あたしはセッカジムにやって来ていた。
アルセウスの力はジムの中にも及んでるのか、ジムの中もセッカシティと変わらない空気だ。
「このおいしいみず受け取ってくださいっすよ」
「こいつも……ラジコンになってるのか?」
ジムの入り口でおいしいみずを渡してれる奴。
こいつも、ここでは様子がおかしかった。
「こおりはほのおで溶かすか、かくとうでぶっこわす。
あるいはいわ、はがねで粉々にするといいっすよ!」
「弱点多いんだな……」
「こおりはほのおで溶かすか、かくとうでぶっこわす。
あるいはいわ、はがねで粉々にするといいっすよ!」
「そうっすね、こおりタイプって弱点多いんすよ……」みたいな言葉を一瞬でも期待したあたしは愚かだっただろうか。
トウコは愚かと断定するだろうけど。
「ジムの仕掛けは……なんだこれ?
氷の床……?」
(そうです。氷の床の途中にカーブしている鉄板がありますよね。
アレを使って次の足場に進むようになる仕掛けですよ)
あたしは淡々とジムの仕掛けに移動する。
流されるままに、先に進む。
「さてさて、ジムの仕掛けで目を回しているところにわしが立ちはだかるぞ!」
「お手合わせお願いいたします!」
道中の敵を『かえんほうしゃ』『かわらわり』で淡々と処理する。
相手は人間じゃない、定型文しか返さない機械だ。
どれだけ力の差を見せても何も感じない。遠慮も何もいらない。
(……足場が切れてるのか、ここ)
今までならきっと「危なすぎるだろ! 落ちたらどうするんだよ!」
みたいに感じたかもしれない。
……けど、セッカシティの惨状を見て精神的にかなり参っているのか、今のあたしはそれを見ても「あ、足場切れてるのか」程度にしか感じられなかった。
正直、落ちたらどうなるのか気になる……なんて感じてる自分まで居る。
(落ちる事なんかありませんよ。
無駄な事を考えるのはやめたらどうですか?
疲れるだけですよ?)
「……あっそ」
正直、今ならこいつに体奪われても構わないとすら思えてくる。
今はどういうわけか体を奪う気が無いみたいだけど、トウコはいつでも体を奪い取れるんだ。
どう転んでも、あたしには絶望しか無いんだろうな。
「いつだって問題なのはできるかできないかじゃなくてやるかやらないかなのよねえ」
(まともな言葉だけど……人形に言われてもな……)
ここに居るジムトレーナーはセッカシティの人達と同じ、定型文を返すだけの人形だ。
人形が何を言ったところで、心に全く響かない。
「こういう時に限って、誰も避けられないんだな……」
(金を稼げるじゃないですか。何が問題なんです?
……かなり溜め込んでますね。買いたいものとかあるんですか?)
「……今の所は何も無いよ」
確かに、いつの間にかかなり金が入ってる。
でも、金で自由を買えるわけじゃない。
あたしが本当に欲しいものは、今のままじゃ決して手に入れることが出来なくなっている。
「ジムリーダーに挑む心の準備、できているようだな。では、いざ!」
(やっぱり……返事も何もいらないんだ)
フウロの時と同じだな。
一方的に完結してる。
こちらの反応は必要とされてない。
「バニリッチ!」
「『かえんほうしゃ』」
「ツンベアー!」
「『かえんほうしゃ』」
「フリージオ! 極限でこそ試される! 鍛えられる!
『オーロラビーム』!」
「『かわらわり』」
……だが、ジムリーダー戦はもはや作業だ。
道中のトレーナーと大差ない戦力のポケモンじゃ、相手にならない。
こんなバトルで、何か感じろって方が無理だ。
「きみとポケモンと! 素晴らしきコンビネーション! 麗しき友情!」
(どこがだよ……。淡々と命令して、淡々とあんたのポケモンを処分して。
これのどこが素晴らしいコンビネーションなんだ、麗しい友情なんだ……。
こんなの、作業以外の何でもないよ)
言っても無駄な事だ。
人間じゃないこいつに何を言っても届かない。
「強き心を持つものよ、これをわたそう」
それはともかくバッジを受け取る。
これでバッジが7つになった。
……あたしの旅の終わりも、近いのかな。
「バッジが7つ、なるほど、レベル80までのポケモンは命令を素直に聞いてくれる。
このわざマシンにはわたしの想いがこめられている。
必ず急所に当たる技、それが『こおりのいぶき』」
(……役に立つか以前に、覚えられるかだよな)
まあ覚えられそうにないんだけど。
「……マリネット」
「……チェレンとベルか」
これもイベントなんだろうな。
あたしの返事とか多分要らない奴……。
「ベルと話していたけれど、カノコタウンを旅立ってからぼくは……何が変わった?
何をしたいのか何をすべきか考えようと自分と向き合ったら何も無いように思えて……。
ぼくは本当に強くなったのか、ポケモンが強くなっただけなのかよく分からなくなった……」
チェレンはチャンピオンになってイッシュのジムリーダーのあまりにも適当すぎる体制を改善するような目的なかったっけ?
それも……この場所の空気に飲み込まれたら消えるのかな。
「はいはいチェレンたら……3人揃ったのにね!
マリネット! あたしはね、今度はだいすきクラブに行ってね。
あたしのやりたいこと、あたしに出来そうなこと探すの!」
……ベルは別にどうでもいいや。
あたしの事便利屋としか見てなかったし。
そんなことを考えていた時、何故かハチクが出て来た。
「だれだ?」
「だれ……って?」
いきなり妙なことを言い出すハチク。
ベルやチェレンの事を言ってるんじゃないよな……?
「あたしはベルでこっちはチェレン……」
「いるのはわかっている。姿をみせたらどうだ?」
ベルの言葉を無視してハチクが喋る。
やっぱり、イベントなのか?
「………………さすがはセッカのジムリーダー」
「なっ!? 電気石の洞穴で出て来た不審者共……!」
ジムの入り口を包囲するようにダークトリニティとかいう連中が突然出て来た。
……じゃなくて、姿消してたのか……?
マジで何なんだよコイツら……。
「影の存在である我らダークトリニティに気づくとはな」
「……マリネットだけに伝えるつもりだったがまあいい。
ゲーチスさまからの伝言だ。リュウラセンの塔に来い」
「……そこでNさまがお前を待っておられる。しかと伝えたぞ」
そしてまた毒電波関係かよ……。
マジであの毒電波はなんなんだ。
こんなイベントがどうして英雄になるために必要なのかさっぱりだな。
「リュウラセンの塔!? どういうことだ……。
おい! きちんと……」
言うこと言ったからもういい、とばかりに消えるダークトリニティ。
そしてはっきり説明しろと言いたげなハチク。
マジで能力の無駄遣い感が凄い。
「!! そちらの少年、ジム挑戦だとしたらしばし待ってくれ。
わたしは今からリュウラセンの塔に向かう!」
今回はあたしはジムに行けたけど、チェレンが後回しにされるのか。
アーティの時と逆だな。
「ぼくも行く! リュウラセンの塔はここから北だよね」
ハチクについていくようにチェレンもリュウラセンの塔に向かっていった。
……フキヨセの時とかあたしの代わりにフウロを連れ戻すよって感じだったのに、別人みたいだな。
やっぱりここの妙な空気に当てられて……?
どうなんだろうな……。
「わわわ! あ、あたしは……どうしたら?
と、とりあえずそのリュウラセンの塔に行かないと……。
えーっと、ここから北だっけ?」
口で言うだけで全く動こうとしないベル。
……イベントなのかマジでやってるのか知らないけど、お前が行っても何の役にも立たないし別に来なくていいぞ、と言いたくなる。
これもイベントなんだとしたら、多分何を言っても無駄なんだろう。
だから、あたしはもう何も言わないことにした。
「リュウラセンの塔……ね」
アルセウスの作った一本道シナリオ。
逃げ場のないイッシュ地方。
どこに行こうにも通行止めに阻まれる不自由な旅。
あたしはこの「作業」を早く終わらせるために、リュウラセンの塔へと足を向けた。