毒電波の相手を終えた後、あたしはネジ山の方へと進んでいた。
イッシュが一本道である以上ここしか先に進む道はない上に、頭の中でトウコが「必要な事とアイテム回収を終えたら、なるべく早く先に進まないといけません」とひたすら急かしてくるからだ。
……正直こいつを頭から叩き出したいんだけど、どうやれば叩き出せるのかもわからない以上どうしようもない。
「マリネット! ジェットバッジを持つ者同士、どちらが強いか確かめる!」
「チェレン……今度はどんなポケモンを買ったか知らないけど……あたしは前以上に強くなったぞ?」
通販のポケモンが相手になっても、あたしのポケモンならきっと何とかなるだろう。
「……ケンホロウ!」
「……は?」
一瞬チェレンの目が申し訳なさそうな感じになった気がした。
そして、何故か出してきたのはケンホロウ。
……え? 通販のポケモンじゃなくね?
なんでケンホロウ?
しかも……あんまり強くない。
「何のつもりなんだか……デンチュラ!」
「……デンチュラ、か」
「『10まんボルト』!」
「『エアカッター』!」
フウロを一撃で沈めてきたデンチュラだ。
ケンホロウを出したところでどうなるかなんて結果を見るまでもない。
「……バオッキー!」
「……なんで? キングドラとかガマゲロゲとか出さないのかよ?」
ブルンゲルに交代して熱湯を浴びせて瞬殺。
……5番道路の再来のような戦闘だ。
(何言ってるんですか? 正しいチェレンの手持ちじゃないですか。
レパルダスのねこだまし以外でダメージを受ける要素もありませんね)
「レパルダス! 『ねこだまし』!」
「デンチュラ! 動けるようになったら『シグナルビーム』!」
トウコの言葉通りだった。
レパルダスのねこだましこそ受けたが、それだけ。
5番道路の時のように、一方的に。
一撃で沈められていく。
「フタチマル! ……負けないことが強さなのか?
勝つことが全てなのか」
らしくない。素直にそう感じた。
通販で強力なポケモンを手に入れてる筈なのに、こんな弱いポケモンで戦う理由が分からない。
まるで、わざと負けるために戦ってるような……。
「『10まんボルト』」
「ポケモン勝負は楽しい。だけど強いってなんだよ!?」
(シナリオ通りの手持ちと台詞ですね。
キングドラとかガマゲロゲとか……何言ってるんですか?
チェレンがそんなポケモン持っているわけないじゃないですか)
トウコが淡々とあたしの言っていることはおかしい、あり得ないと断言する。
……あたしは実際に見たから知ってるし、あんな強いポケモン持ってるのにわざわざ外すとも思えないんだけどな……。
「ほう! なかなかのポケモン勝負であったな!
二人ともトレーナーとして育っておるようでなにより!」
声のした方を見上げると、アデクが崖の上から見下ろしていた。
アデクの顔を見た瞬間、チェレンの顔に凄まじい嫌悪感が浮かんでいたが、すぐに取り繕ったような表情になる。
そのままアデクは崖を飛び降りてあたしたちの所に来た。
……足腰強靭すぎるだろ。
(原作通りの動きです。おかしくないですよ)
「……誰かと思えば、チャンピオンのアデクさんですか。
自分は弱くて負けたんです!
……それなのに良い勝負と言われても正直困ります……」
「今の一方的な勝負のどこが『いい勝負』に見えるんだか……。
もはや嫌味にしか聞こえねえよ」
あたしがアデクの言葉を皮肉った時に、チェレンの目は一瞬こっちを向いた。
……すぐにアデクの方を見たけど、少なくともフウロみたいに妙な事になってるわけじゃないのか?
だとするとなんであんな手持ちで挑んできたんだ?
「……まったく、とげのあるいいかたをせず素直に喜べ」
(反対にアデクはあたしの方は全く見てないな……スルーされた?)
アデクの目は全くあたしの方を見ていない。
まるで、ここであたしが喋るのは想定していないような動きだ。
(当然です。これはシナリオのイベントですよ?
台本通りにみんな動いています。
とはいえ、アルセウス様が行ったのもあくまで応急処置なので完璧ではないかもしれませんが。
……現にさっきのNの台詞も少し長かったですし)
(その結果、フウロやこいつみたいに人の反応は無視して一方的に喋るだけの人間しか居なくなるのか?
それが正しいシナリオ? それのどこがまともなんだか……)
自分の台本通りに動く人形劇がしたいだけなのか? そのアルセウス様って奴は……?
「それで前にもたずねたが、強くなってどうするのかね?」
「……強くなれば、チャンピオンになればそれがぼくの存在理由になる。
ぼくは生きている証が欲しい」
「ふむぅ……君はレンブに似ておるな。
なるほど確かになにになりたいかは大事だ。
だがそれ以上に大事なのは強くなり得た力で何をするのか! ではないのか?
まあこれでも持っていけ!」
チェレンの表情は確かに取り繕ってるけど……明らかに何かを警戒してるような様子だった。
隣に居るあたしにも聞こえないくらい小さな声で何か呟いているようにも見えるけど……。
一方、アデクはそんな様子は気にも留めずにチェレンにアイテムを渡している。
「ほらおまえさんも」
「あ、ああ……」
近くに来たアデクの目を見たらすぐに分かった。
目に光が無い。動きもなんとなく機械的だ。
まるで機械みたいに淡々と役割をこなしているように見える。
(なみのりの入手イベントです。
どうしてフライングでなみのりを使えていたのかは知りませんが、本来ならここでようやく解禁ですよ?)
「その技なみのりをつかえば水上を進める!
じゃあな若きトレーナーたち。ともに歩むポケモンがなにを望むか忘れるなよ!」
アデクはそのまま7番道路の方へと歩いて行った。
「なにをしたいか……。それが分からないからトレーナーとして強くなることで自分という存在を皆に認めてもらうんだよ!
……マリネット、次にはぼくが勝つ!」
苛立ちを隠せない、と言った様子のチェレンはネジ山の方へと歩いていく。
去り際にチェレンの独り言がかすかに聞こえた。
「……ふう。これで良かったかい? 次は……で……だったか?」
誰かと話しているような独り言だったけど……一体なんなんだ?
急に弱い手持ちを出してきたし、何がしたいんだか……。
(ほら、さっさとネジ山を越えますよ。安心してください、冬ならすぐに超えられますから)
「…………」
チェレンの不可解な様子が気になったけど、さっさと去っていった以上聞くことも出来ない。
あたしも先に進むしかなさそうだった。
「ふう……これで良かったかい? 次は10番道路で仕留めに行く……だったか?」
『そうだ。私は先に準備をする。しばらくは話した通り、台本通りにシナリオの歯車をやってくれ』
「やれやれ……台本通りにやらないと違和感を持たれるから仕方ないとはいえ……わざと負けるとはね」
『だが必要な事だ。それに、貴様も感じただろう?
マリネットの中には邪神の手先がまだ入っている。
今はマリネットが表に出ていたが、いずれ奴が体を乗っ取るだろう』
「そのタイミングを見計らって……というより、罠に嵌めて引きずり出して倒すんだったよね?
……それでマリネットは本当に、アルセウスの手先の手から助けられるのかい?」
『ああ。私に任せておくがいい』
チェレンとの会話を終えると、オーベムはチェレンの手持ちから抜け出して北東の空へと飛んでいく。
(最も……これが終わった後にマリネットとして生きる事は無いだろうがな……。
お前達とマリネットの関係も、10番道路で永遠に終わりだ)