異物の方に考えが伝わらないように精神のリンクを断ち切らせた上で、私はトウコにテレパシーを飛ばす。
これから話す内容は今後の策。絶対に異物に把握されるわけにはいかない物だからです。
「さて……久しぶりですね、トウコ」
「は、はい! アルセウス様!
……申し訳ありません、上手く体を奪い取れずに……。
そのせいで連絡もままならず……」
トウコは異物の体を奪い取れなかったことを気にしているようですね。
正直情けないとしか言えませんが、まあ仕方ない事です。
元々トウコには私の指示を忠実にこなすこと以外何も期待してはいませんから。
「些細な事です。それに失敗は誰にでもある事。
反省して次に活かせばよいのです」
「はい、アルセウス様!」
こんな事で落ち込まれて今後に影響が出るのは困ります。
なので適当に慰めておけばよいでしょう。
「本当はリュウラセンの塔で話すつもりでしたが、時間に余裕がありましたのでセッカシティを私の手で修正したうえでこうして連絡することにしたのです。
トウコ、今の所どのような不具合がありましたか?」
正直私からしてもセッカシティでトウコに力を充填できたのは想定外ですが……恐らくネジ山が雪で埋まっていなかったからでしょうね。
あの山は冬とそれ以外で道が大きく変わります。
雪を超えてショートカット出来ない今の時期であれば素直に山越えせざるを得なかったでしょうし、そうなると歩みも遅くなる。
その結果、私はリュウラセンの塔のみならずセッカシティも制圧することが出来た。
まあ今はトウコの話を聞くとしましょう。
「はい、プラズマ団が暴れている筈のシナリオなのに、いまだにプラズマ団に敵意を持っていませんでした!
体の人格曰く『強盗』であってプラズマ団じゃなかったって!
こんなの明らかに異常です! プラズマ団は絶対悪ですよね!?」
「ええ。プラズマ団はトウコが英雄になる上で絶対に滅ぼさないといけない組織……なのに未だに敵意を持っていないとは。
いくつもボロを出すような組織のはずですよ?」
ポケモン解放を訴えておきながら、一方では力で人のポケモンを奪い取る強盗集団。
ゲーチスも堂々と自分だけがポケモンを使えるようになる世界を作るとトウコに暴露する。
このような組織ですから、Nはともかく滅ぼさなければいけない組織として成立している筈です。
この話を聞いていれば、どのような愚物であろうともプラズマ団は敵で滅ぼさなければならない存在だと認識するはずなのですが……。
どうも前提からしてずれているようですね。
異物の仕業でしょうか。
「ムンナを蹴った場面、3番道路、シッポウ博物館、ベルのポケモンを奪った場面、こんなにあるのにプラズマ団を滅ぼさないといけない悪だと認識していないなんて異常です!
なんなんですか、強盗って! 異物の会話は理解できません!」
「なるほど……」
プラズマ団が隙を見せなくなっている、という事でしょうか?
それも異物の介入のせいでしょうね……。
私の創作物を滅茶苦茶に破壊して荒らしまわる異物……許すわけにはいきません。
「あ、後は……ママも様子がおかしかったです!
本来言わない台詞をベラベラと……異常です!
異物が成り代わってます、アルセウス様!」
「それはこちらでも確認していますよ。カノコタウンのトウコの家には誰も居ませんでした」
恐らくあの異物が主人公をここまで歪めたのでしょうか?
あの邪悪なオーベムの干渉があるのは確実でしょうが、まだ行方を掴めていませんね……。
あちらについても早くなんとかしなければ……。
「あの……ところでアルセウス様。この体のコントロールを奪わなくていいんですか?
いつでも私が奪い取りますよ?」
「その件について話しておきましょうか。トウコ、今はまだ泳がせておきなさい」
確かにトウコの力であればあのような異物の体、すぐに奪い取れます。
ですが、奪い取っている間はじわじわと力を使っているような物。
長く支配すればするほど、消耗してしまいます。
それよりも……。
「トウコ。時が来たら、主人公の核をこの体の中から奪い取って私の所へ。
それで何もかも上手く行きますよ」
必要なタイミングで確実に必要な物を。
主人公の核さえこの体の中から奪い取れれば、私はそれを材料にして新たな主人公を作り出すことが出来ます。
異物が混ざっていない、理想的な英雄を。
「主人公の核……? アルセウス様、それは一体……」
「ああ、そこからですか……」
これだから無知な生き物は困りますね。
まあ、説明しないまま送り出した結果見当違いの物を奪い取られても困りますし、目標に関してはちゃんと教えなければ。
「トウコ。異物……マリネットと言いましたね。
彼女の精神の中に強い光を放つ物が見えませんか?」
体を動かしている異物。
その精神を立体映像として出力し、トウコに見せる。
胸の奥……胸と腹部の境目のような場所に、光の玉が見えるはずです。
「は、はい! 見えます!
異物を後ろから見ていた時も、何故だかお腹の奥の方からエネルギーのような物を感じたんですけど、それですか!?」
「この光の玉こそが主人公の核。主人公の姿を保つ最重要アイテムです。
トウコには……この核を抜き取って私の元に持ち帰ってほしいのですよ」
主人公の核……アレは、私の世界における主人公識別カードのような物なのです。
何故あの異物が持っているのかは知りませんが、アレが入っている限りあの異物が主人公として世界に認識されてしまいます。
逆に言えば、あの核さえ入れられれば誰でも……その辺のNPCでも主人公になる事が出来る。
最も……そんなことをすれば主人公の核のエネルギーに負けて自壊するでしょうが。
「この核……光っている玉を抜き取る……そのために権能の力を今は蓄えればいいんですか?」
「その通りです。これを抜き取り、かつ、その後速やかに異物の体から離れて私の所に届ける。
これが、今からトウコが何よりも優先して行わなければならない事になります。
私達の勝利がかかっているのですから、失敗は許されませんよ」
「は、はい……頑張ります、アルセウス様!」
まあ権能の力さえ温存しておけばどうにでもなるでしょう。
勝手な事をしないように釘を刺しておきましょうか。
「トウコ、この後仮に精神リンクを復活させたとしても、この体の人格の言葉に耳を貸してはいけません。
貴方の力は全て、主人公の核を引っこ抜いて私の所に届けるために使わなければいけないのです、いいですね?」
「はい! もうあの異物の声を聞かないようにします!」
「決行のタイミングはこちらで伝えます。それまで、決して悟られてはいけませんよ」
これだけ注意しておけば問題ないでしょうか……?
信用出来ない所が何とも言えませんが、仕方ありません。
私には私でやることがありますからね。