(アララギ父……またイベントかよ……はあ、鬱陶しいな)
「ねえねえマリネット!」
リュウラセンの塔の入り口にはアララギ父が立っている。
そして、入ろうとした段階でベルが声をかけてきた。
お前別に来なくていい……って言っても、イベントに何を言っても無駄なんだろう。
「おおマリネット! それにそちらはベルだね。
わたしもアララギ、きみにポケモン図鑑を託したのは娘なんだよ」
「はじめまして! アララギ博士のおかげで旅にでられたしいろいろな可能性を探せてすっごく感謝しています!」
「そうかいそうかい、そいつはよかった」
あたしは完全に蚊帳の外だった。
イベントだから仕方ないんだろうけど……これじゃマジで便利屋だな。
「っと、のんびり話すのはあとだよ。マリネット! ベル! 状況を説明するぞ。
大挙したプラズマ団が塔の壁を突き破り中に入っていったんだよ」
「……って事は、このイベントの前にここに来たら……」
(貴方も察しが良くなりましたね。もちろん入れませんよ。
アルセウス様のシナリオはセッカジム→リュウラセンの塔の順番に攻略するように作られていますから)
どうせこいつら人間じゃないんだから、あたしが何を言っても無視するんだろう。
そう考えて、普通に「イベント」って口に出していた。
トウコからの返答は当然のように「セッカジムを攻略するまで入れない」だ。
案の定一本道だな……。
「ハチクと……さっきの若者はチェレンだね。
2人がプラズマ団を追いかけていったが……」
「……アララギ博士、リュウラセンの塔ってなんですか?」
「ふぁはは! そうだよな気になるよな。では簡単に説明するぞ。
リュウラセンの塔は……イッシュの国ができるまえの太古の昔からそびえたち塔の最上階では伝説のドラゴンポケモンが理想を追求する人間があらわれるのを待っていた……そう伝わっておる」
セッカシティに入ったときに知らないと答えたのは無駄だったのか、知ってると答えても同じだったのか。
……どう答えても同じ展開になるんだとしたら、やっぱりあたしの返事なんかいらないよな?
「で、おまえさんたちもチェレンのようにプラズマ団を追いかけるのかね?
だが、プラズマ団相手に事を構えるのはあまり関心できんが……」
「正直無視できるなら無視したいんだけどな……あたしは。
イベントのラジコンに何を言っても無駄なんだろうけど」
あたしの言葉は当然無視されるだろう。
台本にない物は全部無視される。
なぜならそう設定されてないから。
決まった言葉しか返さないセッカシティの人達みたいに。
「だいじょうぶ! マリネットもチェレンもすっごい強くてプラズマ団を倒したこともあるんだから。
……えーっと、あたしはそんなにというかぜんぜん強くないから……。
ここで博士のボディーガードをできたら……いいなあ……なんて」
「……マジで役立たずだよな、お前。
夢の跡地でも3番道路でもヒウンシティでも面倒事に巻き込むだけ巻き込んでくれてさ。
ここでも勝手に推薦するだけして自分はいつでもどこでも高みの見物かよ」
イベントなんだから何を言っても無駄なのは知ってるけど、それでもつい口に出てしまう。
マジで良い所が何もない奴だよ。
……これもイベントとシナリオで「ベルはそういうキャラです」って設定されてるからなのかね?
(……そうですよ? NPCに何を言っても行動を変えられるわけないじゃないですか。
まあ私は英雄として邪魔な存在を倒すだけなのでどうでも良いんですけど……。
貴方はベルみたいな人は嫌いですか? 貴方の力を必要としてくれてるんですよ?)
「実際には戦える力あるのに全部あたしに丸投げだぞ?
そんな奴どうして好きになれるんだよ」
戦えるの知ってるんだよ。
何回も有無を言わさず襲ってきたから。
それなのに肝心な場面で味方にもならない。
ただの敵だよ。
「そうかいありがとうよ! そいつは心強い。
じゃあマリネット! おまえさん頼むが登っておくれ。
今はコレしかないが気休めにはなるだろう」
勝手にあたしがリュウラセンの塔に突っ込むことになっている。
やっぱりあたしの意思なんかは全部無視されるらしい。
この世界って全部こんな感じなんだな。
そしてアララギ父が渡してきたのは……え?
(……羊羹? 食べ物……?)
(もりのヨウカンです。シンオウの名産ですよ、一応。
まあポケモンの回復アイテムですが。なんでもなおし1個分です)
び、微妙すぎる……。
まだきんのたまでも貰った方が役に立つんじゃ……。
「それにしても……プラズマ団めなにを目論む……?」
それだけ言うと、アララギ父とベルは話は終わりだとばかりに何も言わなくなってしまった。
……強制イベント、って言うけど、なんであたしの台詞とか全く無いんだ?
途中で何言っても無視されるし、英雄って一切喋らないのが普通なのか?
(そうですよ? 基本的にはいといいえの選択肢だけです。
だって英雄は圧倒的な力で敵をなぎ倒すのがお仕事ですし、それ以外必要じゃないですから。
必要なのは悪の組織を滅ぼせる戦闘力だけ。それが英雄です)
「やっぱり、アルセウスに求められてるのはただの暴力装置じゃないか……」
それこそ、セッカシティに居たようなラジコンにやらせればいいんだよ。
何もわざわざあたしが押し付けられなくてもいい役目のはずだ。
(まあ、そのうち解放されますよ……きっと)
「嘘つけ」
とは言っても、あたしに許されてるのはリュウラセンの塔を登る事だけなんだけど。
逆らえばこいつはすぐさまあたしの体奪い取るだろうし、選択肢なんて最初から存在していない。
あたしの手持ちも、暴力装置以外の何でもないな。
あたしに残されているのは、イベントの操り人形を全うする道だけだ。
「敵は全部倒す、あたしの意識がある間はせめてあたし自身の意思で動く。
残っているのが誰にも言葉も届かない操り人形の道だとしても……」
(セッカシティに来てから協力的になってくれましたよね。助かりますよ)
「どの口が言うんだか……いつでもあたしの体奪える化け物のくせに。
あたしの体はお前の気分次第でいつでも奪える。
今は泳がせてあげているだけ……みたいな状態のくせに」
思っても無いことを平気で言えるよな、こいつ。
……さ、次の作業を終わらせようか。
どうせうじゃうじゃ居るんだろ、プラズマ団。