階段を上り、扉を開ける。外はまだ暗い。だが、東の空は、少しだけ明るくなっている。
「はぁ・・・。」
それを見ると、さらに憂鬱になる。久しぶりに帰って来たというのに。いや、帰って来た、とは言えないのかな。どっちにしろ、あまり来たい場所ではない。ここでも、たくさんの仲間が沈んだ。あの時、瑞鳳が来てくれなかったら、私も・・・。
「そこまでだよ。」
「・・・起きてたんだね。」
「分かる?瑞鶴、過去に”もしも”なんてないよ。発生しちゃった事実を変えることはもう不可能。もしもあの時、別の選択をしていれば、なんて考えていたら、キリがないって。」
「それでも、もっと助けられたかもしれない。過去を変えることは、絶対にできない。でも、もしも、もしもあの時・・・。」
瑞鳳だって、たくさんの仲間を失ってきた。私たちは、多くの犠牲の上に立っている。だから、後悔なんてしてはいけない。失った仲間はもう、帰ってこないのだから。
「瑞鳳、どうする?」
「横須賀に帰って、第三を治してもらうしかないね。」
「ただでやってくれると思う?」
「私たちだけじゃあ、限界があるもんねぇ。」
昨日、寝る前に工場を一回りしたけど、だいぶさび付いてて、動かなかった。周囲にはまだ、窪地がいくつか残っているから、大型の爆弾もかなり投下されたのだろう。その衝撃なのだろうか、配電設備も故障してて、電気すら通せない。資材もないし、時間もかかる。どうすればいいか。
「やっぱり、勝つしかないか・・・。」
「・・・やっぱり、本気?練度はともかく、数で劣ってるの。それに、艤装だって、万全な状態じゃない。これだけで勝ち目が薄いっていうのに。そのうえ、あっちには固有の能力を持ってる。昨日はああ言ったけど、はっきり言って、自信ないよ?」
「私たちなら勝てるでしょ。それに、今から自信なくしてたら、勝てる戦いも勝てなくなるよ。大丈夫。数は少ないけど、私たちには、新型機がある。見られてはいるだろうけど、性能をすべて知られたわけじゃないから。うまく使えば勝てるって。」
「まあ、確かにね。こっちも何も持っていないわけではないか・・・。」
「戦う前にお願いしてみよっか。第三整備場の修理。」
「そうだね。でも、戦う前は、はっきりとは言わない方がいいと思う。もし、私たちが勝ったら一つしてほしいことがある、みたいな感じで。」
「そうね。でも、そうなると、向こうも何か言ってきそうだね。」
「勝てば、問題ないよ。」
「さっきと、言ってることが違うけど?」
「こんなことを言ってんだから、当然勝てるんでしょ?期待してるからね、瑞鶴。」
「瑞鳳も戦うんだからね。」
「分かってるって。」
***
07:42
釜石
「どうしたの?」
「瑞鶴、瑞鳳、聞こえるか?悪いが、なるべく急ぎで鎮守府に戻ってくれ。」
「何かあったの?」
「ああ。今朝、奄美諸島で、大規模な汚染海域の形成を確認した。今は、敵深海棲艦の大艦隊を確認、西日本の戦力が総力を挙げて迎撃に向かっている。横須賀からも出撃するかもしれない。そのためにも、すぐに帰ってきてほしいんだ。」
「円卓の騎士がいるじゃん。」
「あいつらは魔女の対応のために温存する。それが決まりだ。簡単には出せない。」
「まぁ、わかったわよ。なるべく急ぐね。」
「すまんな。」
「規模はどれぐらい?」
「今のところ、艦隊が二つ確認されていて、戦艦だけで40隻いて、正規空母は63隻だ。」
「・・・勝てんの?」
「俺もさっき聞いたばかりだから、何とも言えない。おそらく絶対防衛線まで引きずり込んで、レールガンで殲滅するだろうが・・・。」
「魔女はいるの?」
「それもわからない。」
「わからなさすぎるでしょ。」
「すまん・・・。ただ、近くにいることは確かだ。汚染海域が形成されているし、昨日、魔女によって、18人の艦娘が沈んだ。」
「・・・そう。なるべく早く帰るね。じゃ。」
「あ、おい!・・・」
「意外と大変なことになってるね。」
「そうね・・・。」
***
07:50
横須賀鎮守府
「全員集まっています。」
「ありがとう。」
食堂に並ぶ全員の前に立って話し始める。
「いきなり呼び出してすまない。先ほど、深海棲艦による、大規模な侵攻が始まった。そして、奄美諸島を中心とする大規模な汚染海域の形成を確認した。現在は第三、第五航空艦隊が出撃している。敵の目標は海軍の重要拠点、呉や佐世保とみられている。今のところ、この横須賀鎮守府の出撃はないが、状況次第で、出撃の可能性は非常に高い。そうなったら、全艦で出ることになるだろう。第一世代艦艇にも出てもらう。戦闘未経験の人には、本当に申し訳ないが、君たちもだ。これは、全員で戦うことになる。いいな?」
「はい。結局、いつかは戦うことになるのですから。」
「すまない。それと、もう一つ。今朝、昨日から行方不明になっていた艦娘18人が発見された。ただ、その艦娘はすでに沈没してしまっている。」
「沈没?なんでそんな・・・。」
「おそらく魔女だ。魔女との遭遇に備えて、第一世代を出す。みんなに随伴させるつもりだ。」
「なんで、私たちと一緒に?」
「魔女がどこにいるかわからないからな。むやみに出撃させることはできない。」
「それに、君たちが沈む危険性もあるから、だな。」
「そうだ。」
「なんでですか?今でも戦いが始まっているんでしょう!?私たちだけを守る意味はないじゃないですか?」
「あまり気分の良くない話ではあるのですが、政治的な意図も含んでいまして、数年間提督から離れていたこともあり、能力を疑問視する声も少なくありません。ここで沈没艦を出してしまえば、樹希さんがここにいられなくなる可能性も出てきてしまいます。それを防ぐためでもあります。」
「そうなんですか・・・。」
「あとは、戦力が九州に集中しすぎていることだな。あの規模の艦隊がここに来たら、君たちだけでは対処は不可能だ。そのためにも、我々がここに残る。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「提督、もう一つ質問いいですか?」
「なんだ?」
「瑞鶴さん、瑞鳳さん、そして白霜さんはどうするのですか?」
「瑞鶴と瑞鳳は、さっき戻るように言った。時期に戻ってくるだろう。白霜に関しては・・・、仕方ないな。」
「あの、もしかしたら、そろそろ戻ってくるかもしれないです。」
「本当か!?」
「はい。彼が出撃したのは11月4日、そして今日は11月13日、だいたい十二日で帰ってくるので、三日後くらいには。」
「そうなのか・・・。わかった。よし、いいか、全員よく聞け。戦いに勝つことは、確かに重要だ。だけど、それ以上に大切なことがある。それは、生きて帰ることだ。たとえ失敗したとしても、またやり直すことができる。だから、戦闘では絶対に無理をしないように。損傷したり、弾薬が尽きたら離脱しても構わない。生きることを最優先にしてくれ。」
「「「はい!」」」
「以上だ、全員、いつでも出れるように調整しててくれ。解散。」