白く染まる世界   作:快晴Ⅲ

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第十七話

2045年 11月7日

07:00

廊下から大きな足音が聞こえる。

「提督、申し訳ありません、遅れました!」

「気にすることはないよ。昨日だって遅くまで戦闘してたし。」

疲れていたんだろう。本来は06:00に起きるところを一時間も遅れた。昨日は大変だったから仕方ない。

「あと、ここに来る前に着替えた方がいいと思うぞ。」

「え?え、あ…、」

慌てていたんだろう。寝間着のままだ。そのことを確認した大淀は固まる。

「すいませんでしたあああぁぁぁ・・・」

何か叫びながら食堂を出ていった。

「大淀も起きたことだし、朝食を作り始めるか。」

「そうですね。」

***

あれから約一時間、大淀の絶叫に気が付いて全員が起きてきた。そのおかげで、すでに、みんな朝食を食べ終わってしまった。当の大淀はいまだに顔を赤くして、うつむいてる。

「あ、扶桑と神通、ちょっといいか?」

「私たちですか?」

「何でしょうか?」

神通、そんなに警戒しなくてもいいぞ。

「二人は結構最近に建造されて、戦闘未経験と聞いたんだが、前任が逮捕されるまで、どうやって過ごしていたんだ?」

「えっと、建造されたら、目の前に羽黒さんがいて、寮の一番奥の部屋に連れて行ってもらい、そこで過ごしていました。他にも、何人かいるのですが、念のため、何か所かに分けて過ごしていました。」

「巡洋艦の人たちが協力してくれたおかげで、私たちの存在がばれずに済んだので、本当に感謝しています。」

「そうか、大変だったな。協力してくれた人たちに感謝しないとな。それで、これからは君たちにも、海に出て、戦ってもらうことになるけど、いいかな?もちろん、任務に失敗したからといって、何か罰を与えるようなことはしないから、そこは安心してほしい。」

「はい、もちろん大丈夫です。まだまだ未熟ですが、いっぱい訓練をして、お役に立てるよう頑張ります。」

さて、ひとまず二人とは話せた。次にやることは、まあ掃除かな。結構汚れてるし。13:00くらいに物資が届くといっていたから、それまでに終わらせて、次の問題は翔鶴か。今のところ、一切会っていない。他は全員会ったから、時間をかけていけば大丈夫だろう。まずはどんな様子か、名取は、人形みたいになってしまっているといっていたな。これは大変そうだ。瑞鶴なら話ができるかな。

***

ここが工廠か、ここも結構ボロボロだな。あまり整備が行き届いてるとは言えない。

「あれ?提督、どうしたの?」

いやほんとにいたよ。

「おはよう、瑞鶴。ここで何してたんだ?」

「新しいエンジンと戦闘機の開発。」

「またか?正直、二人の彗星と天山だけで十分な気がするが。」

「分かってないね。敵の兵器の性能が向上しないとは限らないし、撃墜されるリスクはなるべくなくしておきたい。」

「今は何を開発してるんだ?」

「戦闘機の陣風と新しいエンジン。アツタ三二型の能力向上型と、空冷エンジンを何か。」

「まだ出力を上げるのか。」

「戦闘爆撃機みたいな運用をしたいから、正荷状態で時速600kmはほしいよね。」

「空冷エンジンはまだ決めていないのか?」

「最初は、ハ-43がいいんじゃないかとは言ってたんだけど、誉四二型とあんまり出力が変わらないから、別のにしようって。今はハ-51かなとは思っているけど、直径が大きいのよね。せめてあと80mm小さくしたい。」

「誉が確か、1.2mくらいだったよな。ハ-51ハどれくらいなんだ?」

「1,280mm」

「なるほど、あと80mm小さくしたら、誉とほぼ同じ大きさか。」

「あと、22気筒だからちょっと重い。それに、実用化できなかったらしいから、設計図とか実物も残ってなくて…。」

「どれくらいの性能を狙っているんだ?」

「天山と彗星は高度10,000mで時速600kmまでは持っていく。陣風は機銃大小合わせて12挺搭載して、ロケット弾とか、500kgの爆弾も搭載できるようにしたい。飛行時間を巡航速度で5時間、最高速度で2時間の上で、欲を言えば高度10,000mで時速700km台、遅くても680kmはほしい。」

とんでもないバケモノが生まれそうだな。

「なんで、天山と彗星を分けてるんだ?それに、流星は使わないのか?」

「彗星は天山よりも重いから、積載量が少なくなるから。瑞鳳が使ってる天山なら炸薬量を増やした一式航空魚雷が使えるけど、彗星は使えないからね。だけど、天山で急降下爆撃はできない。流星はとにかく重いし、大きすぎる。私たちも格納庫を広げる改装はやったけど、やっぱり搭載数がかなり減っちゃう。同じ理由で烈風も使ってない。」

「確かに、流星と烈風はかなり大きいもんな。そういえば、今は戦闘機はどうしてるんだ?」

「今は紫電改二の航続距離を伸ばしたものを使ってる。だけど、速度が足りない。」

「それも、二人で改造したものか?」

「そうだよ。人間にばれないように作るの大変だった。」

「資源はどうしてたんだ?」

「私たちで拾ったものを使ってた。今は瑞鳳がいないけど、海に資源を拾いに行ってる。」

かなり大変だったようだ。

「エンジンの構造とかはわかるのか?」

「分からなかったら改造なんてできないわよ。戦局が落ち着いてるときに独学で勉強した。いつでも整備ができるように。」

「それは瑞鳳もか?」

「うん、そうだよ。というか、瑞鳳が勉強してたから私も始めた。仲良くなったのもそのころから。」

「瑞鳳とは長いのか?それに結構仲がよさそうだが。」

「うん、最初に、今一緒にいる瑞鳳と出会ったのは15年前。トラック島に転籍になったとき。ほら、私たち、名前に「瑞」が入ってるし、純粋な艦だった時代にも、第一航空戦隊を編成して一緒に戦ったし、最後も一緒だったし。それに、姉、瑞鳳の場合はよく分からないけど、翔鶴と祥鳳も、名前とか雰囲気とか似てるじゃん?やっぱり、お互い気になるよ。」

「確かにそうだな。瑞鶴は瑞鳳とまた出会えてうれしいか?」

「もちろん、今度は沈めさせないし、私も沈まない。」

「そうだな。…ところで、一ついいか?」

「なに?」

「翔鶴のことで、」

翔鶴の名前を出した瞬間、瑞鶴の雰囲気が変わった。

「翔鶴のことで、なに?」

瑞鶴が翔鶴のことを呼び捨てにしてる?瑞鶴は翔鶴のことを「翔鶴姉」と呼んでいたはずだが…

「悪いけど、この鎮守府にいる翔鶴のことは、翔鶴姉とは思っていない。もとに戻してほしいんだろうけど、私は協力しない。」

「いやいや、これから一緒に戦っていく仲間だろ?だから…」

「この環境であんな人形みたいになってたら、戦闘なんてできない。すぐに壊れる。やるだけ無駄じゃないの?」

「いや、それは全員でサポートしていけば…」

「前からできる限りのサポートはしてきた。それでも壊れた。翔鶴姉は、もっと強くて、前をまっすぐ見ている人だから。私はあれを翔鶴姉とは認めない。」

「ここにいる翔鶴は前任たちのせいでああなってしまったわけだから、俺たちが二度とあんなふうにしないようにすればいいだろ?」

「…私は協力しない。」

「頼むよ…」

「一つ聞いてもいい?」

「なんだ?」

「艦艇だった時代に、1944年6月のマリアナで航空母艦翔鶴が沈んだじゃん。で、今、艦娘としての翔鶴を、私はこれまでに二回、沈んだのを見た。だから、今、この鎮守府にいる翔鶴は艦娘としては三人目、艦の時代から数えれば、会うのは四回目になる。これってさ、すべて同じ、航空母艦翔鶴といえるのかな。性格だって、微妙な違いがあるし、艦の時は性格なんてものはないし。」

「それは…、瑞鶴はどう考えているんだ?」

「私は全員違うと考えてる。いや、みんな航空母艦翔鶴だよ?でも、なんていうか、言葉にするのは難しいけど、艦の時の記憶は持っていても、艦娘としての記憶は毎回リセットされる。そして、今、この鎮守府にいる翔鶴は今までにあった艦娘としての翔鶴とは違う。あまりにも違いすぎる。だから、私はあの翔鶴を翔鶴姉とは認めない。」

「そうか…。」

***

あの後は話しかけても全部無視されたな。それにしても、難しい話だ。一度沈んだ艦娘がまた建造されたら、それは同じ存在といえるのか、か。確かに、名前は変わらないから、その船であることには変わりない。でも、再開、といっていいのかも分からないが、生き残った側からすると、以前のその艦娘に関する記憶があるのに、相手側は艦娘としての自分を覚えていない。認識の”ずれ”か。認識のずれは後々、すれ違いの原因にもなるし、かなりつらいことでもある。考えれば考えるほどわからなくなるような問題だな。よくわからない。

 




一度轟沈して、再び建造された艦娘、皆さんは全く同じ存在だと思いますか?
第一話前に設定.2を追加しました。この世界に関する補足的な感じです。東、東南アジア中心の年表もあります。この世界の理解の助けになれば幸いです。そちらもどうぞご覧ください。しばらくしたら、また追加します。
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