白く染まる世界   作:快晴Ⅲ

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第十五話

「…帰ろうか。」

静かになった海で立ち上がり、鎮守府に向かって移動し始めた時、航空機の音が聞こえた。さすがに、この暗闇では機種は判別できない。

「せっかくさわやかな気分になっているところを邪魔しないでほしいな。」

こんなに真っ暗な時間帯に編隊飛行ができるのは、日本ではごくわずかしかいない。

「円卓の騎士かぁ。また、同じことでもやるのかな。」

「さあね。いっつも遅いし。」

体中が痛い。結構折れてるかも。噛みつくとかの獣みたいなやつじゃなかったのはありがたかった。航空機が上空で旋回する。どうやらすでに見つかっていたらしい。…誰かが前から来た。あれは…戦艦長門か。円卓の騎士の旗艦を務めている。

「大丈夫か?異常個体はどこに…」

無視して進む。今は構っていられるほどの余裕がない。それに、反応したくない。円卓の騎士の十三隻、はっきり言って嫌いだ。数倍の戦力差を覆せて、異常個体を相手にしても十分戦えるほどの能力を持ちながら、本土の、安全なところにこもっている。常に、即応できる場所にいれば、人類はここまで追い詰められなかっただろう。

後ろに、誰かいた。確か、妙高型の足柄だ。

「異常個体はもういないのかしら?まさか二人が…」

「もうちょっと南下すれば沈みかけている残骸があるわよ。」

「そ、そう。二人は、」

「大丈夫なわけないでしょ。」

「瑞鶴、もう行こ。」

手をつかんで、帰投を促す。すると、長門と足柄がそれぞれ右舷側と左舷側についた。護衛してくれるらしい。こんな状態で襲われたら何もできないからありがたい。

 

***

 

「二人を発見しました。異常個体二隻と戦闘しています。」

「異常個体が二隻!じゃあ、あの艦隊も陽動!?」

「かもしれないな。足柄、すぐに行こう。赤城と龍驤は攻撃隊の準備を。」

「分かってるで。もう少しで飛ばせる。」

「気をつけろよ。」

長門と足柄が行ったらしい。異常個体二隻か。あの二人は大丈夫だろうか。空母だから不安だ。瑞鳳はかなり近接戦闘をやっているらしいが、瑞鶴はわからない。それに、円卓の艦娘以外の艦娘が異常個体に勝てるわけがない。

「今、俺たちにできることは何もない。みんな、帰投してくれ。」

「でも…」

「そこには深雪と秋雲がいるだろう。警戒はその二人に任せる。まずはみんなが体を休めることが優先だ。春雨も損傷してるらしいしな。」

「分かりました。では、艦隊、帰投します。」

***

「あ!提督だ!ただいまー!」

「お帰り!みんなよく帰って来た!」

「艦隊、帰投しました。」

「よし、みんな今日はもう遅いからすぐに入渠して、ごはんを食べよう。」

そろそろ、21時を回る。今からごはんを作っていたらかなり遅くなってしまうな。

「分かりました!ごはん楽しみだなー。」

「え?私たちにご飯?」

「ああ、さっき磯風はいなかったからな。俺は前任とは違う。ごはんも作るし、ちゃんと休みも作る。俺は君たちを絶対に沈ませない。あと、今日、入渠ドックをきれいにしたから、快適だと思うぞ。」

「そうか。なら、ゆっくりさせてもらおう。ありがとう。」

みんなが歩いていき、残ったのは自分を含め四人。摩耶、最上、五十鈴の三人だ。

「勘違いしないでほしいけど、僕たちはあんたのために出撃したわけじゃない。僕たち自身とここに残る人たちを守るために出撃しただけだから。」

「それだけでも、ありがとう。君たちのおかげで、あの艦隊を撃滅できた。感謝する。さ、みんなと一緒に入渠してきなさい。」

「…ありがとう。」

三人が歩いて行ったのを見届け、再び入渠ドックに向き直る。そこには長門と足柄がいた。

「お帰り。あれ?瑞鶴と瑞鳳は?」

「あの二人は上陸にちょっと手間取っているらしくてな…。手助けを申し出たのだが、断られてしまった。」

「あれだけの怪我なのに、立っている方がおかしいわよ。」

「それはあんたらが弱いだけじゃないの?」

いきなり声が聞こえた。

「ただいまー、提督。」

「沈みはしなかったわよ。」

「…そうか、お帰り。」

また気付かなかった。そして、瑞鳳、昼間に食堂で会ったときの雰囲気に似ている。笑顔と目の光の差が大きすぎる。長門と足柄も少し警戒しているような感じだ。

「樹希さーん、帰りましたよー。」

「うちもいるで。」

赤城と龍驤も帰っていたか。

「みんなお疲れ、今は人がいっぱいいるけど、入渠しておいで。」

「私たちはまだいいかな。」

「いやいや、二人が一番重症だから一番入らなきゃいけないんだけど。」

「ちょっと行きたいところがあるのよね。最後に攻撃隊を発艦させてから、異常個体に襲われたから、航空機の回収ができていないのよね。」

「入渠した後に行けばいいじゃないか。」

「それに、私たちと一緒に入りたくない子たちも多いから。あと、せっかくきれいにした入渠ドックをまた汚しちゃうし。」

「そういうのは気にしなくてもいいだろ。」

「みんなが気にしないようにしてるからいやなの。隠そうとして隠せていないのが見えるから気まずいし。私だって怖がらせてる自覚があるからね。それに、早く航空機を回収したいから。」

「ついてこないでほしいかな。」

本当にあの二人のことはよくわからない。それに、瑞鳳のさっきの質問、なにを知りたいんだ?ただの好奇心といっていたが、あの様子だと、こちらを試しているようだ。

「樹希さん、そろそろ食堂に行きましょう。」

「お前は食べたいだけだろ。」

「いや?そんなことはないですよー?」

「だけど、もうかなり遅い。軽めのものでもいいから急いだほうがいいぞ。」

「そうだな。」

***

「ごちそうさまでした。」

「みんな、食器をここに持ってきたらもう部屋に戻っていいぞ。」

「私たちも手伝いましょうか?」

「大丈夫だ。今日はもう寝て体を休めてほしい。」

「ありがとうございます。」

「そういえば、瑞鶴と瑞鳳の二人は今どこにいるかわかるか?」

「いえ…、分からないです。すみません。」

「入渠ドックには?」

「私たちが出た時はいませんでした。」

「そうか、ここから飛行場まではどのくらいかかる?」

「鎮守府の北にありますからね。だいたい20分ぐらいですね。北端まで行っていればもっとかかります。まあ、もう帰っているのではないでしょうか。」

「そうか、ありがとう。もう行っていいぞ。お休み。」

「では、おやすみなさい。」

食器を洗って、並べていく。

「いやー、間宮さんが準備をしていてくれたおかげで、すぐに終わった。ありがとう。」

「いえいえ、私も料理が好きですからね。皆さんにおいしい料理を早く届けたいのです。それに、結構遅くなってしまったので。」

「そうだな。…よし、だいたい終わったかな。すまんがあとは任せてもいいか?」

「分かりました。お任せください。」

「俺は事務室にいるから、何かあったら言ってほしい。」

「まだ何かやることがあるのですか?」

「そうだな、もう、資源がないから大本営に補給の要請をする。」

「分かりました。頑張って下さい。」

***

「あ、もしもし、樹希君?こんばんわ。」

「高雄さん、こんばんわ。今、三河さんはいる?」

「今はさっきの襲撃の対応に追われていて、席を外していますね。何かありましたか?」

「実はさっきの襲撃で資源が付きかけているんだ。特に弾薬がない。だから、大本営からの補給をもらおうと思って。」

「分かりました。必要な量のデータは…。」

「今からメールで送るから、それを確認してほしい。なるべく早い方がいいかな。」

「…この量なら、明日の夕方には送れそうですね。」

「ありがとう。今日はもう遅いから切るよ。お休み。」

「はい、おやすみなさい。」

さて、ひとまずこれで資源は大丈夫かな。

「妖精さん、この鎮守府の損害はどれくらいで治りそう?」

「もうそろそろかな。あしたのあさにはかいふくする。」

「…は?早くない?」

「ようせいをなめるな。これくらいすぐにおわる。」

「そうか。まあ、安全第一で、無理のないようにな。」

修復速すぎるだろ。確かにそこまで被害は大きくないけどさ、速すぎる。

「提督、ちょっといいですか?」

「どうした?」

「その…、瑞鶴さんと瑞鳳さんが全然来なくて、さっき、入渠ドックも見てきたのですが、いませんでした。」

時間かかりすぎじゃねえか?もうそろそろ、帰ってきて2時間ぐらいになるぞ。

「そうか…、分かった。料理は冷蔵庫に入れておいて、置手紙を書いてくれ。ほんとに遅くなったら、俺が食堂の電気を消しておくから、間宮さんはもう休んでていいぞ。」

「すみません、ありがとうございます。」

「さすがに遅すぎる。そろそろ、やることも終わるし、探しに行くか。」

 

***

 

鎮守府付属横須賀北飛行場

「いたいた。」

飛行場に駐機している航空機を見つけて駆け寄る。大きさは私たちのサイズに合わせてあるから結構見つけにくい。数を数え、損傷がないかを確認する。

「未帰還なし、損傷もなし。みんな、上出来だよ。」

そう言いながら、航空機を格納する。

「よし、帰ろうか。」

***

「へー、結構きれいになってんじゃん。こんな感じだったんだねー。」

脱衣所で服を脱ぎ、体を流す。案の定、汚い水が床を流れる。

「こんな体で湯舟に使ったらまた汚くなっちゃうな。」

最低限体を洗って、早々に出る。からだを拭いて服を着る。この服、結構ボロボロになったなぁ。さすがに、そろそろ替えた方がいいな。

「これもう、帰るべきかな?」

「替えた方がいいでしょ。結構穴開いてるよ。」

「もうあんまないんだよなー。」

入渠ドックを出て、弓道場に向かう。すぐにやらなければいけないことがある。それは弓の修復。奇襲を受けたおかげで弓を固定できず、海に捨ててしまった。あれが最後のちゃんとした弓だったのに。ここにあるのはもう全部ボロボロだよ。正しいやり方じゃないだろうけど、使えるものが少ないから仕方ない、と思いながら、布を何十にも弓に巻いていく。

「これくらいでいいかな。」

試射のために、矢を取りに行く。…誰か来たな。

 

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