トウコが勝手に体の奥に引きこもった後、あたしは自由になった体を動かしてセッカシティを軽く回ってみる事にした。
ひとまず、階段を上った先に居た人達に声をかけてみたんだけど……。
「なあ……」
「伝説のポケモンは理想を求める英雄を助ける。そして肉体が滅ぶとダークストーンとなり、新たな英雄の誕生を待つという……。
そんな話を小さいときにきいたことがあるよ」
「……そのダークストーンはどこにあるのか知ってるか?」
「伝説のポケモンは理想を求める英雄を助ける。そして肉体が滅ぶとダークストーンとなり、新たな英雄の誕生を待つという……。
そんな話を小さいときにきいたことがあるよ」
……駄目だこりゃ。
人間に話しかけてる感覚じゃない。
話が通じない。
他の人はどうなんだろうか。
「ちょっといいか?」
「湿地を歩けばビックリした野生のポケモンがでてくるよ!」
「湿地? まさか、街の中なのに野生のポケモンが出るのか?」
「湿地を歩けばビックリした野生のポケモンがでてくるよ!」
こいつも駄目か。
じゃあ、向こうに居た4人は?
……なんかぐるぐる回ってるけど。
「おどれ! おどれ! 2ひきのドラゴン!」
「ぐるぐるわかれてぐるぐるまざって」
「まわる♪まわる♪まわってねじれて♪」
「あさもよるもまざりすべてがゆるされる♪」
「なあ、リュウラセンの塔について聞きたいんだけど……」
「おどれ! おどれ! 2ひきのドラゴン!」
「ぐるぐるわかれてぐるぐるまざって」
「まわる♪まわる♪まわってねじれて♪」
「あさもよるもまざりすべてがゆるされる♪」
「こいつらも駄目か……」
この町の異常さはすぐに分かった。
あたしが話しかけても、言葉が通じない。
マジで設定された言葉しか話さないように設定されてるみたいだ。
あたしが何を言っても、決まった台詞しか返さない。
「こんなのがアルセウス様の理想の世界なのかよ……。
操り人形しか居ないじゃねえか……」
異世界に来たような気分になる。
セッカシティだけ、ここまでの旅で訪れた場所とはまるで別の世界だ。
「伝説のポケモンゼクロムは英雄に知識を与え、敵対者に稲光で刃向かう。
その英雄とポケモンの親子のような姿に心酔した多くの民は一致団結し建国し昔のイッシュは発展した……。
そういわれているのよ」
「ゼクロム……」
毒電波が狙っている伝説のポケモンの1体……。
「稲光って事は、でんきタイプなのか?」
「伝説のポケモンゼクロムは英雄に知識を与え、敵対者に稲光で刃向かう。
その英雄とポケモンの親子のような姿に心酔した多くの民は一致団結し建国し昔のイッシュは発展した……。
そういわれているのよ」
「聞くだけ無駄だったか……この町の人間は全員こんな感じなのか……?」
人間の形をしたマネキンや人形と言った方がしっくりくる。
会話が全く成り立たない。
というより、話が出来ない。決められたメッセージをただ返すだけのラジコンだ。
「……アルセウスの力に満ちた町……か」
この惨状を見ても、トウコは違和感なんか覚えないんだろうな。
アルセウスの手先だ、あいつは。
今は一応体を返してくれてるけど、いつだって体を奪い取れるのはさっきのやり取りで思い知った。
あたしは……選択肢どころか体すらもいつでも奪い取られる状態になっている。
意識があるだけあたしの方がマシなのか、むしろ最悪なのか……。
少なくともこの町の人達は、人間じゃなくなってしまってるし。
「これのどこが……正しい世界なんだか」
それでも、この力から逃れた人間がいるかもしれない……。
わずかな希望を持ちながら、あたしはセッカシティを歩いていく。
心のどこかで、そんなことはあり得ないと察しつつ。
「変化の乏しい暮らしをしているとそれに慣れちゃってなにかを変えようと思わなくなるのかしら?」
「あのねあのね! ハチクさんむかしはえいがにでてたって!」
「理想と真実が交じり合いできたとされるリュウラセンの塔……。
数千年も昔よりあそこにそびえわしらを見守っておる……本当かどうか知らんがな」
「風雪にさらされても変わらずそびえる塔……その存在は人に何を伝えるのでしょう」
その後も人を見つけるたびに話しかけてはみたけど……返ってきたのは返事でもなんでもない定型文だった。
この町には恐らく……人間は居ない。
居るのはアルセウスの決めた役割に従って台詞を繰り返すだけのラジコンだ。
人としての感情すら失われている。
「……あたしがもしアルセウスのシナリオに従って英雄になったとしたら……。
これがイッシュ全体に広がるのかな。
人間そっくりの、定型文を延々と返す人形みたいな奴がイッシュを埋め尽くすんだろうか」
イッシュ全体がこんな状態になる。
考えるまでもなく、最悪の状態だって理解できた。
……けど、あたしにはどうする事も出来ない。
あたしが仮にどうにかしようとしても、トウコはそれを許さないだろう。
トウコの方が力が強い以上、あたしにはどうする事も出来ない。
「結局……あたしはなんのために旅をさせられてるんだろうな。
アルセウスの自己満足のために捧げられた生贄なのか?
こんなふざけたシナリオ、よく書けた物だよ」
強制的にトラブルを呼び込み、拒否権も何も与えず暴力装置として解決させる。
その果てに英雄になる、そんなシナリオ。
戦わされてる側の気持ちは無視。
自分の台本通りに動く事だけを要求する。
そんなやり方。
「……それでも前に進むしかないのかな。
逃げ出せればいいんだけど、どうせこの先も通行止めがあるよな?」
ダメ元で一度……そちら側を見てみるか?
こんな人形だらけの町に居るよりは、気も紛れるだろうし……。
(行っても無駄ですよ。ソウリュウシティ手前に通行止めを配置してあります)
「帰って来たのかよ……。まあお前は、これを見ても何とも思わないんだよな」
ラジコンと化した人しかいないセッカシティ。
これがこいつらの理想なんだろうし。
(? 素晴らしいじゃないですか。アルセウス様の台本通りに回っている町ですよ?
異物も何も存在しない。綺麗で素敵な場所だと思います)
「……聞くだけ無駄だったか」
人の心以前に、多分人間ですら無いんだろうな。
(そんな事より、ポケモンセンターでわざマシンを貰ってください。
中に入っている『かわらわり』はとても有用です。
ハチクをさっさと片付けて先に進みますよ)
セッカシティの惨状と、トウコの狂った感性。
こいつには何を言っても無駄だ、と察した瞬間だった。
これを見て『悲惨』だと感じられる人間は、あたししかいない……。