「……トウコからの連絡が途絶えましたね。
もしや、もう倒されたのでしょうか?」
もしそうだとすれば、なんと使えない事でしょうか。
権能を与えた以上、簡単に負けるとも思えませんが、権能は無敵ではありません。
あの小娘の魂ではまともに使いこなす事が出来ない可能性も捨てきれませんね。
「……いや、まさか体の人格に主導権を奪われたのですか?
世界の記憶を読めば、何があったかは分かるはずですが……」
そうだとすると、一体どのような姑息な手段を用いたのか。
少なくとも、権能の力がある限りは簡単に体を奪われることはないはずですが。
ひとまず、この世界の記憶を閲覧するとしましょう。
(……タワーオブヘブン、頂上の鐘の音。無事にフウロが帰る、イベント完遂。
イベントが終わった途端にタワーオブヘブンの鐘から英雄の音が出なくなったことを煽られ、体の人格の煽りにあっさりと乗ってしまってそのまま体を明け渡している……。
そのタイミングで権能のエネルギーを使い切ったため、体の人格が同意するまで体の主導権を奪えない……)
トウコの愚かさに頭を抱えたくなりました。
英雄と言うのはトウコのように素直で言いなりになる存在が適しているとはいえ、まさかこんなくだらない理由で体を奪い返された挙句そのままになっているとは……。
せっかくの権能もこれでは宝の持ち腐れではありませんか。
「やはり……異物の駆除には専用の体を与えた英雄が必要だったのでしょうか?
それとも、私の力で強引に浄化してこの世界から異物を抹消していくのが近道か……?」
イッシュに降り立った私はトウコを囮にして異物の目を引き、その間にこの世界を把握するつもりで各地を観察していました。
すると……異常と異物の山がこれでもかとばかりに出てきます。
ブラックシティは私が設定した覚えのない腐敗警察や人身売買、ポケモン通販等ありとあらゆる許されざる要素を内包した邪悪の世界へと変貌していますし、カノコタウンで待っている筈の主人公の母親は姿形もありません。
3番道路など、ポケモンの命をなんとも思わぬ悪党と化したトレーナーが群れを成して走り回っている。
そのトレーナーの手によって大量のポケモンの命が消えていく。
私の作り上げた世界はいつの間にこのような状態になってしまったのか。
もっと早く確認しておくべきでした。
「シナリオは後半まで来ている……修正できる場所は早く修正するべきでしょうか」
このまま放っておくと異物の影響がシナリオにまで及ぶかもしれません。
そうなると、トウコが英雄としてイッシュに君臨するシナリオ自体が破綻する可能性もあります。
私の作った世界が、シナリオが、知らぬ間に異物に壊されかけている。
シナリオごと異物に壊されてしまう展開すらあり得ます。
しかし、それだけは認めるわけにはいきません。
この世界は私の創作物なのですから。この世界は私の所有物も同然。
この世界の未来と歴史を作るのは異物の力ではありません。私のシナリオの筋書きなのです。
勝手に異物が荒らすことなど認めません。
「ひとまず……応急処置と修正箇所の把握を優先しましょうか。
シナリオに関わる人間は最優先で修正していかなければ。
後は……トウコはあの様子ではしばらく表に出れないでしょうし、リュウラセンの塔で一度手を貸しましょう」
放っておいても構わないのですが、それでは異物に襲われた時に無力ですからね。
それにトウコにはもう1つ大事な仕事があるのです。こんな所で失うわけにはいきません。
「それにしても困りました。
まさか……主人公の体にまで最初から異物が混ざっていたとは……。
体の人格……アレは本来あるべき『トウコ』ではありませんね。
私の台本にある『トウコ』は余計な言動や思考を一切しない、困っている人を助けて悪を倒すためだけに存在する戦闘マシンのような人格です。
あのような不良品ではありません」
まあ不良品でも英雄になる自覚があれば多少は救いがありましたが……。
自分が自由に生きたいがために、困っている人を助けようとするのも嫌がるとは思いませんでした。
不良品にも限度という物があります。
アレではイッシュの英雄として立つことは出来ないでしょう。
もしかするとレシラムやゼクロムを目覚めさせることすら出来ないかもしれません。
そんなことになってしまえばシナリオが破綻してしまいます。
私のシナリオ通りに行かない終わりなど、絶対に容認できません。
「最悪、新しい主人公を1から作り出す必要があるかもしれません。
その場合、トウコに主人公の核をあの体から引っこ抜かせる必要がありますね……。
まあ異物が1人浄化されるだけです、大したことではないでしょう。
異物1人の命と引き換えにイッシュ全土が私のシナリオ通りの展開によって正しく救われる未来が待っているのですから、些細な事です」
そう、犠牲になるのは異物1人だけなのです。
そんな犠牲を躊躇う必要がどこにあるのでしょう。
主人公の核を引っこ抜かれた異物がその後どのような最期を迎えるかは知りませんが、そもそもシステムの把握すら出来ていないようですし問題ないでしょう。
英雄なら出来て当然の技を忘れるコントロールすらも、まともに出来ていなかったようですしね。
見た目こそ私のシナリオの英雄の姿ですが、中身は単なる異物A。
強い悪意も能力も何もないのでしょう。主人公の核を引っこ抜いた後で死んだとしても問題ありません。
「それよりも……問題はこのオーベムですね。
異物の分際で私の創作物を滅茶苦茶に歪めている……一刻も早く消去せねばいけませんが……」
異様な思考を持ったポケモン、それも記憶を書き換える能力を持つオーベム。
世界の記憶は7番道路に闇をもたらした元凶であるとはっきり示しています。
更に、この闇は私の与えた権能や修整力に対抗する力を持っている。
この闇がある限り、トウコでは太刀打ちが困難でしょうか……。
私直々にこのオーベムの闇に対抗できる体と英雄の人格を作る必要がありますね……。
やはり、主人公の核を持ってきてもらわなければ。
「……今はあの異物の体から主人公の核を回収するのを優先するとしましょう。
主人公の核さえここにあれば、新しい主人公は私の手で作り出せますからね。
トウコは主人公の核を異物から抜き出して私の所に持って来てくれさえすれば用済みです。
トウコの代わりなどいくらでも作れるのですから」
人間の精神や人格など消耗品のようなものでしかありません。
私の必要に応じて増やすことも減らすことも自由な演出道具なのです。
必要なのは私のシナリオの筋書き通りに進む物語と、その通りに動く人形達。
何よりも優先されるべきなのは、私の書いたシナリオをそのまま演出・再現する舞台なのです。