「おう! マリネットくん。ポケモンの様子はどうかね?
おお! このポケモンおまえさんになついているんだな。
ポケモン図鑑も大事だが、こうして一緒に過ごす時間が何よりだもんな」
セッカシティに入った瞬間アララギ父に絡まれた。
相変わらず一方的に話をしてくるだけのアララギ父。
こいつら父娘は本当に身勝手な……って思う所だったけど、ここでふと疑問が浮かんだ。
……あたしが口を開かなくても話は終わるんだろうか?
「ところでおまえさん、リュウラセンの塔を知っておるかね?」
(相変わらず一方的に自分の言いたいことだけ言ってきやがるな……。
それはそうと、リュウラセンの塔? なんだそりゃ……?
タウンマップでは見れるけど、実物は見たことないし……。
返事しろって事なのかな。……首を横に振るだけでも、伝わるのかね?)
普通の人間なら「いや、知らないけど」みたいに声で返事をする場面のはずだ。
だけど、あたしはわざと首を横に振って「いいえ」のジェスチャーで答えた。
どうなる?
「まあな、知らなくても無理はない。
よし! おまえさんちょいとジジイの話を聞いていけ」
(マジでか。あたしの返事要らないんだな……)
正直信じたくはなかったけど、こいつはトウコの言うところの『強制イベント』の操り人形だったのか。
最初から『人間』じゃなかったんだなこいつ。
「リュウラセンの塔とは、このイッシュ地方でもっとも古い建造物といわれている。
なにより伝説のポケモンが生まれた場所とも眠る場所とも伝わっているな」
アララギはそう言うと北の方に向く。
意識してアララギ父を観察してみると、マジでこいつの反応は機械みたいだ……。
トウコの言ってたことが真実だったって事なのか。
「このセッカシティを抜けた先にあるのだが、詳しいことはなにひとつわかっておらん。
なにしろ塔の中に入った人間がいないのでな」
そう言うとアララギ父は再びこちらを向く。
あたしの返事とかそういうものは全く求められていないらしい。
淡々と、決められているメッセージとリアクションを取るだけみたいだ。
「わたしの娘も中を調べたがっているが……なあに。
わからないことがある、そういうのもロマンというものだ。
というわけでジジイはリュウラセンの塔を見物にいくのであった! じゃあな!」
それでイベントが終わりということなのか、アララギ父は北の方に歩いていく。
多分ここはこのまま見送るんだろうけど……あえてアララギ父の後をついていくように歩く。
もしこいつが普通の人間なら、あたしが後ろをついてきているのに気づくだろうし「ん? マリネットくんもリュウラセンの塔を見に行くのか?」みたいな反応をするだろう。
(ちょっと、何やってるんですか?
イベントはもうアララギ父の退場シーンだけなので終わり同然ですけど……勝手に動かないでくださいよ)
トウコが口を開いたが無視する。
アララギ父にそこそこ近づいた、そう思った瞬間に
「えっ!? アララギ父が消えた……!?」
見間違いじゃなく、マジであたしの目の前で消えた。
さっきまであたしに一方的に話しかけてきて、そのままリュウラセンの塔に向かっていったアララギ父。
しばらく進むと突然最初からそこに居なかったように消え去ったのだ。
ポケモンの技で移動したとかそういう気配すらない。
本当に突然、スッ……と消え去るようにアララギ父は居なくなった。
(当たり前じゃないですか。イベントが終わったらイベント限定のNPCは画面外でプレイヤーの邪魔にならないように消えるんですよ?
どうしてそんなことも理解できないんです?)
「……なるほどな、人間じゃないって事か」
トウコは「何をそんな当たり前のことを今更」みたいな呆れた雰囲気を放っているが、あたしからすれば滅茶苦茶大事な事だ。
目の前の相手が人間なのか、ただの操り人形なのか。
それだけで、あたしの感覚はかなり変わってくれる。
アルセウスのシナリオの操り人形に何を言っても無駄なんだから。
「それにしても……何だこの町。妙に眩しい気がする……」
別にセッカシティが光り輝いているわけじゃない。
けど、ただここに居るだけで妙に眩しく感じてくる。
(その感覚は正しいですよ、セッカシティ全体にアルセウス様の力が満ちています。
素晴らしい事です。この町はアルセウス様のシナリオ通りに回るって事ですね)
「これがそうなのか……」
見た目上は何の変化もない。ここまで来た町と何も変わらない普通の町に見える。
けど……あたしの中ではこの町は完全な『異物』として認識された。
(……! どんどん力が満ちてきます、これなら……)
「げっ、マジかよ……」
そして、この町がアルセウスの勢力下で、町に満ちている何かがアルセウスの力だというなら当然トウコはその力を吸収できる。
つまり、これから先はあたしの体をいつでも奪い取れるという事になるのか……。
(ようやく私が表に出られますよ。さあ、体を返してください、
タワーオブヘブンからここまで旅したのですからもう充分でしょう?)
「くそっ……体の自由が利かなく……」
案の定、トウコはあたしの体を奪い取ろうとしてくる。
見えない何かに縛り付けられるようにあたしの体が動かなくなり、体の奥底へと意識が引きずり込まれていく。
手足の感覚が無くなり、体のコントロールを奪い取られる。
「ふう……ようやく私が表に出られました。全く、人の体を好き勝手に動かしてくれましたね……。
これからは私が管理して……」
(トウコ……トウコ、聞こえますか?)
「えっ、アルセウス様!?」
トウコが体を奪い取った直後に、機械的な声が頭の中で響く。
この声の主がアルセウス様って奴なのか……?
……声を聞いただけで分かる、こいつ人間じゃないな。
感情が全く感じられない。
(今は余計な力を使ってはいけません。それに、もう盤面は完成しています。
体を返し、今はここの力を全力で吸い上げて溜め込んでください)
「体を返し……? は、はい、アルセウス様がそう言われるのでしたら……。
良かったですね、アルセウス様が寛大なお方で。感謝の心を持ってくださいね」
トウコはあっさりとあたしの体を返してきた。
奪われた体の感覚が戻ってくる。
……まさかこいつ、アルセウス様の言いなりなのか?
そうだとすると、このシナリオを作ったのはこいつと言う事に……?
(トウコ、貴方にだけ伝えるべきことがあります。
マリネットの精神とのリンクを断ち切ってください。
貴方の魂と直接接続します)
(分かりました、アルセウス様!
……私が干渉できないからって余計なことをしたら承知しませんからね)
一方的に話すだけ話して、トウコはあたしの体の奥に閉じこもったらしい。
トウコの考えも何も伝わってこなくなった。
「……肝心なことは何も分からないまま、か。
けど……」
いきなり頭の中に声を飛ばしてきたアルセウス様とか言う奴。
こいつが……あたしを不自由な世界に縛り付けてる元凶なんだろう。
……とは言っても、どうやってぶっ潰せばいいのやら。
それに、トウコが頭に寄生している限りあたしが何かしようとしても止められかねないんだよな……。
現に何もできずに体奪われたし。