか。
それにしても、あたしは自由になりたいだけなのに、どうして次から次へとろくでもない事が起こるのやら」
(この体は、私は英雄になるのですよ? 英雄が自由になりたい? 寝言は寝て言ってください)
口の減らない寄生虫だよ、本当に……。
とりあえず、さっさとフキヨセジムを落としてしまおう。
「……フキヨセシティ? あ、そう言えば」
ハートのウロコを持っていけば技を思い出させてくれるって話を聞いたな。
そっちに先に寄るか。
「皆私の事をメモリアルガールって呼ぶの。
ポケモンがレベルアップで覚える技を全て知っていて、思い出させることもできるからね。
ハートのウロコをくれるなら、技を思い出させてあげられるわ」
「それなら、このハートのウロコを渡すからムシャーナに『さいみんじゅつ』を思い出させてくれないか?
ムシャーナ、代わりに『みらいよち』を忘れろ」
「オッケー。それじゃ……1・2の……3!」
おもむろに指パッチン1回。
たったこれだけで覚えられるのかよって思ったけど、ムシャーナはちゃんと『さいみんじゅつ』を思い出していた。
……とんでもない力だな。
なんにしろこれで、戦えるようになった。
さて、フキヨセジムに行くか。
「このおいしいみず受け取ってくださいっすよ」
「恒例だなこれ」
フキヨセジムの入り口でいつもの水を受け取る。
「ここだけの話……ひこうタイプっていわ、でんき、こおりと意外と弱点が多いんすよ」
「いわ、でんき、こおり……」
でんきタイプのバチュル捕まえたのは大正解かもな。
「なので、そういったポケモンや技を使いこなせば勝利は目前! ですよね」
「……」
バトル面は問題なさそうだな。
……で、問題はジムの仕掛けの方なんだけど……。
「ちなみにこのジムは大砲に乗り込んでいって進んでいくんすよ。
大砲はどの方向からでも乗り込めるっすよ!」
「……は? 大砲……?」
(英雄ならやれて当然。人間大砲ですよ。
体を渡せば私が対処してあげますが?)
ちょっと待て!
人間大砲ってどういうことだよ!
ぶっ飛んでるってそういう意味か!?
「マジでこれに入るのか……?」
行き止まりにあった大砲に覚悟を決めて入る。すると
「うわああああああ!?」
轟音と共にあたしは上空に発射され、遠くへと飛ばされる。
トウコが言った通り、ジムギミックは人間大砲だった。
文字通り、あたしが弾になって打ち出される今までのジムの中でも群を抜いて最悪の仕掛けだった。
「何考えてんだよあいつ! 見た目さえよければ安全性とかどうでも良いってか!?」
下手したら怪我するぞこれ!
これを何度も何度もやらないといけないのか!?
(英雄がこんな所で怪我とかするわけないでしょう。
シナリオ通りに進むのが約束されているのに)
「どんなもんだい大砲は! 飛んでるポケモンの気持ちを味わえるなんてすごいだろ!
お次はポケモン勝負で負ける気持ちを味わえ!」
「悪い意味で最高だよ!! バチュル! 手加減要らねえ! 全員『10まんボルト』で殺っちまえ!」
「ふっとんだー!」
ホント最悪のジムだよ!
なんだよここは!
仕掛けであたしを殺す気か!
(その体は英雄になるのですよ? そのような言葉使わないでくれますか?
英雄としてのモラルが疑われます)
「寄生虫のくせに煩いなお前……」
体を乗っ取れなくても頭の中で喋ることは出来るからか、トウコは小言を言いまくってきやがる。
まあ相手にするだけ無駄だ。
「ん? どうしたバチュル?」
(進化するようですね、このジムは格好の餌場ですし当然でしょう)
トレーナーを倒しているとき、バチュルが進化した。
進化した後の姿はもちろん……。
「デンチュラ……」
(なぜ知っているのです? 野生でデンチュラは……。
いえ、デンチュラの巣をヤーコンが駆除するイベントがありましたね)
アヤさんみたいにはいかないだろうけど、あたしなりに使いこなしてみせる。
そう決意しつつ、先に進む。
大砲に入って、次の大砲に入って、輪くぐりした後次の大砲に入って……!?
「ヤバい! 壁に叩きつけられ……!!」
あたしは咄嗟に左手を盾にした。
(なっ!? ちょ……げふっ!?)
「ぐはっ!?」
当然だが左手を盾にしたところでダメージは防ぎきれない。
あたし自身も壁に叩きつけられることになった。
漫画のように滑り落ちて床に降りる。
「いって……最悪だこのジム! 名前フウロだったよな!? あのボケ絶対叩き潰す!」
(何するんですか! 私によりダメージが行くように左手を盾にしましたね!?
私を庇うならともかく、よりによって盾にするなんて……。
英雄の自覚はどうなってるんですか英雄の自覚は!)
「文句なら勝手にあたしの体を寄生先に選んだ自分か、こんなジム作ったフウロに言え!」
誰がジムの挑戦で人間大砲で壁に叩きつけられることを想定するんだよ!
ホント最悪だ! ヤーコンの所も柵がないリフトで大概だったけどそれ以上にヤバい!
仕掛けであたしの事殺す気かよ!
「ウフフ、お待ちしてました。
アタシ自慢のフキヨセジム、大砲での特訓は楽しかった?
じゃあね、今度はアタシともっと楽しいことしましょう!」
あたしの返事とか全く聞く気もないってか……?
上等だ……ぶっ潰してやる!
「ココロモリ!」
「デンチュラ! 『10まんボルト』!」
「ケンホロウ!」
「『10まんボルト』!」
「スワンナ! 最後のポケモンだけど……絶対にあきらめないから!」
「『10まんボルト』!」
「アナタと戦えてアタシ強くなれたから……ありがとうね」
デンチュラによる一方的な蹂躙劇。
そして手持ちが次々に一撃で倒されてるのに顔色一つ変えないフウロ。
……不自然ってレベルじゃない。
一方的に自分のポケモンを倒されてるのにフウロは滅茶苦茶淡々としていた。
(だから言ってるじゃないですか、作り物の世界だって。
余計な反応とか会話とかする方がおかしいんですよ。
シナリオで設定されてない会話とか反応をNPCがするわけないでしょう?)
「……」
ここまでの旅の事を思い返してみる。
このフウロみたいに淡々とした反応の奴、言うほど居たかな……?
「アナタってすごいポケモントレーナーなのね!
ひさしぶりに本気でポケモン勝負できてアタシもポケモンもしあわせ。
これはリーグ公認のジムバッジ、アナタに似合うとうれしいな」
とりあえずバッジを受け取る。
これで6つ目か……。
「うわあ、すごいわね! それだけジムバッジがあればレベル70までのポケモンはアナタのいうことをきいてくれるわ。
あと、すごーくしあわせだったポケモン勝負のお礼にこのわざマシンを受け取ってほしいな」
「レベル70……?」
これまでのジムリーダー……バッジを貰った時に、具体的にこのレベルまでは指示を聞く……。
なんて具体的なレベルの事は全く言わなかったような気がする。
「プレゼントした『アクロバット』は道具を持っていなければ威力が2倍になるというちょっとテクニカルな技なのね。
……道具を持てないデメリットはアナタがカバーしてあげてね!」
「アクロバット、ねえ……」
強そうだけど使いにくそうな技だな……。
そもそもちゃんとその技を覚えられるか、からなんだけど。
「……そういえばね、ネジ山を越えてセッカシティを飛んだとき……プラズマ団でしたっけ?
あの人たちが街に向かってたんです……どういう人たちなのかな?」
あたしの反応は無視して一方的に話すフウロ。
普通の人間ならこちらの反応を見ながら、聞きながら話すはずなのにそんな様子は一切ない。
トウコが言っているように『設定された通りのメッセージを話すだけの人形』みたいな雰囲気だった。