チェレンの元を離れた私は、一度カゴメタウンに様子を見に来ていた。
マリネットを捕獲しておくための施設の建設状況を確認しておくのもそうだが、トリカに新しい指示も出さないといけない。
邪神がマリネットの体を奪って直接降臨してきた以上、全面戦争は避けられないだろうからな。
「オーベム様……カゴメタウンの完全制圧完了しました。
指示通りの屋敷、及び防御用の設備の建築も9割完了。
残りは屋敷の内装や飾りの家具、物資の搬入口などの小さな物のみとなっています」
カゴメタウンに到着した私に報告用の人形が現状の進展を伝えてきた。
その言葉を聞いた後、私は一度上空へと飛び、空からカゴメタウンだったものを見下ろす。
カゴメタウンは今や原作の面影も無い『要塞』と呼ぶべき代物へと生まれ変わってきている。
最深部にマリネットを閉じ込めるための大屋敷を建設し、その手前には巨大な塀と堀を用意した。
堀の中には各地で確保した超高レベルの水ポケモン。
塀の上には不眠不休で動いても問題ないバトルサブウェイの戦闘マシン共。
更に、元々あったカゴメタウンの敷地はスイッチ1つであちこちから罠とトレーナーが飛び出す殺人エリアへと作り替えてある。
仮に陸路で攻め込もうものなら、英雄であろうと物量の暴力でなぶり殺しに出来るだろう。
もし空を飛んで逃げ出そうにも、この町の上空は私の用意した飛行ポケモンが大量に飛び回っている。
サザンドラやウルガモスのような強豪ポケモンに加えて、イッシュ外のポケモンも多数取り揃えた。
邪神自らが出向かない限りこの要塞を落とすのは不可能だろう。
『よし、バトルサブウェイの連中を追加で4割ほどこちらに回せ。
大屋敷を取り囲む塀の守りだけでなく、堀の方にも配置しておけ』
「了解しました」
報告用の人形に指示を出し、動かす。
そのタイミングでトリカがやって来た。
「順調ねえ、オーベム。これでもうすぐ私達の目的が達成できる……」
『そうだな、計画はもう少しで完成する。
だが、最後の詰めをしくじるわけにはいかない』
「そうね……ゲーチスはNが馬鹿な真似をしたから最後の最後に総崩れになった。
私達はそうならないために対策をいくつもいくつも仕込んでおく……」
そう、ゲーチスは主人公をさっさと始末しなかったからこそ最後の最後に計画を潰された。
不安要素や事故になりえる要素を生かしておくのは計画の破綻に直結する。
だからこそ、一切の隙も穴も無いように仕立て上げなくてはならない。
『トリカ。お前はこの後3番道路の連中を率いてタワーオブヘブンに向かえ。
目的は1つ、リグレー殲滅だ。1匹たりとも生かしておくな。
タワーオブヘブンのリグレーを絶滅させろ』
「あら……どうしてリグレーを……ってなるほどね。
貴方のようなオーベムが生まれるとは思えないけど、万が一があるという事かしら」
『可能性は0にしておかなければいけない。
私の記憶改竄に勝てるとは思えないが、オーベムであれば記憶の書き換えは可能だ。
もしかすると、マリネットの記憶を修復する程のオーベムが出てくるかもしれない』
私に勝てるオーベムが出てくるとは思えないが、邪神の加護があればどんな理不尽でも起こりかねない。
その前に、打てる手はすべて打っておく。
「計画を改めて確認しましょう?
10番道路でチェレン君の手持ちに混ざって貴方が出撃して、マリネットを倒すのよね?」
『そうだ。チェレンにはマリネットを助けるためにここで勝たなければならないと吹き込んでいる。
邪神の手先を倒すためだともな』
半分は本当だ。
マリネットを助ける、という部分は嘘だがな。
主人公である以上、マリネットには二度と立ち上がれなくなってもらわなければ困る。
「とうとうあのゴミクズに邪神の手先が味方したのよね……。
私に舐めた態度取ったあの手先、どう処理してあげようかしら……。
マリネットじゃないから殺せるでしょ? 始末させてほしいわ」
『邪神の手先か? もしチェレンが捕える事が出来ればお前に引き渡しても構わんぞ。
最も……あまり期待は出来んがな。私が確実に始末するつもりだ。
それとトリカ……お前は10番道路の一件が終わるまでマリネットに近づかないでほしい。
奴にも手先にも余計な警戒をさせたくない』
トリカの存在はマリネット本人にも警戒される。
邪神の手先にも異常事態を察知される可能性が高い。
どちらの意味でもトリカを10番道路付近に置きたくはないな。
「仕方ないわねえ……タワーオブヘブンのゴミ掃除で時間を潰すわ。
それで……マリネットが邪神の手先と手を組んで抵抗してきたらどうするつもり?
あの光の力の前にはどんな実力差も無意味でしょう?」
『だからこそ……私が出る。
お前にも見せていないとっておきだ』
私の力を漆黒の針として具現化させる。
針と言っても、レイピアの刀身並みのサイズだが。
マリネットもマリネットの中に居る邪神の手先も私の力で串刺しにして邪神の力を封じ、そのまま力の差で押し潰す。
同時に10番道路そのものも闇に閉ざし、邪神の介入を遅らせる。
「貴方……こんなものまで持ってたのね……。
普段から使わないのはどうして?」
『この力を使えば邪神に私の居場所を探知される。
7番道路の時のようなどうしようもない状況や、今回のようにここで確実に決めるという場面以外にこの力を使いたくはない』
カゴメタウンの守りにこの力を使っていないのもそのためだ。
下手に力を使って私の領域にしてしまえば、邪神に探知されて『ここにマリネットを運び込みますよ』と伝えているようなものになってしまう。
カゴメタウンはBWのシナリオに絡んでいないからこそ警戒が薄い。
だから拠点に選んだのだしな。
「報告します。セッカシティから邪神の膨大なエネルギーを確認。
付近一帯を浄化された模様」
『……セッカシティか。マリネットがそこに居ると教えてくれたようなものだな。
となると、7つ目のバッジの手前。計画は問題なく進められるな』
邪神の力で汚染された一帯は人間ではなく邪神の人形が住み着く死んだ世界となる。
一方的に定型文を返すだけの生きたラジコン……。
3番道路、バトルサブウェイ、カゴメタウン以外がどうなろうと問題ないが、一応警戒はしておかなくてはな。
「それで……マリネットを倒すのよね。倒した後は記憶を滅茶苦茶に書き換えるだけ?」
『いや、本人の記憶は徹底的に破壊する。誰が細工しても二度と思い出せないように徹底的にやるつもりだ。
その上で、偽の記憶をかなり細かく植え付け、作業要員の手で整形作業も施す。
マリネットが主人公である以上殺せないのなら、これしかない。
マリネットという人間を存在ごと作り替え、そこの屋敷の中で飼い殺しにするのだ』
そうでなければカゴメタウンに屋敷を立てたりここまで大掛かりな防衛用の設備と戦力を用意する必要はない。
マリネットが主人公でなければここまでしなくても済んだだろうが、ここまでしなければ主人公は邪魔をする存在になる。
邪神の書いたシナリオが主人公が英雄になる展開を確定させている以上、どう足掻いても普通の手段では止められない。
だからこそ、私も手段を選ばないわけだがな。
使える限りの手段は使ったつもりだ。
過剰戦力によるカゴメタウンの防衛、殺せないマリネットの永続的な無力化と幽閉。
マリネットの姿形を完全に変えてしまう事で本人にも周囲にも自分がマリネットだと分からなくする加工。
万が一他のオーベムがマリネットに接触して記憶修復が行われる……という事態も起こらないように、リグレーをあらかじめ絶滅させておくことで後からオーベムを入手する策も封じる。
「手は尽くした。
後は……その時を待つのみだ」